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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
三章
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信頼

 ヒトエがこの異世界に来て、ツケウに一番お世話になったのは紛れもない事実である。仕事からプライベートまで。彼女がいなければヒトエはどうなっていたか。


 それが今、なんの因果か敵対するように向き合っている。

 どうしよう。

 ヒトエは自身の身の振り方を決めあぐねていた。追手がツケウ以外であれば即逃げものだった。でも現実は追手がツケウであり、投降するのも悪くはないかなと思えてしまう。逃げているのも成り行きだ。そこに強い意思はない。


 だったら、とヒトエが口を開きかけたその時、


「ちょっと待ったぁ!」


 両者の間に赤色が飛び込んできた。背中を向けているが、その燃えるような赤髪には見覚えがある。オンテだ。

 ゾクリと背筋に寒気が走ると同時に思い出す、赤き孤高の破天荒という彼女の二つ名を。

 まさかと思ったヒトエだが遅かった。


「ヒトエを捕まえさせるわけにはいかねぇな」

「どうしてですか?」

「ヒトエにはやるべきことがある。だから逃げてるんだ。そうだろ?」

「え、いや、あの」


 振り向いたオンテの笑顔は眩しすぎた。

 違います。

 そんな簡単な言葉がうまく出てこず、ワタワタしている間にうんうんと頷いたオンテは前を向いた。


「だから捕まえさせるわけにはいかねぇんだよ」

「ちょっ待ってって」


 勝手に拒絶したオンテは手にしていた分厚い長剣を構えた。全く待ってくれない。話も聞いてもらえない。その表情は見えないが、おそらく真剣かつイキイキとしていることだろう。

 話がどんどんややこしくなっている。こんちくしょうであるが、ツケウなら話を聞いてくれるはず。そんなヒトエの希望はすぐさま打ち砕かれることとなる。


「そう、ですか……」


 ツケウはやけにあっさり説得を諦めてしまった。そして掌に風のようなものが渦巻きだす。戦闘態勢だ。


 ヒトエ自身から話を聞かないなんてらしくない。しかし、ツケウは走り出した。きっと風魔法で加速しているのだろう、一気にその距離が詰まる。


 横をすり抜けられた形となったオンテはその背中を狙おうとしたが、その長剣は同様に動き出していた冒険者に止められた。多勢に無勢。

 ヒトエにもツケウの掌が迫る。


「ラーくん、AからD!」


 咄嗟にそう指示を出すので精一杯だった。接近戦闘は彼女の得意とするスタイルではないだろうが、鋭い掌底であり、ヒトエは首だけを動かしてギリギリ回避した。


 悪戯が絡んでないのとツケウ相手とあって、ヒトエの動きは鈍っている。このままでは敗色濃厚だ。

 でも、ふと気付く。


 ――このまま負ければ捕まえてくれるんじゃ?


 そうとなれば話は早い。ちょっと痛いかもしれないが、そこは我慢だ。ツケウなら少しの怪我で済ましてくれると信じて、ヒトエは目を瞑り歯を食いしばった。

 攻撃は耳へだった。


「私もオンテさんと同意見です」

「え?」


 囁きである。ツケウは攻撃を空振りさせ、さりげなく耳に口を近づけていた。痛みではなく、驚いたヒトエは顔の防御態勢を解いてしまった。


 ちょうど反対の掌がヒトエを襲うところであり、再び目を瞑ると頬に風を感じた。またも空振り。そしてまた囁かれる。


「死霊の主を捕まえるつもりなんですよね?」

「ツケウさ――」

「黙って避けてください」


 ツケウはヒトエに攻撃を当てるつもりはないようだった。こうして接近戦で挑んできたのはこうして伝えるためだったのだ。

 一発空振る毎に言葉を紡ぐ。


「ギルド方針としましては」

「ヒトエちゃんを捕まえなければいけません」

「ですが私は信じています」

「ヒトエちゃんは犯人ではありません」

「さっきも犯人を追って」

「死霊と遭遇したんですよね」

「ヒトエちゃんならきっと」

「この事件を解決してくれます」

「根拠ない無責任な発言だと思いますが」

「なぜかそう思ってしまうんです」

「だから逃げてください」

「そしてリグンの町を救ってください」

「きっとヒトエちゃんならできます」

「もちろん、微力ながらお手伝いできることは」

「お手伝いしますよ」


 ツケウはそう言うとポケットの中になにかを押し込み、距離をとった。

 そして、声を張り上げる。


「なかなかやりますね! ですが、捕まえるのは時間の問題ですよ!」


 ヒトエは心の中にじわりとなにかが染み込むのを感じた。

 ツケウは自分を信じて狂言を演じてくれている。オンテやヒオ王妃も、もしかしたらコーリッヒだって本当に信じてくれていたのかもしれない。

 そしてソーカは今も情報を集めようと頑張っている。事件を解決しようとしているのだ。

 じゃあ、自分はこのままぬくぬくしてていいのか。実のところずっとモヤモヤしたものを抱えていた。

 死霊は何度もリグン町やリョク城を襲い、危険な目に遭っている。隣町だって襲われててらしい。

 ツケウ達が住んでいる町だ。それを危険だからって目をそらして逃げ続けていいのか。

 もし、そのせいでツケウが犠牲になったら、想像するだけで気分が悪くなる。

 自分はか弱い女の子であるが、同時にチート能力もある。使いようによっては最強と名高いコーリッヒさえ出し抜けた能力だ。

 ツケウやソーカ、ラーくん達や、きっとオンテだって力を貸してくれる。一人じゃない。

 頑張れる? 頑張れる。


 ヒトエは覚悟を決めた。


「事件を解決するため、ここで捕まるわけにはいかないよ」


 その宣言に、ツケウは心配そうであり信頼しているようである複雑な笑みを浮かべて、優しく頷いたのだった。

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