第参拾漆話『後編02 新たな力を求め』
//居間
次の日の朝。
朝食を終えた後、俺は皆を集めた。
優斗「皆、聞いてくれ」
俺は皆を前にし、話を始めた。
優斗「昨日の戦闘は、本当に危険だった。その証拠に、紫苑や紬、他のみんなも大きなダメージを負ってしまった。だから、少しの休養をとって身体を休めた方が良いと思うんだ」
俺の言葉を聞いた紫苑と紬はじっと一点を見つめていた。
紫苑「優斗」
優斗「なんだ、紫苑?」
紫苑「今は休んでる暇なんてあるわけないでしょ!? 結界は発動され、あの子だって連れ去られた。急いであいつらを止めないと、街の人の命が危ない!」
優斗「そんな事は、俺だってわかってる。だけど、今の満身創痍なまま奴らと戦うのは、死にに行くような事じゃないのか!? 俺達が死んだら、誰があいつらを止められるんだ!」
紫苑「じゃあ、優斗はあいつらを止めるために、街の人が犠牲になってもいいって言うのね!!」
優斗「そんな事は言ってない! 俺はただ、今のままで行けば、俺達は何も出来ないまま殺されるって言ってるんだ! 今度は今までの奴らより、もっと強敵が出てくるに違いない!」
紫苑「――ッ!?」
すると、紫苑は立ち上がり、そのまま部屋を出ていった。
優斗「紫苑!」
紫苑の後を追い掛けようとした俺の服を掴み、紬が止めた。
紬「今はそっとしておいてあげましょう」
紬の言葉で俺は立ち止まった。
俺には紫苑の気持ちは痛いくらい伝わってきた。
先日の術力供給のため、紫苑と繋いだ術糸の影響が強いのかも知れない。
紬「私は優斗さんの意見に賛成ですよ。優斗さんの言った通り、今の私達では、十分に戦う事は出来ませんから」
優斗「…………」
紬「それに紫苑さんも、わかっているはずですから。――――――ッ!?」
そう言うと、紬は立ち上がった。
優斗「紬?」
紬「わ、私はこれから用があるので失礼しますね」
そして、紬が部屋を出て、暫くした頃、玄関の扉を叩く音が聞こえた。
優斗「ん? 誰だ?」
//玄関
優斗「はーい! 今、開けます!」
そう言って玄関の戸を開けると、不機嫌そうな顔をした飛鳥が立っていた。
優斗「飛鳥? どうしたんだ?」
飛鳥「どうしたじゃないわよ! 無断で何日も学校休んで!」
優斗「学校?」
あっ!? そういや、学校にはなんの連絡もしてなかった!?
って、事は、俺は無断欠席をしてたって事か。
俺はしまったと、髪をくしゃくしゃと触った。
優斗「飛鳥。これには、深い事情があってだな」
飛鳥「深い事情?」
優斗「そう。話せば長くなるが……」
紬「優斗さ~ん!」
すると、奥から外出の仕度を整えた紬が出てきた。
飛鳥「…………」
紬「優斗さん。では、行ってきますね」
優斗「あぁ、いってらっしゃい」
そう言って、紬はあっさり飛鳥の横を通過していった。
飛鳥「……優斗……」
優斗「ん?」
その瞬間、俺の中を何かが通過したのを感じた。
そして、そのすぐ後を追う様に紫苑が姿を現した。
紫苑「優斗!」
優斗「紫苑? そんなに慌ててどうしたんだ?」
紫苑「何ともない!?」
優斗「別に何ともないよ。何かあったのか?」
紫苑「今、私の中から優斗に術力が送られたの」
優斗「術力? じゃあ、さっき何かが身体を通過した感じがしたのって」
紫苑「多分、私の術力が優斗に流れたから。それで、必要以上に優斗に送られてないかと思って」
優斗「特に異常はないよ」
紫苑「よかった」
紫苑がほっと、安堵の息を吐いた。
紫苑「昨日、初めて繋がって、今日が初日だったから」
飛鳥「……繋がった? 初日?」
優斗「心配してくれたのか?」
すると、紫苑は何かに気付いた様で、頬を赤くした。
紫苑「ば、馬鹿じゃないの!? 誰が優斗の心配なんか!?」
紫苑とそんなやり取りをしていると、肩をトントンと、叩かれた。
優斗「ん?」
振り向くと、そこには恐ろしい程、輝く笑顔の飛鳥がいた。
飛鳥「優斗」
優斗「ど、どうしたんだ、飛鳥?」
