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鬼人神鬼  作者: saku
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第伍話『序05 少女』

 俺は両親のカタキ、そして自分のために夜鬼を追う決意をした。


優斗「ところで、紫苑?」

紫苑「ん? なに?」

優斗「なんでお前はここにいるんだ?」


 紫苑は何も言わずに近付いてきて、俺の頭に握り締めた拳を落とした。


優斗「イダ!? な、なにすんだ!?」

紫苑「あんたが変な質問するからよ、桜耶 優斗」

優斗「変な質問って、普通の事を聞いただけだろ?」

紫苑「あんたねぇ。私がいなかったら、誰があんたの中の鬼を抑えつけるのよ? それに、あの鬼人の居場所もあんたはわからないでしょ?」

優斗「た、確かに……」


 紫苑は呆れた様に、深いため息をついた。


紫苑「無計画な男って、ダメよねぇ」

優斗「じゃ、じゃあ、紫苑ならわかるって言うのか!?」

紫苑「まぁね。あいつらの邪気を追えば、一発ね。――ってな事で、私は家に帰って、支度してくるから」


 あまりにあっさりと言われたので、危うく聞き逃すところだった。


優斗「支度ってなんだ?」

紫苑「だから、さっきも言ったでしょう。あんたと一緒に暮らすの」

優斗「い、一緒にって!? 俺は男で紫苑は女だぞ!?」

紫苑「別に、私はそんなの気にしないし。それに何もあんたの鬼を抑えるだけが理由じゃないわよ」

優斗「えっ?」


 紫苑は部屋の窓から外に視線を向けた。


紫苑「この家全体に結界が張ってあるのよ」

優斗「結界?」

紫苑「……あんた、ずっと住んでるんでしょ? 気付かなかったの?」

優斗「全く」

紫苑「はぁ~……」


 紫苑は深いため息をつくと、順番に方角を指していった。


紫苑「いい? 北、東、西、南に、それぞれ社があるはずよ。それを媒介として力を供給し、結界を創っている。こんなの初歩中の初歩よ」

優斗「へぇ~、そうなんだ」


 紫苑はまた俺の頭に拳を落とした。


優斗「イッテ!?」

紫苑「あんたねぇ。今まで自分が、この結界に守られていたって自覚しなさいよ」

優斗「何も、殴らなくていいだろ?」


 俺は頭を擦りながら、憎まれ口をたたいた。


紫苑「まぁ、いいわ。これ持ってなさい」

優斗「これは?」


 俺は紫苑から人を象った紙を渡された。


紫苑「私が離れていても、あんたの鬼を制御するものよ」

優斗「なんだ。そんなのがあるなら早く出せばいいじゃないか。これがあれば、別々になっても大丈夫って事だろ?」

紫苑「ばぁ~か。遠隔で制御出来るのは、弱い鬼だけよ。私が直接やった場合の、10分の1くらいの気休めよ」


 そう言うと、紫苑は俺に背を向けた。


紫苑「それじゃあ、私は家に戻るから。私が戻るまでは、大人しくしてなさい」


 そう言って、背中越しに手を振り、紫苑は玄関を出て行った。



//////



 紫苑が出て行ってから暫く、俺は紫苑の言った通り家の中にいた。


優斗「しかし、暇だよなぁ。こうして家に閉じ込められると、外に出てる人達がうらやましくなってくるな」


 ――――!?

