第11話 適性検査
「さて、みなさんこの1年間座学と基礎訓練に励んでもらいましたが・・・今日は皆さんの適性検査をしたいと思います」
キーリス先生の言葉を聞いて、教室がざわつく。
王立学園に入ってからもうすぐ1年。
キーリス教室のみんなや相部屋の奴らともそれなりに仲良くなったと思う。
学園の通学期間は本入学でおよそ3~5年。
1年目は無料で通っている学生たちと一緒に基礎的な読み書き、計算等を学ぶ。
無料学生は家の手伝いをしながら通っている為、午前中だけ勉強して家に帰る。1年間通ったら無料組は卒業だ。
俺達本入学組は寮生活で短くても3年通うので、午後はそれぞれの科に合った授業をやる・・・んだけど、1年生は大体10歳前後の者が多い為、基本的には体力作りの基礎訓練に費やされる。
大人になって入学する者がいない訳じゃないが・・・大人組は基礎訓練の時間を仕事にあてている者が多いようだ。
2年目からはそれぞれの科の選択科目を選んで専門化していくらしい。
「適性検査とは、自分の得意、不得意な属性を見極める検査です。魔力の量なんかもわかります。魔法使いの適性があるとは限りませんが、戦技で属性を纏うものもありますので今後に役立てて下さい。あ、武器の適性も判別して自分に合う武器も決めますよ」
ようやく武器を持って戦う様な内容になるらしいと分かったので、みんなうれしいんだろう。
10歳かそこらのガキが1年間座学やら基礎訓練(主にランニングや筋力トレーニング)ばっかりやらされたら、じれるわな。
「では、適性検査の前におさらいです・・・1年主席のイースタル君。魔法の大別と戦技について説明してください」
「はい」
気づけば俺は学年主席になっていた。1年は座学と基礎体力作りだから、基本的に学力になるんだろうけど・・・中身が大人の俺が10歳前後でやる問題が解けない訳がない。前世の旅の間も神官やら王族やらと教養の高い奴らから習ったしな。
わざと間違えるのも何か違う気がしたので素直に問題を解いていたら、いつの間にか主席というわけだ。そりゃそうか。
「魔法と戦技は共に魔力を用いて効果を表す技術の事です。魔法は主に呪文により効果を及ぼすもので、大きく分けて神官が使う<神聖魔法>、エルフが使う<精霊魔法>、魔法使いの使う<黒魔法>と<白魔法>に大別されます。神聖魔法は魔力によって高次元の存在に働きかけ効果を及ぼす魔法、精霊魔法は精霊に魔力を餌として効果をお願いする魔法、黒と白魔法は魔力を用いて事象を改変する魔法です。その他、妖精魔法や魔物の使う特殊な魔法があります」
「戦技は?」
「戦技は基本的に自らの肉体を用いて戦う技術で、体さばきや身体強化が多いですが、中には魔力を用いて魔法と同様の効果を及ぼすものもあります。また、戦技は特殊なものを除いて、一般的に呪文、つまり詠唱を必要としません」
「はい、よくできました・・・妖精魔法なんて良く知ってますね。正直1年生でやる内容を逸脱した感は否めない説明でしたが・・・つまり、魔法使いだろうと前衛だろうと、魔法および戦技には属性がつくものがあります。火属性が得意な人は水属性が苦手だったり、使えなかったり。一属性に秀でている人もいれば、全く属性の適性がなかったり、あるいは全ての属性に適性があったりと、まちまちです」
そこで、我慢できないといった様子で生徒達が質問の声を上げる。
「せんせー!」
「はい、何ですか?コミコさん」
「属性っていうのは適性があるものしか使えにゃいの?」
「いいえ、適性の無い魔法や戦技であっても、訓練を重ねれば会得できます。適性属性と比べて習熟に時間がかかったり、威力が弱かったりはしますが・・・後天的に属性適性がかわる事もあるので、全ては努力次第です」
「にゃ~、安心したにゃ。にゃーは絶対雷にゃ。びりびりにゃ」
コミコが喋っている姿を見て、みんながほっこりする。
コミコは猫の獣人で、キーリス教室のマスコット的存在だ。
「先生、武器は何を選んでもいいんですか?」
「はい。武器も現時点での適性を見るだけなので、とりあえず自分の好きな物を試してみる位でいいでしょう」
「あのぉ~、私は実家から持ってきた武器があるんですけど・・・」
「自前の武器を使いたい方はそれでもいいですし、望んだ種類の武器を1種類だけ学園から贈呈もしてますよ。簡素なものですけど」
生徒から次々と質問があがるが、キーリス先生はそれに丁寧に答えていく。
