第肆拾弐話『後編07 飛鳥/決意』
炎鬼「しくじった様だな、片瀬」
片瀬「炎鬼か」
片瀬は優斗達の姿を遠目から見ていた。
片瀬「予想以上に成長をしていた。奴もまた、精霊の力を身につけていた」
炎鬼「精霊? ――あ~!? あの数千年前の亡霊共か」
炎鬼は精霊達の事を、昔から知っている様な話し方だった。
片瀬「奴らの事を知っているのか?」
炎鬼「ちょっとした、腐れ縁だ。――まぁ、奴らが出て来たって事は、向こうも相当本気らしいな」
炎鬼は手で顔を隠し、込み上げる笑いを抑えようとした。
炎鬼「――く……くくく……アハハハ!! まさか……まさか、また奴らに会えるとはな!? 楽しい、楽しい、殺し合いの始まりだ!!」
//////優斗の家
俺と紫苑は飛鳥と一緒に家に戻ってきた。
そして、俺と紫苑は事の経緯の一部始終を飛鳥に説明し、安里の血を引く飛鳥が狙われている事を伝えた。
飛鳥「私が九党の……パパとママの本当の子供じゃない?」
紫苑「そこまでの経緯は、私達にもわからないわ。でも、飛鳥ちゃんが狙われているのは事実よ」
飛鳥は俺達の話しを聞き、少し混乱をしている様だった。
優斗「あ、飛鳥……」
飛鳥「………………」
紫苑「突然、こんな話しを聞かされて混乱しているのはわかるわ。だけど、私達には時間が無いの。貴方が敵の手に渡れば、それでおしまい。今までの戦いが無駄になるの」
優斗「お、おい、紫苑。そんな言い方は……」
紫苑「こう言う時は、はっきりと言っておいた方がいいのよ」
俺は飛鳥に視線を向けた。
飛鳥はその場に立ち上がり、小さな声で言った。
飛鳥「……ごめん。少し一人にして……」
そう言って、飛鳥は部屋から出ていった。
紫苑「優斗。飛鳥ちゃんが、結界の外に出ないように注意しなさいよ」
紫苑は冷静に言った。
優斗「紫苑。もっと、別の言い方があるじゃないか。なんであんな言い方を」
紫苑「あんた、それがあの子にとって良いと思ってるの? 仮にぼやして言ったとして、それがはっきりわからない不安や恐怖を、あんたはわかる?」
優斗「確かに、わかりそうでわからない事は、嫌な感じがすると思うけど……」
紫苑「違う! あんたは何も分からないで、他人から汚物でも見るような冷たい視線で見られたことがある!? 何故、自分がそんな目で見られるのか、それがわからない気持ち悪さ、そして自分への不安や恐怖」
優斗「し、紫苑」
紫苑「――!? ……ごめんなさい。ただ、自分の置かれている状況を知っていた方が良いと思ったの」
優斗「あぁ、わかってる。あとは俺が飛鳥と話してみるよ」
//////縁側
飛鳥は縁側に腰掛け、空を見上げていた。
優斗「あ、飛鳥……」
俺が声を掛けると、飛鳥はそのまま空を見ながら言った。
飛鳥「ねぇ、優斗」
優斗「なんだ?」
飛鳥「初めて自分の力を知った時、どう思った?」
俺は少し間をあけ、空を見上げた。
優斗「正直、怖かった。自分に誰かを殺せる力がある。そう思うと、寒気がした。だけど、紫苑達と一緒に鬼人と戦ってる内に思ったんだ。俺には奴らを止める力がある。だから、この力でみんなを守ればいいんだって」
そして、俺は視線を自分の手の平に落とした。
優斗「けれど、俺の力なんて何の役にもたたなかった。みんなに守られてばかりだった。だから、今はもっと強くなりたい。大切なものを守るために」
すると、飛鳥は振り返り、俺の顔を見てにっこりと笑った。
飛鳥「優斗らしい。――決めた! 私も戦う!」
飛鳥の想定外の言葉に、俺の反応が遅れた。
優斗「……はぁ!? た、戦うって、飛鳥!?」
飛鳥「もう決めたの」
優斗「決めたって言っても、危ないんだぞ!? 下手すれば、死ぬかもしれない!?」