 ほんの一瞬だったが、俺の中を言葉では表せない感覚が走った。


優斗「なんだ……?」


 痛みが身体に走る。

 自分の身体に何が起こったのかわからない。

 しかし、何かが呼んでいる。そう感じられた。


優斗「まさか、あいつか!?」


 両親のカタキ。

 そして、俺の契約の解除。

 俺は紫苑の忠告を無視し、何かに呼び寄せられる様に家を出た。



//////



 ――俺の中で感じたものが、どんどん強くなっていく

 ――歩けば歩く程

 ――まるで、その先に何か得体の知れないモノでもいるかの様に


優斗「……はぁ、はぁ……」


 いつの間にか俺の呼吸は乱れ始め、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


優斗「一体何がいるってんだ」


 そして曲がり角に差し掛かると、今までで一番嫌な感じがした。

 まるで、心臓を鷲掴みにされた様な感覚だった。


優斗「………………」


 俺は生唾を飲み込み、角を曲がった。

 すると、そこには小さな少女が立っていた。


優斗「え?」


 少女を見た俺は拍子抜けした声を出した。

 どんなに恐ろしい奴がいるかと思えば、目の前にはかわいらしい少女。

 細身で華奢な身体、風になびく長い銀髪、整った顔立ちは早くも未来を想像させられた。


少女「……鬼が逃げちゃった……」

優斗「鬼!?」


 少女の言葉に、俺の心臓が反応した。


少女「……私が鬼で、鬼を捕まえるの……」

優斗「ん? 君も鬼?」


 ひょっとして、鬼ごっこの途中とかで、友達とはぐれちゃったのかな?