「さて、あらかたの事はわかりましたか?では、演習場に適性判断の魔導具が設置してあるので、移動しましょう。学園長が小人からせしめ・・・ゴホン!頂いてきた貴重な魔導具なんですよ」
せしめてきたのか・・・そういや学園長は入学式の時に挨拶したっていうけど、俺入院してたから見てないんだよなぁ。
そんな事を考えながら演習場に向かうと、そこには見知った顔の混じる集団がなにやら盛り上がっていた。
「丁度グルド教室の適性判断が終わりそうですね。少し待ちましょうか」
俺達は前のグルド教室の面々が適性判断を行っている脇で待つことにする。
すると、見知った顔の一人がこちらに近づいてきた。
「やぁ、イース君。そっちも適性判断?」
「あぁ、そうみたいだ。クリムトはもうやったのか?」
「うん、僕は風と水の2属性だったよ」
「へー、二重か。しかも風と水なんて汎用性が高そうだな」
「みたいだね。ダブルは結構いるらしいから素直に喜べないけど」
「素直に喜びなさいよ」
「あ、キリカちゃん」
「私達はまだやってないから、属性適性が無い可能性もあるもんねぇ~」
俺とクリムトが話していると、キリカとミリーが話に入って来た。
クリムトとキリカが同じ村出身で仲が良い為、キリカと話すようになり、キリカと仲良くなったミリーとも話すようになり・・・
最近はこの4人でつるんでいる事が多い気がする。
「ミリーさんなら大丈夫だよ。それに、もし属性適性が無くても練習を重ねれば獲得できる場合もあるみたいだし」
「私は槍があるから何でもいいんだけど・・・少なくとも風には適性がある気がするわ」
「キリカは俺が来た時に槍風牙使ってたもんな」
「えっ、キリカちゃん、あれ使ったの?」
「し、仕方ないじゃない。先生が一番得意なもの見せろっていうから・・・それにイース君に良い所見せたかったし(ボソッ」
「キリカちゃんのお父さんからひけらかすなって言われてたのに・・・まぁ、その理由じゃしょうがない、かな?」
キリカの後半は声が小さくて聞こえなかったが、どうやら納得する理由があったらしい。
何でも、キリカの父親が元兵士で槍の扱いに長けていたらしい。そこで、冒険者に憧れるキリカとクリムトはキリカ父に師事して基本を学んだそうだ。
入学金の金貨30枚も兵士をやめる時までに溜めたお金でなんとか捻出したんだとか。
止めても飛び出して冒険者になる位なら、ちゃんと学んでからなって生存率を上げてほしい、って親心じゃないかな、と推察してみる。
止めて止まるようなタマじゃないのはもうわかったしな。
その時、魔導具の方からどよめきが上がる。どうやら凄い適性が出た様だ。
「なんだ?」
「んー、うちのお姫様みたいだね。凄い結果が出たんじゃないかな?」
「あぁ、あの縦ロールか」
「イース君、またそんな言い方して」
「だってあいつ俺の顔見る度に絡んで来るんだもん」
「あ~ぁ、ダイアナちゃん可哀想・・・」
「そうね、あの態度もどうかと思うけど、イースは全く気付いてないもんね・・・」
何やら女の子2人が物知り顔で頷いている。いや、クリムトも頷いている。何故?
縦ロールは1年次席・・・つまり俺の次に成績が良い生徒だ。最初の頃は「私が教えて差し上げますわ!」とか言ってたけど、俺が主席になってからはやたらと目の敵にしてくる。
どこぞの貴族令嬢らしいが・・・学園に通う時点で変り者ってことか。そもそも何で貴族令嬢が冒険科に入ってんだよ、って感じだ。
ちなみに縦ロールのあだ名は金髪を豪奢にくるくる巻いて垂らしている髪型からだ。そのままか。って、縦ロールがこっち来たぞ。
「あーら、イースタルさん。貴方も適性検査でして?」
「あぁ、そうだよ」
「今年の主席は貴方に譲りましたけど、来年からは実力勝負の学年。主席は四重の私が頂きましたわ」
「へー、ダイアナちゃんクワトロプルなんだ。凄いね。ちなみに何属性?」
「燃え盛る情熱に、気高き雷光、深淵の暗闇に無属性ですわ!」
「つまり火・雷・闇・無ね」
「そりゃまた攻撃的な属性ばっかりだねぇ~」
「何ならイースタルさんのついでにあなた方にも手ほどきしてあげても良くってよ?」
「まだ私達の適性検査これからだから」
縦ロールは意外とこの3人と仲が良い。クリムトは人当たりがいいからわかるが・・・キリカとミリーに理由を聞いてみたところ、こういう生き物だと思っているとか。言動の割に根が素直らしく、見ていて面白いらしい。
手のかかる子・・・と暖かい目で見ることができるとのこと。完全にバカにしてないか?
