第12話 武器を選ぼう
「ゴホン!では続いて、武器の適性検査に入ります。基本的にはこれから一つの武器に対する習熟を高めていくので、とりあえず使ってみたい武器を試してみる形でかまいませんよ」
キーリス先生は照れ隠しか、わざとらしい咳をして仕切りなおす。
「先生にも友達いたんですね・・・」
「安心したよ」
「先生なんか友達少なそうだもんな」
「それにしても全属性なんて・・・昔は有名な冒険者だったんじゃ?」
「うちらの先生がただの根暗じゃなくて安心したにゃ~」
言いたい放題です、この子ら。
聞こえているんだろうけど、聞こえていないふりをして話を進める先生。バツが悪いのかもしれない。
「えー、無属性に適性のある人は、前衛職に向いています。というか、身体強化が無いと前衛職はすぐ死ぬのでやめましょう。とりあえず、思い思いの武器を手に取って振ってみて下さい。隣の人とは十分に距離をあけるように。刃引きしてあるとはいっても、当たり所が悪ければ死にますので」
先生の話を聞いているのかいないのか、みんな思い思いの武器を物色して散ってゆく。
入学して約1年、ようやく武器を振れるというのが楽しみで仕方ないんだろう。
「よぉ、残念だったな、主席どの」
「あぁ、全属性は素直に凄いと思うが・・・なんつっても魔力量が、な?」
「適性があっても使えないんじゃ・・・ぶっ、い、意味ないよな、ぎゃはは」
取りあえず長剣―やはり男たるもの剣には多少憧れる―を手に取って待機所を離れようとすると、声を掛けられた。
名前は知らないが、見かけた事はある。別の教室の奴だろう。
こういう馬鹿は相手をするとつけあがるので無視に限る。
「おー、主席にもなると、我々下々の者の言葉には目もくれませんか」
「主席の余裕ってやつよ。もっとも、お勉強だけだけどな」
「お勉強が主な科に行った方がいいんじゃねぇのか?」
「おっ、さっすがギョーン。やっさしぃ~」
喧嘩売ってるんだろうなぁ。初めての武器使用で舞い上がっているのかもしれない。もしくは、ここで俺を倒せば名が上がると思っているのか。
わざわざバカに付き合ってやる必要はない。第一、俺は冒険者になりたい訳じゃないんだ・・・と思っていると、横から喧嘩を買う者があらわれた。
「ちょっと貴方達!聞き苦しくってよ!」
「ひ、姫・・・」
「私達の様に高尚になれとまでは言いませんけど、礼儀を失した殿方は見るに堪えませんわ」
「なんだと!?」
まぁいいか。縦ロールには悪いが、今のうちに去るか。
「第一、貴方がたごときがイースタルさんの足元に及ぶはずがありませんわ!」
おい、縦ロール。こっちに振るな。
「ほー、ずいぶんと姫に買われてじゃねぇか、主席殿・・・手籠めにでもしたのか?」
「主席殿は夜の剣技も達者と見える」
「なっ!てっ、手籠め・・・!?」
縦ロールが顔を紅潮させて、わなないている。一応貴族令嬢らしいので、こういう下世話なからかいに耐性が無いのかもしれない。
というかこいつら貴族の令嬢をからかって・・・後の事考えてないのか?
