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鬼人神鬼  作者: saku
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第肆拾漆話『後編12 紬の世界/繋がり』

//////優斗の家



 紬の話しが終わった時、俺達は言葉が出せなかった。


優斗「あの……」

紬「そんな顔をしないで下さい。優斗さんも紫苑さんも、皆さん辛い過去を持っています。私だけではありません。だから、そんな顔をしないで下さい」


 そう言って、紬はにこりと笑った。


優斗「わかった」

紫苑「じゃあ、早く紬の傷を治して、奈絵ちゃんの仇を取りに行こう」

紬「紫苑さん」

優斗「そうだな。鬼神の復活を止めるには、そいつとも戦わなくちゃいけないだろうからな」

紬「優斗さん」


 紬の瞳から、涙がぽろぽろと零れた。


紬「……ありがとうございます……」


 俺と紫苑は笑顔で、小さく頷いた。


紫苑「よ~し、そうと決まれば、紬も優斗と術糸を繋ぎなさい」

紬「術糸を?」

紫苑「この先、何があるかわからないし、個々で戦う事もあると思う。だけど、術糸で繋がっていれば会話も出来るし、相手の安否を知ることも出来る」

紬「なるほど」

紫苑「それともう一つ。これが一番重要。紬の中にいる鬼の制御」

紬「鬼の?」

紫苑「今回の事は、四精鬼との戦いで術力を消費し過ぎて、鬼を制御する術力がなくなってしまった事が原因よね?」

紬「えぇ」

紫苑「なら、術糸を繋いでおけば、紬の術力が切れても優斗から術力が供給される。そして、優斗の術力は私から供給する。――どぉ? 良いと思わない?」

紬「確かに、紫苑さんの言う通りかも知れません」

優斗「ちょ、ちょっと待て!? 術糸を繋ぐって事は、紬の世界に行かないといけないんだよな?」

紫苑「そうなるわね」


 ――って事は、紬の記憶を……


 俺はちらりと紬に視線を向けた。


紬「どうしました?」

優斗「いや、術糸を繋ぐって事は、感覚や記憶を共有するって事だろ?」

紬「優斗さんとでしたら、問題ありませんよ」

紫苑「ほら、紬もあぁ言ってるし。据え膳食わねばなんとやらって言うでしょ?」


 その例えは間違ってる気がするが、確かに紬と術糸を繋いでおいて悪い事はない。


優斗「わかった。紬が良いって言うなら、術糸を繋ごう」

紬「では、行きましょう。私の世界に」


 俺は差し出された紬の手を握った。

 段々と意識が混濁していき、ぷつりと切れた。



//////紬の世界



 俺が目を覚ますと、限りない大地と山々が広がっていた。


優斗「ここが紬の……」

紬「いらっしゃいませ、優斗さん」


 振り返ると、そこには紬が立っていた。


優斗「ここが紬の世界なんだな?」

紬「えぇ、ここが私の世界です」

優斗「一つ聞いてもいいか?」

紬「なんですか?」

優斗「紬の術者としての属性は、なんなんだ?」

紬「私ですか? 私の属性は土です」


 土か。

 確かに、紬の世界は見るからに土って感じだな。


優斗「それで、これからどうすればいい?」

紬「簡単に言えば、私の心の中心に触れれば術糸は繋がります」

優斗「心の中心?」

紬「紫苑さんの時にも、優斗さんは見ているはずですが?」

優斗「紫苑の?」


 紫苑の心の中心……

 もしかして、あの真っ赤に燃えた炎の中にあったやつか?


紬「それに優斗さんが触れれば終わりです」

優斗「簡単に言うけど、紫苑の時は苦労したぞ」

紬「あの時は、紫苑さん自身の許可も取らず突然の事でしたから、紫苑さんの心で抵抗があったのでしょう。大丈夫ですよ。私は優斗さんの全てを受け入れますから」


 たまに今の様な悪戯な紬が出てくる。

 まぁ、紫苑と違って、紬のは可愛いげがあるから許せる。


優斗「じゃあ、早いとこ、紬の心の中心に触れて、術糸を繋ごう」

紬「その前に、優斗さんに紹介をしたい者がいます」

優斗「俺に紹介したい人?」


 ここは紬の世界だから、紬以外、生きてる者はいないはずだよな?

 あれ?

