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鬼人神鬼  作者: saku
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第漆話『序07 結託』

紫苑「――っで、そのあなたが逃げ出した鬼人はどんなやつなの?」

紬「逃げたのではなく、退却をしただけです。それにあなたではなく、紬と呼んで下さい」

紫苑「細かい事を気にするのね? わかったわよ。それで、紬達が戦った相手は?」


 紬は大和に視線を向けた。


紬「それについては、実際に戦った大和から聞いた方がいいでしょう。――大和」

大和「はっ! では、紬お嬢様に変わり、私から説明をさせて頂きます。相手の外見は、まだ年端も行かぬ少女でしたが、力は並々ならぬものがありました。武器は手に装着した大鉤爪」

紫苑「それで、肝心な相手の能力は?」

大和「わかりません。私と紬お嬢様が戦闘した時、能力を発動しませんでした」

紫苑「なるほど。能力を発動せず、あなた達に勝ったわけか」


 私は顎に手を当て、頭の整理を始めた。


紫苑「ところで、直に手を合わせた紬達に聞くけど、その鬼人の契約鬼の階層は?」


 私の質問に対し、紬は少し考えた後、答えた。


紬「能力を見ていないので確実な事は言えませんが、恐らく、第二、もしくは第三階層の鬼かと」

紫苑「第三階層…………厄介ね」


 私の中では、戦闘になった時のイメージが駆け巡り、一つの答えが出た。


紫苑「紬達はこれからどうするの?」

紬「大和の傷が完治次第、策を練って再戦します」

紫苑「じゃあ、私と組まない? 相手は同じ鬼人だし、作戦を立てるにしても、人数がいた方が幅も広がる。――どうかしら?」

紬「――確かに私達だけより、遥かに勝率が上がりますね」


 そう言うと紬は立ち止まり、私に右手を差し出した。


紬「わかりました。あなたの力を借りられるのは、ありがたいです」

紫苑「成立ね」


 私は差し出された紬の右手を握った。

 その時だった。

 私が持っていた人形の護符に火が灯り、燃え始めた。


紫苑「――ッ!?」

紬「それは、魂繋ぎ(たまつなぎ)の護符ですか?」

紫苑「あの馬鹿! なにしてるのよ!? 紬、悪いけど寄り道するわ!!」


 そう言って、私は駆け出した。



//////



 私が走っている間も、魂繋ぎの護符は燃え続けていた。


紫苑「護符から感じる優斗の気がどんどん小さくなってる」


 護符は持っている相手の気を伝えてくれる。

 私は護符が伝えてくれる優斗の気を必死に辿った。


紫苑「優斗!?」


 そして、ビルとビルの間の細い道に倒れている優斗を見つけた。


紫苑「出血が酷い。それにこの傷…………」

紬「恐らく、私と大和が戦った鬼人ですね」

紫苑「……ッ~……」


 私は唇を噛んだ。


紫苑「妃戦!! 悪いけど、こっちもお願い!!」

紬「待って下さい! 紫苑さん、あなたが優れているからと言って、式鬼の複数同術式には相当術力を伴うはずです。ここは私にやらせて下さい」


 紬は優斗に手を翳した。

 すると、紬の手から発せられた光が優斗の身体を包んだ。


紫苑「内功転生ないこうてんせい。――自らの気を相手に送り、内部組織から修復していく術。送る気が大き過ぎると相手の内部組織を破壊する可能性があり、小さ過ぎたら効果がない。繊細なコントロールが要求される術」

紬「破壊された細胞が多過ぎます。先に自己修復機能の働きを活性化させ、その後、細部の修復を行います」


 そして、暫く術を掛けていた紬に、異変が起こり始めた。


紫苑(ん? おかしい。紬の術力が極端に減っている)


 私がそう感じた時、紬の膝が折れた。


紬「――ッ!?」

大和「紬お嬢様!?」

紬「大丈夫です、大和。もう少しで終わりますから」


 笑顔を向けた紬の表情から、まだ錬成移法を使った術力が回復していないのだと思った。


紬「――終わりました」

紫苑「えっ? もう?」

紬「はい。今、この方の細胞組織は通常の倍、いえ、それ以上の速度で修復されています。紫苑さんが言っていたのは、この方ですね? 多分、鬼の力が作用しているのでしょう。私もこれ程の早さは見た事がありません」

