第参拾捌話『後編03 優斗の世界 再び』
//優斗の世界
優斗「……ッ……」
目を覚ますと、そこは来たことのある何もない荒野が広がっていた。
優斗「ここは……」
俺の世界。
以前にも何回か来たことがある、俺の世界だ。
紫苑「ふ~ん……これが優斗の世界ね」
紫苑は一通り辺りを見回した。
紫苑「全て荒野の世界か」
紫苑(普通なら、自分の属性を表すような世界のはず。確か、優斗の属性は木だったから、自然に関わる世界が広がっていてもいいはず。優斗には悪いけど、武器を探しながら記憶も探した方がよさそうね。何かわかるかもしれない)
優斗「紫苑?」
紫苑「……え?」
紫苑は何やら考え事をしていたらしく、俺の声に反応した。
紫苑「何か言った?」
優斗「いや、これからどうしようかと思って。見た通り、俺の世界は何もないし」
紫苑「とりあえず、歩いてみましょう。何か見つかるかもしれないし」
優斗「わかった」
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紫苑「それにしても、本当に何もない所ね」
暫く歩いて、紫苑がぽつりと漏らした。
優斗「人の世界に文句をいうなよな。それより、自分で言うのもあれだけど、本当にこんな何もない場所に武器なんかあるのか?」
紫苑「必ずあるはずよ。形が武器の形をしているかわからないけどね」
その時、俺達の前に黒い霧が表れた。
優斗「なんだ、あれ?」
そして、黒い霧は次第に集まり、形を成していった。
紫苑「なに!? ここは優斗の世界。他の生き物はいないはず!?」
俺達の困惑を余所に、黒い霧は鋭い爪と牙を立て、襲い掛かってきた。
優斗「うわ!?」
紫苑「優斗!?」
優斗「大丈夫だ! それより、こいつは!?」
紫苑「わからない! とにかくこいつを何とかしないと!」
すると、突然、紫苑の手にナイフが握られた。
紫苑「ナイフ? 紫苑、そんな物どこからだしたんた!?」
優斗「ここは優斗の世界。いわば精神の世界よ。強く想えば、それは形作られる」
強く想う?
とにかく、刀だ。
刀は今、俺の手の中にある。
刀は、俺の手の中にある。
優斗「出た!?」
紫苑「優斗!?」
俺の意識が反れたのを見て、黒い霧は襲い掛かってきた。
優斗「はぁぁぁぁ!!」
俺は鋭い爪を上体の動きだけでかわし、牙を刀で受け止めた。
そして、素早く刀を引き戻し、相手の体制が戻る前に、てっぺんから真っ二つに斬った。
優斗「どうだ!」
勝利を確信した時、黒い霧は切り口から二つに分かれ、それぞれが再生していった。
優斗「切り口から二つに!?」
紫苑「こいつらに斬戟は無駄の様ね」
優斗「紫苑、どうする!?」
紫苑「この世界じゃ私は術力の類を使えない。優斗! 術で奴らを攻撃して!」
優斗「術!? 突然、そんな事言われたって…………くっ!?」
俺は反射的に、襲い掛かってきた黒い霧を斬ってしまった。
すると、黒い霧は先ほどと同じ様に、切り口から増殖していった。
紫苑「何してるの!? 斬戟は奴らの数を増やすだけよ!」
優斗「わかってる!」
だけど、攻撃をされたら術に集中できない。
紫苑「優斗、危ない!?」
優斗「――!?」
黒い霧の内二つが、左右から同時に襲い掛かってきた。
その瞬間、黒い霧達の頭上に雷が落ちた。
優斗「うわぁ!?」
黒い霧達は、雷と共に消滅した。
?「情けないですね。あの程度の雑魚に手こずるとは」
優斗「君は……」
俺が振り返ると、そこにはこの世界で会った、名前も知らない少女が立っていた。
少女「この様なところで命を落とされては困ります」
優斗「あ、ありがとう。助かったよ」
すると、紫苑はじっと少女の姿を見て言った。
紫苑「あなたは何?」
少女「それはこちらの台詞だ。何故、主人の世界に主人以外の人間がいる?」
紫苑「――!? あなた、今、優斗の事を主人と言った?」
少女「えぇ。主人を主人と言って、何かいけませんか?」
少女は紫苑に鋭い視線を向けた。
