第参拾玖話『後編04 時斗VS楠』
//////暗い部屋
男「奴が動いたか……あれは限度を知らんからな」
正装した男「はい」
男の側に膝をついた男は正装に身を包み、穏やかな声で言った。
正装した男「狙うは真城のお嬢様でしょうが、あの時の様に周りの者まで巻き込まれては困りますね」
男「全ての駒が揃うまではな…………仕方ない、お前は奴の行動を監視しろ。そして、周りの者……特に五家に関係のある者が巻き込まれそうになったら、私が許す。奴を殺れ」
そう言った男に、正装のした男は変わらない口調で言った。
正装した男「よろしいのですか?」
男「構わん」
正装した男「かしこまりました。――では……」
正装した男は静かに姿を消した。
//////街外れの岩場
紬「はぁ、はぁ……」
あ、暴れる。
美鬼との戦闘で、制御の力が弱まっている。
紬「……あ……あぁ!!」
ゆ、優斗さんや、紫苑さん達にこの姿は見せられない。
紬「……ごほっ!?」
?「ちっ! 自分で抑えられるだけの術力は残しときや」
紬「……あ、あなたは……」
視界に映った男は、紬を中心に五亡星を描いた。
?「五行破邪!!」
その瞬間、紬の中で暴れていた者は、ピタリと活動を停止させた。
//////
時斗「大丈夫か?」
紬「え、えぇ、助かりました。まさか、あなたに助けて頂けるとは……時斗さん」
紬と時斗は近くの岩に腰を下ろしていた。
時斗「まさかと思うたが、来てみて正解やったな」
すると、時斗は紬に鋭い視線を向けた。
時斗「あんた、鬼人か?」
紬「先ほどのものを見られては、言い訳などできませんわ」
時斗「そうか。何でその力を使わん? その力をつこうたら、もっと楽な戦いが出来るはずや」
紬は何も言わなかった。
紬にとって、それは思い出しただけでも吐き気のする記憶だった。
紬「……………」
時斗「まぁ、言いたないなら、別に聞かへんよ。ほな、俺は行くで……!?」
その瞬間、強い邪気がこちらに近付いて来ているのを感じた。
時斗「敵さんのお出ましかい」
時斗がそう言った直後、目の前になにかが落ちてきた。
そして、土煙の中から、一つの人影が現れた。
?「……はぁ~……長かった」
人影は土煙の中、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。
?「永遠とも思える時間だった」
次第に土煙が風に運ばれ、人影の姿が現れた。
?「僕の最愛の女性。――真城 紬」
土煙の中から現れたのは、長身で肩に掛かる程の髪。
まるでどこかの雑誌モデルの様な、体格の男だった。
紬「あなたは……楠 真木」
楠「覚えていてくれて光栄です」
時斗「知り合いなんか?」
紬は時斗の質問に返答をせず、楠に鋭い視線を送った。
楠「知り合いも何も、紬は僕と出会うために生まれた女性だ。そして、僕も紬に会うために生きてきた」
時斗「何言うてんのや?」
紬「気安く私の名を呼ばないで下さい!!」
紬は声を荒げて言った。
楠「何を言ってるんだ? 紬の本当の姿は違うだろ? 本当の紬をさらけ出せよ? 僕は紬の全てを愛してあげるから」
楠は甘美な表情を浮かべ、紬の全身をなめ回す様に視線を移動させていった。
時斗「……真城のねぇちゃん……あいつ、ほんまに敵なんよな?」
すると、紬に声を掛けた時斗に対し、楠は強烈な殺気を放った。
時斗「――!?」
楠「そこの男……貴様、僕の紬になに軽々しく声を掛けてるんだ!?」
その瞬間、楠の足元の地面が盛り上がり、骨だけの骸骨が現れた。
紬「時斗さん!? 気をつけて下さい。楠の能力は死者を操る力です」
時斗「死者を?」
そうしている間にも、次々と土の中から骸骨が姿を現した。
楠「貴様、僕の紬から離れろ! 紬が本来の姿に戻るのを邪魔したあげく、僕から紬を奪う気だな!?」
時斗「……なぁ、ねぇちゃん。あいつ、あぁ言うてるけど……」
紬「吐き気のする言葉を! お前は私が殺す!!」
紬の言葉が言い終わるのと同時に、骸骨達が一斉に襲い掛かった。
時斗「きよったか」
しかし、骸骨達の攻撃を、時斗はあっさりとかわしていった。
時斗「なんやこの蝿の止まる様な攻撃は?」
すると、時斗の周りに氷の刃が作られた。
時斗「悪いが、あんたらにつこうとる時間はあらへんのや」
その瞬間、いくつもの氷の刃が宙を舞い骸骨達に降り注いだ。
時斗「さぁ、あらかた片付いたで。こんなんなら、真城のねぇちゃんの手を借りることあらへんな」
楠「……ふ……ふふふ……あはははは! いいよ。やっぱり、僕らの愛は困難な程、深く深く高まっていく。そうだろ、紬!?」
楠は狂った様な笑いをあげながら、紬に言った。
