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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
三章
71/76

超子猫5

 ヒトエに良いところを横取りされて悲痛に嘆くフィンキーをよそに、魔法陣が発動する。


「うわぁ、本当に魔法だぁー」


 キラキラ輝く大掛かりなそれにヒトエは感心した声を出した。

 ヒトエもチート能力を持っているが、人から貰ったズルであって、魔法ではない。そもそも地球人であるヒトエには魔力が皆無だ。どんなに頑張ろうとも、いくら使いたくても使えない。

 チート能力に不満はないが、魔法には夢と憧れがあった。


 ただ同じ地球人であるフィンキーも条件は同じわけで。

 なのに彼は魔法を使ってみせた、のではなく、発動の補助をしたのだ。

 他の魔力を使う、いわゆる代理魔法。詠唱の最後をヒトエに奪われても魔法が発動したのもこれが理由だ。


 では、魔力の主は誰か。当然の疑問だろう。

 その人物、いや、その兎は当然近くにいる。役目を終えた彼は足元からヒトエに飛び付いてきた。


「ラーくん!」

『おう、ラーくんだぜ』


 今のラーくんの鼻息言語はヒトエにも理解できる。抱き止めての至近距離で顔を見合わせての会話。


「大怪我してるんだから走らないの」

『このぐらいの怪我ならツバつけときゃ治るさ』

「治らないから。焦げてんだよ? って、あれ?」


 最後に見たときよりも大分良くなっていた。


『さっきヒトエのお姉さんが回復魔法をかけてくれたし、あいつがポーションってやつをくれたんだ。なかなかな味だった』


 よほどポーションが不味かったのだろう、ラーくんはフンーッと嫌そうに鼻息を吐いた。

 ヒトエにはお姉さんなどいないが誰かは目星がつく。ツケウだ。

 あいつはフィンキー。


「そっかー、後で改めてお礼言わないとね」

『だな。それより効いてきたみたいだぜ』


 ラーくんに言われて見てみると、超子猫の圧倒的なボディがどんどんと縮んでいるところだった。


「さすがラーくん。凄いねぇ」


 よしよし頭を撫でるとラーくんはくすぐったそうにした。


『止せやい。俺だけの力じゃないんだぜ。誉めるなら皆もだ』


 すると足元にはリーダーやラーちゃんをはじめとしたラモビフトの群れがすり寄ってきていた。

 そう、これだけの魔法を行使するのに彼らの魔力が必要だったのだ。

 ヒトエはしゃがんで一匹一匹を撫でて労ってあげる。……自分も癒されるので自らのご褒美でもあった。


 さて、それはそうと、一つの魔法のために複数から魔力を得る技術は元々存在していた。しかし、魔力の性質は人によってそれぞれ異なり、相性が存在する。数が増えればそれだけ合わさることが難しくなるのだ。

