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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
三章
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祝福と悪戯は紙一重

 ――いい腹黒っぷり。つづら、腕上げたね。

 ――えー、そう? 照れるよぉ。ひとえも悪戯よかったよー。

 ――えへへ、お恥ずかしい。


 二度精神をズタボロにされたジャンパーの前で、二人は無言でお互いを誉めあっていた。仲がいい二人は視線だけでも会話が成立する。久し振りの再会とあって弾む女子トークだった。

 そんな時だ。


『お疲れさまだな』


 ツヅラの後方で回転しながらも沈黙していた立方体――自称神がテレパシーを飛ばしてきたのは。

 頭の中に突然響く平坦な声に、ヒトエはビクッとしてしまう。それをツヅラに見られていたらしく、逆にやられてやんのぷくく、とした視線が送られてきた。

 許すまじき。


「それで何の用かな」


 労るためだけにテレパシーを飛ばしてきた訳じゃないだろう。もしそうなら、全ての角を丸くするのも辞さない構えだ。


『使命を果たしたからな、報酬でも渡そうかと』

「使命?」


 初耳だった。厳密には聞いているのだが、描写されないぐらいヒトエは興味を示さず、耳を素通りして記憶に全く残らなかったのだ。


 改めて聞くとこによると、暴走する聖人聖女を止めることが転生する条件であり使命らしい。


「もし、達成しなかったら?」

『暴走と見なしたかもな』

「にゃんと」


 危ないところだった。けれど、偶然とは言えラインレスとジャンパーの暴走を止めたのだから問題はない。


『それで褒美だが――』

「ソーカさんを元に戻してください」


 なにが欲しいかは決まっていた。選べる感じではなかったけれども、これ以上の報酬はないし、他の物を貰っても嬉しさ半減だ。故に一択。ソーカ復活を希望した。


『無理だ』


 即断られた。

 ヒトエを転生させた実績があるのだ、自称神の能力不足が理由ではないだろう。


「どうしてですか、イージスさん」

『……ほぉ、気づいていたか』

「そりゃあね」


 身バレしたのに平淡であった。揺さぶりのつもりだったがアテがハズレた形だ。もっとも、ラインレス、ジャンパーときたからイージスだよね、程度のほぼ勘だったから問題はない。


 どうにかしてソーカ復活の説得をするだけなのだ。でも、その方法が思い付かない。切れ者のツヅラも同じようで目をつぶって首を横に振った。


 手詰まりかと思われた。しかし、イージスの立方体の裏からやってきた一人の女性によってそれは覆されることとなる。


「イージスはわかっても私の正体には気づかなかったようだな」

「ひとえのお知り合い?」

「さぁ?」


 親しげだが、彼女の姿に全く見覚えがなかった。流れからして最後の一人であるシラズなのはわかったが初対面なはずである。


 そんな赤の他人に挨拶されて戸惑うような空気を醸し出すヒトエにシラズは寂しそうにした。久しぶりに再会したら忘れられていた従姉のようである。

 ツヅラが閃いた。


「ひとえと会ったのはその格好だったんですか?」


 服が変われば印象はがらりと変わる。それが独特であればあるほど強くなり、終いにはそれなしでは別人として扱われてしまうのだ。今の彼女もそうではないかとツヅラは考えた。そしてそれは正解だった。


「おっと、そうだった。真の姿のままだったね」


 女性がくるりと回ると、全く別人のイケメンに変わってしまった。それもヒトエの知っている人物である。途端にヒトエはダッシュした。


「ソーカさん!」

「そうだよ、私がソーカだ。そして四聖が一人、不可思議のシラズでもある」


 イージスが無理と言った理由はここにあったのだ。ソーカは既に元に戻っていた。厳密にはこの世界は精神だけの世界なので元ではない。でもそれは些細なことだろう。ヒトエもここにいるのだから。


 体当たりを受け止めてもらったヒトエは頭を撫でてももらった。慣れてないのか、シュシュに指を突っ込んで髪の毛と絡まって痛かったが。これはツケウに稽古をつけてもらおう。ヒトエは心に決めた。撫で撫で道は険しいのである。


