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鬼人神鬼  作者: saku
35/49

第参拾参話『中編19 紫苑の記憶01』

//////紫苑の世界



優斗「――!?」


 ぐにゃぐにゃと気持ち悪い空間を抜け、俺はその世界に放り出された。


優斗「ここが紫苑の世界か?」


 世界の境界には炎が立ち上り、まるで紫苑の攻撃的な部分を表した場所だった。


優斗「――っと!? こんな事をしてる場合じゃなかった。早く、その術糸ってのを見つけないと」


 俺は手掛かりの無い中、手探りで探す事にした。



//////



優斗「これは?」


 暫く、紫苑の世界を歩いていた俺は、奇妙な物を見つけた。


優斗「小さな玉が光ってる……」


 俺は好奇心もあり、それに手で触れた。

 その瞬間、脳裏に直接映像が流された。



//////紫苑の家



 映像には京澄の家が映し出された。


優斗「――ッ!?」


 俺は思わず、口に手を当てた。

 床には無数の死体。

 そして、その死体の中にまともな死体は一つもない。

 胴体を引き裂かれ、内蔵が辺りに散布し、いくつも転がった頭は元の胴体がわからない程、酷い光景だった。

 そして、その中心には年端も行かない女の子が一人、返り血で真っ赤に染まりながら立っていた。


女の子「……ぅ……ぁぁ……」


 女の子から微かに漏れた声は、泣き声とも、苦痛に耐える声とも聞こえた。

 やがて、女の子は糸の切れた人形の様に、その場に倒れた。



//////紫苑の世界



優斗「――ッ!? はぁ、はぁ!? な、なんだ、今のは!?」


 あの大量殺人をあの女の子がやったのか!?

 何であんな映像が俺の頭に……

 それより、早く紫苑を助けないと。


 俺は呼吸を整え、先を急ぐ事にした。


優斗「時間がない。早く、紫苑との術糸を繋げて戻らなくちゃ」



//////



 暫く歩くと、俺の前にまた小さな光る玉が現れた。


優斗「また、こいつか」


 さっきの映像はもう見たくない。

 だが、俺の中であの女の子の事が気になっていた。


優斗「これで最後だ」


 そう言い聞かせ、俺は玉に触れた。



//////紫苑の家



 俺の脳裏に流された映像は、前に見たものと同じ景色。

 違うのは、倒れた女の子を抱き起こす男女の姿がある事だった。


男「……すまなかった……」


 男は小さく言葉を漏らし、女は女の子の髪を優しく撫でた。


男「まさか、これ程まで術力が高まっているとわかっていたら……」

女「……あなた……」


 女は男に視線を送り、何かを伝えた様だった。


男「そうだな」


 男は頷いた。


女「私達の残り少ない術力でも、二人合わせれば、この子を助けられるかもしれない」


 そう言うと、男と女は女の子を強く抱きしめた。


女「こんな事しか出来なくて、ごめんね。強く生きて。――――――紫苑」



//////紫苑の世界



優斗「――紫苑!?」


 今、あの女の人、女の子に紫苑って。

 もしかして、あの男の人と女の人は紫苑の両親なのか!?

 じゃあ、俺が見ているのは、紫苑の記憶?


 俺は先を急いだ。



//////



優斗「あった!?」


 更に先に進むと、やはり白く光る玉が落ちていた。

 既に前の映像で、この白い玉が何なのかは、想像がついている。


――紫苑の記憶


 俺のいるのは紫苑の世界。

 つまり、紫苑の心の中だ。

 紫苑の記憶があったって、おかしくない。


優斗「だけど、紫苑の記憶を盗み見てる様で、気分は良くない」


 そう思いながら、俺は次の白い玉に触れた。



//////紫苑の家



紫苑「お父さん!? お母さん!?」


 どうやら、前の続きの様だ。

 紫苑が自分を抱きしめながら、力なく倒れている父と母に声を掛けていた。


紫苑「……なんで……なんで、みんなが……」


 どうやら、紫苑はこの犯人が自分だとは気付いていない様だった。


紫苑「……目を開けて……ねぇ、お父さん……お母さん……」


 そんな泣きじゃくる紫苑の背後に、一人の男の子が現れた。


男の子「大丈夫か、紫苑?」


 そこには、紫苑と同じくらいの男の子がいた。

 男の子は紫苑に手を差し延べた。


紫苑「……とき、と……? その傷は……」

男の子「心配あらへん。こんなん、舐めときゃ治るわ」


 男の子の額から血が流れ、頬を伝いながら地面に落ちていた。


男の子「それより、紫苑が無事でよかった」


 そう言った後、男の子は倒れている紫苑の両親を見つけた。


男の子「……おじさん……おばさん……」


 すると、男の子は現場の状況から、何があったのか直ぐに理解した様だった。


男の子「紫苑。直ぐに出るで。先ずは、紫苑の傷を手当てせなあかんからな」



//////紫苑の世界



優斗「あの男の子は時斗?」


 紫苑の奴はどうなったんだ?


