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鬼人神鬼  作者: saku
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第肆拾陸話『後編11 紬の過去04』

//////



 私が目を覚ますと、変わり果てたお父さんとお母さんが、私の手を握り倒れていた。


紬「…………」


 私は何故お父さんとお母さんが倒れているのかわからず、ただ呆然と眺めていた。


楠「何もわからない様ですね、紬お嬢様?」

紬「……楠……」


 その男の顔を見た瞬間、親友の……奈絵の事が頭を過ぎった。


楠「おっと!? 行けませんよ、お嬢様。せっかく、旦那様と奥方様がお命を捨ててまで助けたのに」

紬「命を? どういう事!?」

楠「仕方ありませんね。貴方はご友人である奈絵様を殺されたと言う憎しみから、地獄の鬼と契約をしに行ったのです。以前、私が紬お嬢様の体内に潜ませていた、私の血を使って」


 楠の血?

 その瞬間、私の中である記憶が蘇った。


紬「……そうだったの……今、思い出したわ。あの鬼が襲撃してきた時、私は皆と一緒に秘密の道を通っていた。そこで、貴方に殺された」

楠「しかし、紬お嬢様は死なずに、私の血で生き返った」


 鬼人の血を体内に入れた事により、私は鬼と契約する権利を得た。

 そして今、奈絵を殺された怒りから、私は鬼と契約を交わした。

 でも、お父さんとお母さんが私を人間に戻してくれた。

 状況を理解した私は、楠に鋭い視線を送った。


楠「その様な目を渡しに向け、どうしようと言うのです。では、お嬢様に良い事をお教えしましょう。私は奈絵様を殺してはいません」

紬「え?」


 私は奈絵に視線を向けた。

 すると、奈絵の指が僅かに動いた。


紬「奈絵!?」

奈絵「……つ、紬……いたい……」

紬「奈絵! 奈絵、奈絵!!」


 私は何度も奈絵の名前を呼んだ。


奈絵「……ははは……全く……紬は泣き虫なんだから……」

紬「ごめん……ごめんね、奈絵……」

楠「感動のところ、失礼致します。奈絵様には、死者のかけらを埋め込ませて頂きました」

紬「死者のかけら?」


 楠が妙な言葉を口にした。


楠「死者のかけらとは、生ある者を求める私の一部。死者のかけらが通過すると、通過した部分の生命力を奪っていきます。そして、死者のかけらが最後、心臓に到達した時、命の鼓動を止める」

