第肆拾話『後編05 五家の封印』
//////紫苑の部屋
俺と紫苑は現実の世界へ戻ってきた。
現実の時間で言えば、20分強。
優斗「なぁ、紫苑。これからは、好きな時に桃樹とは話が出来るんだよな?」
紫苑「えぇ、ご飯中でも、お風呂でも、トイレでも、四六時中出来るわ」
お、俺は突っ込まないぞ。
俺は紫苑の冗談に対し、静観することを決めた。
紫苑「ところで優斗。あんたの記憶だけど」
優斗「あ、あぁ……」
紫苑「それに、あんたのご両親」
父さんと母さんが生きていて、俺の記憶を改ざんしている……か。
なんで父さんと母さんは俺の記憶を改ざんなんかしてるのだろうか?
紫苑「優斗のないオツムで悩んでも無駄よ」
優斗「なっ!? 失礼な! 一応、学年では平均なんだぞ!」
紫苑「じゃあ、学年全体の平均が低いのね。とりあえず、お腹減ったわ。何か作って」
優斗「よくこんな時に食欲があるな」
紫苑「あら? 腹が減っては戦は出来ぬよ」
優斗「へいへい」
俺は仕方なく、少し遅い昼食を作りに、台所に向かった。
//////居間
紫苑「美味しい!?」
紫苑が俺の作った昼食を食べての一言だった。
紫苑「優斗、料理はそれなりに出来るんじゃない」
優斗「一人暮らしが長ければ、このくらいは自然に身につくさ」
桃樹(優斗様のお料理、本当に美味しそうです)
優斗「桃樹!?」
桃樹(何を驚かれているのですか? 四六時中、会話が出来ると紫苑様もおっしゃっていたじゃありませんか)
優斗「確かにそんな事を言ってたな。そう言えば、焔も四六時中喋れるんだよな?」
紫苑「あいつは口を開くとうるさいから、黙らせてるの」
焔(そうなんだぜ、相棒。全く、主人を変えてほしいぜ)
相棒? いつから、俺は相棒になったんだよ。
桃樹(あら、焔じゃない!?)
焔(お~、桃樹か!? 久しぶりだな!?)
桃樹(相変わらずね、焔。主人をもっと敬いなさい)
焔(お前も相変わらずだな、桃樹。ちったぁ、その石みたいにカチカチな考え方を直せないのか?)
紫苑「食事中よ。静かにしてなさい、焔」
焔
//////暗い部屋
男「楠は真城の娘を狙ったか。そして、藤平の跡取りも一緒に」
女性「ねぇ、あなた、これ以上は……」
女性の言葉が終わる前に、男は女性の頬を平手で打った。
女性「あっ!?」
男「うるさいぞ! お前はただ、私の言う通りにしていれば言いのだ。それとも、あいつの命を奪ってもいいと言うなら話しは早いが?」
女性「止めて! あの子の……優斗の命は……」
男「なら、私の言う通りにしていろ!」
すると、気配を絶ちながら、静かに片瀬が現れた。
男「片瀬か。道具は揃ったのか?」
片瀬「お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。道具は全て揃いました。あとは血のみになります」
男「五つの扉を開ける血か」
片瀬「はい。桜耶、京澄、真城の血は、餌を使い誘き出します。残るは安里のみになりますが、数年前の鬼人達の襲撃により、安里の血筋は絶えたと聞いております。いかがいたしましょう?」
男「案ずるな」
すると、男は一枚の写真を片瀬の足元に投げた。
片瀬「この娘は?」
男「名は九党 飛鳥。優斗と同じ高校に通う娘だ」
女性「あなた、まさか!?」
男「名を変えているが、この娘の本名は安里……安里 飛鳥。紛れも無く、安里の血を引く者だ」
片瀬「なるほど」
片瀬は写真を手に取り、不気味な笑みを浮かべた。
女性「待って下さい! 飛鳥ちゃんはあの時……」
男「関係ない。安里の血が手に入れば、それでいいのだ。それに一度は死んだのだ。二度もさほど変わらんだろう。――片瀬」
片瀬「承知致しました」
すると、片瀬は姿を消した。
女性「優斗……お願い。飛鳥ちゃんを……飛鳥ちゃんを……」
//////優斗の家
優斗「なぁ、紫苑。あいつらは何で月ちゃんをさらったんだ?」
紫苑「わからない。裏切り者を殺すのであれば、何も連れ帰って殺す必要はないと思う」
俺と紫苑は昼食を終え、今後の動きを立てるため、話しをしていた。
優斗「じゃあ、なんで……」
紫苑「例えば、こう言う考え方はどう? 月ちゃんが奴らの目的達成のために必要で、そのためにさらった」
優斗「奴らの目的って、鬼神の復活だろ? 何で月ちゃんが……」
紫苑「今の情報じゃ、それ以上の仮説を立てられない」
桃樹(鬼神ですか。随分と懐かしい者の話しをしていますね)
優斗「桃樹……そうだ!? 桃樹や焔は前に鬼神を封印したんだよな!? なら、鬼神の封印や復活について何か知らないか?」
桃樹(鬼神の封印についてですか。ちなみに優斗様達は、どこまでお知りですか?)
