第10話 今日から始まる寮生活
「どれ・・・ここかな?」
俺は酒場でフリッツに丸め込まれた後、これからの住まいとなる寮に来ていた。
マギサの指示で私物はもう運び込まれてるらしい。私物といっても貴重品は持って歩いているから服程度だが。
キーリス先生の話だと、初等の頃は4人の相部屋らしい。何教室とかは関係なく完全にランダムだとか。流石に男女は別らしいけど。
さて、どんな奴らと相部屋になることか・・・
俺はそんな事を思いながら自分の名札がかかったドアを開ける。
名札からすると、俺の他にクリムト、ガイウス、チョピンって奴がいるらしいな。
「もう走るのは嫌だよ・・・」
「シャマカ先生は美人だけどキツそうだもんな・・・お?」
「やっぱり先生によって方針が・・・ん?」
ドアを開けると、部屋の中には物入れ付きの二段ベッドが左右の壁際に並んでおり、その下段に腰かけて喋る3人の子供達がいた。
急な闖入者である俺を訝し気に見ている。
「あーっと・・・2週間程遅れたが、今日から世話になる。イースタル・レグスだ。よろしく」
「あぁ!君が噂の・・・僕はクリムト。グルド教室だよ。これからよろしくね」
そういうとクリムトは立ち上がり、握手を求めてくる。人懐っこそうな奴で、悪い奴じゃなさそうだ。
残りの2人は・・・
「忌み子か・・・」
「あの髪の色・・・だ、大丈夫かな・・・」
「ほら、2人とも!これから相部屋になるんだからちゃんと挨拶しないと」
クリムトに促されて残りの2人もしぶしぶといった様子で挨拶してくる。
「・・・モルダフ教室のガイウスだ。面倒事は起こすなよ」
「ぼ、僕はシャマカ教室のチョピン・・・その、よ、よろしく・・・」
「ガイウス君・・・」
「勘違いするな。俺は忌み子なぞ怖くない。ただ、世間で忌避されるという事は、過去にそれなりの事をしてきた者が多いということだ・・・と俺は思っている」
「で、でも、忌み子は不吉を呼ぶって・・・」
「お前の周りに忌み子がいたのか?まぁ怯えるのは勝手だが」
「お、怯えてなんて・・・ただ、父さんが忌み子には近づくなって・・・ガイウス君は勇ましいから気にしないのかもしれないけど・・・」
「お前ら、本人の前でよくそこまで言えるな。まぁ、陰で言われるよりはよっぽどいいけど」
「ご、ごめんね?イースタル君」
「お前・・・クリムトが謝る事じゃないさ。まぁ、何だ。髪の事でとやかく言うのはいいが、降りかかる火の粉は払うからな?」
「ほう、軟弱かと思えば意外と気骨があるな」
「ぼ、僕は別に・・・」
「まぁまぁ、3人とも。これから一緒に住むんだから仲良くしようよ」
「そうだな。俺も寮でまで気を張りたくない。どうしても気に食わないなら・・・まぁ、無視してくれてかまわない」
「ふん、そんな女の腐った様な真似ができるか。言っとくが認めたわけじゃないからな」
「よ、よろしく・・・」
微妙な空気にはなったが、クリムトが間を取り持とうとしてくれたおかげで何となく挨拶は終わった。
「あ、イースタル君のベッドは左の下段・・・ここだよ。僕の下だね。ちなみに反対側の上がガイウス君で、下がチョピン君」
「あぁ、ありがとう。それと、俺の事はイースでいい」
「そうかい?改めてよろしく、イース君。イース君は何教室なの?」
「ん?あぁ、俺はキーリス教室だ」
「キーリス先生ってことは・・・冒険科だね。意外というか何というか・・・僕も冒険科だよ」
「その髪じゃ冒険者位にしかなれないだろう」
「またガイウス君、そんな突っかかるような事を・・・」
「事実だ」
「ガイウス君は騎士科で・・・その、ちょっと頑なな所があるんだけど、悪い人じゃないんだよ?」
「いいよ。さっき言った通り気にしないから。実害があったらねじ伏せるけど」
