第参拾壱話『中編17 それぞれの戦い10』
時斗「……くっ……」
男と対峙していた時斗が、突然、地面に片膝をついた。
時斗(偽)「限界だな。藤平 時斗」
男はそう言って、時斗に刀を向けた。
時斗(偽)「その身体でよくやった。私に刀鬼の力を解放させたのだからな」
時斗(最悪やな。こんなとこで終わりか。まぁ、あいつを逃がす事が出来ただけ、えぇか)
時斗(偽)「さらばだ」
その瞬間、時斗の心臓目掛け、一筋の閃光が走る。
それと同時に、突風が吹き、風が渦を巻いた。
紫苑「情けない顔して、何してるのよ?」
その声に時斗は聞き覚えがあった。
時斗はゆっくりと視線を声の主に向けた。
時斗「……紫苑……? ほんまに紫苑なんか?」
紫苑「他に、何に見えるっていうのよ」
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目の前に傷付いた時斗の姿。
私はこんなに傷付いた時斗を、今まで見たことがなかった。
時斗「……紫苑、無事やったんやな?」
紫苑「お蔭様で。――ありがとう、時斗」
私はゆっくりと時斗を寝かせた。
紫苑「あとは私に任せて」
時斗「任せてって、あいつはそこらの鬼人なんかやない」
紫苑「わかってる」
すると、私の言葉に呼応する様に、私を囲む球体が回転を上げた。
時斗「紫苑。それは……」
私は立ち上がると、男に鋭い視線を送った。
時斗(偽)「何かと思えば、貴様か」
紫苑「妃戦と時斗の分。きっちり借りを返す」
――私を包む風が一層力強くなる
両手には弾炎を纏い、男を目掛けて地面を蹴った。
時斗(偽)「――消えた!?」
男が私の姿を見失った次の瞬間、私の拳は男の顔面を捕らえていた。
時斗(偽)「ぐ……がぁ……!?」
紫苑「これは私の分」
そして、私は吹き飛んだ男を追撃した。
紫苑「これは、妃戦と時斗の分」
男は更に勢いをまして吹き飛ぶ。
紫苑「そして、最後に私の分!!」
私はありったけの力を込めて、男を地面に叩きつけた。
紫苑「……はぁ、はぁ……」
さすが精霊の力。
使いすぎると、私の身体に反動がくる。
紫苑「あいつは……?」
私が視線を向けると、何事もなかった様に男は立ち上がった。
時斗(偽)「それが精霊か…………ッ!?」
一瞬、男はバランスを崩したが、すぐに立て直した。
時斗(偽)「素晴らしい力だ。精霊は五体。まだ、四体もこの力と同等の者達がいるのか」
男は小さく笑みを零すと刀を納めた。
時斗(偽)「察するに、その精霊の力は補助系統のものだな? だが、身体の方が力についていけていない。――くくく……面白いものを見せてもらった。鬼門も三つは破壊され、結界の発動に必要な条件は揃っている」
男は視線を私に向けた。
時斗(偽)「京澄 紫苑。いずれ、その精霊は私が頂く」
男はそう言うと、音もなく姿を消した。
私は男の気配が完全に消えたのを確認すると、焔の武装を解いた。
紫苑「……はぁ、はぁ……」
その瞬間、身体中の力が抜け、地面に座り込んでしまった。
時斗「――助かった」
時斗は私の腕を掴み、そのまま、首と膝の後ろに手を回して私を抱き上げた。
紫苑「ちょ、ちょっと!? 何やってんのよ!?」
時斗「力使い過ぎで動けんのやろ? それに、お前、こんな所でぐずぐずしてる暇はないんちゃうか?」
そうだった。
早くみんなに伝えて戻らないと。
紫苑「時斗」
時斗「なんや?」
紫苑「みんなに伝えて。鬼門を破壊してはだめ。鬼門は邪気の通り道を塞いでいる物なの」
時斗「邪気の? ――しもうた!?」
時斗の表情が一変した。
紫苑「お願い。皆に伝えて」
時斗「何言うてんのや。紫苑も一緒に行くんやろ?」
紫苑「私は戻らないと行けないの。私を助けてくれた奴が、一人で残ってるの」
時斗「せやかて、そんな身体で何が出来る言うんや?」
紫苑「大丈夫」
私は地面に下りて、自分の足で立った。
紫苑「まだ、術力が尽きたわけじゃない。焔もいる」
いつの間にか、私の回りに焔の球体が浮遊していた。
紫苑(焔。もう少しだけ、力を貸して)
焔(俺は構わないが……紫苑。さすがにあんたの身体は限界が来ているはずだ。いくらあんたが優秀でも、この先はどうなるかわからないぞ?)