優斗「鬼神を復活させるために、三つの道具が必要で、それが揃うと鬼神の封印が解かれるって事」
桃樹(なるほど。大体は当たっています。ただし、今、優斗様がおっしゃられた物以外にも必要な物があります)
優斗「なんだ、それは?」
桃樹(それは、鬼神を封印した五家の者達の血です)
優斗「五家の血? それって、確か……」
紫苑「安里、藤平、京澄、真城、そして……」
紫苑の言葉が途切れ、ちらっと俺に視線を向けた。
桃樹(そして、桜耶……)
優斗「桜耶? それって……」
紫苑「えぇ、あなたの家系よ、優斗。初めてこの家に来た時に言った結界の話しは覚えてる?」
優斗「あぁ、確かこの家はずっと結界に守られているって話しだよな」
紫苑「そう」
優斗「でも、あの時、紫苑はこの結界は簡単に出来る初歩的な物だって」
紫苑「言ったわね。ただし、その結界を数年……いえ、数十年張り続けるなんて、私でも出来るかどうかわからない」
桃樹(つまり、優斗様の御父上と御母上は、優秀な術者だったと言う事です)
紫苑「それで、何故五家の血が封印を解くのに必要なの?」
桃樹(それは五家の血がなければ、鬼神の封印された場所にたどり着く事も出来ないのであります)
紫苑「どう言う事なの?」
桃樹(我々は鬼神を封印した後、二度と復活出来ぬ様に念を入れ、その場所に行く道の途中に五つの扉を造りました)
紫苑「五つの扉?」
桃樹(はい。五つの扉を開くには、それぞれ扉を造った家系の証明とし、血が必要なのです)
紫苑「五つ……つまり、安里、藤平、京澄、真城、桜耶の五家の人間の血って事ね」
桃樹
紫苑「でも、ちょっと待って」
桃樹(いかがいたしましたか、紫苑様)
紫苑「五家って事は、つまり、私、優斗、時斗、紬、あとは安里だけど、数年前に鬼人の襲撃によって、安里の血は絶えたと聞いているわ。だから、安里の血は手に入れられない。それなら、心配ないんじゃない?」
桃樹(確かに紫苑様の言われる事は、その通りでございます。しかし……)
そこで桃樹の言葉が途切れた。
優斗「桃樹?」
桃樹は何かを思い悩む様に、長い間を開けた。
すると、紫苑は桃樹の長い沈黙から、その意味を感じた様だった。
紫苑「――いるのね」
桃樹(――!?)
言葉に出さなくても、俺には桃樹の気持ちが伝わってきた。
紫苑「誰なの? あなたのその感じ……その安里の血を引く者は、私達の知っている人物?」
桃樹は沈黙を保ったまま、何も言葉にしなかった。
優斗「桃樹、答えてくれ! 奴らがその事を知ったら、きっとそいつを襲う。だから、奴らが勘ずく前に、俺達はそいつの所に行って、一緒に戦わないと!!」
桃樹(……優斗様……わかりました)
桃樹は観念した様に、ため息を吐いた。
桃樹(安里の血を引く最後の生き残り…………それは、飛鳥様でございます)
俺は桃樹の言葉に、自分の耳を疑った。
優斗「飛鳥が?」
桃樹(はい。飛鳥様は安里の血を引いておられます)
紫苑「飛鳥って、今朝来ていたあの子?」
俺の中で激しく心臓が鼓動していた。
飛鳥が安里の生き残り?
もし、敵が飛鳥の事を知っていたら……
そう思うと、いても立ってもいられなかった。
俺は刀を持ち、飛鳥を探しに家を飛び出した。
紫苑「ちょ、ちょっと、優斗!?」