「ねぇねぇ、無属性なのにクワトロプルなの?」
「あぁ、属性の無属性ってのは、なんていうか・・・純粋な力を操る属性なんだよ。物を動かしたりとか、身体能力の強化とか」
「そうですわ。適性が無い意味での無属性は、属性無しと言いますわ」
「へぇ~・・・あ、私達の番が来たみたいだよ」
「あら、そうみたいね。じゃあ私達も検査してくるわ」
「せいぜい足掻いてくると良いですわ!」
「はいはい」
足掻いても属性はかわらないと思うんだが。
前世では適性検査なんてやった事はなかったが、不得意な属性ってのは無かった気がする。光とか闇とかは特殊な魔法が多くてあんまり使ってなかったけど。
これはちょっとわくわくするな・・・
俺達を待っていたのか、魔導具の前に着いた段階でキーリス先生が説明を始める。
「では、みなさん順番にこの魔導具・・・水晶玉に手を触れて魔力を放出してみてください。少し出せば大丈夫なので、全力でやる必要はないですよ。たくさん魔力を出しても結果はかわりませんから」
先生の話だと、例年力み過ぎて魔力欠乏で倒れる生徒がいるらしい。まぁ、気持ちはわかる。
「色が属性適性、輝きの強さが現在の魔力量です。魔力量は訓練次第で伸びる事もあるので、さほど気にしなくてもいいですよ」
と先生は言っているが、伸びる魔力量なんてたかが知れている。実質これで魔力量も限界がわかるということだろう。
「ではまずは誰から・・・はい、キリカさんですね、どうぞ」
キリカが勢い良く手をあげて、水晶玉の前に進み出る。
キリカが水晶玉に手を触れて暫くすると、靄ががかった緑色が水晶玉に浮かんだ。
「はい、キリカさんは靄ががかった緑・・・風と無の二重ですね」
「風と無・・・予想通りといえば予想通りだけど、何かちょっと残念」
「ダブルは結構よく出ますが、それでも約半分なんですよ。自信をもって大丈夫です」
「はい、ありがとうございます」
「では次は・・・はい、ミリーさんですね、どうぞ」
ミリーが水晶玉に手をかざすと、白い靄がかかった。
「はい、ミリーさんは光と無ですね・・・光は神聖魔法が多いので、光と無だとバトルビショップに向いているかもしれませんね」
「えぇー、あのムキムキの人が多いやつ・・・?もっと可愛いのがよかった」
ミリーは嘆いているが、バトルビショップは回復も前衛もできるタイプで野良パーティ組む時なんかでは引っ張りだこだ。ただ、バトルビショップにムキムキのむさい男が多いのは否めない。
前世では半裸でメイス持ってモンスターの群れに突撃して、全身返り血で染めて帰って来たハゲもいるしな・・・そういうイメージなんだろう。
次々と検査をしていく中、気づけば俺が最後になっていた。
「では、最後にイースタル君ですね。どうぞ」
「イース君、がんばってぇ~」
「イースなら大丈夫よ」
声援?を受けながら俺は水晶玉に手をかざす。すると、水晶玉は真っ黒に染まり、微かに点滅を繰り返えした。
「なんじゃこりゃ?」
「これは・・・黒くなるのは全属性に適性があるんですが、ここまでの漆黒は見たことが無い・・・もしかしたら、特殊な属性の適性もあるかもしれませんが、詳しくはわかりません。点滅は魔力量が極端に少ないということですね」
そう言うと、キーリス先生が水晶玉に手をかざす。すると水晶玉は黒がかった灰色に輝いた。
「これが全属性の色です・・・やはり、黒の濃さが違いますね。」
「っていうか先生は全属性だったんですね」
「まぁ、これでも若いころはそれなりに無茶しましたからね。ははは」
特殊な属性ねぇ・・・召喚魔法とか妖精魔法の事だろうか。でもあれは別に属性ってわけじゃないしな。
「詳しくわからなくて申し訳ありませんが、全属性であることは確かです。ただ、魔力量が極端に少ないので、その、魔法や戦技が実用的なレベルで扱えるかは・・・まぁ、今後の訓練次第ですね」
「ほう、全属性か。そこのもやしを見ると信じられないかもしれないが、全属性は数万人に一人と言われる稀有な逸材だ。英雄の器だぞ。まぁ、その魔力量では宝の持ち腐れかもしれんが」
「グルド先生、滅多な事を言わないでください。彼らはまだ子供。あらゆる可能性を秘めているのですから」
右のこめかみから顎にかけて大きな傷のある男が物知り顔で近寄って来た。これがグルド教師か。クリムトから聞いてはいたが、大層な面構えだ。
キーリス先生をさげずんでいるのかと思いきや・・・どうやら軽口の類らしい。意外と仲がいいのか。
「どうだ坊主、うちに来ないか?顔見知りもいるんだろう?そこのもやしでは教えられないような実践的な技術を叩き込んでやるぞ」
「ちょっと、グルド先生。なに目の前で人の生徒引き抜いてるんですか」
「なに、このまま才能を腐らせておくのも勿体ないと思ってな。お前の様に世捨て人になったんじゃぁつまらないだろ?」
「なんですかそれ。捨ててませんよ・・・そもそもグルド先生、貴方は配慮というものが―」
教師2人がじゃれ合っている。
教室毎に成績を競う、みたいのもあるらしいからライバル関係なのかもしれない。今の話の雰囲気だと元々顔見知りっぽいけど・・・
大人のじゃれ合いは生徒から武具適性検査の催促があるまで続いた。