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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
三章
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最強の武器の一つ

 フィンキーの話を受け、目的を地下牢の探索に定めた。


「となると、城に潜入しなくてはな」

「でも、どうするんだい? あの最強の引きこもりが警備を固めているんだろう?」


 フィンキーは勇者を自称していた頃、コーリッヒに挑んだことが一度だけある。ワンパンだった。剣すら抜いてもらえぬ惨敗であった。だから彼の強さをよく知っているつもりだ。


 そういう点ではヒトエも同じか、倒したことがある以上、もっと知っていると言えるだろう。だけど心配はしていなかった。


「そこはオンテさんの出番でしょ」

「あたしか? あいつに勝つ自信はないよ?」

「ふふふ、ご謙遜を。オンテさんには強力な武器があるじゃない」


 ヒトエの目がしゅぴんと光る。

 三人はその武器の心当たりはなかったわけだが、そこまで自信たっぷりなら大丈夫だろう、とヒトエを信じることにした。


「その前に門も潜らないといけないんだがな。ミュッコと連絡をとるか」


 城へ至るには町に至る二つの門のどちらかを通るか、高い壁を乗り越えなくてはならない。町から脱出したときはミュッコの強力で壁を乗り越えた。ソーカは今回も同じ手で中に入ろうと言うのだ。


「それなんだけど、ツケウさんがこれをくれたんだよねー」


 ヒトエがポケットから取り出したのは――






「リグンの町へようこそ!」


 一行は、生ぬるい笑みを浮かべた兵士に見送られ、南門を潜った。


「まだまだな営業スマイルだよ」


 悟られてしまったら三流なのである。ヒトエはやれやれと兵士の愛想力低下を嘆いた。本当に低下してるのかは定かではないのが。

 ほとんどの項目が頑張りましょうとなっている通知表を置いてきたので、ぜひ役立てて欲しいものである。


 さて、ヒトエ達が無事に通過できたのは警備がザルだった、というのもほんの少しある。過去には身分証明が出来なかったヒトエが町に入れてしまったぐらいだ。

 基本的に指名手配犯や魔物以外の人間は受け入れてよい規則になっている。外は魔物だらけであり、受け入れなければ彼らの餌になってしまうのだから当然のことだろう。過去のヒトエの件は兵士の不手際というわけではなかった。


 しかし今回の件は完全に兵士の失態である。ヒトエ達は指名手配されている犯罪者なのだから。


「まぁ、変装してるけどね。化粧一つで人間は変われる。雰囲気君のようにねっ」

「ヒトエ、誰に向かって話してんだ?」


 空に向かってである。ドヤ顔ピースであった。その横のオンテは不思議そうだった。

 それはいいとして、ツケウが用意してくれていたのは六枚のギルドカードだった。男三枚女三枚。どれも変装しやすい顔である。ヒトエはそれを参考に皆をメイクし、南門を通過したのだ。

 一行の姿は今、ヒトエがショタ、ソーカが妖艶なお姉さん、オンテが黒髪にした他はいつも通り、フィンキーは男の娘デズデモーナである。衣装は冒険者風の面白味もない地味なやつだ。


 ご不満なヒトエだが、もっとご不満なのはラーくん以外が草原に置き去りということだった。ポケットに入れるラーくんはともかくとして、あの数はテイマーとしてもさすがに不自然である。断腸の思いで、リーダーに巣を作るよう指示を出し、一通りモフモフスリスリしてから別れたのだった。

 それとラモ耳もヒトエを連想させるということで外しており、ラーくんは絶賛ふて寝中である。指でちょっかいをかけたら、本気でかじられた。


「世の中って甘くないね」

「だからどこに向かって言ってんの」


 空である。ヒトエは遠い目をしていた。






「ところでさ」

「なにかな雰囲気君」

「こういうのは夜に決行するんじゃないのかな」


 ヒトエ達は城の近くまでやって来ていた。ここら辺で隠れる場所を探して、夜に忍びこむ。たしかにセオリーであろう。


「でも、忍びこむなら今なんだよ」

「裏をかくわけだな」

「夜は寝る時間だもんな!」


 ソーカは惜しい。昼の方が人は多いがあえてこの時間を狙うとは思ってもないだろう。基本夜型のコーリッヒだって動きは鈍っているはずだ。

 オンテは大外れ。規則正しい生活を送っているお嬢様のようだ。いや、お嬢様だった。枕が変わると眠れないからマイ枕をこっそり持っているぐらいのお嬢様なのだ。


 ヒトエは庶民なので夜更かし上等だし、マイ枕も必要ない。

 では、なぜ昼に忍び込むのか。理由は単純明快だった。


「夜に忍び込んだら死霊っぽいじゃん!」




 というわけで四人は突入した。それも正面から。


「フィンキー君のチート強いねー」

「君のには負けたけどね」


 たしかに悪戯がハーレムを破ったが、フィンキーのチートも大概である。男から妬まれないように自身らの存在を意識の外へ飛ばすとは強すぎだ。

 現に、城の門番はヒトエ達に気づかない。ここで横から襲えば無傷で倒せてしまうだろう。ヒトエが鎧をビーズでデコっても、頭に蛇のおもちゃを置いても、兵士はひたすら前だけを向いていた。


 そして城内に入ってすぐの大広間。


「わお」


 そこにはコーリッヒが布団を敷いて眠っていた。ヒトエは狸寝入りが得意なので見抜くのもわけない。コーリッヒはしっかりと眠りについていると断言できた。

 それも黒い全身鎧をフル装備で、武器に手をかけてもいる。

 ヒトエには掛け布団の意味がないように見えたし、体も痛そうでうへぇとなったが、寝ているなら好都合。横をすり抜けるだけである。


 結末はなんとなく予想はついていたが、足を揃えてそろーりそろーり。


「誰だ」


 案の定というかなんというか、コーリッヒは瞬時に立ち上がった。


「起きるって知ってたよ。雰囲気君の役立たず」

「さっき誉めてくれたのに!?」


 コーリッヒに通用しなければ意味はないのだ。気配察知なのか、わずかな音をとらえたのかは知らないが、危害を加えるつもりも敵対するつもりもないので寝ていて欲しかったが、こうなっては仕方ない。


「オンテさん、プランAだよ」

「任せろ! 武器を使うんだな!」


 頼もしい言葉と共に前に出たオンテは首をかしげた。


「で、武器ってなんだ?」


 ソーカとフィンキーは軽くずっこけた。


「わかってなかったのか。てっきり本人はわかっるとばかり」

「僕たちも武器がなんなのか知らないけどね」


 ヒトエに視線が集まる。コーリッヒも警戒からか、寝ぼけているからか、まだ動こうとしない。


 ヒトエは悪戯成功したかのような、悪い顔をして、そりゃあ決まってるじゃん、と前置く。


 そして告げる。


「権力だよ。ねっ、オンテさん。いや、テンハ王女様」

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