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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
二章
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デート

 リグンの中央通り、ヒトエはツケウと並んで歩いていた。今日はデートである。雲一つなく気温もちょうどいい。天気も今日一日楽しんでいらっしゃいと微笑んでくれているようだ。


 デートなのだから二人の格好にも気合いが入っているわけで。ヒトエは花柄のスカートをメインに据えて春らしい装いだ。シュシュと垂れウサミミは外せないが。そしてラーくんはポケットモードより二回り大きくなって肩にスタンバイ。城でもギルドでもないので隠れる必要もないのだ。フンフンフンっ、とご機嫌である。


 そしてツケウはというとフォーマルとカジュアルの中間地点ぐらいの黒いドレス風のワンピースを着ていた。随所にこの世界での流行が取り入られていて、センスの高さが伝わってくる。もちろん、垂れウサミミも装備だ。ヒトエとお揃いである。

 そんなツケウであるがしきりに自分の姿を気にしているようであった。今も、振り返ってお店のガラスに写った背中を見ている。


「ねぇ、ヒトエちゃん、私の格好、変じゃありませんか?」

「うん、大人っぽくて綺麗だよー」


 なんだか前回と立場が反対だなー、と、ヒトエはほのぼのする。


 そんなこんなで広場にやって来た。ここには聖女イージスの像が設置されており、待ち合わせでよく使われている場所だ。この日も沢山の人でごった返しており、像の台座の部分は全く見えない。


「うへー、平日なのにすごいねぇ」

「休日は設定されていますが、私達庶民には関係ないですからね。働く必要があれば働き、休めるときに休む。それが一番ですよ」

「よしっ、私も明日と明後日休もう!」

「ギルド職員に自由はありませんよ」


 ヒトエはしょんぼりとした。何気にギルド職員は激務である。そこんじょそこらの仕事よりもお給料がいいのがせめてもの救いだ。


「で、どこにいるかな? さすがにまだ来てないと思う?」


 今日はデートだが、ヒトエとツケウのデートではない。この広場で待ち合わせをしている。時間は約束の約十分前。ヒトエが周囲を探し始めると、ツケウが背筋をピンと伸ばした。いや、伸ばしてしまったのだろう、とても緊張していた。


「ちょっとー、今からそんなんじゃ体持たないよー?」

「そうなんですけど……」

「あっ!」


 ヒトエが大きな声を出すとツケウは体をビクッと震わせた。そんな彼女の手を引いて、ヒトエは像の人だかりの中を割って進んでいく。その最中、背中に特売シールを貼っていくのも忘れない。


 そして、中央付近に到達すると、とても大きな麦わら帽子っぽいものを深く被った人が立っていた。露出する肌は白くてきめ細かく、女性として羨ましくなる。

 きっとあの人だ。先手必勝!

 気配を絶っていたヒトエが横から麦わらっぽい帽子を強奪すると、その人の顔に眩い太陽光が当たる。


「何事だ!? ぐっ、忌々しい太陽めが。くぅぁっ、目がーーーっ!」


 一瞬、抗おうとはしたその人だったが、すぐに目を押さえ苦悶の声をあげて石畳の地面を転がる。

 ツケウが急いで介抱しようとする一方、ヒトエはその人を跨ぎ、後ろで優雅な黒いワンピース風の洋服を着た女性に声をかけた。


「お待たせー。待たせちゃったかなー?」

「いいえ、今、来たところですよ」


 確実に嘘である。明らかにこの人だかりは彼女を目当てに集まっていたのだ。人数と彼女の人気からして、最低でも十分は経っているとヒトエは分析する。

 おそらくは、一度言ってみたかった、といったところだろう。一度もこういうシチュエーションを体験できる立場にないのだから。


 今日のデート相手、ヒオ王妃は朗らかにヒトエに笑いかけてくれていた。


 太陽にやられ、ツケウの回復魔法を目にかけてもらっているのは引きこもり騎士ことコーリッヒ。王妃の護衛として、生まれてはじめてこんな町中にやって来たのだ。

 王妃に気付いた一般市民に囲まれるという初めての事態に、どうしたらいいか迷っていたところをヒトエに襲撃されて倒された。仮に本物の暗殺者であれば、失態ではすまないだろう。

 そして、もう一人大きな失態を犯した人物がこの場にいた。タメ語のヒトエではない。その後ろで、コーリッヒの治療を終え、顔をあげたその人はあまりのことに言葉を失った。そんな彼女に気付いた王妃は気さくに話しかける。


「あなたがツケウさんね。話は聞いてるわ、って、あら? 似たお洋服ね」


 そう、服被りである。あろうことかツケウは王妃と似た服を着て今日のデートに臨んでしまったのだ。違いがあるとすれば垂れウサミミだが、それがどこまで服の印象に差をつけてくれるだろうか。

 なんとか声を絞り出して謝るツケウに対し、王妃は「仲良しの友達みたいで嬉しいわ」と本当に嬉しそうにしていた。


 そんな二人をよそに、ヒトエは作成したカラースプレーで銀色に染めた麦わらっぽかった帽子をコーリッヒに被せる。未確認飛行物体に連れ去られる直前みたいな姿となった。


 そしてまだ取り囲んでいる一般人達に向かって宣言する。


「それじゃっ、指名消化、【ヒオ王妃様が普通に町へ繰り出していて買い物しているドッキリデート】スタートだよ! 者共、出会えー!」


 突然、広場に兵士が突入してきたのだった。

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