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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
三章
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再会

 気がつけばヒトエは青と白のコントラストが目に優しくない、空虚な世界にいた。なんとなく見覚えがあるような気がして、でも思い出せない。ここはどこ、と、訊ねたいところではあったがこの世界に人の姿はなかった。


「やっぱ、こいつが怪しいよね」


 ヒトエはゆっくりと回転しながら宙に漂う白き立方体を観察する。

 この世界に存在するオブジェクトはこれだけだ。そしてヒトエは出会ったことがある。これだけインパクトの強い存在なのに完璧に忘れているのだ。チョデやフィンキーと同レベルである。


 そんなヒトエであるが、突如、この存在が神と自称していることを理解した。おそらくはテレパシーだろう。頭にそんな情報が湧いて出たのだ。

 けれどヒトエは、はぁ、と薄い反応であった。テレパシーには驚きはしたが、神を自称する輩にロクな存在はしない。真に神ならば神であると主張せずとも神であろう。つまり、こいつは胡散臭い。ヒトエは警戒を強めていた。


「え? はぁ……」


 今度はレベル10に達したことを誉められたような気がした。勝手に上がったものを誉められたところで嬉しくもなんともない。

 これ以上無駄話も何である。


「で、何の用かな? ここに連れてきたんなら用事があるはずだよね」


 使命を果たせ、と、なんか命令された。そもそも使命なんて記憶のどこにも無いのだが。


「頑張りまーす」


 やる気なさげに適当に答えておいた。ぶっちゃけ早く帰りたかった。

 ヒトエには帰りを待ってくれてるだろうモフ達がいる。女帝とはあまり嬉しくない響きだが、その権力を使えばモフモフし放題である。早くモフモフしたかった。


「話はそれだけなら帰してくださーい」


 語尾を間延びさせておよそお願いとは思えない態度でお願いすると、周囲が光を帯びていく。受け入れてくれたらしい。それは空間を覆い尽くしていき――


「ひとえっ!」




「あイタっ」


 慌てて上体を起こしたヒトエは何かに頭をぶつけた。ちょうどつむじの辺りにクリティカルヒットして涙目になったが、もっと重症な人が横で悶えていた。

 ソーカだ。アゴを押さえている。

 傍らには白いハンカチが落ちており、ヒトエは全てを察した。


 白と青の部屋に連れていかれただろうヒトエは気を失った。それが精神だけを連れられたからか、体ごとで連れていかれて戻ったショックでかはわからないが間違いないだろう。

 ソーカはそんなヒトエを看病してくれていたのだ。白いハンカチで汗を拭く、そんなタイミングでヒトエが目を覚まし、つむじとアゴがバッティング。二人は軽くないダメージを受けてしまった。そんなとこだ、と。


「うー、あー、ごめん……」

「いや、目を覚ましてくれたならよかった。痛むところはないか?」


 自分の方が被害が大きいのに心配してくれる。イケメンだ。


「うん、つむじがちょっと痛むけど……あっ! つづらはどこ!?」


 つむじの痛みで忘れかけたが、つむじと口にして思い出した。ヒトエにとって、つむじとツヅラってちょっと似てる。それが幸いしたのだ。


「ツヅラ? 誰だそれは……いつつ」


 しかし、ソーカはツヅラを知らないようで、心当たりもないらしい。


「つづらはつづらだよっ。さっきいたの!」

「夢でも見てたのか? ここには私とヒトエとラーくん達しかいないぞ」

『そうだぞ!』


 そんなはずはない。ほら他の人の声も聞こえるじゃん。

 そう思ったヒトエが視線を落とすとそこにはラーくんがいた。


『ここは俺らの巣。他の人間はいないぜ』


 喋っているのはラーくんであった。先程のレベルアップのおかげでソーカのように言葉が理解できるようになっていた。称号も関係しているかもしれないが、それは定かではない。ただ、確かなのは違和感が半端ないということ。そして、


「ラーくんって賢かったんだねー」


 ソーカの翻訳は意訳――すなわち誇張されたものだと思っていたがそうではなさそうだということ。これだけ喋れるなら知能は人間並みではないだろうか。リーダーもそれだけ喋っていたからラモビフト全体が賢いことになる。

 あるいは魔物全体がこれだけ賢いのかもしれないと考えたところで豚鼻を思いだし、その考えを否定した。

 あれにそこまでの知能ないわー。

 断定した否定であった。


『それなんだが、なったが、同族の仲間といるときだけ頭が働くんだよな。普段は飯とか遊びとかしか考えてねぇんだ。我ながら不思議なもんだぜ』

「ほんと不思議ーって違う! いや、違わないけど違う! 今はつづらのことでしょ?」


 ラーくんの衝撃でまたも忘れかけたが、ヒトエは確かにツヅラを目撃した。空間が光に覆われきる間際、あの自称神の後ろから顔を覗かせて名前を呼んでくれたのだ。親友であるからして見間違うはずも聞き違えるはずもない。彼女はツヅラであった。

 しかし、あの空間はここではない。それどころか、この世界ですらないのかもしれない。あんな広大な殺風景が広がる地域があるとは思えなかった。そして地球でもないだろう。思い返せば太陽のような光源はなかったのに明るかったし、水平線も真っ直ぐだった。

 学のないヒトエでも地球が球体であることは知っている。水平線が少しも丸みを帯びてないなどあり得ないのだ。


「あれ? それってつまりツヅラが地球じゃない場所にいたってこと? まさか――」


 一つの可能性に気づいたヒトエは顔を青ざめさせた。自称神はヒトエを知った風であった。万能なる神なら知っていてもおかしくはないが、神であれば矮小な自分に使命など託すだろうか。

 つまり、自称神は神に非ず。そしてヒトエと一度会っていると仮定できる。で、そのタイミングがあるとするなら地球を去り、この世界に来るまでの間。つまり死後から転生までの間だ。

 もしそうであればツヅラは――、


「死んじゃったの?」


 ポロポロ涙が溢れてきた。

 ソーカが新たな白いハンカチで拭いてくれるが、お世辞にも吸水性のよくないそれでは、吸いとれないほどの雫がラーくんの頭に滴り落ちる。


 二人はわけがわからないだろうに無言で側にいてくれたのだった。

 ヒトエはそんな二人に甘えつつ、気づかれないよう可愛いピンクのふりふりしたリボンを垂れウサミミに結んだのであった。

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