「(イースタルさんにそんな甲斐性があれば今頃こんな事はしてませんのに・・・よ、夜の剣技・・・噂に聞いたあのよ、夜這いとかされてしまうのかしら・・・あぁ、だめ、そんなこと・・・で、でも、あんな可愛い見た目をして強引に迫ってくるイースタルさんってちょっと・・・だめよ!何を言ってるの私は。私の貞操はそんなに安くは・・・で、でも・・・)よ、夜のエクスカリバー・・・?」
「おい、何だ、本当に手籠めにしてたのか?」
「それはそれで殺意が芽生えてくるな・・・」
「こうなれば、主席殿にその剣技とやらを手ほどきしてもらおうかなぁ?もちろん鉄のな」
小声でブツブツ言っててよくわからなかったが・・・最後のは聞こえたぞ。なんだ夜の性剣って。見た事無いだろ。
「おい、ダイアナ。人の喧嘩を勝手に買うな。こういう馬鹿は無視に限るんだ。相手をするとつけあがるからな」
「いっ、今名前を・・・これが婚約・・・?」
「おい、聞いてるのか?縦ロール」
「縦・・・もう!名前で呼んで構いませんと言っているでしょうに!」
「うるさい縦ロール。行くぞ」
縦ロールを連れて去ろうとしたが、そう簡単に見逃してはくれないらしい。
3馬鹿が俺達の行く手を塞いで怒鳴り散らしてきた。
「馬鹿だと・・・!」
「こっちが下手に出てればつけあがりやがって!!」
「落ち着けお前たち。主席殿は戦うのが怖いのさ。女の尻に隠れる様な奴だからな」
「違いねぇ!もう女銭でもした方がいいんじゃないか?」
縦ロールは女銭の意味がわからなかったのか、どう反応していいのか微妙な顔をしていたが・・・こいつら下ネタ詳しすぎだろう。色ガキが。まだ童貞だろうに。
俺が無視を決め込んでいると、3馬鹿の一人が高らかに宣言して来た。周りの奴らも騒ぎに気づいたのか、こっちを見ている。
「あぁ、そうかい!じゃあ俺達の勝ちでいいんだな!1年主席殿は女の尻に隠れて逃げ回り、戦いもせずに負けを認めた卑屈な犬だってな!」
「なっ、またその様な物言いを・・・!」
「あぁ、もうそれでいいよ。好きにしてくれ」
こんな馬鹿共の為に疲れたくない。ただでさえ今日は色んな武器を試そうと思ってたのに。
ところが、また俺に売られた喧嘩を買った奴がいた。
「ふむ、部外者の為静観していたが、流石にその言い方は品が無さすぎる。イース、お前も言いなりとは情けない」
「ガイウス・・・お前も来てたのか」
「我々騎士科は演習場で自主訓練するのが習わしだ。来たのはお前たちの方だな」
「人には最低限の礼節というものがあります。貴方たちにはこのケルビン・シャダラーム・シュメールが娘、ダイアナ・シュメールの名にかけて礼節を教えて差し上げますわ!」
「最低限の礼節というのは同感だ。未だ忠義を預ける君主を持たぬ身なれど、この騎士、ガイウスがお相手つかまろう」
「おい、お前ら、だから人の喧嘩を勝手に買うなって・・・」
「お前はここまで言われて悔しくないのか?」
「そりゃいい気持ちじゃないけど・・・」
「お前はその髪の事もある。ナメられると闇討ちされるぞ」
「闇討ちって・・・こんな馬鹿に付き合うと損するぞ」
「ほう、皆気概があってよろしい。せっかくの武器適性検査だ。振るだけではつまらなかろう。丁度3対3のようだし、模擬戦を許可しよう」
「グルド教師!何言ってるんですか!止めて下さい!」
「冒険者にそんなお上品な奴らがいると思うか?程度の差こそあれ、こんな事は社会に出れば日常茶飯事だぞ」
「いや、まぁ、そりゃ確かに・・・」
昔を思い返すと、確かにこんな奴らばっかりだったな。もちろん身体に教えてやったが。
あぁ、そうか、こういう馬鹿は身体に教えなきゃ駄目なんだった。
「あぁ、そうか、こういう馬鹿は身体に教えなきゃ駄目なんだった」
「まだ言うか!」
「あれ、声に出てた?」
「言っておくがイース。お前、普段から結構声に出してるからな」
「マジかよ・・・そういえばあいつらもそんなこと言ってたな」
「もうまどろっこしい!やるのか!やらないのか!どっちだ!」
「あぁ、まぁいいや、受けてたとう。2人は巻き込んですまないが、適当に流していいぞ」
「元よりこちらから首を突っ込んだことだ。同じ騎士科以外の手合いとやるのは初めてでな。いい訓練になる」
「訓練目当てかよ・・・」
「奴らの物言いが気に食わなかったのも事実だ」
「わ、私の事はいいのです。後でお気持ちだけ返して下されば・・・」
「気持ち、ねぇ」
何か贈り物でもしろってことか?
