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祝福と悪戯は紙一重  作者: ヒトエのミニ神
一章
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報告

「そりゃ、違うだろうな」


 ギルドのマスタールームで報告を受けたタマスは、チョデの推測を一蹴した。


「どうしてですか! 完璧な論理じゃないですか!」

「どこがだ。あのな、チョデよ、お前は思考操作魔法の性質を全く考慮していない」


 これに納得できないのか声をあらげるチョデに、タマスは子供をあやすような優しい口調で操作魔法の特徴を述べ始める。


「思考操作魔法は雷系統の最上位の魔法の一つだ。熟練した雷に特化している魔法使いでも詠唱に十五分はかかるだろう。また、相手の思考にシンクロしないといけねぇとかで詠唱中は頭に触れてねぇと効果を及ぼせないんだとよ。さらにはだ、新たな指令を出すには詠唱し直して命令を上書きする必要がある。強力ながら使い勝手の悪い魔法なんだよ、操作魔法ってのは。連れ出すなら殴って気絶させて袋に積めた方がまだ楽だろう」

「ふぇー、タマスさん博識なんだね」

「これでもギルドマスターだからな」


 ヒトエが感心すると、タマスは親指を立ててニカッと顔を決めた。ヒトエがぶたこびっとであれば惚れていただろう。人間なので、今日もぶたこびっとに似てるなあ、としか思わなかったが。


 で、チョデはと言うと、説明を受けてなお憮然としていた。操作魔法の線を捨てるつもりはないようである。なかなか頑固だ。

 これはモテないね、とヒトエは確信を深めた。

 そこへ三回扉をノックする音が。ヒトエは誰がきたかすぐにわかった。別室で魔法のチェックをしていたツケウだ。すぐに扉を開けると、やはりツケウが立っていた。


「タマスさん終わりました。あとヒトエちゃん、勝手に開けてはダメですよ」

「ごめんなさい。早く会いたくって」


 ヒトエが彼女気取りっぽいセリフを吐いて、しなだれかかると頭を撫でてくれた。優しい。本当に惚れてしまいそうだ。


「遊んでないで入ってくれ」

「失礼しました」


 タマスの許可を得て入室したツケウの後ろにはあの青年、ではなく女性が続いた。性別を知った今でもヒトエにはイケメン男性にしか見えなかった。名前はソーカと言うらしい。ソーカはヒトエ達と目が合うとペコリとお辞儀した。やはりイケメンだ。


「んで、どうだった?」

「魔法の痕跡は見つかりませんでした」

「そうか、ご苦労だった」


 あっさりとしたやり取りである。それだけ何もなかったのだろう。どうでもいいことだが、横にいたチョデは雷に打たれたような表情をしていた。

 そこへ不安げなソーカがタマスにおずおずと問いかけた。


「あの、私の処遇はどうなりますか。操られていた証拠がないので牢屋行きでしょうか」

「そうだな……」


 タマスは思案げな表情でちらりとヒトエとチョデを見る。これも変顔の一種かな、とヒトエは密かに思うが口には出さない。

 タマスの裁量を待つ間、空気は重かった。まるで、言葉を発しただけで不利な証言となってしまうようである。

 ヒトエとしてはソーカは本当に操られていたのだと思っていた。最初訪ねてきた時や今と、襲ってきたあの時の差は猫かぶりの領域を越えている。今被っているのは垂れウサミミであるが。特殊メイクも無しにあそこまで人を外れた表情をするなんて女の子としてもイケメンとしてもおかしすぎると。

 もしあれを見ていないタマスが持論でもってソーカを黒とするなら、ヒトエは抗議するつもりだった。文言もバッチリである。「垂れウサミミを嫌がらず被ってくれる人に悪い人はいない」と。これでダメだったらもう手だてはない。ソーカには諦めてもらうしかない。


「二人の報告が嘘だとは俺は思わねぇが、襲った事実があり、操られていた証拠がねぇ」


 ソーカはそうですよねと俯いた。

 抗議するなら今だ。


「とむぉが?」」


 口を開いた瞬間にツケウに口を押さえられてしまった。柔らかかった。花のような香りもする。そしてツケウは優しい笑顔でシーっと口に指を当てていた。

 どこまで天使なの?