 そうと決まれば長居は無用。


「イージスさん、私たち三人を――」


 ここでふと気付く。


「つづらはどうするの?」

「それはこっちの質問だよ」


 どうするのとは、地球に帰るか否かである。そしてツヅラもヒトエに同じ問いかけをしたかった。


 なにせイージスの用意してくれた褒美とは地球に戻れる権利であろう。

 ジャンパーの精神を砕いた今、地球で元の生活に戻っても命の心配はない。異世界よりも安全な一生を遅れるのだ。


 でも、ツヅラは無粋な質問だなと自分で思う。ヒトエの性格からして答えは既に決まっている。


「つづらが全部やってくれたでしょ?」

「まぁね」


 そして向こうもお見通しであった。たしかに、地球でやるべきことは全てやってからここにやって来ていた。

 全てとは、家族や友人といった繋がりのある人への挨拶と事情説明だ。ツヅラは持ち前のトーク技術と、この小説を読ませることにより、全てをわかってもらている。そしてそれをヒトエのお別れの挨拶ともしていた。


 次元を飛び越えるのは用意ではない。無限跳躍というチートを持つジャンパーであっても準備に一月はかかるのだ。悪戯するのに困らない力では次元の壁を越えるのに心許ない。


 とは言え、今生の別れともならない。今はツヅラの体内にいる私を地球に送り返せば以前のように毎日メッセージを遅れる。交流は続けられるのだ。


 逆に地球に行ってしまうと家電製品のないツケウ達とは連絡の取りようがなくなってしまう。

 実質的に、ヒトエは異世界を選ぶしかないのだった。


「私もそっちに行くよ」


 そうであるならツヅラにも選択肢は存在しないも同然。親友と離ればなれになるのは高校卒業してから。もしかすればもっと先かもしれない。

 でも今じゃない。今は青春を一緒に過ごすと決めている。

 ツヅラの決意もまた固かった。


「そっかぁ」


 ヒトエは親友と一緒にいられるとわかって微笑み、それから立方体に向かって叫んだ。


「イージスさん! 私たち三人をリグンの町へ送ってほしい!」

『……』


 イージスは回転するだけで何の返事もしてくれない。


「それはできないよ」

「え?」


 変わりに否定したのはソーカであった。その表情にはヒトエ達とは違った決意が見てとれる。それだけでヒトエはわかってしまった。戻らないつもりだ。


「あのな、ヒトエ」

「聞きたくない!」


 聞いたらソーカがいなくなってしまう。

 耳を塞ごうとしたが、ツヅラが手を挟んで止めた。


「ダメだよ。後悔するよ。話はちゃんと聞こう? ね?」


 それは三度の理不尽な永久の別れを経験したことがあるからこその言葉であった。


「わかった」


 納得はできそうもないが話は聞く。

 ソーカの瞳をまっすぐ見据えた。


 ソーカは「ありがとう」とそれぞれに感謝してから、このままお別れしようとする理由を語りだす。


「私達は長く生きすぎた」


 イージスは時間という凶器から自らの体を守って不老となり、

 ラインレスは人間という境界を崩壊させ寿命を永遠とし、

 ジャンパーは寿命を飛び越え、


「そして私は観察者のチートで、命あるものをいつまでも観察し続けて」


 掴みようのない不可思議な存在として語り継がれるシラズのチート能力は観察だった。それは如何なる環境でも対象の観察を行えるというもの。空を飛んで観察し、火の中で観察し、操られ呪われようとも観察できた。そしてそれは、自身が衰える、老いという障害さえも乗り越え観察し続けられた。


