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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
プロローグ
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プロローグ

 スタイリッシュなピンクのジャージを着た少女がそこにいた。艶やかな黒い髪はもふもふのしゅしゅで束ねてある。これが家でくつろぐ時のひとえ――ヒトエのスタイルである。命を落としてしまった格好そのままなのだ。


「よし、これで書き込めたのかな?」


 そんなヒトエは、胡散臭いなぁ、と訝しがりながらも立方体に語りかけていた。それこそがヒトエに能力を与えた神様と自称する存在である。


 真っ白な地面、真っ直ぐ三百六十度の水平線、雲や星一つない真っ青でどこまでも広がる青い空。そこにポツンと浮かび、テレパシーを飛ばす、一辺が二メートル程度の立方体は確かに異質である。なのでヒトエは神だと一応は信じることにした。信じないとここに閉じ込めるという、空間と反比例したかのような心の狭さも一因であるが。


 その神様はというと、ふよふよと回転しながらヒトエの足元に映像を投影し、頭の中へ『この通りだ』とテレパシーで語りかけてきた。

 オカマみたいな声色だなぁ、とか思いつつヒトエはしゃがみこんだ。

 写されたのはどこぞのサイトのようである。そして、それは見覚えのある文章、先程スマホに現れたアプリで投稿したそれだった。


「ふふーん、本当に出来てるんだー」


 にまにまといった擬音が適当である笑顔を浮かべたヒトエはスマホを弄って新たなる文章を打ち込んだ。今度は友人に送るメールである。

 内容は『おばけだぞー』と、短文ながらびびりな彼女には効果抜群であるはず。

 神様曰く、元の体はあの世界に残っているらしい。物質である体は次元の壁を越えられないのだとか。

 今のヒトエは魂だけ。なのでこのメールは故人から送られる心霊メールとなるのである。受け取った彼女の顔が見られないのは心底残念であった。


「いや、見れるのかな?」


 ここは要検証であろう。なにせ、まだ能力を得たばかりで使いこなせてないのだ。まだ未知な部分が多い。ちなみに、このスマホも彼女の能力によって前世の物を復元したものである。念じれば消せるので便利だ。

 これの機能もどこまで使えるか後でゆっくり調べるとして、ひとまずメールを送信した。悪戯遂行。

 受け取った彼女の怖がってふゅわわんとする顔が目に浮かび、ヒトエのにまにまは再加速した。ヨダレが出なかっただけ誉めて欲しかった。


『わ、私も大好きだよっ』

「あれ?」


 今のは着ボイスである。ヒトエから「大好きだよ」と囁いたら、顔を真っ赤にして返してくれたあの台詞をしっかり録音しておいて着ボイスにしたのだ。

 で、ヒトエが首をかしげたのは着信音のせいではなく、その中身、メールが戻ってきたのである。


 普段は通話アプリを使ってて、メールあんま使わないから失敗したのかなー。メールの方が怖そうだけど仕方ない。通話アプリにしよ。


 ヒトエは今度は通話アプリのトーク機能を使って文章を送った。既読マークがつくのが楽しみで三度にまにまする。


『今の君の力ではメールは送れないだろう』

「え?」


 神による突然の宣告にヒトエは凍りついた。


 ――


 神の説明を要約するとこうだ。

 小説投稿サイトに次元を越えて投稿する悪戯、これにヒトエのチート能力の大半が使われていてメールを送る悪戯に必要な力が不足している。

 で、小説投稿悪戯は終末まで書ききるまで解除不可能で、終末とは使命を達成すること。エタっても永久に付きまとう運命である。


 これを聞いたヒトエはがっくりと肩を落とした。なにせ、彼女は神の提示した使命などやる気がなかったのだ。なあなあにうやむやして煙に巻くつもりだった。それが、使命を達成しないと得たチート能力が最大限に活用できないとわかったことでヒトエのテンションはがたがた落ちていったのである。

 ごろんと横になって肘をつく。


「で、使命ってなにやんだっけ?」


 一度説明してもらったはずなのに全く頭に入っていなかった。

 神は一瞬の間の後、呆れた声でテレパシーを飛ばす。


『世界の救済だ。方法は問わないので自由にやってくれ。それを成すが為に生前の記憶を残し、望む能力を一つ授けたのだ。しっかりと励んで欲しい』

「ふぁーい」


 ヒトエはだらしなく手をあげた。

 それから私の方を見る。


「ところであんたは何なの? 神様? 最初いなかったよね」


 ようやく私の出番である。

 私の姿はあの神の縮小版、一辺の長さは十センチ程度の立方体で、色はガラスのように透明だ。もちろん宙に浮いている。彼女の頭の高さ合わせるよう調節するのも忘れない。そしてその正体は――


『私はあなた様の【悪戯するのに困らない能力】の一部です。あなた様の一部でもあります。仕事は主に、あなた様の周囲の世界を観測し、文章を打って小説として投稿することです。』

「え、じゃあ、さっきの私が打ち込んだ文章は?」

『私が責任を持ってそのまま投稿しました』

「なるほどね」


 ヒトエはゆったりと立ち上がった。俯いているので表情は見えないけれど、私は彼女の一部であるがゆえに心の声が聞こえる。その声はこう言っていた。


「あんたが私の能力を奪ってるのかッ!」


 ヒトエは鬼の形相で私に殴りかかった。小説投稿悪戯を考えて実行――つまり私を生み出したのは彼女であるのに理不尽である。しかし私はなにも心配していなかった。感情がないと言うのもあるが、なにより彼女の振う拳は私に届かないのだから。


『ヒトエ様、私はあなた様のチート能力によってあなた様の前世の世界に作り出された存在です。あなた様の一部であるがゆえにあなた様を観測出来ますが、あなた様が今いる世界には存在していないのです』

「わけわかんない」


 ヒトエはスカした勢いで二回転。顔から真っ白な地面にダイブした。魂だけなので怪我はしていないが、ぶすっと頬を膨らませた。


『ではこれだけを理解してください。あなた様の変わりに小説投稿悪戯を実行する存在だと』

「ふーん、じゃあエタる心配はないんだね」


 まだ不機嫌なヒトエの声はひどく冷たいものであった。そんな彼女に向かって私は否定の言葉を返す。


『いいえ、あなた様の前世の世界では干渉できますので私に不具合が生じる可能性があります』

「ん? どゆこと?」

『機械と同じで壊れたら修理が必要です』

「あれ? でもメールも送れないんじゃあ修理できなくない?」

『そうなります』

「壊れたら終わりじゃないポンコツ」

『ですね。なので協力者を得ることにしましょう』


 私はその人が読むことを願って文章を綴ることにした。ヒトエの記憶をこっそり覗いて必要事項をチェックする。これでよしと、ものの五分で完成したので私は発表することにした。


『ツヅラ様、ヒトエ様の分身である私は二人だけの秘密の場所に潜り込みました。約束の時はまだ先ですが、私を通せばヒトエ様と連絡がとれるようになるので発掘してくだされば幸いです』


 こう書けば伝わると私は確信した。

 その意図はヒトエにもきちんと伝わったようで――


「大好き!」


 満開の笑顔で私に抱きつこうとして再び転んだのだった。




 そして静観していた神が動く。


『準備は終えたようだな。それでは送還を開始する。どうか、使命を果たしてくれ』

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