紫苑(覚悟の上よ。あんな奴でも、死なれたら後味悪いわ)
焔(全く、お優しい主だ)
焔は呆れた様にそう言うと、私の中に消えていった。
それと同時に、私の回りを浮遊している球体が高速で回転し始めた。
時斗「紫苑。あの時の事、まだ背負っとるんか?」
紫苑「…………」
私は時斗に何も答えず、その場から飛び立った。
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紅蓮「……はぁ、はぁ……」
炎鬼「終わりか?」
紅蓮の姿は見るも無惨なものだった。
片腕は溶け落ち、身体の至る所には重度の火傷を負っていた。
紅蓮「……こ、この先へは……」
炎鬼「くくく……不便な身体だな。苦しくとも死ぬことが出来ないとは」
突然、炎鬼は紅蓮に話を始めた。
炎鬼「貴様は鬼人の殺し方を知っているか? 一つは、陰陽による浄化の力。そして、もう一つは、契約した鬼が持つ心臓を破壊する事」
紅蓮も炎鬼の言った事はわかっていた。
それゆえ、何故、炎鬼が今、そんな話をするのか理解出来なかった。
炎鬼「貴様を殺すのに、俺は浄化の力など使えん。つまり、貴様の契約した鬼から貴様の心臓を奪い、貴様を殺す」
紅蓮「心臓を奪う? 出来るわけがない。俺達は地獄に行く事は出来ないんだからな!」
炎鬼「くくく……はっ、はっ、はっ!!」
紅蓮の言葉を聞いた炎鬼が、声を上げて笑いはじめた。
紅蓮「簡単な事だ。契約者が行けぬなら、既に地獄にいる奴にとらせればいい」
炎鬼「鬼にお使いでもさせようってか?」
紅蓮「ふふ」
炎鬼が鼻で笑った次の瞬間、その手には紅蓮の心臓が握られていた。
紅蓮「――!?」
炎鬼「実に良い鬼だったよ。炎鬼の力を感じると、抵抗なく、素直に渡してくれた」
紅蓮「――は……はっはっはっ!! 最後は裏切らておしまいか!? 俺に相応しい!」
紅蓮は覚悟を決めた様に、笑いはじめた。
紅蓮(ちっ……あいつは、仲間の所に行けたのか? 俺とした事が、最後になってあんな女に出会うなんてよ)
炎鬼「――さらばだ」
炎鬼の言葉と同時に、紅蓮の心臓は破壊された。
その時、一陣の強い風が吹き、球体を身に纏った紫苑の姿が現れた。
紅蓮は倒れ行く視界の中、紫苑の姿を確認した。
紫苑「――紅蓮!?」
紫苑は倒れた紅蓮の側に一瞬で移動し、紅蓮の身体を抱き起こした。
紫苑「あんた、こんなにまで……」
紅蓮「……おせぇんだよ……」
紫苑「すぐに傷の手当てを!?」
紅蓮「――いいよ」
紫苑「えっ?」
紅蓮「言わなくてもわかる。お前も……相当無理してる様じゃねぇか……ま、前に戦った時より……力が感じられねぇ」
紅蓮には術力を感じる力などあるはずもない。
だが、紅蓮は紫苑の術力が限界である事を直感的に感じたのである。
紅蓮「……それに……心臓をやられれば、いくら鬼人だからって……生きていられない」
紫苑「…………」
紅蓮「……そんな顔するなよ……俺が好きでやった事……だ……ははっ……全く……とんでもない女に……惚れち……まった……」
紫苑「紅蓮?」
紫苑が支えていた紅蓮の身体から力が抜け、肉体は塵になっていった。
炎鬼「馬鹿な男だ! 敵の女に惑わされるとは!」
炎鬼は紫苑の目の前に溜まった、紅蓮の塵を蹴り飛ばした。
紫苑「――!?」
それを見た紫苑は硬く拳を握り、ゆっくりと立ち上がった。
紫苑「――やっぱり、あんた、最高にムカつくわ!」
その時、紫苑の纏う球体が更に回転を上げた。
焔(待て!!)
紫苑「――!?」
焔(感情的になるな! 自分の身体が限界だと知っているだろう!? ここは一度引いて、体制を整えるんだ)
紫苑「うるさい!! ――私は、私は!?」
紫苑は炎鬼に向け、拳を繰り出した。
しかし、拳は炎鬼にかわされてしまった。
焔(紫苑! 俺はお前の中にずっといた。だから、お前が起こした過ちも、背負っているものもわかる。だが、今はそれを抑えろ! でなければ、この街で沢山の命が消えていく事になるぞ!!)
紫苑「――!?」
突然、紫苑の動きが止まった。
紫苑「――わ、わかった。今は退く」
その言葉とは裏腹に、紫苑の拳は固く握られ、自らの気持ちを押さえ込むように歯軋りをした。
そして、紫苑はその場から素早く姿を消した。