飛鳥「優斗が言ったでしょ。大切なものを守るために戦うって。だから、私も大切なものを守るために戦う」
優斗「あ、あのな……」
よわったな……
自分で言った事とは言え、逆の結果になるなんて……
俺は困った様に、頭を掻いた。
飛鳥「ねぇ、優斗。私にも力の使い方を教えてよ」
優斗「え、えっと……」
俺が返答に困っていると、いつからそこにいたのか、紫苑が答えた。
紫苑「力の使い方なら私が教えてあげるわ」
飛鳥「紫苑さん!」
優斗「紫苑!? 力の使い方を教えるって!?」
紫苑「良いじゃない。奴らはまた必ず来る。飛鳥ちゃんが力を使えれば、こちらにとって戦力になるし、自分の身を守れる様になる。良いことづくめじゃない」
優斗「だけどな……」
紫苑「あんたが何を言いたいのかわかってるわよ。危ないから、巻き込みたくない。自分が戦うから、お前は戦うな」
優斗「うっ……」
紫苑に見事、胸の内を言い当てられた俺は、言葉が見つからなかった。
紫苑「戦うのはあんたの好きにしなさい。でも、優斗が飛鳥ちゃんの戦いを止めるのは、ただの自己満足にしかならない」
飛鳥「優斗。私なら大丈夫。そいつらが襲ってきたら、頭を撃ち抜いてやるわよ」
紫苑「頼もしいわね。ついでに、優斗のからっぽの頭も撃ち抜いて欲しいわ」
余計な事を言うなよ。飛鳥からやりかねない。
紫苑「さて、じゃあ、早速始めましょう」
//////紫苑の部屋
俺は飛鳥と一緒に紫苑の部屋で、術式の基礎を聞いていた。
そして、あの長い話しが一段落し、飛鳥の質問タイムが始まった。
飛鳥「紫苑さん」
紫苑「なに?」
飛鳥「例えば、さっき言っていた術式って、違う属性同士を混ぜて一度に使うことも出来るんですか?」
紫苑「良い質問ね。頭の良い子は好きよ」
飛鳥「えへ♪」
紫苑「他属性との合成術式は可能よ。ただし、術力の消費量は通常の倍以上になる。そして、身体への負担も極端に大きくなる。戦闘中の術力切れは死に繋がるからね。あまり実戦向きとは言えないわ」
優斗「へぇ~、そんな事も出来たのか」
すると、紫苑は小さな紙を取り出し、飛鳥に手渡した。
飛鳥「これは?」
紫苑「それは、術者の属性を知るための物よ。それを握りながら、さっき教えた通りに術力を込めてみて」
飛鳥は集中しやすいように目を閉じて、紙を握った。
次第に飛鳥の握っている紙の色が緑色へ変化していった。
優斗「緑色に変わった。――って事は、飛鳥の属性は木か」
紫苑「木?」
俺の言葉を聞いた紫苑は、不思議そうな表情で飛鳥の持っている紙に目を向けた。
優斗「どうしたんだ、紫苑?」
紫苑「もう一度、やってもらっていい?」
そう言って、紫苑は新しい紙を飛鳥に手渡した。
紫苑「あんたも」
すると、紫苑は俺にも紙を差し出してきた。
優斗「俺も?」
俺は渋々、紫苑から紙を受けとった。
そして、飛鳥と同じ様に術力を込めた。
優斗「俺も飛鳥も緑だな」
紫苑「おかしい……」
紫苑が俺と飛鳥の紙を見ながら、小さく呟いた。
優斗「紫苑、何がおかしいんだよ」
紫苑「あなた達の属性が一緒だって事がよ」
優斗「でも属性ってのは、術者によって違うんだろ? なら、一緒の奴がいたって、おかしくないんじゃないか?」
紫苑「普通ならね」
優斗「どういう事だ?」
紫苑「安里家の血筋は、飛鳥ちゃん一人だけのはず。だから、飛鳥ちゃんの中には、安里家に使えてきた精霊がいるはずなの」
優斗「それと、属性の事とどう関係してるんだ?」
紫苑「はぁ~……」
紫苑はため息をはいて、俺に視線を向けた。
紫苑「これから優斗にもわかるように説明してあげるから、大人しく聞いてなさい」
紫苑はそう言って、話しを続けた。
紫苑「精霊は五家。――つまり、桜耶、京澄、真城、藤平、安里の後継者の身体を依代としている、五家それぞれの守り神の様な存在なの」
