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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
一章
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聖人聖女

「君に聞きたいことがあったんだよ」

「私に聞きたいこと?」

「あぁ、聖女である君にね」


 ソーカはヒトエの進路を塞ぐように仁王立ちする。これは話をしないとツケウを追わせてくれそうにない。

 だからヒトエもきちんと向き合うことにした。それに知りたかったのだ。彼女がどうして聖女を訪ねてきたのか。


「やっぱり気付いていたんだ」

「あぁ、本物の聖女だと気付いたのはついさっきだけどね」


 ニュアンスに含みがある。まるで本物と偽物に区別があるようだ。


「聖女って凄い女性をたまたまそう呼んでいるだけじゃないの?」


 ソーカは静かに首を横に振った。


「知ってるかい? 聖人聖女はこの世界に何人も出現している。最も有名なのは四聖だね。絶対障壁の聖女イージス、境界崩壊の聖人ラインレス、無限跳躍の聖人ジャンパ、不可思議の聖女シラズ」


 物々しい二つ名のついた名前を並べてくれたが全く覚えられる気がしなかった。そらで覚えられるほどヒトエの記憶力は優れていない。暗記はテスト前日にノートへ書きなぐればいいのだ。


「彼らの共通点はなんだと思う?」


 突然のクエスチョン。答えは明解である。


「覚えにくい」


 ヒトエの堂々とした答えにソーカは困惑ぎみだ。どう返したらいいのか迷っているらしく、頭を指でとんとん叩いている。イケメンなので絵になる。


 少しして指を止めた。


「不正解だ。答えは地球からやってきた異世界人さ」


 スルーに決めたようだ。ヒトエがただの間違いを口にしたように振る舞った。


「って、地球の人ってそんなにいるの!?」


 驚愕の事実である。


「あぁ、いるよ。そして私はそう言う人たちを研究しているんだ」

「じゃあ、その四人はどこにいるの? 研究してなら知ってるんでしょう」


 地球人と聞いて俄然興味がわいてきた。出来るなら会ってみたかった。今は思いつかないが色々話したいことも出てくるだろう。思いつかなければ悪戯すればいいのである。


「彼らは……過去の偉人だ」


 けれどソーカは教えてくれなかった。何か言い淀んだフシからして、誰か一人は生存している、そんな予感がひしひしとする。けれど、教えてくれる気は無さそうだった。彼女の瞳にそう書いてある。多分。


「それで仮に私が地球人だとして、ソーカさんは何を研究したいの? スリーサイズは秘密だよ。ちなみにソーカさんは上から――」

「なんで私のスリーサイズ知ってるんだ!? ……じゃなくて、私は今回の死霊事件の犯人は聖人聖女だと疑っているんだ」


 スリーサイズを暴露されないため、ソーカは慌てて本題に入った。ちなみにヒトエはチート能力を使わずしても把握できるのだ。手で。


 それは置いておくとして、ソーカの発言はヒトエにとって無視できないものだった。これは暗に「君が犯人と疑っている」と言っているようなものだ。


 襲われたヒトエが実は犯人だった。推理小説ならアリな展開だが、ヒトエが犯人となると別である。


「証拠はあるの?」


 このセリフ、犯人ぽいと言って思ったけれど気にしないことにした。


「君が地球人という証拠ならね。ヒトエはクロノス国って知ってるかい?」

「うーん、聞いたことがあるような?」


 記憶の隅をつつかれる感触があるがなかなか思い出せない。


「黒い髪の人間は大体この国出身なんだよ」

「あっ」


 ヒトエはしまったと口を押さえた。ダブルしまったである。クロノス国を出身に設定しておいたのを忘れていたこと、そして迂闊にもそれを顔に出してしまった。


「えっと、田舎出身だから? 国の名前もうろ覚えとか?」

「クロノス国はかなりの小国で、しかも国全体が栄えているから田舎なんて存在しないよ」

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」


 そんな国形態があるとは反則だ。これではヒトエは怪しい言い訳を繰り返して罪から逃れようとする犯人のようである。


「まだあるよ。というか、今のはただのカマかけだったんだけど」


 ヒトエはがくりと膝をついた。


「ヒトエが地球出身だと確信したのはさっきと言ったよね。それは動物の名前なんだよ。私は不可思議の聖女シラズが残した手記に書かれているから知っているが、ウサギ、イヌ、ネコはこの世界にいないんだ」

