第参拾話『中編16 それぞれの戦い09』
時斗と男の激しい戦闘が繰り広げられる中、妃戦は懸命に紫苑の傷を癒していた。
妃戦「主。目を、目を開けてください!」
妃戦の呼び掛けに、紫苑からの返答はなかった。
紫苑の体内から出た血液の量は、既に致死量に近いものになっていた。
妃戦は紫苑の傷を治療すると同時に、失った血液を紫苑の体内で作り出していた。
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紫苑「――ぅっ……ここは……?」
目を覚ます。
そこは炎が渦巻き、辺りにある物は皆いびつな形をし、正しい形をした物がない空間だった。
紫苑「ここは私の……」
私はこの場所に来た事がある。
私の世界だ。
紫苑「なんでこんな場所に……」
そう思った私の背後に、人の気配を感じた。
紫苑「――誰!?」
振り向くと、私の目を真っ直ぐに見ている男が立っていた。
紫苑「貴方は……?」
外見は細身だが、痩せているわけではない。
真っ赤な深紅の髪をなびかせ、上半身には不思議な模様が描かれていた。
男「よぇ~な」
紫苑「はっ?」
男「お前が弱いっつったんだ」
何よ、こいつ?
会ったばかりの奴に、そんな事を言われる筋合いはないわよ。
男「会ったばかりって、ひでぇな。俺は今まで、お前の中にいたんだぜ?」
紫苑「私の中?」
確かにここは私の世界で、他の奴が入って来れるわけない。
男「まだわかんねぇのか? ――主」
紫苑「主?」
こんな奴を私は知らない。
なら、何故私を主と呼んだの?
男「丸聞こえだぜ。ここはあんたの世界だ。そして、俺はあんたの世界にいる。だから、自然とあんたの考えてる事がわかっちまうんだ」
紫苑「――――」
男「はぁ~、別にクイズじゃないからな。俺は鬼だよ。昔、あんたの祖先に力を貸したな」
紫苑「――!?」
まさか、こいつが京澄の精霊!?
男「精霊なんて、たいしたもんじゃねぇよ。所詮、鬼は鬼だからな」
紫苑「本当にいたのね」
男「今までは、俺が出ていく程の状況になった事がなかったからな。それに、俺の力に堪えられる宿主もいなかった」
紫苑「それなら、何故、私の前に現れたの?」
男は小さく笑い、私を見た。
男「俺が力を貸さないといけない状況になったからだ。鬼神の復活は、絶対にさせちゃいけねぇ。俺はあれとやり合った事があるから、あれの強さを肌で感じている」
紫苑「でも、その鬼神を封じたのは、貴方なのよね?」
男「いや、俺だけじゃ、とてもじゃないが無理だ」
紫苑「じゃあ、どうやって封じたの?」
男「俺以外にあと四人いたはずだ。あいつらと協力して、やっと押さえ込めたんだ。あいつらは今、どうしてんだ?」
――他の精霊?
私は必死に親から聞いた話を思い出していた。
紫苑「確か、それぞれの家系の後継者の中にいると思う」
男「なんだ、それ?」
紫苑「仕方ないじゃない。私も精霊を見たのは初めてだし、他の家系の後継者の中にいる精霊の事なんて知らないわよ」
すると、男は私をじっと観察するように見た。
男「まぁ、その話は追い追いするとして、今は外の状況を切り抜けるのが先だな」
紫苑「外?」
私は一瞬迷ったが、直ぐに何を言いたいのかわかった。
紫苑「そうだった。早くみんなに教えないと!?」
そして、私は男の目を真っ直ぐに見て言った。
紫苑「――お願い。貴方の力を貸して」
男「いいぜ。――だが、その前に大事な事をお互いしてないぜ」
紫苑「大事な事?」
男「これからは主を何て呼べばいい?」
あっ!?