 俺の中を駆け巡る感情が、大きくなっていった。

 すると、俺の背後に人の気配を感じた。


優斗「誰だ!?」


 俺は素早くその場を離れ、振り向いた。


男「そんなに警戒するなよ」


 そこにいたのは、上半身に奇妙な文様が描かれている男だった。

 男が一歩踏み出すと、俺は一歩後ろに下がった。


男「おい、おい!? これじゃ、ラチがあかねぇよ!?」

優斗「お前は誰なんだ!?」


 男は小さく笑みを零した。


男「全く、主の客だってから、俺が道案内をしてやろうってのに」

優斗「――主? お前、紫苑の式鬼なのか?」

男「何で主の世界に式鬼がいるんだよ」

優斗「じゃあ、お前は何なんだよ?」

男「俺は精霊だ」

優斗「精霊?」


 精霊って、漫画なんかによく出るあれだよな?

 俺は目の前の精霊を見て、夢を砕かれた感じがした。


優斗「精霊って言えば、可愛い女の子だろ!?」

男「馬鹿か? 精霊に性別なんてねぇよ。まぁ、女の格好をしてる奴もいるがな。――それで、どうするんだ?」

優斗「紫苑の世界にいるんだ。お前を信じるよ。案内してくれ」

男「じゃあ、ついて来い」


 そう言って、男は俺の前を歩いていった。



//////



優斗「なぁ」

男「あ?」

優斗「お前の事、何て呼べばいい?」


 俺は今更とも思える質問を男にした。


焔「俺か? 俺は焔だ」

優斗「焔か。――俺は」

焔「桜耶 優斗、だろ?」

優斗「――何で俺の名前を?」

焔「俺はずっと紫苑の中から見てきてんだ。それくらいはわかる。それより、もうすぐ着くぜ」

優斗「着く?」

焔「覚悟しときな。紫苑のは、並大抵の奴に触れらんねぇからな」


 俺は焔の言っている事がわからなかった。

 そして、そのまま焔の後ろを歩き続けた。



//////炎の泉



焔「着いたぜ」

優斗「――これは……」


 池の囲いの中で、真っ赤な炎が燃え盛っていた。


焔「この炎の中心が見えるか?」


 俺は焔の言葉に誘導され、炎の中心に目を向けた。


優斗「あれは!?」


 そこには、紫苑の世界に来てから何度も目にした、紫苑の記憶の玉があった。


焔「あれが、紫苑との術糸を繋ぐ最後のキーだ」

優斗「あれが?」

焔「術糸を繋ぐって事は、ある程度の感覚が共有されるんだ。つまり、信頼してる奴じゃないと、繋がらない」


 それを聞いて、俺は一瞬不安になった。

 俺は紫苑に信頼されているんだろうか?