 それはラーくん達も例外ではなく、普通であれば失敗していただろう。


 ヒトエは別荘の屋上でフィンキーとの会話を思い出した。




 ――――――


「いいや、そうでもない」


 魔法のうんちくを聞いたヒトエが「それじゃあ結局、魔法は使えなくない?」と言った返答だ。


「厳密にはラーくんがいるなら、なんだけどね」


 名前を呼ばれたからか、ラーくんは弱々しく鼻息で返事をする。


「元々、ラモビフトは群れない魔物だとは知ってるね」

「当然」


 ささやかな胸を張る。

 覚えるのに一分もかからなかった、とは自慢だ。


「でも、実際には群れていた。そこにちゃんと理由があったんだよ。紐解くヒントは――」

「ラーくんなんだね」

「いや、ヒントは彼らの行動なんだけど。特に会話関連」


 でも、とフィンキーは付け加える。


「中心にいるのは変異種であるラーくんで間違いないね。ヒトエは並列演算って知っているかい」

「それはモフモフしてる?」


 してないなら知るはずがない。あるいは悪戯に有用であるなら可能性はあった。


「してないよ。パソコン関係さ」

「知るわけないじゃん」


 この男はなにを言っているのだろうか。

 フィンキーは「まぁ、僕も詳しい訳じゃないんだけどね」と、予防線の前置きを置いてから続けた。


「簡単に言うと、ラーくんは群れを作るための独自の能力をもう一つ持っているんだ。恐らくは思考ネットワークを構築する力」


 全然簡単じゃなかった。翻訳チートが仕事をしてくれてないのかもしれない。


「えっと、大きくなったり小さくなったりするのもそれが関係してる?」

「それは別能力だろうね。特殊能力が一つとは限らないだろう? 僕も二つあるし」


 女性魅了と男性関心操作のことだ。


「僕はラーくんのラモビフト群れの話を少し聞いて疑問に思ったんだよ。変異種であるラーくんだけならまだしも、他の個体もかなりの個性がある」

「そう言えばソーカさんもそんなこと言ってたね」


 ヒトエからすれば個性があって当然なのだが。よく知ろうとしてないから、知らないだけじゃないのかと。


「で、とあることから僕は一つの仮説を立てた」

「とあることって?」

「会話さ」

「会話?」


 話が長くて飽きてきたヒトエだが今は辛抱の時。


 ――――――




「やっぱり、つまらない回想長いから打ち切り! 結論だけ言うと、ラーくんのもう一つの能力は“群れの仲間同士で思考領域を共有”らしいよ」

「ヒトエどこ向いて言ってるんだい?」

「空!」


 その力を使って波長を合わせて魔力を合体させたのだ。そしてこの世界に来て魔法の勉強をしていたフィンキーが魔方陣を書いたわけだ。

 ラーくんも自分だけとはいえ体を小さくする魔法を使えるので、滞りなく発動でき、その結果が――


「つーかまえたっ。よしよしよーーーしっ」


 ヒトエに抱かれてじたばたするしか出来なくなった超子猫だった。

 うふふー、と笑いながら頬擦りする。嫌がる子猫。立場が逆転である。

 フィンキーもラーくん達も生暖かく見守っている。


「ほらー、反撃してごらん。四聖の暴走した成れの果てなんでしょー?」

「にゃにゃーっ!」


 勝敗は決したが思う存分もふもふさせてもらう。しなければ損だ。鳴き声が全く猫っぽくないが、それも許容範囲だった。


「もふもふー」

「にゃにぇにゃー!」

「ここかい? ここをわしゃられたいのかい?」

「にゃにゃら、にゃにゃにゃ!」

「にゃー?」


 頭をめっしゃめっしゃ。


「だー、かー、らー!」

「え?」

「止めろって! 好きになっちゃうだろうが!」


 時間が停止した。ちょうど足の早いツケウとタマスも到着したのだが、同じくフリーズする。


 魔法でもチートでもない、ただの驚き。

 一番最初に復活したヒトエはなんとか「喋れたんだ……」と絞り出すと、子猫はだらーんと持たれた状態で「そりゃそうさ。こんなナリしてるが人間だぞ」と威張りくさった。

 威厳はもちろんゼロ。普通にかわいい。

 続いてフリーズから回復したのはラーくんで『俺も喋れるぜ』とアピるが彼の鼻息言語はヒトエにしか翻訳されなかった。可愛かったのでラーくんも抱え、両手にモフ。幸せ二倍だ。


 そんな魅力に負けたツケウがそろっと手を伸ばす。警戒してるのか、ラーくんの頭を撫で撫で。

 でも視線は超子猫にも向いている。


「ヒトエちゃん、その子は……」

「うん、ニャルガーフシャットビョウニャニャーキャッターことラインナップだよ」

「ラインレスだな」


 タマスが訂正した。


「にしても、なんとも小さくなったもんだな」


 タマスは超子猫の頭を触ろうとして引っ掛かれ、シュンとする。


「男に触られたくないだろ、にゃー」


 ――とってつけた語尾はキャラ付けかな?


「というか意識取り戻したんだね」

「いーにゃ、最初からあったにゃ」

「嘘をつくな! 皆を痛め付けてだろ!」


 ようやく精神が戻ってきたらしいフィンキーが憤慨した。遠くから見てもかなりの驚異だったし、あの死闘が茶番だったとは納得できなかった。フィンキーは直接は戦ってないのだが。

