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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
三章
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復活

 ソーカを吸い込んだラインレス像が仄かに光りだす。それは強まっていき、すると急にまたぼんやりと。

 点滅する様は、脈動しているようであった。


 そんな像の前にソーカの細身の剣が落ちている。投げられた際に落としたのだろう。ヒトエはなにも考えずに緩慢な動作で拾いあげ、刃先を老人に向けた。


「ふむ、慣れない道具は身を滅ぼすぞ。慣れた武器でも結果は同じじゃがな」

「うるさいっ!」


 不愉快な声だ。あいつさえいなければ。いなくなりさえすればソーカは。

 憎悪という不定形な感情に突き動かされるまま、ヒトエは老人を消し去るべく距離を詰めにいく。


「ふぉっふぉっふぉっ、なんとなんとなんと。お主を無力化させるにはこうすればよかったんじゃな」


 怒りに満ちたヒトエが振るう剣には精細さの欠片もない。ただ闇雲に武器を振り回す素人だった。


 回避回避の合間に、老人はおちょくりの言葉を投げ掛けてきた。


「チート能力者は総じて厄介じゃが、とりわけお主の能力は定義が曖昧で、なにを起こすかわからなかったからのぉ」

「しかし、こうなってはただの小娘」

「なんら脅威は感じられんのう」

「どれ、お主も死霊にしてしんぜようか」


 ふぉっふぉっふぉっ、とご機嫌に笑い、大きく回り込むと手を伸ばしてきた。ヒトエは気色悪い顔面目掛けて突き刺す。

 しかし、直線的でへろへろな攻撃はやはり通用しない。


 悔しい。悔しい。仇なのに。


 なおも剣を振るおうとしたヒトエだったがフィンキーが羽交い締めしてきた。


「ここは一旦引こう!」

「離して」


 セクハラとか、そんなことはどうでもいい。


「ヒトエッ!」

「離してって」


 ただただ、邪魔なだけ。本当に邪魔だ。


「離せよオラァッ!」


 フィンキーは優男系というかもやし系だった。つまりはパワー不足な訳で、本気で暴れだしたヒトエを押さえつけていられなかった。


 そんな彼に颯爽と助け船を出したのは、


「フンフンフンッ!」


 ラーくんだった。大怪我を負っているというのに、下に潜り込むと体をある程度大きくして二人を背に乗せた。

 これにはヒトエも怒りから我に返る。


「ラーくん!? 無茶しちゃダメだよ!」

「フンフンフンッ!」


 断られた。なに言ってるかはよくわからないが今のヒトエじゃダメだ的なことを言われているような気がした。


 ラーくんが足に力を込めるのがわかる。足も酷い怪我をしているはずだ。それでもラーくんは力強く地を蹴った。

 ヒトエとフィンキーはとっさにラーくんのもふもふ毛を掴む。


「させんぞ!」


 老人はゴツゴツした壁に手を当てると大量の死霊が生えてきた。


 ラーくんは進路上に塞がる彼らを吹き飛ばすと、今度は上に大ジャンプする。そこにも上半身だけの死霊が武器を持って壁から生えていたが、体が傷つくのもいとわず、むしろ彼らを新たな足場として踏みつけていく。