 もし、信頼されてなかったら……

 術糸が繋がらなかったら……

 嫌な事ばかりが頭に浮かんできた。


焔「一つ、良いことを教えてやるよ」

優斗「良いこと?」

焔「この世界に入れたって事は、少なくとも、紫苑がお前を受け入れたって事だ」

優斗「俺を?」


 何を迷ってるんだ。

 俺が紫苑を助けられなきゃ、紫苑は死ぬんだ。

 俺はじっと、燃え盛る炎を見つめ、拳を握った。


優斗「紫苑。今、助けてやるからな!」


 俺は覚悟を決めて、炎の中に飛び込んでいった。


優斗「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


――肉の焼ける嫌な匂い

――骨まで焼き尽くす火力


 紫苑の記憶を守る炎は、領地に踏み入った侵入者に対し、容赦なく火力をあげた。


優斗「……この……やろう……」


 俺は襲いくる痛みを、唇から血を流し、耐えた。

 そして、中心にある玉を掴んだ瞬間、また紫苑の記憶が流れ込んできた。



//////藤平家



紫苑「…………」


 幼い紫苑が縁側に座り、空を見上げていた。

 ただ、その表情は仮面を被っている様に無だった。


時斗「紫苑?」


 紫苑の後ろから時斗が声を掛けた。


紫苑「…………」


 だが、紫苑は何も話さず、ただ、空を見上げていた。

 そして、俺には何となくわかってしまった。

 紫苑はあの殺戮の犯人が、自分であると知ったんだと。

 その時、俺は紫苑の気持ちが、俺の中に流れて来ている様に思えた。


時斗「紫苑。あんま、自分を責めるんやないで」


 そう言って、時斗はその場を離れた。


紫苑「……ぅ……ぅ……」


 時斗が離れると、紫苑の瞳からとめどない涙が流れはじめた。



//////



 ただ、自分の犯した罪の意識から逃れたかった紫苑は、街を歩き回り、ある公園のベンチに座っていた。


?「ねぇ、君は何で泣いているの?」

紫苑「……ぅ……ぅ……」

?「悲しい時は笑うんだよ」


 そう言って、紫苑に話しかけた男の子はにかっと笑った。


紫苑「……笑えない……」

?「そっか。ん~、じゃあ、僕が君を笑わせてあげる」


 男の子は持っていたおもちゃを使い、必死に紫苑を笑わそうとしていたが、まるで笑顔を忘れてしまった様に紫苑の表情から笑顔は見えなかった。


?「くっそ~……」


 男の子は少し悩んだ後、


?「これは、お父さん達に人前ではやるなって言われてるんだけど、内緒だぞ」


 男の子は地面にあった小石などを拾い始め、両手で握り締めた。

 すると、男の子の手の中で、握り締めた小石達が真っ赤な液体となった。

 そして、次の瞬間、真っ赤な液体は小さな一つの石に変わった。


?「はい。これをあげる」

紫苑「……石?」

?「違うよ。こうすると……」


 そう言って、男の子はその石を落ちていた別の石を叩きつけて半分に割った。


紫苑「きれい」

?「綺麗だろ? 何か良くわかんないんだけど、他の人には見せちゃダメだって言われてるから、絶対に秘密だぞ」


 石の中から出てきたのは、小さなダイヤモンドの原石だった。

 紫苑はそれを受け取ると、小さく微笑んだ。


?「やっと、笑った」

紫苑「え?」

?「君、笑った方が可愛いよ!」


 紫苑は少し頬を染め、照れながら聞いた。


紫苑「あ、ありがとう……あ、あの、君の名前は?」

?「いけね!? そろそろ帰らないと、また、母さんに怒られる!? じゃあ、またな!!」

紫苑「あっ…………」



//////



紫苑「時斗! 私と勝負して!!」

時斗「はぁ!? いきなり、何言っとんのや!?」


 突然の紫苑の言葉に驚いた時斗だったが、紫苑は準備を整え、強引に襲い掛かった。


時斗「あっ!? アホ!? こんな事して、何になるんや!?」

紫苑「うるさい! 全力で来ないと死んでも知らないからね!!」

時斗「うわぁ!?」



//////



 時斗と紫苑の激しい術力戦は、数時間に及んだ。

 やがて、お互いの術力は尽き、その場に倒れ込んだ。


時斗「はぁ、はぁ……しゃ、しゃれにならんで……」

紫苑「――ふふ……あははは……」

時斗「紫苑?」


 紫苑は倒れたまま、笑いはじめた。


紫苑「私、お母さんとお父さんがくれたこの命で、たくさん生きる」

時斗「…………」

紫苑「お父さんとお母さんが出来なかった事を、私がやるの。そのために、今よりもっと、もっと強くなる」


 そう言った紫苑の表情を見て、時斗は笑った。


時斗「そっか。やっと、答えを見つけたんやな」



//////京澄家



紫苑「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 場面が飛んだ。

 今度の紫苑は、成長した紫苑だ。

 その紫苑が、目の前で頭を抱え苦しんでいる。


時斗「紫苑!? 落ち着くんや!!」

紫苑「いや……いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」

時斗「ちっ! 本格的に術力の暴走が始まりよった!?」


 時斗の必死の呼び掛けにも、紫苑の様子は変わらなかった。

 やがて、紫苑の苦痛の声が止み、辺りを紫苑の身体から溢れた術力の霧が包み始めた。

 時斗は紫苑から、一瞬たりとも視線を外さなかった。

 時斗には、その行為が今の紫苑の前では、即、死に繋がるとわかっていたからである。

 そして、次の瞬間、紫苑の姿が霧に消えた。


時斗「紫苑!?」


 突然、時斗の前に現れた紫苑の身体は、黒炎に包まれていた。


時斗「黒炎やて!?」


 紫苑の拳を受け止めようとした時斗だったが、紫苑の身体を包む黒炎を見て、触れずに避けた。


時斗「陰の術式で身体を覆ってるのか。やっぱ、半端な気持ちじゃ危険やな」


 すると、時斗は人形の術札を取り出した。


時斗「羅蕭!!」


 時斗の行動を見た紫苑も、同じ様に術札を出した。

 そしてお互いの術札は姿を変えていった。


羅蕭「――むっ。主、これはどういう事ですか?」

時斗「見ての通り五年前と同じや」


 それを聞いた羅蕭が、紫苑に視線を向けた。


羅蕭「なるほど。以前の時よりも、術力が格段に上がっている」

時斗「せや。その分、こっちも上がってるけどな。――羅蕭! 戦鬼と妃戦を頼む! 俺は紫苑を止める!!」

羅蕭「承知した」


 そして、時斗と羅蕭は同時に地面を蹴った。


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