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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
三章
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被害

 レベルアップの電子音が鳴ったので確認したいところだが、今はもっと優先してやることがある。というか、後回しになっていた本題だ。


「ねぇ、ライにゃん」


 名前は今決めた。ペットには飼い主が名前をつけるものなのだ。前の名前をちょっと残しているのはヒトエなりの優しさだった。


「ソーカさんのことなんだけど」


 そう、これこそが本題。生け贄になったソーカを返してもらわなくては全てが解決したことにはならないのだ。


 ツケウやタマスはその辺の詳しいことを知らなかったので、フィンキーが説明してあげていた。


 ヒトエはその間に話を進める。


「元に戻してくれないかな」


 空中で解放してもらったらソーカが尻餅ついてしまうかもしれないので、ライにゃんとラーくんを青緑な草の上にそっと座らせた。


「すぐ、お願いできる? それともなにか用意が必要?」

「なんのことにゃー?」


 あざとい角度での首傾げ。これは地球であったならCMに起用されてもおかしくないだろう。そんな破壊力に負けそうになりつつも、その裏に隠されている気持ちを読み解かんとする。

 いかにポーカーフェイスが上手くても、本気になれば丸裸にする自信がヒトエにはあった。

 その結果、動揺してしまうことになる。物理的な意味では既に裸だった、とか、そう言う話ではない。


「もしかして……本当に知らない感じ?」

「にゃん」


 とぼけたのではなく、本当に意味がわかっていなかった。これは予想外である。知らなければ解放できるはずもない。

 ヒトエは手にも意識を割きながら、フィンキーに補足してもらいつつ事情を説明した。


 その上で再度頼んでみるとライにゃんは考え込んでしまった。手をアゴに当てる、実に人間らしい仕草だ。

 作成完了。


「うー、にゃーを封印したのはイージスにゃ。封印解除にまつわることもイージスが知ってるはずにゃ」

「それじゃあ、ライにゃんはソーカさんの復活方法を」


 着せ着せ。


「知らないにゃ」

「そう、なんだ……」


 その瞳に嘘はない。ライにゃんは本当に知らないのだ。

 これにはヒトエも困ってしまった。封印の原理すらもわからない以上、手詰まりだ。

 オンテは聖女の力でどうにかなると言っていたけれど、聖女の力をどう使えばいいのか皆目検討もつかない。


「聖女ビンタすれば吐き出さないかな」

「虐待は感心しませんよ」


 ツケウにたしなめられた。ヒトエとしても子猫に手をあげるのは心が張り裂けてしまうので遠慮したい。ラーくんが新入りをシメるのか、と見上げてきたけれど違うよと撫でてあげる。


「で、これはなんなのにゃ?」


 ライにゃんは不自然な流れで着せられた洋服を器用に引っ張った。


「園児服だけど?」


 水色のお洋服に黄色い防止、胸元にはチューリップを象った名札がついている。ひらがなで“らいにゃん”だ。現在の地球では廃止されつつあるそれだが、あるのとないのとではコスプレの完成度にだいぶ差が出る。

 つまり、着けたら、


「パーフェクトでしょ?」

「そうですね。不思議と保護欲の湧く衣装です」

『似合ってるぜ、新入り』


 ツケウとラーくんには好評だった。

 残る二人は困惑だ。


「にゃーが聞いたのはそう言うことじゃないにゃ! 幼稚園児の洋服くらい知ってるにゃ! にゃーに着せた理由を聞いてるにゃ!」

「私はペットに洋服を着せる時代に生まれたんだよ。だからライにゃんも洋服着ないとね」

「それなら仕方ないにゃ」


 あっさり納得してしまった。ラーくんは洋服を着せられてないことに疑問を持たないのだろうか。あるいはそれに気づいてないのかもしれない。

 チョロい。その一言に尽きた。


「そんなことよりもだ、封印とやらに詳しそうなやつに話を聞きにいかなくていいのか」


 タマスが脱線した話を戻してくれた。ありがたいけれどヒトエは首をかしげる。


「そんな人いる?」

「イージスが近くにいるにゃ?」

「聖女イージスは百年以上前の偉人ですから生きてないと思いますよ」


 ツケウの発言に、ライにゃんはアゴが外れんばかりにあんぐりと口を開けた。


「そんなに時間経ってるにゃ?」

「うん、西暦2015年だよ」


 ヒトエはスマホのデジタル時計を見せてあげた。それは地球の暦であるのだが、口をパクパクさせて絶句している。

 そんな超子猫をタマスはひょいと拾い上げた。


「戯れはそんぐれぇにしてジャンパーに会いに行くぞ。捕まえたんだろ?」

「そっか!」


 復活させたのはジャンパー。イージスの仲間でもあった彼ならば何かしらを知っているかもしれない。


「よし、雰囲気君、ジャンパーはどこ?」

「えっと、それが……」


 なにやらフィンキーは青ざめていた。


「ジャンパーの見張りは雰囲気君に頼んだはずだけど?」

「う、うん」


 なにやら歯切れが悪い。


 ツケウが「何かあったんですね」と優しく問いかけると、観念したかのようにジャンパーの行方を教えてくれた。


「南門へ行くとき連れていこうとしたんだけど板がくっついてて動かせなかった。時間もないし能力使えないならいいかなって置いていったんだ。それでラインレスさんがダイビングヘッドしたでしょ?」

