第肆拾壱話『後編06 新しい力』
//////通常の道
飛鳥「何よ、優斗の奴。ちょっとくらい綺麗だからって」
私は優斗の家を飛び出した後、もやもやした気持ちのまま、街をふらふら歩いていた。
飛鳥「はぁ~……」
やっぱり、優斗も紫苑さんみたいに綺麗な人の方が良いのかな?
男性「お嬢さん」
飛鳥「……え?」
自分に声が掛けられたのだと気付くのに時間が掛かってしまった。
飛鳥「わ、私ですか?」
男性「はい。一人で寂しそうにしていたので、思わず声を掛けてしまいましたよ」
よく見ると、男性は私よりも年上。恐らく、24、5くらいだろう。
外見とは裏腹に、紳士的な言葉遣いをしていた。
飛鳥「あ、あの……」
男性「そんな時は、ストレスを発散させてリフレッシュをしましょう」
そう言って、その男性は私の手を握った。
飛鳥「え!?」
男性「さぁ、行きましょう」
//////通常の道
優斗「――はぁ、はぁ……くそ!? 飛鳥の奴、一体何処に行ったんだ!?」
俺は手当たり次第に、街の中を駆けずり回っていた。
頬を伝う汗を拭いもせず、呼吸は乱れたまま。
優斗「何がなんでも、奴らより先に飛鳥を……」
桃樹(優斗様)
優斗「桃樹か? こんな時になんだ!?」
桃樹(飛鳥様はこれより、斜め右、約1Km先にいらっしゃっいます)
優斗「わかるのか!?」
桃樹(はい。そこから飛鳥様の気を感じます)
優斗「さすが精霊。頼りになる」
俺は桃樹の言葉通りの方向に向かって、全力で走った。
//////人気のない街外れ
飛鳥「あ、あの……ここは……」
男性「この先に行った所に、僕のとっておきの場所があるんです」
飛鳥「とっておきですか?」
男性「そう。僕も寂しい時や気分転換したい時に来る場所なんですよ」
私はその男性に手を引かれるまま、街外れまで来ていた。
飛鳥「あの、なんで初めてあった私に、こんなに優しくしてくれるんですか?」
男性「私はあなたを必要とし、あなたは私を必要としているからですよ」
飛鳥「それは……」
男性「着きましたよ」
すると、私の視界全体に街が広がっていた。
飛鳥「うわぁ!? 街全体が見える!? こんな場所があったんだ!?」
男性「いかがですか?」
私はじっと街の景色に感動していた。
飛鳥「この街って、こんなに広かったんですね。私、ずっとこの街にいるのに、全然知らなかった」
男性「お互いの距離が近いほど、見えにくいものもあります。そして、それゆえにお互いを傷付けてしまう事も」
私はその男性の横顔に、小さな悲しみを感じた。
飛鳥「あ、あの……」
男性「どうしました?」
飛鳥「あなたの名前を聞いてもいいですか?」
男性「私の名前?」
男性は少し悩んだ後、にこりと笑った。
蛟「……蛟……」
飛鳥「蛟……さん?」
蛟さんの私に向けた笑顔が、私がよく知ってる奴のものと重なって見えた。
蛟「君にこれを渡しておくよ」
すると、蛟さんは内ポケットから小さな指輪を取り出した。
飛鳥「これは?」
蛟「近い内に君を襲う者達が現れる。私が守ってあげたいが、それは出来ない。もう少しすると、此処に君のナイト様が現れる。君の事は、彼が守ってくれる。この指輪はお守りだ」
そう言うと、蛟さんは私に背を向けた。
そして、聞き取れないくらい小さく呟いた。
蛟「大きくなったな、飛鳥ちゃん」
飛鳥「蛟さん!?」
私が振り向いた時には、蛟さんの姿はなくなっていた。
そして、蛟さんと入れ替わるように、聞き慣れた声が聞こえた。
優斗「飛鳥ー! いるのか!? いたら返事をしてくれー!!」
飛鳥「優斗?」
飛鳥(じゃあ、蛟さんが言ってたナイト様って……)
//////
優斗「飛鳥!?」
俺は桃樹の言う通りに走り、街外れで飛鳥の姿を見つけた。
優斗「大丈夫か!? 誰かに襲われたりしなかったか!?」
俺は呼吸も整えないまま、飛鳥の肩を掴んで言った。
飛鳥「優斗? どうしたの?」
不思議そうに聞いてくる飛鳥の表情を見た後、俺は飛鳥の身体を見た。
優斗「怪我はなさそうだな…………よ、よかった……」
俺は安堵の息を吐き、その場に座り込んだ。
飛鳥「なにかあったの?」
優斗「いや、ちょっとな……」
優斗(なぁ、桃樹?)