そう言えば、お互い名前も言ってなかった。
紫苑「私は紫苑。京澄 紫苑よ。好きな様に呼んでいいわよ」
男「なるほど。では、紫苑と呼ばせて貰おう」
紫苑「――っで、貴方の名前は?」
焔「俺は焔。火を司る精霊だ」
紫苑「そう。よろしく、焔」
私が軽く手を差し出すと、焔は片膝を地面につけた。
焔「――誓おう。我、これより、主紫苑に心より忠誠を誓う」
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時斗(偽)「貴様の術力も大分落ちているな?」
時斗「……はぁ、はぁ……」
前の豪鬼との戦闘で使った術力が回復出来ていない時斗の身体は、既に限界を超え始めていた。
時斗(偽)「今の貴様なら簡単に殺せるが、最後に今一度聞いておこう。藤平 時斗。私の下に来ないか?」
時斗「俺は夜鬼さん以外につく気はない。ましてや、仲間に姿を変えて不意打ちする様な奴には絶対な」
時斗(偽)「くくく……残念だ」
時斗「それにあんた、月とあのにぃちゃんを騙して、真城の姉ちゃんから天明玲仙を奪ったやろ?」
時斗(偽)「気付いていたか」
時斗「いくら姿を変えても、あんたの胸糞悪い術力は隠せなかったな」
時斗(偽)「なるほどな。私の術力を知っている貴様だから気付けた、と言うわけか」
すると、男の視線に強い殺気が込められた。
時斗(偽)「ならば、仕方ない。貴様にはこの場で死んでもらう」
時斗「悪いが簡単には死ねんのや!」
そう言って、時斗は宙に逆五亡星を描いた。
時斗「――こいつを使うんは久しぶりやな」
突然、時斗と男を中心に、氷の壁が現実世界との境界線を作って行った。
時斗(偽)「これは?」
そして、氷の壁で覆われた世界に氷の華が降り始めた。
時斗「――氷魔血華。そして、全てを凍らせる、絶対零度の空間。あんたには、暫く凍り付けになってもらう」
――氷の華が渦を巻いていく
――花びらの一枚一枚が鋭い刃の様に宙を舞う
時斗「悪いな。加減はできん」
時斗(偽)「問題はない。刀鬼。30%の解放を許可する」
刀鬼「久しぶりだな。俺の力を解放する奴なんて」
刀鬼は楽しむ様に、男に言った。
時斗(偽)「久々だ。こちらも加減は出来ないぞ?」
その瞬間、一筋の光が走った。
時斗「――!? い、いつの間に……」
時斗が気付いたのは、自らの身体に痛みが走った後だった。
刀鬼の刀身が時斗の肩を貫通していた。
時斗「……あ、あほな……氷魔血華の中を動けるんか……」
刀鬼「残念だったな。俺がいた地獄じゃ、これくらいの冷気は日常だったぜ」
刀鬼が余裕を浮かばせて言った。
時斗「……ば、化け物が……」
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紫苑「……ぅ……」
眩しい……
妃戦「……主……主……」
誰かが私をよんでいる。
私はゆっくりと目を開けた。
紫苑「……妃戦……?」
妃戦「主!? 気が付かれたのですね!?」
紫苑「……ここは……? ――!? あいつは……あいつはどこにいったの!?」
妃戦「あの者は今、時斗様が足止めをしています」
紫苑「時斗が?」
妃戦「はい。偽物ではない、本物の時斗様です」
私はそれを聞き、全身に力を入れて立ち上がった。
紫苑「……こんな所で寝てらんないわ……早く、助けに行かないと……」
妃戦「主!? まだ、動いては!?」
その時、私を掴もうとした妃戦の手が宙をさ迷い、バランスを崩した妃戦が地面に倒れた。
紫苑「妃戦?」
妃戦の動作に違和感を感じた私は、ゆっくり妃戦に近づいた。
紫苑「妃戦……貴方、今、私が何処にいるかわかる?」
妃戦「何を言っているのですか? 主は私の目の前にいるではないですか」
紫苑「……妃戦……貴方……」
私が立っているのは妃戦の後ろ。
妃戦には悪いけど、カマを賭けさせてもらった。
紫苑「いつから視力を失ったの?」
自分の状態を私に見抜かれた妃戦は、正直に答えた。
妃戦「主をお守りするため、自らの能力を仕様しました」
紫苑「……ごめんなさい、妃戦。――ありがとう」
妃戦「いえ。主をお守りするのが私の役目ですから」
そう言って、妃戦はにこりと笑った。
妃戦の目はもう治せない。
外的要因の負傷なら、私の術力提供で完治出来る。
でも、今回のは能力によるもの。つまり、内的要因による負傷。
――ごめんなさい、妃戦
紫苑「妃戦。あとは私が何とかするわ。だから、ゆっくり休んでいて」
そう言って、私は妃戦を術札に戻した。
紫苑「早速で悪いけど、貴方の力を貸して。――焔」
その瞬間、私の周りに無数の小さな球体が現れ、浮遊していた。
紫苑「――焔。術力ブースト」
すると、宙を浮遊していた球体が私の両手足に集まり、高速で回転を始めた。
紫苑「行くわよ、焔」




