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鬼人神鬼  作者: saku
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第肆拾参話『後編08 紬の過去01』

優斗「少しは落ちていたか?」

紬「はい。すいませんでした」

優斗「いいんだ。それより、何があったんだ、紬?」


 紫苑が紬に背を向けたまま言った。


紫苑「相手が鬼人だって事はわかるわ。紬の身体に鬼人の臭いが残ってるから」

紬「はい。紫苑さんのおっしゃる通りです。相手の鬼人の名は、楠。能力は死者を操る事です」

紫苑「ふ~ん。その鬼人について、随分詳しいのね」

紬「はい」

紫苑「聞かせてよ。その鬼人と昔、何があったのか」


 紬は一度気持ちを落ち着かせる様に息を吐いた。


紬「……わかりました。紫苑さん達にも、話す時かも知れませんね」



//////



紬「私が楠と初めて会ったのは、楠が真城家に使用人として来た日でした」




絵衣「今日から紬の身の回りのお世話をして下さる楠さんよ」

楠「楠 真木と申します。今後、紬お嬢様の身の回りのお世話をさせて頂きます」


 楠と言う男は丁寧にお辞儀をした。

 見た目、今までお世話をしてくれた使用人達と変わった所はなかったが、妙な違和感を私はこの楠と言う男に感じた。

 私達とは異質。

 例えるならば……そう、まるで魂の無い肉体が息をして動いているかの様に生気と言うものを感じられなかった。


紬「あ、あの……よろしくお願いします」




紬「それから、楠は私の身の回りの世話と、真城家の仕事を完璧にこなした。当然、そんな楠を真城家の人間達は、高く評価した」




楠「お疲れ様です、紬お嬢様」


 そう言った楠に、私は持っていた荷物を渡した。


紬「これをお願い」

楠「畏まりました」

紬「お父さん達は?」

楠「本日は除霊の依頼がありまして、外出をされておられます」

紬「また、あの方ですか」


 お父さん達に除霊の依頼が来たのは、これで三度目だ。

 しかもその三度が、同じ月ときている。


紬「それで、今回の依頼内容は?」

楠「前回と同じ、所有物の移動を霊の仕業と言い、除霊をしろとの事でした」

紬「お父さん達も、そんな依頼断ればいいのに」

楠「万に一つでも可能性があれば、それを見逃す事は、その人に関わる全ての人に悲しみを与える事になるかもしれない」

紬「わかってるわよ。お父さんから、何度も聞いたわ」


 今、楠が言った言葉はお父さんの口癖だった。


紬「でも、人間の中には助ける価値のない人だっている」

楠「いけませんよ、紬お嬢様。命は誰にでも平等なものです。価値のつけようがありません」

紬「何よ? 楠もお父さんの味方なの?」

楠「いえ、私はどちらでもありません」

紬「どう言う事?」

楠「命は平等であり、価値はつけられません。しかし、それは私達人間が考えた場合です。――紬お嬢様は神を信じますか?」

紬「存在はすると思うわ。地獄があれば、その逆もある」

楠「では、神が存在するとしまして、紬お嬢様が考える神とはどのような者ですか?」

紬「創造と破壊を司る者」

楠「では、仮に私達人間が命を作る、もしくは与えられたら、神になることになります」

紬「そうね」

楠「つまり、命は、命を作り出した者だけがその価値を決められる」


 楠の言葉を聞いた私は、納得して頷いた。


紬「確かに、楠の言う通りね」


 命の価値……ね。

 そうしたら、私の命の価値は、私を産んでくれたお父さんとお母さんがつけているのか。


 すると、家の電話が鳴り、その後、家内にいる使用人達が慌てた様子で、私のもとに集まってきた。


使用人1(女)「紬お嬢様!?」

紬「どうしたの?」

使用人1(女)「大変でございます! お屋敷内に鬼が侵入して参りました!!」

紬「鬼!?」

楠「警備の者達はどうしたのです!?」

使用人1(女)「それが……」


 使用人達の反応を見て、どうなっているのか、大体、想像が出来た。

 そして、それは楠も同様だった。


楠「旦那様方がいない中、最優先にするは、紬お嬢様のお命です! 戦える者達でここを死守します! 指揮は私が取ります! 女達は、紬お嬢様を連れて安全な場所に逃げて下さい!!」

使用人1(女)「わかりました!」

紬「楠!?」

楠「ご安心下さい。この状況は既に旦那様方の耳にも届いているはずです。私達は、旦那様方が戻るまで守ればいいのです」


 そう言うと、楠は私に背を向けた。


使用人1(女)「紬お嬢様、早くこちらへ!」



//////



楠「ここに残った者達に言います。今こそ、私達がお世話になっている旦那様や奥方様、そして紬お嬢様に報いる時です。――ですが、命は一つ。逃げたい者は、早急にこの場を去りなさい!」