紫苑「そうか……紬がやる事が終わったって事か。今回は鬼の力が良い方に働いたわけね」

紬「そうですね。この調子なら、今日中に目を覚ますかもしれませんよ」


 紬の言葉を聞いた私は、安心した様に息を吐いた。


紫苑「さてと、じゃあ、こいつを連れて移動するわよ」


紫苑『我解くる、汝が呪縛。我が言霊の導きに従いて、我を守る矛となれ。戦の式鬼 戦鬼よ』


 人形の紙が宙に舞い、戦鬼が現われた。


戦鬼「早速か!? それで、敵はどいつだ、主人!?」


 私は倒れている優斗を指差した。

 それを見た戦鬼は、自分が何故呼ばれたのか理解した様で、不満そうにため息を吐いた。


戦鬼「はぁ~……、またかよ…………」


 そして戦鬼は、何かを諦めた様に優斗を担いだ。


紫苑「よし、よし。私は聞き分けの良い子は好きだぞ」

戦鬼「それなら、次はもっとましな時に呼んでくれ」



//////



優斗「……うっ……」


 俺が目を開けると、そこには見覚えのある天井があった。


優斗「ここは……? 俺は確か……」


 俺が起き上がろうと手をつくと、身体から痛みが走った。


優斗「――ッ!?」

紫苑「まだ、無理よ」


 声のした方に振り向くと、紫苑の姿があった。


優斗「紫苑?」

紫苑「あんた、生きていて良かったわね。あんなデカい風穴が開く程の傷を負って」

優斗「傷?」


 俺は自分の腹に手を当てた。


優斗「そうだった。俺は…………!? そうだ!? 俺の側に女の子はいなかったか!?」

紫苑「女の子? あんた以外、誰もいなかったわよ」

優斗「そうか……」


 俺の脳裏に最後に見た月ちゃんの表情が焼き付いて離れなかった。


紬「あら? 目を覚まされたんですね?」

優斗「え?」


 突然、見知らぬ子が部屋に入って来たので、俺は驚いて紫苑に視線を送った。


紫苑「そんなに驚かなくても大丈夫よ」

紬「初めまして、真城 紬と申します。こちらが鬼人と戦うためのアジトと言う事で、お邪魔させて頂きました」

優斗「あ~、どうもご丁寧に…………って、アジトってなんだ!?」

紫苑「だって、あんたの家広いし、結界に守られてる。こんな良い場所、他にないわよ」


 言われればそう思うけど…………

 あまり納得出来ないが、俺は納得する事にした。


優斗「ところで、真城さんも紫苑と同じ様に鬼人を追っているんですか?」

紬「はい。それと、私の事は紬と呼んで頂いて構いませんよ」

優斗「わかりました。俺の事も優斗で構いません」

紬「はい」


 そう言って小さく笑った紬は、本題を切り出した。


紬「優斗さんにお伺いしたい事があります」

優斗「なんですか?」

紬「あなたを襲った鬼人は、幼い少女ではないですか?」

優斗「え? 何故、それを?」


 すると、紬の視線が後ろに立っている男に向けられた。


紬「この者は、海神 大和と申します。私の身の回りのお世話をして頂いています」


 紬に紹介された大和は会釈をした。


紬「恐らく、優斗さんを襲った鬼人は、先刻、私と大和が戦った者と一緒かと思われます」

紫苑「紬や大和が勝てない相手に、優斗が勝てるわけないし、命があっただけありがたいと思いなさい」


 俺の脳裏に、また、月ちゃんの表情が浮かんだ。


優斗「なぁ?」

紫苑「なによ?」

優斗「鬼人には、望んでなるものなのか?」

紫苑「急にどうしたのよ?」


 すると、紬が口を開いた。


紬「皆が望んでなっているわけではありません。実際、優斗さんみたいに鬼人に血を与えられてなる人もいらっしゃいます」

優斗「そうなのか」

紫苑「さっきからどうしたのよ?」

優斗「俺を襲った鬼人の女の子が泣いていたんだ。何故かわからないけど、その表情が頭に貼り付いて離れないんだ」


 俺の言葉を聞いた紫苑は、声のトーンを少し下げて言った。


紫苑「優斗。あんた、その鬼人に情なんて出してどうする気?」

優斗「きっと、何か理由があるんだよ。俺、月ちゃんと話をしたけど、そんな事を望んでする様な子じゃなかった」

紫苑「馬鹿? あんた、腹に風穴を開けられたのよ!?」


 段々と勢いが増して来た俺と紫苑の間に、紬が割って入った。


紬「そこまでです。優斗さん、確かに紫苑さんの言う通り、情があっては、いざ戦いになった時に致命的な欠点となります」

優斗「だけど…………」

紬「はい。しかし、鬼人に情を持つなと言った紫苑さんは、こうして優斗さんを助けようとしています」

紫苑「なっ!? これは、こいつが鬼人になったら厄介なだけで」


 紬の言葉に紫苑が慌てて返した。

 しかし、紫苑の言葉もそれ以上は続かなかった。


紬「ここはお互い様と言う事で、先ずは優斗さんがその鬼人と話をして、優斗さんの身に危険を感じたら、私や大和、紫苑さんが鬼人を殺す。――いかがでしょうか?」


 最後に笑顔を作った紬だったが、鬼人を殺すと言った時にだけ、僅かだったが紬の中から殺気が漏れたのを感じた。


紫苑「わかったわよ!」

優斗「ありがとう、紬」

紬「いえいえ。それより、これが決まった事で新しい問題がありますよ」

優斗「え?」


 紬はにこにこしたまま、淡々と続けた。


紬「優斗さんは今のままで、鬼人と戦うおつもりですか?」

優斗「?」


 紬の言葉を理解出来ない俺に、紫苑が紬の話しに割って入った。


紫苑「馬鹿ねぇ。紬が言いたいのは、今のまま鬼人と戦ったら、話をする前にあんたが殺されるって言ってるのよ」

紬「ありがとうございます、紫苑さん。そこで、優斗さんには数日間、特訓をして頂きます」

優斗「特訓?」

紬「はい。せめて、陰陽術と体捌きの基礎を習得して頂きたいと思います」

紫苑「じゃあ、術の方は私が教えてやるわ」


 紫苑は良いおもちゃを見つけた子供の様な表情をして言った。


紬「では、陰陽術の方は紫苑さん。体捌きは大和にやってもらう事にしましょう」

大和「かしこまりました」


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