少女「まぁ、この様な話をせずとも、わかっています。主人、この方向にあなたを助けてくれる精霊がいます。その者ならば、主人の力になれるでしょう」
そして、少女は俺達に背を向けた。
優斗「あっ、待ってくれ!?」
少女「何でしょう?」
優斗「君の……君の名前を教えてくれ」
少女「名前は……主人、あなたの中にあります。それを思い出せた時、私は再び主人の力となりましょう」
そう言って、少女は消えてしまった。
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紫苑「優斗、あの子とは以前も会ってるの?」
優斗「わからない」
紫苑「わからないって……確かにあの子は優斗と会っている話し方だったわ」
優斗「いくら考えても思い出せないんだよ。あの子が誰なのか」
紫苑「そう。まぁいいわ。とにかく、あの子の言っていた方向に進んでみましょう」
優斗「あぁ」
紫苑(でも、あの子の雰囲気どこかで……)
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それから暫く、俺と紫苑はあの子の言っていた方向に向かって進んでいた。
優斗「あれから、どのくらい経ったかな?」
紫苑「さぁ。この世界での時間は、外とは進み方が違うから」
すると、前方から僅かにであるが、暖かい風が吹いてきた。
紫苑「風?」
優斗「暖かい風だ」
俺と紫苑が前方に目を向けると、そこにはぼんやりと人影が見えた。
優斗「あれがあの子の言ってた、力を貸してくれる人かな?」
紫苑「優斗、罠かも知れないわ。慎重にいくわよ」
紫苑(いくら何でも、優斗の世界に存在する者が多過ぎる。さっきのあの子は、優斗の事を主人と呼んでいた事から精霊に違いない。だからこそ、次の者が安全であるかわからない。精霊の他に存在する何かが……)
俺と紫苑は周りに注意を払いながら、慎重に前方の人影に近づいていった。
?「あら? お久しぶりですね、優斗様」
優斗「――!?」
周りに注意を払っていた俺達が気付かない間に、前方の人影が消え、背後から声が掛けられた。
慌てて、俺と紫苑は前方に踏み出して、距離をとった。
紫苑「敵!?」
臨戦体制をとった俺に人影は、嬉しそうな笑顔を見せた。
?「ふふふ……いやですわ、優斗様。お久しぶりに会って、私の顔をお忘れになりましたか?」
優斗「え?」
俺はその言葉の意味がわからなかった。
そんな俺に対し、人影は不思議そうな声を出した。
?「あら? もしかして、本当に私がわからないのですか?」
優斗「前に会っていたのかな? すいません」
?「い、いえ、私などに優斗様が頭を下げられてはいけません」
よく見ると、人影は不思議な格好をした、綺麗な女性だった。
そんな俺達のやり取りを見ていた紫苑が、痺れを切らし、会話に割り込んできた。
紫苑「話し中に失礼。単刀直入に聞くわ。あなたは何者?」
すると、女性は紫苑を見て、敵を見る様な視線を向けた。
?「あなたこそ何者です? 優斗様、ご命令を頂ければ、この者を排除致します!」
女性の殺気を感じ、紫苑もまた警戒を高めた。
優斗「わわわ!? た、たんま!? 待て、ストップだ!!」
?「優斗様、私がこの様な事を言う立場ではないですが、敵は排除すべきです!!」
優斗「いや、だから紫苑は敵なんかじゃないんだ! とにかく、俺の言うことを聞くってんなら、紫苑と戦わないでくれ!」
すると、女性は何もなかったかの様に、元に戻った。
?「優斗様がそう言われるのであれば……しかし、この者は何者ですか? 何故、優斗様の世界に?」
紫苑「それはこっちの台詞よ」
優斗「あ~、二人とも落ち着けって。とりあえず、あなたの事を聞かせてほしい。紫苑は俺の仲間で、今は俺の世界にある武器を探すのを手伝ってくれてるんだ」
?「ちょっと、失礼致します」
そう言うと、女性は人差し指で紫苑のおでこに触れた。
?「――なるほど。それであなたはここに……優斗様。紫苑様が味方であることはわかりました」
優斗「今、紫苑に何をしたんだ?」