 楠の言葉を聞き、若い使用人達が数人、その場から逃げ去っていった。


楠「仕方ありませんね。他の者達はいいのですか?」

使用人1(男)「お嬢様を残していけるかってんだ!」

使用人2(男)「そうだ! 鬼だろうが、何だろうが関係ねぇ! ぶっ殺してやる!!」


 皆、真城の人間が好きだった。

 ただ、その気持ちだけで勝つ見込みのない死地に残っていた。


楠「わかりました。では、皆でここを死守し、紬お嬢様を守りましょう!」


 楠の掛け声に、皆の雄叫びが上がった。


楠「では、急いで状況を教えて下さい!」

使用人1(男)「相手は鬼が一匹。お屋敷に張られた結界を無理矢理こじ開けて入って来た」

楠「相手の戦闘時の攻撃スタイルはわかりますか?」

使用人1(男)「先にやられた奴らとの戦いを見ていたが、奴は武器の類を一切使わず、爪だけで戦っていた」

楠「なるほど。まだ、全力ではないと言うことですか……」


 その時、屋敷内に鬼に殺された者の悲鳴が上がった。


楠「鬼はもうそこまで来ています! 各々、武器をとって下さい! 先頭は私が行きますので、皆さんは後に続いて下さい!!」


 楠が言い終わった瞬間、鬼がドアを破壊し、部屋に侵入してきた。


鬼「ぶふぅ~……」


 鬼の身体は、この部屋に到着するまでに殺してきた者達の返り血で、真っ赤に染まっていた。


使用人1(男)「うわぁぁぁ!? この化け物がぁ!!」

楠「いけません!!」


 突然の鬼の登場に驚き、恐怖で思考が働くなった者が飛び出した。


使用人1(男)「ぎぃやぁぁぁ!? 嫌だ! 助けてくれーー!!」


 鬼は飛び出した者を、生きたまま喰らい始めた。


鬼「まずいな……ゴミ以下だ」


 そう言って、鬼は肉塊になった男を吐き出した。

 鬼の行動は、その光景を目の当たりにした他の者達の中から、恐怖を呼び起こした。


使用人2(男)「む、無理だ……やっぱり、俺達が鬼と戦うなんて……」

使用人3(男)「い、嫌だ。生きたまま食われるなんて……」


 こうなっては、いくら楠が叱咤激励しようが、皆、我先にと逃げ出した。


楠「やはり、こうなりましたか」


 楠は一振りの刀を手に、鬼に向かっていった。



//////



紬「はぁ、はぁ……」

使用人1(女)「紬お嬢様。こちらです」


 私達は、真城家にある秘密の通路を通り、隠し部屋に向かっていた。


紬「楠や皆が!?」

使用人1(女)「何をおっしゃいます! 今は紬お嬢様が生きる事を考えるのです!!」

紬「ですが……」


 その瞬間、前方から来た何かに、使用人達の身体が切り裂かれた。


使用人1(女)「ぁ……お、お嬢様……お……にげ……く……」


 私は何が起きたのか理解出来ず、呆然と倒れた使用人達を見ていた。

 そして、次の瞬間、私の身体を伝った鈍い衝撃と共に、視界が闇に覆われていった。



//////



 私が目を覚ました時、そこにはお父さんとお母さんの姿があった。


英人「紬!?」

紬「お父さん……お母さん……」

絵衣「よかった……本当によかった……」

紬「私は……」


 何も思い出せなかった。

 自分があの後、どうなって、どうしてこの場所で寝ているのか。


絵衣「楠さんに感謝をしないと」

紬「楠……」


 私は楠の名前で、鬼が襲ってきた事を思い出した。


紬「――!? 楠! 楠は!?」


 そう言って部屋を見渡すと、ドアの側に楠の姿を見つけた。

 そして、私と視線を合わせた楠は、いつもと同じ様ににこりと笑った。


楠「お目覚めですか、紬お嬢様」

紬「楠……無事だったのですね」

楠「旦那様方に助けて頂きました」


 よく見ると、楠の身体の至る所に包帯が巻かれ、ぼろぼろな状態だった。


英人「楠さん、よく紬を守ってくれました。親として、深く感謝します」

楠「止めて下さい!? 私の様な一介の使用人に旦那様方が頭を下げるなど!?」

英人「いや、これでは足りない程、感謝をしている。ありがとう」


 すると、楠も深く頭を下げ、涙を流していた。


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