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魔王が求める平穏生活?  作者: アバン
第二章 学迷都市編
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第13話 模擬戦闘

 「何でダイアナちゃんが・・・」

 「確かに意外というか、なんであの3人が?って面子よね」

 「うーん、僕は意外とバランス取れてると思うけどなぁ」

 「バランスの問題じゃないのよ。人よ。何故か騎士科の人入ってるし」

 「イース君も水臭いなぁ~。私達に声かけてくれればいいのに」

 「あの騎士科のガイウス君は僕らと相部屋だから。それに、どっちかっていうとイース君が巻き込まれた様に見えたけどね・・・キリカちゃんは戦ってみたいだけでしょ?」

 「だって戦闘訓練よ、戦・闘・訓・練!腕試ししてみたいじゃない!」

 「この先嫌って程あると思うよ・・・」

 「私はただイース君と一緒に戦いたかったなぁ~」


 観戦者(ギャラリー)の見守る中、注目の一戦が今、始まる。


 「では、これよりハナク教室ガイン、ギョーン、ケットゥの3名とキーリス教室イースタル・レグス、グルド教室ダイアナ・シュメール、モルダフ教室ガイウスの3名、計6名による模擬戦を開始する。双方とも、遺恨を残さず誠意をもって訓練にあたること。なお、故意、事故に限らず相手を殺害した場合には、殺人罪が適応される。では・・・互いに礼!」


 定型文なのか、改めて宣言を行うグルド先生。こちらは真面目に礼したものの、相手はおざなりだ。


 「模擬戦にあたり、特殊なフィールドを張る。このフィールド外に出た場合には、戦闘不能とみなし、戦線への復帰は認めない。なお、フィールドの構築はキーリス教師にお願いする。キーリス教師」

 「はい、私が今回はフィールドを張ります。この様な流れは誠に遺憾ですが・・・やるからにはきちんと訓練するように・・・グルド教師、後で事情は改めて伺いますよ」

 「ふん、生徒の自主性も大事だろうが。特に冒険者はな・・・いいからさっさとフィールドを張れ」

 「はいはい・・・『主よ、世に満ちる聖霊達よ。汝らが加護をもってこの場に満ちる苦痛を取り去り賜え―マイトフォール・シール』」


 キーリス先生が呪文を唱え、フィールドを構築する。大体直径50メートル程だろうか。これだけの大きさのマイトフォール・シールを張れるということは、中々の術者の様だ。

 俺達はそれぞれのパーティー毎に約20メートルの間を置いて対峙する。


 「では―始め!」


 グルド先生の掛け声と共に俺達は相手に向かって走り出す。むこうもこちらに向かって走って来た。

 あの3人は魔法使いの様には見えないから、近寄って戦うしかないんだろうな。

 走りながら相手を観察すると、2人が長剣、もう一人は鞭が獲物の様だ。

 剣はまぁいいが、鞭は相手の習熟度合によって脅威だな・・・あいつからやるか。


 「おぉぉお!シールドバッシュ!!」


 そうこうしている間にガイウスが接敵する。

 ガイウスは駆けた勢いそのままに、剣の一人に盾で体ごとぶちかまし、たたらを踏ませる。

 3馬鹿もそれなりに腕に覚えがあるのか、吹っ飛ばされはしなかったようだ。


 ガイウスがシールドバッシュをした隙に、もう一人の剣―たぶんギョーンとやら―がガイウスに切りかかるが、ガイウスは盾を翻すと盾の丸みを使って斬撃を受け流す。やるじゃないか。


 「クソっ!てめぇ!!」

 「こちらもお忘れでなくってよ!」


 たたらを踏んだ剣―おそらくガインとやら。ガイン(護王)と同じ名前とは何か癪だ―が加勢しようとした所に、ダイアナの鋭い突きが入る。

 予想外に鋭い突きに怯んだのか、ガインが数歩さがり、ダイアナが追撃しようとするも、何かに気づいたように数歩下がる。下がった直後、ダイアナのいた場所には鋭い鞭先が踊っていた。

 ふと少し先を見ると、鞭―きっとケットゥとやら―が忌々し気な顔をして鞭を引き戻す所だった。


 あいつは中距離支援か。鞭の鞭先は音速を超える。威力、範囲共に厄介だが・・・今はこの隙に一人減らす!


 ケットゥが鞭を引き戻すまでに懐に入るのは無理だと判断した俺は、標的をガインに変えて後ろから挟撃する。

 少ない魔力でも、部分的に身体強化を断続的に行えば・・・保つ、かなっっと!


 俺はガイウス達の様に全身を強化するのではなく、動きに合わせて足、腰、腕と順番に部分強化する箇所を変えて動く。

 急に走る速度を変えた俺に驚いたのか、ケットゥはまだ狙いを定められていないようだ。


 俺は後ろからガインの首にファイアナイフを突き立てる!と流石に死ぬだろうから・・・またあの猫娘(闘王)の真似をするのは癪だけど、足を崩して、首を抱え込んで、こう!