 確か、紫苑の世界でも、俺の世界でも誰かいたような……


紬「咲耶さくや近くにいるのでしょう?」


 紬がそう言うと、いつの間にか紬の背後に物静かな雰囲気に気品を纏い、瞳に強さを持った女性が立っていた。


咲耶「お久しぶりです、紬様」

紬「お久しぶりです、咲耶」

咲耶「紬……その人は?」


 すると、女性は軽くお辞儀をして言った。


咲耶「土を司る精霊、咲耶」

紬「咲耶、もっと愛想を良くしなさいと言ったでしょ」

優斗「いや、大丈夫だよ、紬。よろしく、咲耶さん」


 咲耶さんは、差し出した俺の手をじっと見ていた。


優斗「えっと……」


 俺がどうすればいいか困っていると、咲耶さんは始めと同じ様に軽くお辞儀をした。


咲耶「よろしくお願いします。――ところで紬様」

紬「なに?」

咲耶「私はこの方をなんと呼べば良いのですか?」

優斗「優斗でいいよ」

咲耶「わかりました。では、その様に呼ばせてもらいます。私の事は紬様同様、咲耶で問題ありません」


 咲耶の一連の話しを聞いた紬は、申し訳なさそうに言った。


紬「すいません、優斗さん。咲耶ったら、いつもこんな感じで無愛想なんです」

優斗「大丈夫だよ。そう言ったのは、紫苑で慣れたから」

紬「ふふ。今の事を紫苑さんに言ったら、きっと怒られますよ」

優斗「それは勘弁してくれ」

紬「ふふふ。――それでは行きましょう。咲耶、案内をお願い」


 すると、咲耶は俺達に背を向け、前を歩きはじめた。



//////



優斗「こ、此処が心の中心か?」


 俺達の前には、頂上が雲に掛かり見えない程の断崖絶壁が立ちはだかった。


紬「私も初めて来ましたので、なんとも……咲耶」


 紬が確認をする様に、咲耶に視線を向けた。


咲耶「確かにこの場所です」


 そう言って、咲耶は断崖絶壁を見上げた。


優斗「この場所って、まさかこの上とか言わないよな?」

咲耶「はい。この上になりますが、どうしました?」

優斗「い、いや……」


 これを登るだって!?

 下手したら、死にかねない高さだぞ。

 いや、下手したらじゃなくて、確実に死ぬな。


 すると、紬が断崖絶壁の前に立ち、こちらに振り返った。


紬「さぁ、行きましょう、優斗さん」

優斗「い、行きましょうって、紬。もうちょっと慎重に行った方がいいんじゃないか?」

紬「なんですか?」

優斗「なんでって……登ってる途中で落ちたりしたら死ぬ高さだぞ!?」

紬「……? もしかして優斗さん。これを登る気でいますか?」

優斗「だって、心の中心は頂上にあるんだろ? 登らないでどうするんだよ」


 俺の言葉を聞いた紬は、小さく笑った。


紬「優斗さん。ここは私の世界。言わば、精神世界なのですよ?」


 すると、突然、紬の身体が宙に浮いた。


優斗「う、浮いた!?」

紬「あら? 紫苑さんに聞きませんでしたか? この世界は精神の世界。思いを創造する事が出来ると」

優斗「……そう言えば、そうだった」


 思いを実現させる事の出来る世界。

 つまり、空を飛ぶと強く思えば……


 俺は自分が空を飛べると強く、頭に思い描いた。

 すると、突然、身体は軽くなり目を開けると足が地面から浮いていた。


優斗「やった!」

紬「では、行きましょう。私の心の中心に」



//////頂上



優斗「――これが紬の……」


 断崖絶壁の頂上にたどり着くと、ふわふわと宙に浮かぶ小さな玉があった。


紬「さぁ、優斗さん」


 俺は紬の言葉に小さく頷き、その玉に触れた。


 紬の感情、過去の記憶が流れ込んでくる。

 俺も紬の全てを受け入れる。


 母親に抱かれた様な、優しい光に包まれた。

 そして、目を開けると、小さな玉は失くなっていた。


優斗「これで繋がったのか?」

紬「はい。これでいつも一緒ですね」

優斗「……そ、それより早く戻ろう! 紫苑が待ってるし」


 不意打ちとも言える紬の言葉に、照れ隠しをする様に言った。


紬「そうですね。では、帰りましょうか」

咲耶「紬様、お気をつけて」

紬「ありがとう、咲耶。近々、貴方の力を借りる事になるわ。その時は、よろしくね」


 咲耶は軽くお辞儀をした。


紬「それでは、帰りましょう」


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