 でも、超子猫も負けない。


「本当にゃ! 猫じゃらしあたりからは記憶がにゃいけど本当にゃ!」


 本能をくすぐられなければ今のように普通に話せるとのこと。


「私は信じるよ」

「ヒトエ!?」


 裏切られたかのようにフィンキーは衝撃を受けた。

 でもヒトエからすれば何らおかしいことはない。子猫だから。信じるにはそれで十分だった。人間だったら不十分だったが。


「それでは何故攻撃してきたんですか?」


 ツケウの質問に超子猫は顔をそらした。回答拒否ではない。ツケウの顔が近くて照れたのだ。

 ヒトエは、さては女性に免疫ないなー、と即座に見抜いた。


「攻撃はしてないにゃ。ずっと身振り手振りを交えて話しかけてたにゃ」


 なら手加減すべきじゃないだろうかと全員が思った。あんな威力のあるボディランゲージはだれも求めない。

 ヒトエが超子猫の立場ならもっと言葉だけで――


「って、あれ? 言葉も喋ってたの?」

「そうにゃ。こうして話したにゃ」


 ヒトエには聞いた記憶がない。

 どうしてかな、と、考えてすぐにわかった。


「口があんな高いところにあったら声聞こえないよね」


 口があったのは地上何メートルだろうか。少なくとも40よりは高いだろう。そこから普通に喋っても聞こえるはずがない。

 指摘されてはじめて気づいたらしい超子猫はマジかって顔をしていた。この超子猫こそマジなのだろうか。


「にゃーには皆の声、聞こえてたにゃ」

「猫は耳いいからね」


 またマジかって顔である。この超子猫、オンテ以上かもしれない。


「まぁ、いいや。もう暴れないでね」

「そうしたいけどにゃ、ジャンパーがいたにゃ。奴だけは危険だからにゃーが倒さないとにゃ」

「もう捕まえたよ」


 三度マジかである。


「マジか……」


 ついには口にした。語尾を忘れるほど驚いたらしい。


「にしてもアレだな。そうしてっと悪もんには見えねぇな。どうして封印されてたんだ?」

「……にゃーにゃー。あー、なんでかにゃ喋れなくなったにゃー」


 タマスに問いかけられ、驚きから一変、大根演技でシラを切り始めた。回答拒否だ。


 これには深い理由がある。

 それは四聖が袂を分かった原因の一つでもあった。


 ――――――


 地球より召喚されてから四人は長いこと一緒に冒険していた。

 国境を跨いで続く旅路、死地をいくつも乗り越え、楽しいこともいっぱい。どんな時も一緒だった。


 そうしている内にラインレスの心に一つの感情が生まれたのである。

 それが何なのかわからないラインレスであったが、それでも冒険は続く。いつまでも続くだろうとラインレスも信じていた。

 ジャンパーがラインレスを呼び出したあの日までは。


 彼はラインレスの心内に秘めたその感情の正体に気づいていたのだ。というかバレバレであった。シラズも、イージスさえも知っていた。知らぬは本人だけだったのである。


 そしてジャンパーはラインレスにそれを突きつけた。イージスの気持ちも彼は知っていたと言うのに。


 ラインレスは悩みに悩んだ。

 睡眠時間も七時間だったのが六時間になってしまう。次の日への支障は特になかったが。


 それから一月ほどかけて決心し、イージスを呼び出した。

 実は意図を察しており、げんなりしていた彼女だったが、一応足を運んだのである。


 緊張でガチガチのラインレス。

 それでも二時間後には緊張が勇気を上回った。


「好きです! 付き合って――」

「ごめん、ムリ」


 被せ気味の拒絶であった。

 イージスの能力は全てを拒絶する絶対障壁、人々を守るための力だ。

 対してラインレスは人間としての矜持を捨て異形となり、身を挺して人々を守る力。

 イージスは常々思っていた、役割が被ってんじゃん、と。その思いが被せ気味の拒絶となったのだ。


 そこから顔を会わせづらくなり、いつからか行動を共にしなくなった。

 風の噂ではジャンパーやシラズも別々の道を歩み始めたようである。


 傷心したラインレスは慣れないお酒を飲むようになってしまった。次第に量が増えていく。酒癖は悪くはなかったので問題は特に起きなかった。


 そんなある日、ジャンパーが訪ねてきた。なにやら相談したいことがあるらしい。シラフでは話しづらいので一緒に酒を飲もうと言う。味をしめ、溺れてしまったラインレスは快諾してしまった。


 それから酒場に行き、色々と話した。最初は近況報告のようなとりとめのない話、それから次第に下世話な話に移行していき、とあるジャンパーの発言から喧嘩になった。


 それはイージスを侮辱する言葉。青二才なラインレスには到底許せるものではなかった。酒が入っていたこともあり、口喧嘩から本気の喧嘩に発展してしまう。それは町を壊滅させてしまいかねないほど激しいものだった。