 俺はガインの膝を後ろから崩し、こちらに倒れて来たガインの首を抱え、慣性に逆らわず、動きを少しずらして・・・一気に全体重を首に叩き込む。


 「闘王術―見様見真似、実捥(みも)ぎり!」

 「アガッ!!」


 ゴキン、と嫌な音がして、ガインが倒れながら泡を吹く。

 大丈夫、死んではいない・・・はず。ちょっとやりすぎたかな?


 ケットゥは一部始終を見ていたので慄いているが、ダイアナは俺がガインに組み付いたと同時にケットゥへ向けて走り出していた。

 ―疾い!


 「くっ、このっ!」

 「どこを見てらっしゃるの?ライトニングスピアー!!」

 「ぐっ、あががががががが・・・がぁ・・・」


 身を捩って突きを避けようとしたケットゥの腕に、ダイアナ渾身の突きが刺さる。

 刀身に雷を付与しているのか、突きを受けたケットゥは全身を震わせながら地面に倒れこんだ。


 「やるじゃないか、ダイアナ」

 「そちらこそ。そんな実力があれば素直に喧嘩を買えば良いでしょうに」

 「争い事は嫌いなんだよ。さて、ガイウス(あっち)の方は・・・」


 俺達が目を向けると、ガイウスは堅実にギョーンの斬撃を受け流していた。対するギョーンは剣を振り疲れたのか、明らかに動きに精彩を欠いている。


 「あの様子じゃ疲れた所に一撃入れて終わりだな。まぁ、さっさと終わらせに行くか」

 「そうですわね。こんな茶番、早く終わらせてしまいましょう」


 頷き合ってガイウスの方へ走り出そうとしたその時、後ろから微かな声が聞こえた。


 「ま、『魔素よ、汝は弾ける、か、火炎なり―ファイアー・ボール』」

 「ダイアナ!」

 「何ですの・・・えっ!?」


 ダイアナが俺の声に反応し、振り返ったと同時にケットゥの手から燃え盛る火球が放たれる。

 マイトフォール・シールの効果か、ダイアナが普段使っていた威力が出ていなかったのだろう。

 驚愕するダイアナに向けて、火球が一直線に疾駆する。


 あの様子では避けられない・・・火球は丁度俺の横を通るコースだ・・・なら!


 こんな大勢の前でマナ・レストレイションは使いたくない。ならどうするか?

 決まっている。弾き飛ばせばいいだけだ!


 ダイアナが避けられないと悟った俺は、振り向きざまに右手を振りぬく。

 俺の右手は火球を捕え、ケットゥの後方彼方へと弾き飛ばす!

 あらぬ方向に飛ばされた火球は、ボーン・・・と空しい音を反響させながら、弾けて消える。


 「はっ・・・?」

 「え゛っ・・・?」

 「嘘だろ・・・」

 「なぁ、俺、夢でも見てんのか?」

 「あいつ、手でファイアー・ボール弾いたぜ・・・」


 ケットゥはおろか、ダイアナとギャラリーからも驚く様な、呆れた様な声が上がる。

 隙が出来た事は確かだ。魔力は心もとないが、離れたケットゥを今すぐ黙らせるには・・・やっぱり魔法しかないよな。


 呆ける当事者2人をよそに、俺は久々に魔法を構築する。


 「『アース・インベスティブ!!』」

 「うわ、う、おおぉぉおおおお!」


 俺が呪文―魔法の発動語を唱えると、ケットゥの周りの土が盛り上がり、壁となってケットゥにのしかかる。

 みるみる内にケットゥの姿が土壁に遮られ、数瞬後には小規模な丘が出来上がっていた。

 一応逃げようとしてたみたいだが、俺の魔法構築はそんなヤワな速度ではないし、ダイアナにやられた痺れも残っていた様なので、結局逃げられなかったろう。


 ふと後ろに目をむけると、ファイアー・ボール弾きからのアース・インベスティブに驚いているダイアナとギャラリーをよそに、ガイウスがギョーンにとどめを刺すところだった。