?「記憶を見せて頂きました。――ところで優斗様。本当に私がわからないのですか?」
優斗「えぇ……その……すいません」
?「では、飛鳥様の事は?」
優斗「飛鳥?」
飛鳥って言ったら、俺は一人しか知らない。
優斗「何で飛鳥の名前が出てくるんだ?」
?「………………」
女性は何も話さず、じっと俺の顔を見ていた。
そして、突然にこりと笑った。
?「色々と聞いてしまい、申し訳ありませんでした。最後に一つ。優斗様。あなたは我が力を求めますか?」
優斗「力を貸してほしい」
?「力を手に入れた事により、苦しく辛い戦いに身を投じる事になっても?」
優斗「大切な人達を守るためなら」
俺の答えを聞いた女性は、優しく笑った。
?「あの頃とお変わりない様ですね。安心しました」
女性は俺の前まで歩みを進め、片膝を地面につけた。
桃樹「ただいまより、木の精霊 桃樹。再び、優斗様を守護する風となりましょう」
その瞬間、桃樹の身体を包むように、優しい風が吹いた。
そして桃樹の言葉を聞いた紫苑が、驚いた様に言った。
紫苑「精霊? ちょ、ちょっと待って!?」
桃樹「いかが致しましたか、紫苑様?」
優斗「急にどうしたんだよ、紫苑?」
紫苑「精霊は一人しか身体に封じられないはずよ。桃樹が精霊であるとするなら、途中で会った子は何? 優斗の事を主人と呼んでいたから、私はてっきり精霊だと思っていたけど」
優斗「そう言えば……」
確かに俺の事を主人と呼んでいたな。
紫苑の言葉を聞いた桃樹の表情に一瞬、雲が掛かった。
桃樹「あの方に会われたのですか?」
優斗「何か知ってるの?」
桃樹「すみません。私の口から申し上げる事は出来ません。ただ、あの方は…………いえ、何でもありません」
何かを言おうとした桃樹は、言葉を途中で止めた。
紫苑「その様子だと何か知ってそうね? まぁ、無理には聞かないわ。優斗が思い出せば済む事だもの。それより、あなたに会う途中、黒い霧の化け物に襲われたんだけど、あれは何?」
桃樹「あれは、優斗様の記憶を守るための番人です」
紫苑「優斗の?」
優斗「なんで俺の記憶を? 一体誰が?」
すると、桃樹は少し悩んだ後、俺の目を真っ直ぐに見て言った。
桃樹「優斗様の記憶を奪っているのは、優斗様の御父上と御母上にございます」
優斗「え?」
まさか、二人ともあの火事で死んだはずだ。
生きているわけがない。
言葉の出ない俺の様子に、桃樹は静かに言った。
桃樹「優斗様の御父上様、御母上様はご健在にございます。そして、優斗様が私の事をお忘れになられていた事から、何らかの記憶の改ざんがあるのでしょう」
紫苑「じゃあ、その改ざんした部分の記憶を、あの黒い霧の化け物が守ってるって事か」
俺の記憶?
父さんと母さんが生きてる?
何がどうなってるんだ?
じゃあ、今の俺の記憶は俺の物じゃないのか?
紫苑「優斗。落ち着いて。優斗!?」
優斗「……紫苑?」
紫苑の顔が見える。
もしかしたら、今見ている物も全て夢や幻なのか?
紫苑「だめ。完全に混乱してる。仕方ない、ちょっと荒っぽいけど…………優斗! 起きなさい!!」
すると、紫苑は俺の胸倉を掴み、頬を思いっ切りひっぱたいた。
紫苑「起きろ! 起きろ! 起きなさいよ!!」
優斗「…………っ……た……イタタタ!? 痛い! 痛いって、紫苑!!」
紫苑「目が覚めた?」
優斗「……あ、あぁ……バッチリな」
俺は紫苑にひっぱたかれた頬を撫でながら言った。
紫苑「とにかく、優斗のお父さんが何らかの理由で、優斗の記憶を改ざんしてるってわかっただけでも大きいわ。桃樹の力も得た事だし、一度戻りましょう」
優斗「そうだな。ここに来てどのくらい経ってるかわからないしな」
そして俺は桃樹を見て言った。
優斗「桃樹さん」
桃樹「桃樹で構いませんよ、優斗様」
優斗「じゃあ、桃樹。俺達がここから出ても、桃樹と話しは出来るの?」
桃樹「えぇ、いつでも。心の中で私を呼んで頂けたなら、優斗様の声は届きます」
優斗「わかった。それじゃあ、また」
桃樹「はい。お気をつけて」