すると、飛鳥は超至近距離で弓を引きはじめた。
飛鳥「優斗のばぁ~か~!!!」
//居間
飛鳥「あ……あはは……そうだったんだ」
怒りの頂点に達していた飛鳥をどうにか宥め、紬や紫苑の事を説明した。
勿論、鬼や術の事は全て隠して。
飛鳥「でも、優斗の親戚にこんな綺麗なお姉さんがいたなんて」
飛鳥は紫苑の事をじっと見つめていた。
紫苑「あ、飛鳥ちゃん。そんなに見られても困るんだけど」
飛鳥「あっ!? すいません!」
すると、紫苑は俺に視線で合図を送ってきた。
紫苑「飛鳥ちゃん。ちょっと、待っててもらってもいいかな? 今、優斗に荷物を運んでもらっていて」
優斗「荷物?」
そう言った俺の脇腹を、紫苑は飛鳥に見えない位置で、思いっきりつねってきた。
優斗「――っ!?」
飛鳥「優斗? どうしたの?」
紫苑「何でもないのよ。さぁ、早く片付けちゃいましょ。優斗」
俺は強引に紫苑によって、その場から連れ出された。
//廊下
紫苑「ちょっと、優斗。彼女をどうするつもりよ?」
優斗「飛鳥を巻き込むわけには行かないから早く帰したいんだけど、中途半端な理由じゃ余計怪しまれるからな」
俺と紫苑は、飛鳥に聞こえない位置で話しをしていた。
紫苑「だからって、彼女がここに来たら、いずれは巻き込む事になるわよ」
優斗「わかってる」
紫苑「それと、彼女の名前は何て言うんだっけ?」
優斗「名前? 九党 飛鳥だけど、それがどうかしたのか?」
紫苑「――いや、なんでもない。ちょっと、気になっただけ」
優斗「ふ~ん。飛鳥の事は、俺が何とかする」
紫苑「わかったわ。優斗に任せる」
紫苑(――九党 飛鳥……か。初めて会うはずなのに、どこか懐かしい気配がするのよね……私の気のせいなら良いんだけど)
優斗「なぁ、紫苑」
紫苑「ん?」
優斗「今、俺の身体を取ろうとしている鬼は、どうなってるんだ?」
紫苑「今は大丈夫よ。今回、優斗と繋がった事で、あんたの中に行く事もできる様になったから、いざって時は、内側から私が鬼を抑える」
優斗「そうか。なら、少しは紫苑と離れてても大丈夫になったのか?」
紫苑「えぇ、問題ないわ」
俺は少し間を開け、紫苑を真っ直ぐに見た。
優斗「俺、今よりも強くなりたい」
紫苑「強く……ね」
飛鳥「優斗~!」
すると、俺達の戻りが遅いので待ちくたびれたのか、飛鳥が部屋を出て、こっちに向かって来た。
紫苑「残念」
優斗「紫苑、まだ話しが!?」
紫苑「――あとで私の部屋においで。あの子を帰した後でね」
そう言って、紫苑は自室に戻っていった。
飛鳥「何やってんのよ? 大変なら私も手伝うよ?」
優斗「ん? あ、あぁ……もう、終わったから大丈夫だ。そ、それより、今日は学校じゃないのか、飛鳥?」
飛鳥「そうだけど、優斗は?」
優斗「俺はちょっと用事があるからな。今日も行けないんだ」
すると、俺の言葉を聞いた飛鳥は、子供の様に頬を膨らませた。
飛鳥「むぅ~……、じゃあ、私も行かない!」
優斗「はぁ!? 行かないって、どうして!?」
飛鳥「だって、優斗がいないんじゃ、学校に行ってもつまんないもん!」
優斗「えっ?」
飛鳥は自分の言った言葉に顔を赤くしながら、慌てて言い直した。
飛鳥「あっ……いや、違うの! 優斗がいないと、運動不足になるのよ!」
優斗「運動不足?」
飛鳥「だ、だって、優斗しか、私の相手は勤まらない…………って、違う!? 今の無し! 間違い!!」
俺は慌てる飛鳥を見て、つい笑いが零れた。
優斗「ふっ……あはははは!! なに慌ててんだよ!?」
飛鳥「わ、笑うな!!」
優斗「おっと!?」
恥ずかしさのあまり、飛鳥が繰り出してきた拳を、俺はあっさりとかわした。
優斗「まぁ、飛鳥の相手になるのは、相当腕がたたないと無理だからな」
飛鳥「――優斗? それは、自分の腕が良いとでも言いたいの?」
優斗「そうとも言えるな」
すると、飛鳥は拗ねた様に頬を膨らませた。
飛鳥「いつか、絶対に優斗を倒して見せるんだから……」