 とどめと言っても、剣の腹でギョーンの頭を殴打して終わりのようだが。

 ガイウスの一撃によって意識を手放したギョーンが地に倒れ伏すと同時に、グルド先生が終了の合図を送る。


 「それまで!勝者、イースタルパーティ!」


 グルド先生の宣言と共に、ギャラリーがわっと沸く。


 模擬戦自体は2、3分程度だったが、久々の実戦はやっぱり疲れるな。オドもほぼ使い切ったし。

 結果だけ見ればこちらの3人は無傷で相手を圧倒した事になる。

 そこまで派手ではないが、魔法も戦技も出たし、それなりに見ごたえのある試合だったのかもしれない。


 俺は一仕事終えてこちらに歩み寄って来るガイウスに声をかける。


 「よぉ、流石騎士殿。堅実な戦い方じゃないか」

 「ふん、お前に褒められても嫌味になるぞ。なんだあれは?」

 「あれ?」

 「魔法を手で弾いたのと、その後の魔法だ」

 「弾いたのは、ほら、このグローブが竜皮製だからできたんだよ」


 嘘ではない。グローブが竜皮製だったから手にマナを張り巡らさずに弾けたんだしな。素手で出来ない訳じゃないけど。


 「竜皮、だと・・・そんな物まで持っていたのか」

 「あぁ、シャザラーン(ここ)に来るまでの間の街でちょっとな」

 「まぁ、百歩譲ってそれはいいとして、あの闘王術とアース・インベスティブ?あれは何だ」

 「そ、そうですわ!あんな魔法をいつの間に!」


 我に返ったダイアナが顔を紅潮させ、俺に迫ってくる。


 「あぁ、ダイアナ、無事だったか」

 「あ、え、えぇ、傷一つありませんわ。あ、ありがとうございます・・・」

 「いくら冒険者志望とはいえ、やっぱり女の子の顔に火傷の跡なんて残せないからな」

 「あ、その、あぅぅ・・・」

 「だからお前は女心を・・・「だ、駄目っ!」へぶっ!」


 何かを言いかけたガイウスの顔に、ダイアナが拳で突きをお見舞いする。

 腰の入った見事な突きだ。せっかく無傷で終わったのに、戦闘後に負傷者が一人出たな・・・


 「ゴホン!ま、まぁ、色々置いておいて・・・最後の魔法!あれ・・・詠唱破棄してらっしゃいましたね?」

 「えっ?あ、あぁ、あれね・・・そう、あれは・・・お館様の書庫に魔法指南書があってさ、発動語だけでも魔法は使えるって書いてあったから・・・」

 「(じー・・・)」

 「ほ、ほんとだよ?試せば意外といけるんだって」

 「・・・・・・まぁ、イースタルさんは全属性持ちらしいですし、不可能ではないかもしれませんが・・・詠唱破棄なんて、宮廷魔術師位しかできませんのよ?ここの先生方は使える方もいらっしゃるかもしれませんが」

 「そ、そうだったのかぁ。意外と俺、凄いのかな?は、ははは・・・」


 しまった。ついうっかり昔の癖で詠唱破棄してしまった。

 仕方ないよね。詠唱なんて前世を入れても、もう十数年してないし。むしろもうあんまり覚えてないし。


 じゃれ合っている俺達をよそ目に、グルド先生達は3馬鹿の救護をしている。

 結構深く埋めちゃったかな・・・


 「う・・・とりあえず、この模擬戦でお前の注目度が更に上がったのは間違いない。これからは更なるやっかみやら、勧誘やらが増えるぞ」

 「あ、ご、ごめんなさい、つい・・・」

 「いや結構。淑女に対する配慮が足りなかったのは私の方だ」

 「あ、その、ごめんなさい・・・」

 「何でこいつはこれで気付かないんだろうな」

 「まぁ、それは・・・イースタルさんですから」

 「うむ、まぁ、イースだしな」

 「えっ、何、何で俺けなされてんの?」


 頬を抑えてガイウスが立ち上がる。ちょっと涙目の所を見ると、存外に効いたようだ。完全に不意打ちだしな。

 そこへ、救護を終えたキーリス先生が寄ってくる。


 「あ、先生。あいつら大丈夫でしたか?特に首やったガイン」

 「お前がやったんだろう・・・」

 「えぇ、命に別状はありません。当学園の治療医も一流ですから」


 脳裏に無表情の女医(マギサ先生)の姿が浮かぶ。嬉々として人体実験しそうだ。南無。


 「そうですか、良かったですわ。初めての戦闘で、どの程度手加減すればいいかわからず・・・」

 「貴方はきちんと手加減できていましたよ。むしろ手加減しすぎて仕留めきれなかった位ですから・・・さて、イースタル・レグス君」

 「は、はい」

 「貴方は後で、私の教員室まで来なさい」

 「は、はい・・・」


 何でフルネームで呼・・・あ、これ怒ってる顔だわ。


 「ふぅ・・・何はともあれ、初の模擬戦お疲れ様でした。内容については一部を除き、連携も見事でした。君たちは将来有望の様ですね。これからも精進を怠らないように」

 「はい!」

 「ありがとうございます」

 「はーい」

 「イースタル君。すぐに来るように」

 「は、はーい・・・」


 再度俺に念押しをして、キーリス先生はギャラリーに向けて声を上げる。


 「さぁ、皆さん。今日の授業はここまでです!初の模擬戦を目にして興奮する気持ちもわかりますが、とりあえず部屋に帰って休むように。また明日、教室でお会いしましょう!」


 キーリス先生が手を叩いてギャラリーを散らす。俺らも帰るか・・・って、俺は帰れないのか。

 多分怒られるんだよなぁ・・・この歳になって怒られ・・・いや9歳なら普通か?

 俺は静かな怒気を纏うキーリス先生の後に続いて、学舎に足を向けた。


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