「私達は人を越えた存在となったと言える。けれどね、人に過ぎなかったのだよ。不相応な生きる時間は私達を狂わせた」

「神様を名乗るようになったり?」


 ヒトエの言葉にイージスは回転をピタリと止めた。


「世界を滅ぼしてやると痛かったり?」


 ツヅラの言葉にジャンパーがブルッと震える。


「そうだ、私もチートによる変装であらゆる女性になりきったことで、自分が何なのかわからなくなったりした」

「でも、ソーカさんはソーカさんだよ?」

「あぁ、そうだ。そしてシラズでもあるし、エマでもある」


 エマとは地球で両親からもらった名前だ。


「これ以上は私でなくなるかもしれない。だからこそ、私としてここで終わりにすべきだと思ったんだ。イージスも賛同してくれた」

『ジャンパーの暴走さえ止まればあの世界も滅ばないだろうしな』

「納得してくれとは言わない。出来れば一生覚えてて欲しい。でも一緒には行けない」

「我が儘だよぉ……」


 ヒトエのぽろぽろ溢れる涙をソーカが指で拭う。


『にしてもラインレスのやつ遅いな。一人で先に逝ったか』


 ヒトエの涙がピタリと止まった。

 そう言えばそうだった。


「ライにゃん、一命取り止めたよ?」

「……え? ここから観測してたけど即死級の一撃だったろ? 現にリンクが失われている」


 観測する対象とソーカは、彼女しか見えない光る糸で繋がっている。それが無くなるのは観測対象の命が失われたときなのである。


「うん、即死だったと思う。でも、私の能力でなんとかなった」


 死んだら悪戯できない。だからこそ聖女の癒しの力が備わったのだ。しかし、無償としないのが悪戯である。ライにゃんは人間に戻っても服が着れないという代償の元に生き返っていた。


『四人一緒じゃなきゃ逝かないよ』

「……俺もだ」


 それを聞いてイージスとジャンパーが反旗を翻す。まさかの一手で状況は一変してしまった。

 それでもどうにかしようとするソーカだったが足元に魔法陣が刻まれ発光する。


「イージス!?」

『説得してこい。猶予はそうだな、二十年ぐらいやる。失敗したら刺客おくるから』

「あぁ、俺が迎えに行くよ」

『行かんでいい』

「来なくていい」


 ジャンパーの言葉にイージスとソーカは声をハモらせた。仲が戻ったようである。


 ソーカはついに諦めたのか、ため息をついた。


「なんか逝くのが延びたらしい。ラインレスのやつ、ゴネそうなんだが」

「満足するまで生きればいいよ」

「そうはいかないな。でも、しばらくはよろしく頼むよ」

「こちらこそよろしくね」


 ソーカと手を握り、魔法陣の範囲に入る。


「ほら、つづらも」


 ヒトエは反対の手を伸ばした。

 ツヅラはなぜか躊躇っているらしく、ヒトエの手と顔を交互に見る。


「どしたの?」

「あぁ、うん。なんかこの手を取ったら物語が終わりそうな気がしてね」

「うん、終わるよ」

「えぇ!?」


 ヒトエはあっさりと肯定した。


「いや待って私出番少なくない!?」

「シキチヨ君程じゃないよ」


 彼に大きな出番は訪れなかった。予想通りである。超子猫のときですら王達の警備をしていて町には来られなかった。


「それに伏線も残ってるだろ? 私とヒトエの友達になった話とか」

「あぁ、救急車呼ぼうとした私が110番してあだ名が110番になって、つづらもつづら折りは99だから数近いねってなったあれね。はい、伏線消化~」

「ヒトエー!」


 他にはなにかないか考えるツヅラ。しかし、魔法陣の光は強まっている。


『そろそろ発動させますよ』

「あうー」


 いつもは凛として腹黒いツヅラだが、テンパると超かわいい。涙目でわたわたするのだ。だからヒトエは危険を覚悟でよく悪戯をしていた。もちろん返り討ちも多々ある。それでも止められなかった。


「もし、この小説終わったらどうやって地球と連絡とるのよー!」

「メールかアプリ」


 小説に使っていた分のチート能力をそちらに回すだけでいい。

 一蹴されたツヅラは、はわはわあわあわ。

 楽しくなってきたヒトエは更に追い討ち。


「カウントダウンだよー、ごー、よーん、」

「ふぇぇ、終わっちゃうよぉ、出番が出番がぁぁっ」

「さーん」

「どしよぉ、どしよぉー」

「にー」

「びぇぇぇぇぇっ」

「仕方ないなぁ。次回エピローグを更新ね。ツヅラを皆にぃーちょっと紹介する話」


 もはやガチ泣き寸前だったツヅラに笑顔が戻った。


「ヒトエ! 大好き!」

「私も大好きだよ。ゼロ」


 そして空気を読んだイージスは魔法陣を発動させる。まばゆい光が白と青の世界を覆い、そして収まると立方体が一つと二人が残った。一人はジャンパー、そしてもう一人は、


「あれ?」


 ヒトエに置いていかれたツヅラだった。

三章終わりです。そして次回更新でラストとなります。

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