「知ってる……」

「そして聖人聖女は数多な能力を携えているが、共通した二つの魔法を持っている」

「はぁ……」

「翻訳魔法と魔石化魔法さ。この二つの魔法は今でこそ私たちにも伝わったけど、本来は聖人聖女専用の魔法だったんだよ。聞いてる?」

「聞いてる聞いてる」


 聞いてない。だんだんヒートアップしていったソーカがぽろぽろ重要な情報をもたらしてくれているが、ヒトエ心ここに非ずだ。しかし、聞いてると言ったことで満足したようで、ソーカは意気揚々と話を再開する。


「でな、ヒトエとツケウさんの会話を聞いて確信したんだよ。ヒトエが翻訳魔法を使ってるって。私もシラスの福音書で地球の生物を学んでなければ気づけなかった。なにせ、地球人は魔力がないのに魔法を使うからね。チート能力ってやつだ」


 ここで言葉を切ったソーカは、あれだけ楽しそうにしていたのに、表情を強張らせた。


「今回、確かに私は操られた。しかし魔力は検出されなかった。つまり、魔力なしに魔法を行使する聖人聖女が犯人だと考えたんだ」

「でも、私は死霊にする魔法は使えないよ。私のチート能力は【悪戯するのに困らない能力】だもん」


 せめてもの抵抗だ。しかし、ソーカが「それをどう証明する」と返してきて言葉を失った。

 悪戯を証明するって意味不明すぎる。

 ヒトエは自分の能力を呪おうとしてやめた。悪戯に罪はない。よくよく考えればある気がするけどないのだ。

 ヒトエは大の字に寝転んだ。煮るなり焼くなり好きにしてくれという意思表示だ。もう怪しすぎる自分が犯人でいいよ、と。

 ただ、心残りもいくつかある。ツケウのことであったり、まだ見ぬラモビフトであったり、まだ知らぬもふもふの――


「最後にニャルガーフシャットビョウニャニャーキャッターのことだけ教えてくれないかな。ギルドの資料にも載ってなかったんだよね」

「あぁ、ツケウさんもよく知ってたよな」

「え? メジャーなもふもふじゃないの?」

「まさか、存在さえ疑われるかなりマイナーな魔物さ。悪魔の使いとも言われている空想上の魔物だね」

「あれ? でも前にどこかで子猫って単語聞いたことあるような……」


 ツケウには猫がニャルガーフシャットビョウニャニャーキャッターと聞こえているのだから、猫に似た一番メジャーな生物がニャルガーフシャットビョウニャニャーキャッターだろうに、ソーカは違うと言う。

 ヒトエは必死に記憶を手繰った。なぜだか思い出さないといけない気がしたのだ。しかし、思い出せない。よっぽど興味のわかない人間の発言だったんだろう。

 汚れるのも構わず、ごろんと寝返りをうつと、死霊と化してしまった二人の亡骸が目に入った。改めて見ると見覚えがあるような気がしてくる。気がするがやはり思い出せない。


「そうだ……魔石化してあげないと。いいよね」

「あぁ、それだけなら」


 了承を得たヒトエは這って近づいた。もう歩く気力がわかないのだ。

 手をかざしてイメージすると簡単に魔石化が完了した。紫の透明な石だった。小石と言うにはすこし大きいそれを、ギルドに持っていけば、あのゴブリンように――。


「あ!」


 思い出した瞬間、ヒトエの頭の中でもやもやと渦巻いていたピースがはまった。


 この二人はあの時に見た二人だ。そして子猫と口にした人物もそこにいた。


「ねぇ、ソーカさん、初対面の女の子を小ニャルガーフシャットビョウニャニャーキャッターと読んで口説けると思う?」

「あり得ないだろう」

「そう」


 魔石をポケットにしまったヒトエはスッと立ち上がった。


「行こう。ツケウさんが危ない」

「急にどうしたんだ?」

「私を子猫ちゃんと呼んだあのときの男、変顔以外はすっかり忘れてた」


 だが、今思い出した。さっきここから逃げたあの残念な顔はあの男だ。


「ん、話が見えてこないんだが……」

「この死霊になった二人はさっき逃げた男の仲間なんだよね。でもって、前によく知りもしない私のことを子猫って呼んだ。あのね、地球の猫は可愛いんだよ」

「それってまさか……」


「うん、あいつも地球人かもしれない! 真犯人を捕まえに行こう!」

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