優斗「はい、はい。ところで、本当に学校を休むのか?」
飛鳥「うん」
あっさりと返事をしやがった。
これじゃあ、飛鳥を学校に行かせると言った理由で帰らせる、俺の頭脳的な作戦が……
飛鳥「だって、優斗も休むんだから、一緒じゃない」
だからと言って、強引に飛鳥を帰すと後が怖いしな。
飛鳥「それとも、なにか私がここにいたらまずい事でもあるの?」
非常にまずい事だらけなのだが、そんな事を飛鳥には言えないよな。
紫苑「まずいわよね~、優斗」
突然、後ろから声がし振り返ると、そこには部屋に戻ったはずの紫苑がいた。
飛鳥「えっ?」
紫苑「だって、あなたがいたら、優斗は私といちゃいちゃ出来ないもんね」
優斗「はぁ!? 誰が……!?」
紫苑は俺の口に手を当て、言葉を止めた。
紫苑「……静かにしてなさい。あんたじゃ、拉致があかないわ」
紫苑の言葉を聞いた飛鳥は俯き、小さく声を搾り出すように言った。
紫苑「……優斗……今、紫苑さんが言った事は、本当なの?」
優斗「あ、いや、その……」
俺が答えに迷っていると、紫苑が俺の背中を肘で突き、飛鳥に聞こえない様に言った。
紫苑「何してんのよ。話しを合わせなさい」
優斗「あ、あぁ……」
俺は紫苑に返事を返し、飛鳥の方に視線を向けた。
優斗「あ、あのさ、飛鳥。いちゃいちゃしたいわけじゃないんだが、紫苑と話しがあるんだ」
紫苑「……ゆ…………優斗のばか~!!」
そう言って、飛鳥は走って出ていってしまった。
優斗「飛鳥!?」
飛鳥を追い掛けようとした俺を紫苑が制した。
紫苑「優斗。時間がないのよ。あの子に謝るなら後にしなさい」
優斗「…………」
//紫苑の部屋
その後、俺は紫苑の部屋に、紫苑と一緒にいた。
さすがに、異性の部屋に二人と言うのは緊急する。
紫苑「優斗。時間がないから、手っ取り早く説明するわね。これから、優斗は自分の世界に行って武器を見つけて来る」
優斗「それだけか?」
紫苑「それだけよ」
何とも単純な回答に、俺は拍子抜けした。
紫苑「優斗。もしかして、簡単に見つかるとでも思ってる?」
正直、自分の世界にで自分の武器を探すのだから、簡単に見つかると思っている。
紫苑「あんたね。自分の世界がどれだけ広いかわかってないわね」
紫苑は呆れる様に、ため息をはいた。
紫苑「まぁ、いいわ。一人よりも二人。私も一緒行くわ」
その言葉を聞いて、俺は疑問が浮かんできた。
優斗「なぁ、紫苑」
紫苑「なによ?」
優斗「紫苑が俺の世界に一緒来たら、俺が紫苑の記憶を見たように、紫苑にも俺の記憶が流れるのか?」
紫苑は少し間を置いて考えた後、
紫苑「わからない。でも、私が優斗の世界に行けば、優斗が私の世界に来た時の様になる可能性はあるわ。でも、どうして?」
優斗「いや、何となくなんだ。他人に俺の記憶を見せちゃいけない感じがしたんだ」
紫苑「なにそれ?」
優斗「俺にもわからないんだ」
すると、紫苑は小悪魔の様な笑みを浮かべた。
紫苑「まさか、優斗。自分の恥ずかしい記憶を見られたくないから、そんな事を言ってるんじゃないの?」
優斗「ち、違う! そんなわけあるか!」
紫苑「あらあら、そんなに否定しちゃって……」
そこまで言うと、紫苑は急に冷静な表情で話し始めた。
紫苑「でも、そこまで他人に見られたくないって思うのは変ね。普通、自分が見せたくないと思う記憶程、いくら拒んでも忘れられるものじゃないわ」
優斗「だけど、俺は何故見られたくないのかわからない」
紫苑「そう。もしかしたら、優斗自身、記憶を他人に見せない様に防衛本能が働いているのかも」
優斗「防衛本能?」
紫苑「優斗の記憶には、見た人を危険にする何かがあるってことよ」
すると、紫苑は少し考えた後、
紫苑「やっぱり、私も優斗の世界に行くわ」
優斗「紫苑も? でも、危険かもしれないって」
紫苑「それも憶測に過ぎないわ。とにかく、今回の目的は優斗の武器を探すこと。記憶は後回し」
武器と言っても、俺の中にどんな武器があるって言うんだ?