「ほう、そんなナリでねじ伏せるだと?すぐ力で解決しようとするのはその者が卑屈だからだ・・・もっとも、お前が俺をねじ伏せられるとは思わんが」
「あん?」
「まぁまぁまぁまぁ!ちょ、チョピン君は商人科なんだよ!買い物とかに付き合ってもらうとすごく助かるんだ」
「ぼ、僕の事はいいよ・・・」
「商人科か・・・俺も最初は商人科に入ろうとしてたんだけど、フリッツの・・・ここまで連れて来てくれた護衛の冒険者に丸め込まれて冒険科になったんだよなぁ」
「ご、護衛・・・?」
「イース君は乗合馬車で来たんじゃないんだね。性もあるし、ひょっとして貴族様?」
「いや、貴族じゃないよ。領主の家臣の家系というか、なんか褒美でご先祖様が性もらったらしい」
「おい」
「うん?」
「そのフリッツっていうのは・・・ひょっとして<渓谷の鷹>のフリッツか?」
「あぁ、確かそんなパーティー名だったかな?」
「そうか」
それまでムッツリしていたガイウスがチラチラとこちらを見てくる。何だよ。
さっきまでのズケズケとした物言いとはかけ離れた歯切れの悪さだ。
「有名な人なの?」
「さぁ?俺も良く知らない」
クリムトと首を傾げあっていると、ガイウスが立ち上がり、近づいてきた。
「お前・・・渓谷の鷹と旅しておきながら、その反応は何だ・・・!彼らはたった2人でCランクまで上り詰めた方々だぞ!フリッツ殿は溶岩迷宮で得たとされる業物の大剣を重さを感じさせない様に扱う新鋭の剣士だし、相棒のマイム殿は高名なドワーフが打ったとされる大剣を華麗に翻して舞う舞姫だ」
「あぁ、うん、そうなんだ・・・」
「へぇー、まぁ、一緒に旅したと言っても戦ってる所見た事ないからなぁ・・・」
「何故あのお2方がこんな忌み子の護衛なんぞ・・・」
ガイウスは俺とクリムトに<渓谷の鷹>の豆知識?を捲し立てた後、ブツブツと何かつぶやいている。
なに、信者か何かなの?
「おい」
「何だよ」
「その・・・渓谷の鷹のお2人はまだこの街にいるのか?」
「あぁ、いるな。さっきフリッツが飲んだくれている所に文句つけてきたばっかりだし」
「あの方が昼間から酒なんぞ飲むはずがない!」
「そんな事言われても、飲んでたし・・・お前が言ってるフリッツって別のフリッツなんじゃないの?結構ガサツだぞ、あの2人」
「それはお前の見る目が無いのだ!」
「あー、はいはい。そうですよ、見る目はありませんよ」
あー、もうめんどくせぇな。
「僕らはそれぞれ乗合馬車で来たんだ。僕はテルン村から・・・って知らないかな。ガイウス君とチョピン君は王都から」
「テルン?ひょっとしてキリカって知ってるか?」
「あぁ、キリカちゃんも確かキーリス教室だっけ」
「あぁ、光魔石の産地だろ?って言ったらやたら喜んでたな」
「うちの村は辺境だからね。村以外の人でテルン村を知ってる人なんてほぼいないよ・・・イース君良く知ってたね」
「あー、まぁ、色々本読んでたからな」
「もう文字読めるんだ・・・凄いなぁ」
「おい」
「今度はなんだよ」
クリムトと喋っていると、またガイウスが呼びかけてくる。
「その・・・渓谷の鷹はしばらくこの街にいるのか?」
「迷宮に潜る為に来たって言ってたし、しばらくはいるんじゃないか?」
「そうか・・・」
「あぁ・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・おい」
「なんだよ」
「その、お前はもう会ったりしないのか?」
「時間があればたまに顔くらいは出そうかと思ってるけど」
「そうか」
「あぁ」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・おい」
「だぁぁぁ!!何だよ!言いたいことがあるならハッキリ言えよ!」
さっきまでの威勢はどこに行った!!