 到達する天井は行き止まりだ。

 フィンキーが情けない声をあげているが、ラーくんは構わず体当たりする。そして二人と一匹の姿が洞窟から消え去ったのだった。




「ちぃっ、逃がしたか。すぐ追わねば」

「その必要はない」


 死霊で足場を作り、登り始めた老人だったが後ろから聞こえた男の声に振り向いた。

 溶けたナイフが地面にへばりついている地点に黒いマントで全身を隠している男が立っていた。

 驚きはない。あのナイフは転送地点の目印のために奴が刺したもの。老人もあの男の力でここへやってきたのだ。本人が能力を使えばここに来るのは容易いことだろう。だが、


「用事があったんじゃないのかのう」

「これから済ませる」

「……なんじゃと?」


 男は死霊の足場を駆け上がり、老人の胸をナイフで貫いた。


「ぐっ、なにを……」

「見ろ、じきにライールが目覚める」


 ラインレスの像は脈動を続けている。

 老人は血を吐きながら、ふっ、と鼻をならした。


「……贄が足りんわい」


 完全復活には、少なくともあと一人の聖人が必要である。そして猶予は少ない。このままでは半端に目覚める恐れがある。


「知っている。時間がないこともな」

「……そういうことか」


 老人は男の目的をようやく理解した。


「あぁ、死霊王のチートを持つお前でも贄には十分だ」

「ふざけるな若造がッ!」


 男に向かって八方から死霊が迫る。

 だが、その全てを男は真っ二つに切り裂いた。

 だが、その隙に老人はナイフを引き抜いて距離をとっていた。


「もう助からんのによくやるな」


 傷は深い。血は止めどなく溢れる。


「ここまでコケにされたのじゃ。一矢は報いさせて貰おうぞ!」


 老人はチート能力を自身に発動させた。彼の持つチート能力は【不死の軍勢】、生きた人間を死霊とする力だ。


「これで贄には不適切な存在となろう」


 死霊ではラインレスを蘇らせられない。

 だが、男は余裕を崩さなかった。


「詰めが甘いぞ、ご老体」


 老人の背後に一人の少女。その足元には溶けたナイフがある。


「しまっ――」

「ヒトエ、やれ」


 ピンクのジャージに身を包んだその少女は、返事をすることなく、無表情のまま老人をラインレスの像に投げ込んだ。






「ラーくん! ラーくん!」


 地下牢に戻ったヒトエの手の上にラーくんは横たわっていた。おしりの方は黒こげ、上半身も傷だらけである。生きているのが不思議なぐらいだ。


「貸して! 手当てするから!」

「出来るの?」

「応急処置だけ。それも魔物にするのは初めてだ」


 それどころか、他人に、この場合は他魔物だろうか、治療を施すのさえ始めてのことだ。虐められていた前世で自身の怪我の手当てをよくしていただけなのである。それでもしないよりかはマシだろう。


「おい、地下でなにがあった」

「えっ?」


 ラーくんで頭がいっぱいだったヒトエは目の前に黒い鎧が立っていることに気づかなかった。

 コーリッヒだ。


「地下でなにがあった」


 もう一度訊ねられたことで、先程の記憶がフラッシュバックする。


「ソーカさんがっ! ソーカさんがっ!」

「落ち着け! 」


 その時、地下牢が大きく揺れた。

 いや城ごと揺れているのかもしれない。


「マズいな。二人ともこれを付けて外せ!」


 コーリッヒが差し出したのは二つの腕輪。見覚えがある。城の中で外すと牢屋と似た留置場にワープする腕輪だ。


「ここは危険だ。退避するぞ」


 簡易な処置を終えたフィンキーは言われた通りに腕輪を付けて外すと、ラーくんと一緒に姿を消した。


「ぐずぐずするな!」


 コーリッヒは、動作のトロいヒトエに無理やり腕輪を付けて外す。

 すると飛翔感と共に視界が切り替わった。


 どこぞの建物の屋上であるようだ。

 石造りの町並みの向こうには城が見える。


 だが、その隣により大きな存在が鎮座していた。

 白と黒の縞柄のふさふさな体毛。三頭身ほどの幼い外見。顔のおひげはチャーミングであり、三角耳をぴょこぴょこ動かし、まん丸でつぶらな瞳の縦に細長い瞳孔は無垢そうになにかを見つめている。

 ヒトエにはあの動物に見覚えがあった。


「にゃんこ……」


 猫、それも子猫だ。だが城より大きいことからして子猫と呼ぶにはいささか大きすぎる。高さはビルの二十階近くはあるのではないだろうか。

 超巨大な子猫、超子猫である。


 そして、思い出した。

 この世界には猫に類似する生物は一種類しかいない。


 隣に出現したコーリッヒが、あまりの大きさに圧倒されつつも、その名を呟く。存在が疑問視される伝説の魔物のその名を。


「ニャルターフシャットビョウニャーニャークッター」

「違うよ」


 ヒトエの断言にコーリッヒは眉をしかめた。王様から直々に聞いたばかりだ。間違うはずがない、と。

 だが、ヒトエには確信があった。その真の名、それは――


「ニャルガーフシャットビョウニャニャーキャッターだよ」

「細かいな」

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