「あぁ……」


 皆まで言わなくてもわかってしまった。

 けれど、もしかしたら違うかもしれない。ヒトエの一縷の望みは、


「僕はその時はここら辺にいたんだけど、コース上にあった別荘が下敷きになるのが見えた」


 呆気なく打ち砕かれた。最後のアテであったジャンパーまでいなくなったらソーカはどうなるのか。


「念のため、瓦礫の下を探してみませんか」

「そうだね。あの板の強度を信じよう」

「ジャンパーはしぶとい男だからにゃ。死んでも死なない男にゃ!」


「探す必要はありません」


 ツケウの提案に乗った一行が南門に向かおうとすると、その下には三つの人影があった。


 右はボロボロの黒い全身鎧を纏ったコーリッヒ、左は今回は特になにもしなかったチョデ、そして中央で二人に肩を貸してもらうことでなんとか歩いているオンテだった。


「無事だったんだね!」

「心配かけたな」

「うん、でも無事でよかったー」


 オンテの怪我はそれなりのものだが、命に別状はないようだった。

 ライにゃんが申し訳なさそうに前に出る。


「にゃーのせいで悪かったにゃ。話聞かずに逃げてると思ったから止めようとして何度も手が滑ったにゃ」


 それがあの大破壊である。

 しかし、コーリッヒもオンテも超子猫とライにゃんが結び付かないらしく、ヒトエに、こいつは誰だ、って視線を寄越した。


「ライにゃんだよ」


 わざと中途半端に説明して混乱する二人を楽しむヒトエである。


「遊んでる場合じゃねぇぞ」

「あっ、つい癖で」


 タマスに怒られたヒトエはペロッと下を出す。


「それでコーリッヒ、必要ないとはどういうことだ?」

「気づきませんか?」

「あ?」


 コーリッヒが見上げたので、タマスもつられて上を見上げる。そこには立派な南門があった。


「いつも通り立派な門ですね……あ!」


 一番最初に気づいたのはツケウだった。そしてヒトエも気づく。


「南門も壊れたはずだよね? 直ってる!」

「あぁ、恐らくはこれのお陰だ」


 コーリッヒは一枚のメダルを取り出した。それには見覚えがある。

 それも当然だろう。ヒトエが王妃とデートをしたときに配った物なのだから。

 一度体験したことのあるフィンキーがポツリと漏らす。


「聖女の奇跡……」

「そうだ、全てではないが多くの建物が元に戻っている」


 落書きで命を救われたのと同じ原理。メダルが壊れた建物の肩代わりとなり、足りない分は家財道具を犠牲として、家を復活させたのだ。

 ぺしゃんこにされた城にも大量の在庫が残されていたので元通り。

 そして別荘にもメダルは置いてあった。

 コーリッヒはジャンパーを探しにすでに足を運んだらしい。


「ですが、ジャンパーの姿はどこにもありませんでした」

「そうか……」


 重々しい空気が広がる。さっきのジャンパー死亡の可能性の空気とは違う。もしそうであれば建物の周囲にいるはずなのだ。違うと言うことは逃亡したということ。


「よし、ツケウとチョデは冒険者に捜索を要請しろ」


 タマスの指示に二人はすぐさま行動に移した。空いてしまったオンテの右肩はフィンキーがすぐさま支える。


「よし、ヒトエは独自に捜査するか?」

「うん!」

「にゃーも手伝うにゃ」

『俺の鼻の出番のようだな』


 ライにゃんやラーくんもやる気を出している。


「捜索の必要も無いぞ?」


 突如、ライにゃんの背後にジャンパーが出現する。

 それに反応できたのはコーリッヒだけだった。しかし、満身創痍の彼では止められなかった。ギザついたナイフがライにゃんの背中にずぶりと突き刺さる。


「な……にが……」


 その場で崩れ落ちたライにゃんを見て、ジャンパーはカカカッと高笑った。


「さすがはライール。百年ぶりのレベルアップだ」

「ほざけっ!」


 コーリッヒが斬りかかるもあっさりと捌かれてしまう。


 そして、無傷のままなジャンパーもその場に崩れ落ちたのだった。

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