 途中でジャンパーを見失ってしまったがラインレスは止まれなかった。一晩明けても破壊の限りを尽くした。

 だれが止められようものか。普通の冒険者では全く歯が立たなかった。なにせ最強クラスの防御力を誇るのである。いくら攻撃してもダメージが通らない。人々は絶望に包まれた。


 そこへ一人の女性が現れる。ラインレスが今一番会いたくなかった人だった。彼女はラインレスの繰り出す猫パンチを障壁を展開して受け止めたのだ。

 ポツリと呟く。通常なら聞こえないはずだが、彼の優れた聴力はそれを捉えてしまう。


「君にはがっかりだよ」


 そこには悲しそうなイージスの顔があった。おかげで、ようやく我に返ったがもう遅い。彼女は封印の儀式を発動させていた。

 次の瞬間、ラインレスの記憶が途切れたのだった。


 そして起きたら邪悪な空気を纏ったジャンパーと再会したわけである。


 ――――――




「つまり、イージスさんにフラれたから荒れに荒れて超子猫になって暴れた結果、封印されたってことだね」

「なぜそれを!?」


 さっきから驚愕しきりの超子猫に、ラーくんを抱える手に持っていたスマホを見せびらかす。


「ネットって便利だよね」


 編集中のこれを読んだのである。

 スマホを知っているツケウとフィンキーは「あぁ、それで」と納得して彼に優しい視線を向けた。


 地球人ではあるが、彼はネットすら存在してない時代の人間。理解が及ばなかったが、カマかけとかではなく本当に知られてしまったことだけは理解できた。


「ま、まぁ? もうイージスのことは好きでもなんでもねぇし? むしろお断り、あっ、にゃー」


 ようやく語尾を思い出した超子猫。態度からして強がりのようであるがそうではない。

 彼は恋多き子猫。すでに次の恋を既に見つけた。胸がドキドキなのである。


 ぶっちゃけた話、その胸の鼓動とは驚きから来たものだ。ずっと女の子に抱かれ続けていると言うのもある。

 それらを恋と勘違いした吊り橋効果なのだが、それでも今の超子猫の気持ちはきっと本物なのだ。


「にゃーが好きなのはヒトエだしにゃー」


 動揺が続く彼はその気持ちをつい口走ってしまい、


「ごめんね、猫は好きだけど」


 天国の片鱗を味わい、


「恋愛対象にはならないよ」


 地獄へと突き落とされた。

 ヒトエの腕の中で力尽きる超子猫。大好きになった人の腕なので本望と言えるかもしれない。


 でも彼は満足できなかった。


「……認めないにゃ」


 イージスにフラれ、ヒトエにもフラれた。その理由は余り理不尽すぎた。少なくとも彼はそう感じたのだ。


 こんな世界の理不尽はもう懲り懲り。


「認めるわけにはいかないにゃ!」


 超子猫の体が小刻みに脈動する。それは暴走の兆し。ラーくんの魔法で小さくなっていた体を自身のチート能力で打ち破ろうとしているのだ。彼の能力、境界崩壊は生物としての垣根を崩壊させる力。小さな体を巨大化させるのだって訳はない。


 ホロボシテヤル。


 あの時のように怒りに身を任せる。

 全ての鬱憤を破壊衝動に変換するのだ。


 ヒトエはそんな超子猫の変化に気づかず、のんきな提案をする。


「あっ、ペットならいいよ」


 ペットにするなら犬派であるヒトエだが、別に猫をペットにしたい訳じゃない。現にウサギとよく似たラーくんをペット同然に扱っている。超子猫も許容範囲なのだ。


「嫌かな? ペット。たくさん遊んで〈弄んで〉あげるよ」


 むしろ色々と面白いので悪戯しまくってあげたかった。


「……ペット?」

「そうペット」

「たくさん一緒にいられる?」

「いられるね」


 心の奥底で芽吹いて渦巻いていた黒きそれが霧散していくのを超子猫は感じ取った。

 ヒトエの悪戯したい精神で言っただけの何気ない提案が彼への祝福となったのだ。


「それでペットになってくれるの?」


 彼は迷わなかった。


「にゃーがペットになってやるにゃ!」


 そしてヒトエのレベルが上がった。

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