桃樹
優斗(飛鳥に安里の事や鬼人の事を言った方が、飛鳥自身も注意をしていいんじゃないか?)
桃樹(巻き込まないと言っていましたが、ここまでくれば知っておいた方がいいのかもしれませんね)
優斗
優斗「あす……!?」
俺が話し掛けようとした時だった。
不気味な気配を背後から感じた。
桃樹(優斗様!)
優斗(あぁ、俺にもわかった。何か近づいて来る)
身構えた俺の様子に、飛鳥は恐る恐る聞いてきた。
飛鳥「ねぇ、優斗。な、何かいるの?」
優斗「飛鳥。絶対に俺の側から離れるなよ」
俺は持ってきていた刀を鞘から抜いた。
優斗(桃樹。奴らの人数はわかるか?)
桃樹(恐らく、鬼人が一人に使いパシリの下級鬼が数匹)
静けさが逆に不気味に感じ、俺は周囲に最新の注意を向けた。
そして、突然、下級鬼が数匹飛び出してきた。
桃樹(優斗様!?)
優斗「はぁぁぁ!!」
俺は素早く下級鬼達を切り捨てた。
飛鳥「な、なによ、そいつら……」
飛鳥が怯えた様に言ったが、当然の反応だ。
桃樹(優斗様! 次が来ます!)
優斗「くそ! これじゃあキリがない。飛鳥! 走るぞ!!」
飛鳥「え?」
俺が飛鳥の手を引き走りだそうとした時、下級鬼の後ろから、そいつは姿を現した。
?「どこに行くんだ?」
優斗「お前は!?」
姿を見せたのは、あの時、紬と一緒に神社で戦った片瀬と言う鬼人だった。
片瀬「その娘を渡してくれないか? そうすれば、お前は傷付かずに済む」
優斗「飛鳥が狙いか」
桃樹(優斗様。やはり敵にも情報はいっている様ですね)
優斗(とにかく、この場を何とか切り抜けないと……桃樹! 力を貸してくれ!)
その瞬間、周りの空気の流れが、俺を中心に変化していった。
桃樹(優斗様。私達精霊の力は、大きく術力を消耗する上、身体への負担もございます。故に、私達の力を使っての長時間の戦闘はお避けください)
優斗(努力はしてみるよ。あとは、相手次第だな)
片瀬「さて、作戦は決まりましたか?」
優斗「――ッ!?」
そう言って、片瀬は歩みを止めず距離を詰めてきた。
片瀬「守りながらの戦いでは、逃げることも出来ませんよ?」
優斗「そんなの……やってみないとわからないだろ!?」
俺は周りの風を鋭い刃の様に圧縮し、片瀬に向けて放った。
優斗「うぉぉぉぉぉ!!」
無数の風の刃が宙を舞い、片瀬に襲い掛かった。
片瀬「ほぅ……少しは成長した様だが、その力を使い慣れていない様だな。恐らく、本来なら倍……いや、それ以上の力なのだろう」
確かに奴の言う通り、実戦で桃樹の力を使うのは初めてだ。
だからと言って、今引き下がるわけにはいかない。
無数に襲い来る風の刃を、片瀬は避けずに全て受け止めていた。
優斗「なら、こいつはどうだ!?」
その瞬間、片瀬を中心に風が渦を巻いていった。
片瀬「これは!?」
優斗「小さな竜巻さ。竜巻の中には、さっき使った風の刃もいれてある」
片瀬がゆっくりと竜巻の風に手を伸ばした。
すると、竜巻の風に触れた片瀬の腕に、無数の切り傷が刻まれた。
片瀬「ぐっ!? 小細工を……」
優斗「今だ! 逃げるぞ、飛鳥!!」
飛鳥「え?」
//////
優斗「はぁ、はぁ……」
飛鳥「ね、ねぇ、優斗。今のは一体なんなの?」
優斗「今は話してる時間がない。あとでちゃんと説明する。とにかく走れ!」
俺は奴らが見つけにくい様に、わざと道なき道を通っていた。
優斗(桃樹! 奴らの位置がわかるか!?)
