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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
二章
31/76

騎士

「コーリッヒよ」

「我等が不手際で危険に晒してしまい、まことに申し訳ございません。ですが、もう大丈夫です。お任せください」


 嗜めようとする王様の言葉を騎士は遮った。出来る男オーラを出す騎士であるが、王様の気持ちを全くしていなかった。

 なので王様はもう一度声をかけようとしたが、嬉しそうな王妃が抱きつき、またも遮られた。さらに運悪く喉を絞められタップするも、王妃は未だに余韻に浸っているので全ての状況に気づいてないらしい。聡明との前評判はどこへ行ったのだろうか。

 ヒトエは自力で何とかするしかなさそうであった。


「えっと、どうして私はこうなってるのか聞いてもいいかな」


 いまだにヒトエの首筋には剣が突きつけられているので一歩も動けない。動けばまず間違いなく首が飛ぶだろう。肌で感じる彼の実力はそれだけのものであり、今逃げようとしても結果は同じであるとヒトエの心臓が大きな警鐘を鳴り告げている。


「聞くまでもないだろう」


 甲冑とも呼べるであろう、黒い全身金属鎧の中でこもる、男の声から敵意がひしひしと伝わってきた。


「その粗末で大きな木の斧、どうやって持ち込んだ。門番のやつらがサボった訳でもあるまい。武器を持って我らが王の前に立っている。処刑をするには十分すぎる理由だ」


 斧ではないプラカードである。どうやらこの世界の人には馴染みがないようだ。


「コーリッヒさん、これはプラカードと言って、単純な情報を遠くの人に伝える道具ですよ」


 ソーカが騎士が教えてあげた。訂正しよう、この騎士が知らないだけであった。

 一瞬の沈黙のあと、騎士は「そんなことは知っている」と述べた。落ち着き払った態度であるが、その裏には動揺がありありと感じ取れる。

 かなり解りやすい人だね。

 ヒトエは突破口が見えた気がした。


「だが、いかにプラカードであろうと持ち込みは許可されてないはずだ」

「ごめんなさい」

「それに、そこに書かれている文章はなんだ」


 プラカードに書かれている『チューが見たい』という指令がおきに召さなかったようだ。ヒトエが言い繕おうか考えていると、上から冷たい声が響いた。


「コーリッヒ君、私が愛する旦那様と接吻することはいけないことなのかな?」


 それはラブラブモードであったはずの王妃であった。王様に夢中で話など聞いていなかったはずなのに、そこだけはしっかり拾い聞いたようである。ゴゴゴ、という効果音が適切であろう氷のような笑顔であった。怖かった。抱きつく腕により力こもっているのか、単純に力尽きたのか、王様はぐったりしている。


 騎士は慌てた様子で「素敵でありました!」と空いている手で敬礼すると、王妃は「ですよね」と満足そうに王様を抱き直した。王様に血の気が戻る。絞め技が外れて、命の危機を脱したようである。


 気を取り直したように咳払いした騎士はヒトエに別の問いを投げかけた。もうプラカードに触れないらしい。


「さっき持っていた怪しげな道具はなんだ」


 見られてたのかと、ヒトエは心の中で舌打ちした。素早く出し入れしたつもりだったが、ダメであったようだ。ここでしらばっくれるのはよくないだろう。素直に打ち明けることにした。


「スマホだよ」

「なんの道具だ」

「写真を撮る道具」


 全部の機能を教えていたらキリがないので、使っていた機能だけを教えた。


「シャシン? とはなんだ」

「カメラで見た映像を残せる機械」

「カメラとは?」


 めんどくさい。好きな人ならまだしも、こんな怪しいやつに教えるのは苦痛でしかなかった。


「実演した方が早いよ」

「何をする気だ!」


 プラカードを捨てたヒトエは、スマホを作成するとレンズを騎士に向けた。ヒトエの暴挙に狼狽えるが、すぐさま斬り捨てようとはしなかった。鋭き注意をスマホに向け、何が起きても対処してみせよう、という気概が感じられた。

 そんな二人をハラハラした様子で見守るソーカとオンテ。そしてイチャイチャすらカップル。


 ヒトエはカメラアプリを素早く起動し、写される騎士の兜を押して、フォーカスを合わせる。そしてカシャリとシャッターを切った。


 音に驚いたのか咄嗟に下がる騎士であったが遅すぎた。ヒトエはにこりと営業スマイルを見せると、スマホを裏返して騎士に見せつけた。


「なっ!? まさか魂を奪う魔法具であったか!」

「違うよ、魂なかったらあなた死んでるんじゃないの?」

「なるほど、つまり全ての魂は奪えなかったということか」

「いやいや、話聞こうよ」

「貴様の術は破られた。大人しく斬られるがいい」


 あれー? なんか処刑される流れになってる。

 ヒトエは、おっかしいなー、と首をかしげる。そしてダラダラ汗が吹き出た。騎士は本気でヒトエを斬ろうとしている。


「コーリッヒさん! ヒトエは悪い人じゃ――」

「やめろ、ソーカ、ああなったコーリッヒは止まらない。あんたも斬られるぞ」


 助けに入ろうとしてくれたソーカを、オンテが羽交い締めにした。


「ソーカさんもオンテさんも、ありがとう」


 ヒトエを助けようとしてくれたソーカ。そんなソーカを助けてくれたオンテ。そんな二人には感謝の言葉が相応しい。そしてこれ以上こじれる前にケリをつけよう。


「ヒトエ?」


 覚悟を決めたヒトエの名をソーカが弱々しく呼んだ。ヒトエは、だいじょーぶ、と笑いかけてから、騎士を睨み付ける。


「わかったよ、騎士さん。今から君に敗北を味を味わってもらう」

「面白いことを言う。貴様の実力はもう見切っているぞ」

「それはどうかな?」


 ヒトエの挑発的な笑みに、黒き騎士も「面白い」ともう一度言って剣を正面に構えた。


「もしも、私が買ったら。王様たちに悪戯させてもらうからね」

「いいだろう」


 高いところから「なにそんな重要なこと勝手に決めてるんだ!?」とか聞こえたが騎士の耳には届かない。ヒトエはガン無視。


「騎士に二言は?」

「ない」

「それじゃ」

「尋常に」


「逃げる!」

「勝――え?」


 騎士が間抜けな声を漏らしたその時にはヒトエは半円のテラス状の部屋から姿を消していた。

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