時斗「……なぁ、真城のねぇちゃん。俺、あいつとの戦闘、苦手や」
紬「………………」
紬の中で楠の言葉を聞くたびに、憎悪が広がっていった。
楠「さぁ、次は楽しいよ!? さっきのガラクタ共と違い、良い素材だからね」
そう言うと、楠の足元から柩の様な物が三つ、現れた。
時斗「なんやあれ?」
紬「柩の様に見えますが……」
そして、それぞれの柩がゆっくりと開いていった。
楠「出てこい! 最高の死体共!」
時斗「あいつは!?」
紬「……まさか、あなたは……」
柩の中から現れたのは、死んだはずの四精鬼、豪鬼、美鬼、絶鬼の三人だった。
楠「いい。いいぞ! 彼等の死に際の断末魔が、僕の頭に流れ込んで来る!」
楠は流れ込んでくる、生の事切れる瞬間の苦痛を感じ、高揚したような表情を浮かべていた。
楠「行け、人形共!!」
楠の命令を受けた豪鬼、美鬼、絶鬼は同時に、紬達に襲い掛かった。
時斗「豪鬼!?」
豪鬼は間合いに入っていない距離で、手にした大剣を振るった。
時斗「カマイタチ!?」
時斗は素早く豪鬼が振るった大剣の斬戟軌道上から移動した。
すると、先程まで時斗がいた地面がパクりと割れた。
時斗「相変わらず、なんちゅう破壊力しとるんや」
そして、休む間もなく、豪鬼に続き絶鬼が時斗の目の前に迫っていた。
時斗「いつの間に!?」
その瞬間、時斗の視界がぐらぐらと霞み、目の前にいたはずの豪鬼と絶鬼の姿が消えた。
時斗「な、なんや!?」
二度、三度、頭を振り、状況を再度確認する。
しかし、何も変化は起こらなかった。
時斗「幻覚の一種か?」
すると、突然時斗の前に楠の姿が現れた。
楠「やぁ、こんにちは」
時斗「お前は!?」
動こうとした時斗だったが、両手両足を骸骨に抑えられていた。
時斗「くそっ!」
楠「くくく……動けませんね」
楠は動けない時斗の胸に指を当てた。
楠「さて、どうしましょうか?」
そう言った楠の指が、少しずつ、時斗の中に入っていった。
時斗「ぐっ……」
楠「これくらいでは悲鳴をあげませんか」
楠が残念そうに呟いた瞬間、時斗の幻覚が解かれた。
紬「時斗さん!?」
そこには、美鬼と必死で戦う紬の姿があった。
楠「紬。彼には紬が本当の紬に戻るために協力をしてもらう事にしたよ」
紬「――!? 楠!!」
紬の頭を吐き気のする記憶が何度も通過した。
しかし、紬が駆け付けようとしても、美鬼をそう簡単退ける事は困難だと、一度戦った紬にはよくわかっていた。
紬「楠! お前の目的は私だ! 他の人に手を出すな!!」
楠「違うよ、紬。僕が会いたいのは君じゃない。本当の紬なんだよ。だから、本当の紬になってくれないと意味がないんだ」
すると、楠は五指を同時に時斗の胸に突き刺した。
時斗「ぐぅっ!?」
楠「紬が本当の紬に戻れるように、僕は力を貸してあげるんだよ」
紬「時斗さん!? 楠! 時斗さんに何をした!!」
楠「死者の一部を体内に埋め込んだだけだよ。それは、少しずつ各機能を奪っていく、腕から脚、視覚、聴覚……最後は恐怖の悲鳴をあげ、心臓を食い破られて終わりだ。――どうだ? 素晴らしいだろ、紬!?」
紬「――!? 楠ーー!!」
いくら叫ぼうが、紬の前には美鬼が立ちはだかり、楠に近づく事は出来なかった。
楠「では、紬。次に会う時は、本当の紬に戻っている事を願っているよ」
そう言って、楠と四精鬼達は時斗を残し、姿を消した。
紬「時斗さん!?」
力無く地面に倒れた時斗の側に、紬が駆け寄った。
時斗「だ、大丈夫や……なんでもあらへん……」
紬は知っていた。
この後、楠が時斗に埋め込んだ死者のかけらにより、時斗がどのようなに苦しみ、死に至るかを。
紬「時斗さん。一緒に優斗さんの家まで来て下さい」
時斗「なんで、あないなとこへ行かなあかんのや」
紬「いいから、一緒に来て下さい」
時斗「いらん世話や」
時斗が紬の言葉を無視して去ろうとした時、紬が時斗の腕を掴んで止めた。
紬「……私は……私は……知っています。楠の埋め込んだ死者のかけらが、時斗さんにどのような苦しみを与えるのか」
紬の声は震え、溢れ出した涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。
紬「私の親友と同じ様に苦しみ、死を迎える姿を見たく、ありません……だから……」
最後は声が掠れ、言葉になっていなかった。
時斗は震える紬の手をそっと引き離した。
時斗「勘違いするんやない。俺はあんたの為に戦ったんやない。これは俺の未熟さが招いたモノや。あんたには関係あらへん」
そう言って、時斗はその場から去っていった。