桃樹(正確にはわかりませんが、優斗様の後を追ってきています)
優斗「くっ……」
何とかして、飛鳥だけでも安全な場所に連れていければ。
その時、背後で小さな物音が聞こえた。
優斗「――!? もう、追いつかれたか!?」
俺は急いで飛鳥を自分の方に抱き寄せ、臨戦体制をとった。
優斗(桃樹。一つ聞きたい)
桃樹(何でしょうか?)
優斗(この辺りの空気圧を変えられるか?)
桃樹(優斗様。私は仮にも木の精霊ですよ? 風は私の力の一部です)
優斗(よし。なら、この辺りの空気圧を真空近くまで変えてくれ)
桃樹(真空ですか? しかし、それでは優斗様や飛鳥様が……)
優斗(大丈夫。俺に考えがある)
桃樹
//////
片瀬「手間を掛けさせるな。何処へ逃げても無駄だと言うのが、まだわからないのか?」
俺達の後を追ってきた片瀬が、空気圧を変化させて作った真空内に足を踏み入れた。
片瀬「――これは!?」
片瀬は素早く真空内から外に出た。
優斗「さすがに鬼人でも、真空内は辛いんだな?」
俺は真空内から飛鳥と共に、片瀬の様子を伺っていた。
片瀬「何故、貴様は真空内に……」
優斗「簡単な事さ。俺と飛鳥の周りの気圧を意図的に上げているんだ」
片瀬はじっと何かを考えた後、下級鬼に指示を出した。
下級鬼達は一斉に真空内に飛び込んで来たが、その中は俺の領域。
風の力を応用し、下級鬼達の足止めをする事数分。
真空内で呼吸を続けていた下級鬼達の肺が、気圧に耐えられなくなり弾けた。
下級鬼「ぐ…………ぐぎぁぁ!?」
下級鬼達の肺が弾ける瞬間、俺は飛鳥の視界を塞いだ。
片瀬「なるほど、考えたものだな」
片瀬は感心する様に、動かなくなった下級鬼達に視線を送りながら言った。
優斗「お前はどうするんだ?」
片瀬「良いでしょう。今日のところは引き上げます。しかし、次は逃がさない」
そう言い残し、片瀬は姿を消した。
その瞬間、俺は使っている力を全て解除した。
優斗「――っ……はぁ、はぁ……」
飛鳥「優斗!?」
力を解除した瞬間、身体の中から一気に力が奪われ、思わず膝を地面についた。
桃樹(優斗様!?)
優斗「だ、大丈夫。なんでもないよ」
俺は心配そうな表情をしている飛鳥に笑って言った。
優斗(桃樹。これが精霊の力か)
桃樹(はい。術力の許容量が少ない術者の場合、私達の力による術力の消耗で命を落とす可能性もあります)
優斗(よくわかったよ。まずは、家に戻って……)
そんな会話を桃樹としていると、遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。
紫苑「優斗!? それに飛鳥ちゃんも!?」
優斗「紫苑か」
紫苑は直ぐに駆け寄ってきて、俺と飛鳥を交互に見た。
紫苑「よかった。二人とも無事のようね」
優斗「なんとかな」
紫苑「飛鳥ちゃん。聞きたい事が沢山あるだろうけど、一旦、優斗の家に戻りましょう。話はそれから」
俺は紫苑の肩を借り、ふらふらしながら立ち上がった。




