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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
一章
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林にて

「さて、ここからがラモビフトの生息地です。研修で受ける依頼の内容は覚えていますか」

「はい! ラモビフトが増えてきているので数を減らすことです!」

「よろしい」


 先輩モードのツケウがメガネをかけ、指し棒をパシパシやっているような気がしたがそんなことはなかった。

 三人がいるのは草原の端、林との境目である。なにか名前がついているははずだがヒトエはまだ覚えていない。

 まばらに生えた木々が生み出した環境は、草原とはまた違った魔物を匿っているだろう。草原ではぶたこびっとしか遭遇してないが。もちろん他の魔物もいたがヒトエには縁がなかった。ただ、それだけなのである。


「じゃあ、行こっか。私が後ろを――」

「ヒトエちゃんが前ですよ。私とソーカちゃんは後ろで並んで歩きます。警戒はしっかりしてくださいね。私もフォローしますから」

「はぁい」


 無駄な足掻きを止め、ヒトエは先頭で林に足を踏み入れた。

 開けたところから来たのだから当然であるが、ちょっと薄暗く感じた。


 ドキドキと鼓動が胸を打つ。これが恐怖なのか、あるいは期待なのかわからないが、それが聞こえてしまうぐらい林の中は静かであった。


「ラモビフト君、いますかー?」


 しばらく歩いたところで声をかけてみたが返事はなかった。


「留守のようですね。もふもふはまた今度にしましょうか」


 もちろんチョップである。数日ぶりだった。


「真面目にやってください」

「うぅ、なんか視線を感じるんだもん。林に入ってからずっと見られてるような……」


 嘘ではない。ずっと背後から感じるのだ。ソーカの監視するかのごとき強き視線を。

 ヒトエは再びチョップをくらった。気取られてしまったようだ。


「全くもう、って誰かいますね」


 ツケウの言葉にどきりとしたヒトエは謎の構えをした。武術の心得など全く無いので隙だらけだ。威嚇にもなりはしない。


「ラモビフトがきたの?」

「いえ、今のは人間でした」


 ヒトエもじっと目を凝らすも、ツケウの視線の先には木と草ぐらいしか発見できなかった。


「まぁ冒険者と遭遇するなんて珍しいことじゃないけどね。なにか依頼を受けてるんじゃないかな」

「そうですね」


 ソーカの言葉にツケウは同意した。


「じゃあ、話しかけにいく?」

「いや、こういう場合はお互いに干渉しないのが暗黙の了解だよ。危険を知らせる場合は別だけど」

「なるほどー、ためになる。ソーカさんも詳しいんだね」

「まぁね」


 ソーカも冒険者なんだろうか、と思ったがここで聞くような話でもないし、先へ進むことにした。




「うーん、出ない」


 最初はおっかなびっくりだったヒトエも普通に歩けるようになっていた。ここまでで遭遇したのはぶたこびっと一体だけである。今度は一人ではなく、三人がかりで戦ったのであっという間に終わった。ヒトエが転ばせて、二人がざしゅりである。


「本当に大量繁殖してるのかな」

「おかしいですね。きちんと依頼があったものを選んだのですが」


 ヒトエだけでなくツケウもおかしいと思っているようだった。


「誰かが先に倒しちゃってるとか?」

「あり得なくはありませんが、受注せずに依頼をこなすと違約金が発生して報酬が減りますからね。ラモビフトは初心者向けの魔物ですし旨みは少ないはずですが」


 うーん、と二人は同じ角度に首をかしげた。

 それを見てクスリと笑ったソーカは誤魔化し咳払いをして「依頼がフェイクの可能性は?」と訊ねる。


「依頼主の女性はよく依頼してくださるのですが、そういったことは一度も……」

「そうか、嫌な予感がするな」


 ソーカは渋い顔をした。女の勘だろうか、イケメンの勘だろうか、ヒトエが悩んでいると茂みががさりと揺れた。


 即座に臨戦態勢をとった三人だったが、すぐにため息をついた。出てきたのは女性であったのだ。髪の毛にに葉っぱをたくさんつけ、虚ろな目で口をだらしなく開け――


「二人とも下がれ!」


 ソーカに言われるまでもなく、ヒトエもツケウもその正体を見抜いていた。彼女が操られているか、死霊と化していると。


 さらに木の脇からもう一人の女性が現れた。同じく、操られているか死霊である。


「彼女達は確か……」

「知ってるの?」

「ナクブさんとオーモさん。ほら、フィンキーさんと組んでらっしゃった」


 ヒトエにはさっぱり誰だかわからなかったが、口ぶりからして冒険者のようだ。


「ヒトエちゃん、この前の膝へのあれ、やれますか」


 膝カックンのことだろう。


「敵が二人だけって確定してるならできるけど、もう一人仲間がいるんでしょう?」

「そうですか」


 膝カックンはやった瞬間に隙ができる。相手全体の動きを把握してないと膝カックン返しをされるかもしれない。この状況では迂闊にやれる攻撃ではなかった。


「まずは操られているか、実体があるかを確かめよう」


 そう言うなり、ソーカが黒いローブの下から折れた細身の剣を抜いた。

 まさかそれで突き刺すのかと思ったがそうではなかった。

 やべ折れてた、という顔をしてすぐ、投げつけたのだ。折れてなかったら刺していだろう。ソーカ恐ろしい子である。というか、投げるのも危ない。

 その投げられた剣は見事、出てきたばかりの女性の顔面にヒットして横転させた。容赦はない。しかし、すぐに起き上がってきた。

 鼻から赤黒い血が垂れている。


「死霊です」


 断言したツケウは辛そうであった。

 それでも彼女は戦う。得意の風の魔法を編み上げながら指示を飛ばす。


「ヒトエちゃんは周囲の警戒を。これ以上の相手増えるようなら撤退しましょう」


 そして魔法を発射した。狙うはソーカが気を引いている鼻血の死霊。見え難き風の刃は真っ直ぐに死霊の首を切り裂いた。一撃で葬るは、苦しまないようにとのせめてもの慰めだった。


 その時、またも人影。

 金髪を靡かせた、その男は一つ一つのパーツはそれなりなのに微妙なテイストに仕上がっていた。そう、言うなれば雰囲気イケメン。

 枝で切ったのか頬から赤い血を垂らすその男は目を驚愕に見開いていた。そしてか細く、首の落ちた女性を見て「ナクブ」と確かに言ったのだ。

 明らかに生きている人のそれであった。リッチでもないだろう。


 ヒトエは叫んだ。


「生存者発見です!」


 すると男は短く悲鳴を漏らし、きびすを返して逃げ出してしまった。その間にツケウ達は二体目の死霊を討伐していた。


「ヒトエちゃん、生存者は?」

「あっちの方へ走ってった」


 指差した先にもう男はいなかった。


「錯乱したか。このままじゃ危ないかもしれないな。追うか?」


 ソーカの提案に少し思案したツケウは結論を出す。


「私が追います。ヒトエちゃんとソーカちゃんは彼女達を魔石化後、草原の方へ退避してください。そこで落ち合いましょう。ですが、もし死霊が現れた場合、すぐに町へ知らせに行ってください」


 そして指示を出すと有無も言わせず走り出してしまった。


「一人じゃ危ないよ、ソーカさん私たちも行こう?」


 しかし、ソーカはヒトエの服を掴んで引き留めた。


「二人きりになったのはちょうどいい。聞きたいことがあったんだよ」


 その瞳は不思議な光を湛えていた。

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