 ヒトエはツケウのポテンシャルに、抗議する気持ちすら失せていた。

 そして、ツケウが止めた理由はタマスの続けた言葉で明らかとなる。


「だから経過観察とする。事件解決まで悪さをしなけりゃ、お咎めなしってことで。あと見張りと警護のためツケウとヒトエの二人に付いてもらう。あんたが操られていたのが事実だとすりゃあ犯人が消しに来るかもしれないからな」


 タマスは器はでかかった。一人になる自由はないが牢屋に入れられるよりよっぽどマシだろう。ソーカは感謝の言葉を述べながら頭をさげた。


「こういうことだったんですね、ツケウさん?」


 あれだけ天使だったツケウがなぜか笑顔で怒っていた。こうなることを見越していたんじゃないの? とヒトエは首をかしげる。


「私はともかく、ヒトエちゃんは危険じゃないでしょうか」


 ヒトエはハッとする。犯人が襲ってくるかもしれないなんてたしかに危険だ。ギルド職員は安全だからなりたかったのに、これでは本末転倒である。

 ツケウはそれでヒトエの身を案じてくれてのだ。天使だった。


「かもな。だが、上級死霊に対抗できんのは俺とお前たち二人しかこのギルドにはいねぇんだ。一応、城に応援は頼んでみたが来ないだろうしな。まぁあれだ、敵が現れたら逃げろ。戦わんでいい。それでも嫌か?」


 タマスは真摯な瞳でヒトエに訊ねた。かなりの顔圧にヒトエは無意識に一歩下がった。

 そして悩む。危険はたしかに嫌である。でもここで断ればソーカは牢屋行きになるだろう。


「ねぇ、ツケウさん」

「なんでしょうか」

「どうでした?」


 突然の意味不明な質問にタマスたちは困惑する。しかし、質問されたツケウは質問の真意を汲み取っていた。

 いましたヒトエの問いかけは先ほどタマスがツケウにしたものと似ている。であれば返ってくる答えは一緒なわけで、報告を聞いていたヒトエには無用な質問であるはずだ。

 しかし、違う。ヒトエが求めたのは――


「女の子でしたよ。スラッとしていて肌もツヤツヤ。羨ましい限りでした」

「ふぁっ!?」


 まさかの暴露にソーカは顔を赤くして黒いローブを体にきつく巻き付けた。

 ツケウとソーカのおかげで、ヒトエの気持ちは固まった。にっこりしたあと拳を握る。


「私は、ソーカさんを着せ替え人形にするための代金をギルドに請求します!」

「えええええ!?」


 ソーカの悲鳴にも似た驚きの叫びが部屋に反響し、ツケウは仕方ないですねと諦めたようだった。

 しかし、タマスは渋い表情をしている。


「ギルドの金じゃあそれは無理だ。経理のおば――お姉さんが許さないだろう。前回の服もツケウのポケットマネーだしな」


 衝撃の事実であった。あの村娘の服は正真正銘ツケウからのプレゼントだったのだ。大切にするし、今度お返しもしなくてはいけない。瞬時にヒトエはどんな洋服が似合うか、シミュレートをはじめる。


「って、それも大事だけど、ソーカさんのことも――」

「だから仕方ない。今回は俺が出す」


 タマスはニカッと豪快な笑みを浮かべて親指を立てた。

 ヒトエは胸がいっぱいになり、こう言わざるをえなかった。


「それはセクハラですよね?」


 その声は冷めきっていた。男が女性を着せ替え人形にするためにお金を出すとかアウトなのである。

 でも、お金はきっちりもらうのだった。

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