第参話『序03 鬼と鬼人(きじん)』
優斗「さぁ、着いたぞ」
紫苑は俺の家の前に着くと、立ち止まり、家をじっと見ていた。
紫苑(……家全体を結界が包んでいる……)
優斗「何してるんだ? 中に入れよ」
紫苑「えぇ、お邪魔するわ」
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俺は紫苑の前にお茶を出し、向かい側に座った。
優斗「それでさっきの話しだけど、鬼や源って何なんだ?」
紫苑「そうね。先ずはあなたについていくつか聞かせて。あなたは術式を使えるの?」
優斗「術式? 親父と母さんは使えたらしいけど、俺はさっぱりだ」
紫苑「そう。さっきのあいつとはいつ出会ったの?」
俺は紫苑の質問に表情を強張らせた。
優斗「あいつは、親父と母さんのカタキだ」
紫苑「じゃあ、その時にあいつと会ってるってわけね」
俺は痺れを切らした様に言った。
優斗「なぁ、俺の事はどうでもいいんだよ! 俺が聞きたいのは!」
紫苑「焦らないでって言ってるでしょ? これから話すわ」
俺は座り直し、紫苑の話しに耳を傾けた。
紫苑「先ずは鬼。鬼とは地獄に住む鬼達の事。普通なら、人間界への道は塞がっていて、鬼達は地獄から出て来られない。でも、ある条件をクリアすれば、人間界に来る事が可能になる」
優斗「地獄から出る条件?」
紫苑「えぇ。地獄は死後の世界よ。だから、鬼達が地獄を出るためには、自らに生がある事を証明する必要があるの。鬼達は自分の生を証明する道具として、生きている人間の身体を借りる。そして、その代償として身体を借りた人間に、自らの力を使わせる。つまり、お互いの合意を基に契約をする。そして、鬼と契約をした人間を、私達は鬼人と呼んでいる。さっきのあなたは、契約する鬼の力が強過ぎて、身体がついていけなかっただけ。だから、私が五行印で鬼の力を無理矢理抑え込んで、負担をなくしたの」
紫苑の話しに俺は割って入った。
優斗「ちょっと、待ってくれ! 俺はその鬼ってのにあった事ないし、契約なんかしていない!?」
紫苑「あなた、逃がした奴の血を飲んだって言ったわよね?」
優斗「あぁ」
紫苑「恐らく、奴は鬼と契約を交した鬼人よ。その血を飲んだと言う事は、鬼との契約を受け入れた事になる。でも、あなたの場合、契約をする鬼が決まっていない。だから、鬼達はあなたの身体を我が物にしようと争っているのよ」
優斗「要するに、俺って言う器をたくさんの鬼が取り合っているって事か?」
紫苑「そうね。その内、私の力で抑えられないくらい強力な鬼が来るはず。そうなれば、もうお手上げ」
優斗「お手上げって、俺はどうなるんだ?」
不安な表情で聞いた俺に対し、紫苑は表情一つ変えずに答えた。
紫苑「――死……ね」
優斗「し、死って、何とかなんないのか!?」
紫苑「だから、私は強力な鬼が来たらって言ったわよね?」
優斗「あぁ」
紫苑「それまでの間に、あなたの中にある契約の証を消すのよ」
優斗「ど、どうやって?」
紫苑「簡単よ。あなたに血を飲ませた鬼人を殺す。そうすれば、鬼人の血は生を失い、契約も無くなる」
――ドクン!?
俺の心臓が大きく音をたてた。
両親のカタキを討つ事で俺自身が助かる?
優斗「は……ははは……、神様がいるなら、本当に憎い事をするな。――わかった。あいつを探し出して、殺せばいいんだな」
その時、俺の中にどす黒い感情が流れていた。
自分でも気づかない、無意識の中で…………