少女「うん。鬼さんは逃げて、何処に行ったかわからない」


そっか、そっか。やっぱり友達と遊んでて、はぐれちゃったんだな。

 俺は少女の髪を撫でた。


優斗「よし! じゃあ、一緒にお友達探そうな」


 そう言って、俺は少女と一緒にはぐれた友達を探す事にした。



//////



 あれから少女とあった場所の近くを探し歩いたが、少女の友達は見つからなかった。

 昼下がりの太陽の下を歩いた俺と少女は、近くの公園で休憩する事にした。


優斗「はい」


 俺は公園の出店で買ってきたアイスを差し出した。


少女「これは?」


 すると、少女はまるでアイスを初めて見る様な不思議な表情をしていた。


優斗「これは? って、アイスだけど、嫌いだったかな?」

少女「初めて……見た……」

優斗「初めて? ひょっとしてどこかのお嬢様だったりするのかな?」


 でも、お嬢様だったとしても、アイスくらいは知ってると思うけど…………


少女「あのね。ぱぱもままもお医者さんも、みんな食べちゃダメって言ったの」

優斗「お医者さん? もしかして、君は病気なの?」

少女「うん。小さい頃からずっと病院のベットにいたの」

優斗「ごめん。じゃあ、アイスはダメなんだな」

少女「ううん。もう大丈夫」


 そう言って、少女はアイスを受け取り、じっと俺に視線を向けた。

 俺は少女にこう食べるんだよと、お手本を示す様にアイスをペロッと舐めた。

 すると、少女も俺の真似をするように、アイスをペロッと舐めた。


少女「……冷たい……」

優斗「そりゃあ、アイスだからな」

少女「……でも、おいしい……」

優斗「そっか」


最初は恐る恐るだった食べ方も、段々慣れてきたのか、少女は夢中でアイスを食べていた。

 そして俺は、美味しそうにアイスを食べる少女の姿を見ていた。


優斗「そう言えば、すっかり忘れてたけど、君の名前を聞いてもいいかな? 俺は優斗」

少女「優斗? ――るな


 少女は呟く様に自分の名前を言うと、すぐにアイスを食べるのを再開した。


優斗「月ちゃんか。アイスは気に入ってもらったみたいでよかった」


 そう言って、俺は自然と月ちゃんの頭を撫でた。


月「……ん……」


 始めは驚いて身を強張らせた月ちゃんだったが、いつの間にか目を閉じて恥ずかしそうに頬を赤らめた。


月「優斗の手、温かい」

優斗「そうか? 他の人と変わらないと思うけどな」


 俺はそんな事を言われたのが初めてだった。

まぁ、そう言われて悪い気はしないが、何だか恥ずかしいな。


優斗「それと、これ食べたら、また月ちゃんの友達を探しに行こうね」


 すると、月ちゃんは首を横に振った。


月「もういいや。鬼さんはまた今度探す」

優斗「え? お友達を探さないでいいの?」

月「うん」


 俺は月ちゃんの言葉に困り頭をかいた。

 よわったなぁ。探すのを手伝うと言ったのに、こうあっさり諦められるなんて。


優斗「じゃあ、せめて、月ちゃんを家まで送ってくよ。家はここから近いの?」

月「ん~……わかんない」

優斗「わ、わかんないって…………大体でいいからわからないかなぁ?」


 俺の質問に月ちゃんは首を横に振った。


月「月はお家、わからない。だって、ぱぱもままもいなくなっちゃったから」

優斗「いなくなった?」


 そうか。月ちゃんの両親は月ちゃんを残して…………

 俺はまた、月ちゃんの髪を撫でた。


優斗「行く所がないなら俺の家にくるか? 部屋なら沢山余ってるからさ」

月「うん。行く」


 即答だった。

 見ず知らずの男の家に行くんだから、もうちょっと考えてもいいと思うんだけどな。

 それとも、今の女の子ってみんなこんな感じなのか?

 そう思った俺の頭に、紫苑の顔が浮かんできた。


優斗「はぁ~……」


 俺は深いため息を吐いた後、笑顔で月ちゃんに言った。


優斗「じゃあ、俺の家に向かうからね」


 俺がそう言うと、月ちゃんはこくりと頷いて、俺の隣りをついてきた。



//////



 そして暫く歩き、人通りの多い道にきた。

 俺は人込みではぐれない様にと、隣にいるはずの月ちゃんに視線を向けた。


優斗「月ちゃん。人が多くなってきたから、はぐれないでね…………って、いない!?」


 急いで辺りを見渡すと、人込みに流されている月ちゃんを見つけた。


優斗「月ちゃん!?」


 俺は急いで月ちゃんの手を握り、自分の方に引き寄せた。


月「……あっ……」

優斗「ほら、気をつけないと危ないよ」


 そう言って、俺は月ちゃんの手を握った。

 手を握られた月ちゃんは少し恥ずかしそうに俯いていた。



//////



優斗「ふぅ~、この辺りまで来れば、人通りも落ち着いたね」


 そう言って、俺は月ちゃんに視線を向けた。


優斗「それから、月ちゃんも俺から離れない様にするんだよ」

月「……ん……」


 俺は月ちゃんの返事を聞くと、笑顔で頭を撫でた。


月「優斗は何で月の頭を撫でるの?」

優斗「ん? えっと……月ちゃんが良い子だからかな」

月「月が?」

優斗「うん」


 すると、月ちゃんは少し間を開けて言った。


月「月は良い子じゃない。ぱぱもままも月が良い子じゃないから、いなくなっちゃったんだよ」

優斗「月ちゃん?」

月「月はあのまま、死んじゃえば…………!?」


 そう言いかけた時、月ちゃんの視線がビルの屋上に向き、何かを見た月ちゃんの身体は、恐怖を表す様に小さく震えた。


月「……ぁ……ぁ……」

優斗「月…………!?」


 月ちゃんに声を掛けようとした瞬間、月ちゃんと会う前に感じた感覚が俺の身体を走った。

 それとほぼ同時だった。

 俺の身体に激痛が走り、胃、食道、そして、喉の奥から上がってきた生暖かい液体が、口の中を満たしていった。


優斗「……ごぷっ……」


 口から溢れたそれが、ビチャビチャと地面を赤く染めていく。

 一瞬、自分の身に何が起きたのか理解出来なかった。

 しかし、それは腹に突き刺さる大きな鉤爪を見て理解した。


優斗「……月……ちゃん……君は……」

月「……ごめん……なさい……ごめん……なさい……」


 月ちゃんは、側にいる俺だけが聞こえるくらいの声で、繰り返し言った。

 多量の出血と痛みで意識が朦朧とする中、俺の目にはその小さな瞳に涙を貯め、俯く月ちゃんの姿が映った。

 そして、冷たいアスファルトの感触を感じた時、俺の視界は真っ黒な闇に覆われた。


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