「イース、いい機会だから言うが・・・お前は人の心の機微を察せなさすぎだ。特に女心をな」
「お前に女心の扱いについて忠告されるとは思わなかったよ・・・」
戦う気になったのを見たグルド先生が、宣言を行う。
「戦うという事でまとまったようだな。では、これより3対3の模擬線を行う。監督は私、グルドが行う。武器、戦技、魔法の制限は無し。ただし、相手を殺害した場合は故意、事故に関わらず殺人罪が適応される。双方とも、自制を忘れず、遺恨を残さぬように」
「はい」
「心得た」
「かしこまりました」
「おう!」
「後で泣いても知らねぇからな!」
「まさか3対3になるとは・・・」
初の戦闘訓練、しかも冒険科の面々は実質これが初の武器使用、初の模擬戦だ。特にこちらは急造のパーティということで、開始までに3分程の時間が与えられた。
「さて、やるからにはあいつらが逆らう気が起きなくなるまで叩きのめさなきゃな」
「うむ。こういうのは最初に一気に潰しておいた方が憂いがない」
「皆さんはどんな獲物をお使いですの?」
「俺は・・・とりあえず剣持ってきたけど、身体強化する魔力もないし、重くて振れないから・・・このナイフかな」
「ほう、見事なファイアナイフだ。しかし、その精霊石の機能を使うにも魔力が無いのでは?」
「確かに火とかは放てないけど、刀身を熱くする位なら・・・って、そんなんで切り付けたら手足切り落として命に係わるか」
「まぁ、こういう模擬線は教師が防護域を張るから、ある程度は大丈夫だろう」
「防護域?」
「あぁ、なんでも訓練の為に、戦技や魔法の威力を低減し、身体の耐久力を上げる場を作り出すらしい・・・神聖魔法だな。これが使えないとこの学園の教師になれないとうちの先生は言っていた」
「なるほど・・・では、ある程度は思い切りやって構わないという事ですね」
「あぁ、それに本当に危なければ教師が止めに入るだろうからな」
「騎士科はもう模擬戦の経験が?」
「あぁ、騎士は基本的に連携して戦うからな。戦闘訓練は早めからあった」
「あぁ、あれか」
マイトフォール・シールは兵士を鍛えたいという国からの依頼で、俺とハルートで作った神聖魔法だ。っていうかあのグルドとかいう教師、あんな顔して神聖魔法使えるのな。
「なんだ、知っているのか」
「あぁいや、本でそういうのがあるって読んだだけだよ・・・ははは」
「主席は伊達ではないという事か・・・で、そちらの令嬢は?」
「私は・・・」
「あぁ、いや。名前は先程の勇ましい名乗りで伺った。獲物は?」
「わ、私は細剣ですわ。魔法は雷を少々」
「ほう、早い細剣と雷・・・相性が良いですな」
「えぇ、実家ではこれ位しか楽しいことがありませんでしたので」
先程の啖呵を改めて言われたのが恥ずかしいのか、気持ち顔を赤くして答えるダイアナ。
恥ずかしがるならやらなきゃいいのに・・・
「えぇと、ガイウス殿は何を?」
「私は見ての通り大剣か、長剣と盾ですが・・・最近はあまりコイツを使ってやれなかったので、今日は長剣と盾でいきます」
俺達はそれぞれ自分の獲物を見せながら、簡単な作戦を練る。
ダイアナの細剣は結構な業物の様だ。ガイウスの長剣はおそらく学園から無料贈呈されたものだろうが・・・盾と大剣はそれなりの業物に見える。
「じゃあ、ガイウスが前衛で一人注意を引きつけている間に、俺とダイアナは横合いから・・・2人とも身体強化は?そうか、なら俺達2人は横合いから速度重視で強襲する。ガイウスも2人以上を相手取るのは危険だろうから、少し時間差を付けて突っ込む感じかな」
「うむ。どうやらむこうの3馬鹿は同じ教室らしい。それなりに連携も取れるだろう。こちらは急造ゆえ、ある程度力任せになるのは仕方がない」
「そうですわね。3馬鹿は腕じたいは大したことがないので、早期決着がいいと思います」
「じゃあそれで。あぁ、あと2人とも、魔法や戦技を使う時には、技名だけは口に出してくれ」
「うむ」
「技名を?相手にわかってしまうのでは?」
ガイウスは集団戦闘訓練をしているだけあって理解している様だが、ダイアナはよくわかっていないようだ。
「個人で戦う場合には、口に出す・・・魔法は詠唱があるから仕方ないにせよ、戦技名を口に出すのは愚かだが、集団戦闘だと、味方が何を使って、どういう効果を及ぼすかをある程度把握しておかないと危ないんだ。また、効果を知っていれば連携もとりやすい。特に戦技は使う時だけ口にだせば、相手に気取られるってのもそうそう無いだろうしな」
「お前も初めての割にはわかっているな」
「これも本の知識だよ」
「わかりましたわ」
「よし、いっちょやるか!いくら3馬鹿とはいえ、油断はしないように!」
「応!」
「了解ですわ!」
こうして俺は、意外な面子で初の戦闘訓練に臨む事となった。
あ、結局武器選んでない(゜∀゜)ヤッチマッタナ!