紬「――!?」


 私の表情を見た楠が、笑みを浮かべた。


楠「理解しましたか、紬お嬢様」


 私は奈絵に手を翳し、五亡星を描いた。


紬『彼の者より闇を取り払え。五行破邪ごぎょうはじゃ


「無駄ですよ。今の紬お嬢様の術力で、私の力を消し去ることは不可能です」

紬「っ……楠! 奈絵の身体から出て行きなさい!!」

楠「紬お嬢様。いくら凄んでも無駄です。もう、遅いのですよ。力の無い者の言葉は虚しいだけです。それとも、鬼と契約を交わし、私を殺しますか?」

紬「――っ!?」


 私が楠に向かって立ち上がろうとした時、奈絵が私の腕を掴み、それを止めた。


奈絵「……だめ……だよ……私なら……大丈夫……だから……」

紬「奈絵……」


 奈絵の行動を見た楠は一つ舌を鳴らした。


楠「ちっ! 貴方といい、旦那様、奥方様といい。邪魔ばかり……」


 一瞬、楠の表情が歪んだが、直ぐに元に戻った。


楠「まぁ、いいでしょう。どの道、紬お嬢様は絶望を味わう」


 そう言って、楠は後ろに飛んだ。


楠「奈絵様。どうぞ、存分に苦痛を味わってください。――死ぬまで……」

紬「待て! 楠!!」


 既に楠の姿は、私達の前から消えていた。


奈絵「……つ、紬……帰ろ……」

紬「奈絵……わかった。一緒に帰ろう」



//////真城家



 奈絵と一緒に帰って来てから、数日が経った。

 楠の言った通り、死者のかけらは奈絵の身体を蝕んでいった。

 私は奈絵を真城の家に寝かし、治療法がないか家中にある書物を漁った。

 しかし、何の解決策も見つけられずにいた。


奈絵「……ごほっ! ごほっ! ぅぅぅ……」

紬「奈絵!?」


 奈絵の身体は日増しに悪くなっていった。

 始めは右腕、次に右足、そして左足と、少しずつ身体の機能を失っていった。


奈絵「……ご、ごめんね、紬……」

紬「なに言ってるのよ、奈絵。気にしないで」


 すると、奈絵の瞳から涙が流れ始めた。


紬「奈絵?」

奈絵「紬。私、死んじゃうんだよね?」

紬「馬鹿な事言わないで、私が奈絵を治す方法を見つけるから」

奈絵「……紬……私の身体が動かないの……きっと、もうすぐこの左腕も動かなくなる」

紬「弱気な事を言わないの」

奈絵「苦しいの。日に日に痛みも増してくる。それに紬に力を貸してもらわなきゃ、自分の事が何一つ出来なくなってる」

紬「そんな事、気にしないでよ。私と奈絵の仲じゃない。頑張ろう」

奈絵「……紬……」

紬「さぁ、奈絵。横になって。私は奈絵を治す方法を探してくるから」


 そう言って、私は奈絵を寝かせ、布団を掛けた。



//////真城家 書庫



紬「待っててね、奈絵。絶対に助けるから」


 今日まで、どのくらいの眠りを取ったのだろう。

 眠っていないかもしれないし、眠っているのかもしれない。

 私の中では、奈絵を助ける以外、全ての記憶を破棄していた。


紬「奈絵の身体には、楠が入れた死者のかけら。あれは鬼人の力。鬼人の力に対抗するには……」


 その時、奈絵の寝ている部屋の方から、物音が聞こえた。


紬「奈絵?」


 私は急いで奈絵の寝ている部屋に向かった。



//////真城家 部屋



紬「奈絵。どうした……」


 そこに、持っている小刀を自らの喉元に突き立て様としている奈絵の姿があった。


紬「奈絵!?」


 私は慌てて奈絵から小刀を取り上げた。


紬「何やってるの!?」

奈絵「お願い……もう、死なせて……」

紬「奈絵! そんな物に負けちゃダメ!!」

奈絵「だって……痛いんだよ……それに自分がもう直ぐに死ぬって、感じるの……っ!?」


 その瞬間、奈絵の左腕が大きく痙攣し、色を失っていった。


奈絵「っ……きゃぁぁぁぁぁ!!」

紬「奈絵!?」

奈絵「いやぁぁ!! あ……ぅぅぅ……あぁぁあぁぁぁぁ!!」


 やがて、奈絵の声が止まると同時に、奈絵の左腕が力無く地面に落ちた。


奈絵「……はぁ、はぁ……」

紬「奈絵!? 奈絵!?」


 私の呼び掛けに、奈絵は意識が混濁した中で反応した。


奈絵「……お……願い……私を……殺……して……」


 奈絵はまだ動く首を動かし、必死に私に伝えようとしていた。


紬「……奈絵……」


 まだ、頑張って。

 そう声を掛けたかった。

 声を……掛けたかった……


奈絵「……紬……お願い……」


 だけど、奈絵の姿を見ると言えなかった。

 奈絵はこの数日間、私の想像出来ない苦痛と戦ってきたんだ。

 そんな奈絵に、今更、何を頑張れと言うの?

 生きてほしいと言う私の勝手な気持ちで、まだ奈絵を苦しめるの?


奈絵「……さ……最後は……紬に……私の……大好きな……親友に……あんな奴に……殺されたく……ない」


 奈絵の額から汗が流れ落ちた。

 きっと、激痛に耐えて、私に伝えようとしてるんだ。


奈絵「……お願い……紬……」


 もう、私に選択肢などなかった。


紬「――わかった」


 私の言葉を聞いた奈絵は、にっこりと笑った。


奈絵「……ありがとう……それから……ごめんね」


 奈絵はそう言うと、ゆっくり目を閉じた。


紬「――さようなら、奈絵」


 私は術札を取り出し、術力を込めて奈絵の左胸に当てた。

 そして数秒後、奈絵の身体から完全に力が抜け落ちた。

 ふと見た奈絵の表情は、どこか笑っている様に見えた。


紬「……辛かったよね……もう……そんな思いをしなくていいんだよ……奈絵はゆっくり、眠れるんだね」


 私は奈絵に語りかける様に、何度も何度も話し掛けた。

 やがて、私の目が真っ赤に腫れ涙が枯れる頃、私は誓った。

 必ず奈絵の仇を取ると……


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