優斗「なぁ、紫苑。その武器って、そんなに強力な物なのか?」
紫苑「武器によって強さはまちまちよ。でも、一番重要なのは、その武器を使いこなすこと」
優斗「ちなみに紫苑の武器って、どんなのなんだ?」
紫苑「教えるわけないでしょ。敵に知られたら、こっちが不利になる。だから今は優斗でも教えたくないって言うのが本音よ」
優斗「そっか」
すると、紫苑は数歩下がり、俺との距離を開けた。
紫苑「――でも、今はこの家に優斗と私しかいない。優斗の武器を探しにいって私だけ隠すのは不公平だしね。いいわ。見せてあげる」
その瞬間、紫苑の周りに光の粒が表れ、紫苑の身体を包むように浮遊していた。
そして、浮遊している光の粒は、少しずつ集まっていき、いくつもの球体となった。
優斗「……それが、紫苑の……」
紫苑「えぇ、私の精霊であり武器にもなる」
優斗「精霊?」
俺は精霊と言う言葉で、紫苑の中にいた時に会った精霊を思い出した。
優斗「もしかして、焔か?」
紫苑「え?」
俺の口から出た名前に、紫苑は驚きを隠せなかった。
紫苑「なんで優斗が焔を知ってるのよ?」
優斗「なんでって……」
俺が返答を言いかけた途中で、紫苑は自分のした質問の答えを見つけた様だった。
紫苑「そっか、私の中に入った時ね。焔、出てきなさい」
焔(なんだよ、うるせえな)
紫苑「あんた、余計な事をしてくれたわね」
焔(別に……お前が気を失ってたんじゃねぇか)
紫苑の目の前には誰もいないが、俺には確かに焔の声が聞こえていた。
優斗「なぁ、紫苑? そこに焔もいるのか?」
紫苑「え? もしかして、優斗にも焔の声が聞こえてるの?」
優斗「あぁ」
俺が小さく頷くと、紫苑はじっと俺の顔を見てきた。
焔(おっ!? 俺の声が聞こえるのか!? 主人以外の奴と話すのは、これで二度目だな)
紫苑「焔、うるさい! ――どうやら、これも繋がった事による効果らしいわね」
俺は紫苑の言っている意味がわからず、不思議そうにしていた。
紫苑「精霊との会話は、直接脳に言葉を送って会話するの。だから、その精霊の主人以外には聞こえないはずなのよ」
優斗「それが、紫苑と繋がった事によって、俺にも流れこんでくる様になっちまったって事か」
紫苑「そう。まぁ、言葉に出さないから、作戦も相手に気付かれないで練れるし、便利よ。ちなみに、優斗も何かしゃべってみなさい」
優斗「え? どうやって?」
紫苑「頭の中で考えるだけ」
優斗「考えるだけか」
俺は必死に考えていたが、一向に紫苑に伝わった様子はなかった。
紫苑「どうやら繋がった効果は、私と焔の会話を聞けるだけみたいね」
優斗「なんか、すっげー中途半端だな」
紫苑「まぁいいわ。じゃあ、直ぐに行くわよ」
優斗「え?」
紫苑がそう言って、指で俺のおでこをコツンと触ると、俺の視界が真っ暗になっていった。