優斗「後継者か」
紫苑「そう。今の状況で言えば、桜耶は優斗、京澄は私、真城は紬、藤平が時斗。そして、安里は飛鳥ちゃんのはず」
優斗「そりゃあ、安里の血筋は飛鳥しかいないんなら、それが必然じゃないか」
紫苑「だから、おかしいのよ。いい? 精霊はそれぞれ、火、水、土、木、金を司る精霊がいるの。そして、それぞれの精霊の依代となっている術者の属性は、依代としている精霊と同じでないといけないの」
優斗&飛鳥「あっ!?」
俺と飛鳥は同時に声をあげた。
紫苑「わかったみたいね。今わかっている精霊は、私を依代としている、火を司る精霊、焔。優斗を依代としている、木を司る精霊、桃樹の二人。飛鳥ちゃんが安里の最後の血筋だとすれば、飛鳥ちゃんの属性、木の精霊である桃樹は飛鳥ちゃんを依代にしていなければいけないことになる」
優斗「だけど、桃樹は俺を依代にしているから、おかしいって事か。――例えば、安里の血筋が飛鳥以外にもいて、そいつを精霊が依代にしてるって事はないのか?」
紫苑「それなら、奴らが必死になって飛鳥ちゃんを襲う意味がわからなくなるわ。奴らが飛鳥ちゃんを襲うのは、飛鳥ちゃんが安里の最後の血筋だから。これは間違いないと思う」
紫苑の言う通りだ。
奴らが必死に飛鳥を狙うのは、飛鳥が間違いなく、安里の最後の血筋だと言ってる様なものだ。
そこで俺は、簡単に答えがわかる方法を思いついた。
優斗「なぁ、もしかして、桃樹や焔に直接聞けばわかったりしないかな?」
紫苑「確かに、焔達に聞いた方が早そうね。――焔」
焔(なんだよ?)
紫苑「今の話を聞いてたわね」
焔(あぁ。だが、俺にはわかんねぇ。そいつの身体を依代にしてるのは桃樹だ。桃樹に聞けばいいだろ)
紫苑「なによ。使えないわね。――仕方ない。優斗、桃樹に聞いてくれる?」
優斗「わかった。――桃樹」
桃樹
優斗「さっきの紫苑が言ってた飛鳥と俺の属性について、わかることがあったら教えてくれ」
すると、桃樹は少し間をあけた。
桃樹(……申し訳ありません。私には、わかりません)
優斗「そっか。まぁ、その内わかるだろう」
俺が紫苑に同意を求める様に視線を向けると、紫苑は難しい表情をしていた。
優斗「紫苑?」
紫苑「……え? なに?」
優斗「難しい顔してどうしたんだよ? 焔も桃樹もわからないって言ってるんだから、仕方ないだろ?」
紫苑「……え、えぇ、そうね。とりあえず、害はなさそうだし、今は奴らに攻められた時の対策が先ね」
そう言った紫苑の言葉は歯切れが悪く、俺の中に何かが引っ掛かっていた。
その時、玄関の方から物音がした。
優斗「紬が帰ってきたのかな?」
そして、玄関を開ける音がした後に、なにかが倒れる音がした。
優斗「!?」
//////玄関
音を聞いた俺達が、急いで玄関に向かうと、そこには傷だらけで倒れている紬がいた。
優斗「紬!? ひどい傷だ……紫苑!!」
紫苑「急いで私の部屋に運んで!!」
//////紫苑の部屋
紬「……ん……」
優斗「紬!?」
紬「……優斗さん……それに、紫苑さん……」
優斗「何があったんだ!? 鬼人にやられたのか!?」
紬「……私の……私のせいで……」
優斗「紬?」
突然、紬は瞳から涙を流し、何かに恐怖をするように震える身体を握った。
紬「また……また……私のせいで……」
優斗「紬! 落ち着け! 何があったのか知らないけど、ここには紬の敵はいない!」
俺は紬の小さな両肩を握り、紬の瞳を真っ直ぐに見た。
紬「……優斗……さん……」
紬は俺の胸に頭をつけ、自分の顔を見られない様に泣いていた。
紬「……ごめんなさい……もう少しだけ……もう少しだけ、このままで……」