「その・・・お前は忌み子だ。街を歩くにも何かと危険だろう。もし望むなら、俺が護衛としてついて行ってやってもいい。俺の家系は代々騎士でな。忌み子だからといって差別はせん。騎士道というやつだ」
「いいよ別に。避けられはするけど、ちょっかい出されたことは今までないから」
「む・・・そうか。ならいいんだ」
「あぁ」
「・・・・・・今まで何事もなかったからと言って今後もそうとは限らないんじゃないのか?」
「まぁ、そうだが・・・俺より少し年上?のお前が護衛についても大してかわらないだろ」
「なんだと!騎士を侮辱するか!」
「いやお前そもそもまだ騎士じゃねーだろ」
「む・・・うむ、確かにまだ叙勲は受けていない。だが、俺の心には騎士道精神が一本筋として入っているのだ。つまり、形式はどうあれ俺はもう騎士として恥ずかしくない態度を取らねばならない」
「まぁ、それは自由にしてくれ」
「うむ」
「・・・・・・・・・本当に護衛はいいのか?」
「なんだよ!ハッキリ言えよ!」
何だこいつ、と思っている所に、クリムトが耳打ちしてくる。
「ガイウス君はきっとその<渓谷の鷹>の2人に会いたいんだよ・・・でも、忌み子だ何だと言った手前、素直に頼めないんじゃないかな」
「会いたいってのはなんとなく分かってたけど・・・態度はでかいくせにちゃんと頼まないのが気に食わない」
「まぁまぁ、これをきっかけに仲良くなれるかもしれないじゃないか」
「うーん、まぁ、部屋でまで肩肘張ってたくないけど・・・はぁ、しょうがない。大人の対応してやるか」
「うんうん、そうそう、大人の対応だよ」
俺とクリムトがひそひそと喋っている間にも、ガイウスは落ち着く無くこちらをチラチラ見てくる。
まぁ、今の俺より年上っぽいとはいえ、しょせんガキだからな。
大人の対応してやるよ。
「あー、ガイウス?」
「む、何だ」
「んー、その、お前のいう事も一理あるなーと思ってだな」
「うむ、よい心がけだ」
「まだいつとは決まってないが、フリッツ達に会いに行くときは護衛してもい・・・護衛をお願いしようかなー、と思って。あ、暇じゃないだろうから別に無理しなくていいぞ」
「ふむ・・・よかろう。多忙な身ではあるが、弱者からの申し出には応えねば騎士道が廃る。何とか時間を作って護衛してやろう」
「あぁ、そう・・・ありがとうよ・・・はぁ」
ほんと素直じゃねぇな、こいつ。
まぁ、根は悪い奴じゃなさそうだけど・・・
「さて、話がまとまったところで、そろそろ夕飯の時間だよ。ここの寮母さんは料理が上手で美味しいんだ。イース君は初めてでしょ?せっかくだからみんなで行こう」
クリムトがニコニコと笑いながら俺達を促す。
飯がうまいのは良いことだ。チョピンも気弱なところはあるが、あからさまに忌み子をなじってくる訳でもないので、それなりにいい奴らと相部屋になったのかもしれない。
もっとも、食事の間中、ガイウスが渓谷の鷹の偉業を熱弁するのは勘弁してほしかったが。
お待ち頂いた方、申し訳ありません。更新、再開しました。
どこまで更新維持できるか自信がありませんが…せめて完結に向けて執筆していきたいと思います。
休みが欲しい…(゜∞゜)ブラック企業です…