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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
一章
21/76

集団と可愛い系

 縛られた男達を解放したヒトエは説明を求められたので、まず林に入ってからの出来事をかいつまんで話した。タマスたちは黙って聞いてくれている。

 それからラモビフトとの追いかけっこを。テイムしたくだりでは、大いに驚いてくれた。たしかにあれはヒトエにも予想外の結末であった。そのおかげで、もう垂れウサミミは外せないだろう。けれどいいのだ。ラーくんが仲間になったのだから。


「と、そんな感じで私がラモビフトの変種ラーくんをテイムして、林の入り口へと戻ったわけだけど」






『ソーカさん、間に合ったかなー』


 私は心配だった。これまでの振る舞いとかからソーカさんが経験豊富だってことはわかったけど、一度操られちゃってもいる。すごく心配で、ラモビフト変種、ラーくんの背中を撫でる手もちょっとぎこちなくなった。でも、触り心地は最高で止められない。高みへ至れるもふもふだと私は確信していた。


 それはそうと、本当は探そうか迷ったの。でも、私には二人の居場所はわからない。知るすべも持ってない。だからツケウさんが指示したここで体を休めながらもふもふするしかなかった。


 それから、どのくらいたったのかな、ラーくんが私の撫でテクに陥落した頃、二人は戻ってきた。

 後ろには雰囲気が縄でぐるぐる巻きにされてついてきている。


『捕獲成功したよ』


 ソーカさんはやってやったって満面の笑みだった。もう、思わずぱちりしちゃってね、それがこの写真なのです。


 でも、この時、私は気づくべきだった。

 ソーカさんがこんな状況でそんな笑顔を見せてくれるはずがなくて、ツケウさんも無言でニコニコしているだけなのはおかしいって。気付いたら後ろに回ったツケウさんに羽交い締めにされて、雰囲気が前に出てきた。縄も外されてた。というか、最初っから縛ってなかったんだろうね。

 そして、形だけはいいけど取り付けの悪い彼の目が碧から紫に、そしてどす黒い赤へ変わっていった。

 するとね、頭の中で響くんだ。雰囲気イケメンじゃない、彼は本物だって。でも、私は必死に抵抗した。薄目で見てもイケメンじゃない、って。そしたら彼の目は赤みはどんどん増していって私の意識は塗り替えられていった。





「それから先は皆が体験した通り、ギルド襲撃をしたのさっ、おしまい」


 ヒトエは終わったー、とギルドから出ていこうとしたがタマスが待ったをかけた。


「いやいやいや、肝心なトコが抜けてんぜ。あいつの能力と対処法がわかったて口ぶりだったじゃねぇか」

「うん、今からそれを実践しにいくんだよ?」

「一人でか?」

「その方が都合がいいから」


 ヒトエの表情は真面目そのものだった。タマスは頭をかきむしった。

 あれでは毛根が痛んでしまうとヒトエはちょっと思ったが、どっちにしろ――


「わかった」

「え? なにが?」

「解決する道筋は見えていて俺達の力は必要ないんだろう?」


 あぁ、そのことかと思ったヒトエは頷いてこう言った。


「頭皮は大切にね」


 タマスはこれを暗喩だと思ったのだろう、なにか考え出したが、ヒトエは気にせず町へ出た。




 夕焼けが美しい時間帯。まだ騒ぎは大きくなってないようでいつものように静かである。そろそろ多くの冒険者が戻ってくる頃合い。それを示すかのように、一人の男が駆け寄ってきた。


「あっ、聖女様! 助けてください!」

「どうしたの!?」


 訳を訊ねたものの、なんとなく内容が予測できてしまう。そして案の定であった。


「家内と娘が、微妙な男にホイホイついていってしまって! しかも取り戻そうとしたら、他の取り巻きの女性に攻撃されたんだ!」

「その取り巻きの女性って何人ぐらいいた?」

「10人ぐらいだ。みんな美人だった。いや、一人だけかっこいいのもいたな」


 イケメンはソーカであろう。にしても、雰囲気のやつは好き勝手やっているようであった。ヒトエは彼に「調べてくるね」と言い残して、ラーくんの気配がする方角へ走り出す。ヒトエは、テイムしたおかげだろう、ラーくんの位置をなんとなくだがわかるのだ。


 なぜ、ラーくんを追うのか。それは草原でラーくんをもふもふしている際、お願いしておいたのだ。私が変になったらソーカをこっそり尾行して、と。ラーくんは体を大きくするばかりでなく小さくする能力を持っており、鼻も利くことから追跡能力は高いのだ。記憶力もいいらしく、一度襲――会っただけソーカの匂いをばっちり覚えてくれていたようだ。




 程なくして親指サイズのラーくんを物陰で発見した。ラーくんも、ヒトエに気づくと嬉しそうに近寄ってくる。それを受け止め、ヒトエはその集団を影から窺った。


 先程聞いた話よりも人数が増え、三十人ほどの集団となっていた。その殆どが虚ろな目をしているが、数人だけニコニコと不自然に笑っている。おそらく、彼女たちはより強く能力にかかっているのだ。

 そのメンバーにツケウやソーカが含まれていることがヒトエの心を痛めた。


「絶対助けるからね」


 そう誓ったその時、ラーくんの鼻息がフンフンと荒くなった。これは警戒してるって意味なのだそうだ。意思疏通がちょっとできるようになり、教えてもらった鳴き声のひとつであった。

 どこから?

 後ろから。

 実際にこんな会話があったわけではないが、お互いの目でそう通じあう。そして振り返ると確かに女性が歩いていた。結い上げた赤い髪に豊満な肉体、そして赤茶の軽そうな鎧。ヒトエには見覚えがあった。町に戻ってきてから一番最初にヒトエが捕らえた冒険者だ。

 一人で歩いていたので、好都合と雰囲気に命令され、不意をついて行動不能にし、目の餌食にしたのだ。それからソーカも合わせた三人でギルドへ派遣され、女性職員や冒険者を連れ去ったのだった。ヒトエだけは実力者を倒すために残らされたが。

 それからも彼女は女性を連れ去っていたようで、今も気絶した二人の女性を抱えている。

 ふと目と目があってしまった。彼女は正直なところヒトエよりも強い。おそらくはタマスと同レベルだ。不意をついたり、罠にかけたり、そういう小細工なしには勝てないだろう。


 どうするか、一瞬の思案。能力にかかっている者はお互いにそれを感じあえる。相手はヒトエからそれが感じ取れないだろうから操られてないと判断して捕まえにく――素通りした。全くの無視である。そのまま集団に加わったようだった。


 なぜだろうかと考えるヒトエは、ふと、先程の男の言葉が思い出した。


『みんな美人だった』


「あー、そういうこと?」


 たしかに彼女が抱えていた二人は美人であった。ヒトエの心に更なる火が灯る。私は可愛い系だもんねとの言い訳も忘れない。


「覚悟しろ」


 どすの聞いた声にラーくんはビクッとするのだった。

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