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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
三章
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超子猫3

 ――終わったぁ。


 飛びかかってくる超子猫の姿に、諦めたヒトエはきゅっと目を瞑った。せめて痛くなければいいなと祈った直後、体を襲った衝撃が浮遊感を伴ってヒトエの体を運び飛ばした。


 意識はまだあるものの、消えるのは時間の問題だろう。

 ヒトエの冒険はこれで終了である。

 ほとんど冒険していなかったが、それでも濃い時間を過ごしたのではないだろうか。

 ヒトエはこの世界に来てからのことが走馬灯のように蘇って欲しかった。けれど特に蘇らなかった。まぶたの裏に映る景色は黒一色なままだ。

 なぜなら――


「ん? にゃんこが変な所にいる?」


 猫じゃらしまっしぐらだったはずの超子猫はあさっての方向にある家を叩き潰していたのだ。

 ヒトエ達は至って無事だった。


「違うぞヒトエ」

「コーリッヒ君?」


 なにやら事情を知っているようである。

 超子猫の攻略に関わる重大な発見かもしれないので、早く口を割らせようと、取調室にありそうなランプを作成した。


「ヒトエちゃん!」


 その時、ヒトエの耳に天使の声が響いた。

 手からすり抜け落ちたランプが光の粒子となって消えが、そんなことはどうでもよかった。

 ほぼ無人なはずの町にあの人がいたのだ。


 ――これは夢? それともついに走馬灯?


 ミカンの皮を作成して、目の前にある冑の隙間の前で折り曲げると「何する!?」と怒られた。これは現実かもしれない。

 念のために自分にもミカンの汁を噴射してみたら物凄く染みた。これはまさしく現実である。


「おい、自分にも試すなら俺で試す必要はなかっただろう?」


 その通りであるが無視をした。


 今、大切なのは彼女の名前を呼ぶことである。ヒトエを窮地から救ってくれただろう救世主、その人は、


「ツケウさん」

「はい、私です。無事でよかった」


 近づきぎゅっと抱き締められた。いつもは隠されているが、今のような冒険者装備の時は強調されるそれが柔らかい。間違いなく本人である。


「俺もいるぞ」


 横から筋肉質な腕が伸びてきて、ゴツくてデカイ手が猫じゃらしの茎を挟むように掴んだ。

 この手にも見覚えがあった。


「ぶたこびっと……」

「まだ言うか!?」


 タマスである。


「でも、どうして二人ともここに?」

「それは俺も気になる。ギルド職員は兵士騎士と共に町民の避難に当たっていたはずだ」


 コーリッヒは二人が仕事を放り出して来たのではないかと疑っているようだ。

 ツケウに限ってそんなことは絶対ないのに、と、少し膨れるヒトエ。それを見てツケウは微笑んだ。


「町民の避難を済ませてから各転送ポイントと連絡を取り、無事に魔法が作動したことを確認しています。それから急いで戻ってきたんですよ」

「本気で走りゃあ三十分で着くからな。あぁそんなに心配せんでもリイケに引き継いだから、あっちはあっちで上手くやってくれている」


 眼光が鋭くなったコーリッヒに、タマスは苦笑いで付け加えた。リケイとは経理のおば――お姉さんである。


「おっと、来んぜ。ツケウ」

「はい」


 超子猫が再び猫じゃらしを捕捉して飛びかかってきた。先程よりもスピードが早い。ヒトエの目算では到達まで後四秒ほど。

 小声で高速詠唱するツケウから風が溢れだす。大魔法のようだった。


「風よ我らを運んでください!」


 体がふわりと浮かんだ。そして真横に優しくかつ素早く四人を運んでくれる。先程もこうして二人を助けてくれたのだろう。


 けれど今回は猫じゃらしの先の方は魔法の対象に入れなかったらしい。運ばれなかった穂先がその場に残り、猫じゃらしは全体的に斜めとなった。


 ここで出番となるのが怪力の二人だ。コーリッヒとタマスは持ち前のパワーを合わせ、その傾きを一気に戻す。


 超子猫は突然視界から消えた猫じゃらしに対応出来ず、通りすぎていった。代わりに、目についた建物を粉砕する。怒ったのか跡形もなくなるまで執拗に叩きまくっていた。


「あの建物ってたしか……」

「知ってるんですか?」

「うん、でも仕方ない犠牲だよ」

「そうですね」


 ツケウも同意してくれた。建物だから建て直せばいいのだ。


「にしても、あれが城の地下に封印されていた化物か。婆さんから言い伝えは聞いていたがすごい迫力だな」

「見た目は可愛いじゃん」

「あれがか?」


 タマスには恐怖を撒き散らす化物にしか見えないらしい。


「私もサイズ以外は可愛いと思いますよ」


 ツケウのお墨付き。二体一で可愛いに可決された。コーリッヒがなにか言いたそうにしているがもう可決したので遅いというのがヒトエの民主主義である。


「さて、これからどうしますか?」

「ツケウさんはさっきの魔法は何度いけるの?」

「二回ですかね」


 やはり魔力を相当消費するようだ。南門までは足りない。


「作戦は外にいたフィンキーから聞いている。こいつで南門の外へ誘導すりゃあいいんだよな?」

「うん。タマスさんとコーリッヒ君の二人で行けるの?」


 無理、と二人はハモった。


「だが、それならアテがあるぜ」


 タマスは大きなアゴで南を指した。

 そこには冒険者や兵士騎士からなる集団が走ってきていた。ヒトエには先頭の男には見覚えがある。


「タマスさん達、走るの早すぎますよー!」

「チョーカー!」

「チョデな!」


 同僚の先輩だ。他には弓師のミュッコもいる。選抜メンバーのようで動きの無駄も少ない。

 とても心強い援軍に、ヒトエはこれなら確実にやれると確信する。


 しかし、これだけ人数が揃ったらなら猫じゃらしでマタドールごっこをする必要は無い気もする。ヒトエは大人なので黙っておくことにしたが。あとで笑い話にするのである。


 ただ、チョデだけには一言申さないといけない。


「チョリス君はさすがに実力不足だからオンテさんお願いしていい? あそこのお店で伸びてると思うから」

「そんな強いのかよ!?」

「強いな。お前は戦闘に参加するな」


 タマスにまで言われてしまった。ギルドマスターからの命令では逆らえない。チョデはすごすごお店に向かう。


「あぁ、それと」


 ヒトエはそんなチョデを呼び止めた。


「チョデの泊まってた宿は粉砕されたから」

「マジかよ!」


 マジである。さっきの建物がそうだ。一度見たので間違いはないだろう。

 ちゃんと名前を呼んでもらえたにも関わらず、テンションがだだ下がったチョデは肩を落として戦線から離脱していった。

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