第弐拾壱話『中編07 鬼門/決意/出陣』
俺は紬と一緒に月ちゃんを守るため、家に止どまっていた。
しかし、何故か不安ばかりが押し寄せてくる。
優斗「……紫苑……」
ポツリと紫苑の名前を漏らした瞬間、突然、後ろから声がした。
時斗「何してんのや?」
優斗「お、お前は、藤平 時斗!?」
思わず声をあげてしまった。
そして、その声を聞いた紬が部屋にやって来た。
紬「どうしたんですか……優斗さん!?」
優斗「紬」
時斗「よう、真城の姉ちゃんか」
紬「藤平 時斗? 何故、ここにいるのですか!?」
時斗は居間に入り、ドカッと、腰を降ろした。
時斗「戦いに来たんやない。あんたらに力を貸して欲しいんや」
優斗「俺達に?」
紬「わかりませんね。先日、神社での戦いを見ると、貴方の力は私達を上回っていました。そんな貴方が何故私達に力を貸して欲しいと言いに来たのですか?」
時斗はじっと考え込んだ後、小さな声で言った。
時斗「……紫苑が奴等に捕まった……」
優斗「……今、何て言った?」
俺の聞き間違えじゃなければ、紫苑が奴等に。
時斗「紫苑が奴等に捕まって、人質になっとる」
優斗「……紫苑が……?」
俺の中にやり場のない感情が込み上げて来た。
優斗「お前、紫苑の幼馴染みじゃなかったのか!? 何で紫苑を助けなかった!?」
紬「優斗さん!?」
時斗に掴み掛かろうとした俺を、紬が止めてくれた。
紬「落ち着いて下さい。紫苑さんを助ける為に、時斗さんはこうして私達に頼んでいるじゃないですか」
優斗「…………」
こいつの気持ちは何となくわかる。 出来る事なら、自分の力で助けたい。だが、それが出来ない歯がゆさ。怒り。
こいつの握られたままの拳を見れば、態度には出していないが、内心じゃ自分の力の無さに怒りを感じている。
優斗「悪かった。つい、感情的になった」
時斗「いや、かまへん。俺はその場にいたのに、紫苑を連れてかれてしまったからな」
紬「では、全員で紫苑さんを救い、結界を止めるしかなさそうですね」
こうして、俺達は時斗と一時休戦で手を組む事になった。
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時斗「時間がない。これからの行動を説明するで」
優斗「頼む」
時斗「紫苑を助ける為には、片瀬と戦わなあかん。せやけど、あいつの能力は厄介や。更に、あいつは暗鬼使いと来とる。あいつからかすり傷一つ負わず、紫苑を助けるんは不可能に近い」
優斗「なら、どうするんだ?」
時斗「あいつの能力は、結界内でのみ使用が可能や。だから、先ずはその結界を潰す」
優斗「潰すったって、あれはあいつの能力だから、本人が解くか、死なないと消えないんじゃないのか?」
時斗「普通はそうや。だが、今回のはちゃう。あいつの能力で結界を張れるんは、精々、半径数十メートル。今回のは、優に限界を超えとる」
優斗「じゃあ、何であんなデカい結界を張れてるんだ?」
時斗「これを見いや」
そう言って、時斗はテーブルの上に地図を広げた。
時斗「この位置に何があるか、わかるか?」
時斗が広げた地図上には、東西南北それぞれに一ヶ所ずつ印が書いてあった。
紬「この位置は……」
優斗「わかるのか、紬?」
紬「京澄、真城、藤平、安里。印の位置は、この街にある陰陽の家をさしています」
時斗「せや。奴等の結界は、それぞれの家が守って来た鬼門から気を増幅させ、大きくしてるんや」
すると、紬が突然、声を上げた。
紬「そんなはずありません! 鬼門は各家の者達が守っているはずです!」
時斗「……全部、殺られとったわ……」
紬「!?」
殺られてたって、鬼人達に殺されたって事か?
紬「……そんな……みんな……」
紬の顔は血の気が引き、青ざめていた。
時斗「俺も現場には行ってへんが、藤平の秘術を使こうて見たから間違いない」
優斗「紬? 大丈夫か?」
紬「は、はい……それよりも、紫苑さんを助けに……」
紬の気持ちは痛いくらい伝わった来た。
長年、家族の様に一緒に暮らして来た人達を殺されたんだ。
平気なはずがない。
優斗「それで、俺達はどうすればいいんだ?」
時斗「俺達は鬼門を破壊し、結界を壊すんや」
優斗「鬼門を?」
時斗「当然、向こうさんも、鬼門を破壊されへん様に、それなりに守りを固めてあるやろな」
時斗は一度、間を開けて言った。
時斗「一人一殺や……。守りには、鬼人が当たっていると考えて問題ないやろ。全員で一ヶ所ずつ落として行くんが安全やけど、そんな時間はない。だから、バラバラに鬼門に向かい、鬼人を倒して、鬼門を破壊する」
一人一殺か……
鬼人を倒して、鬼門を破壊。
そこで俺は重大な事に気付いた。
優斗「なぁ、鬼門は四ヶ所にあるんだよな?」
紬「そうですね。どうかしましたか、優斗さん?」
優斗「俺達は時斗を入れて三人だろ? だから、一ヶ所だけ余っちまう」
時斗「せやな。まぁ、はよう片付いた奴から、最後の場所に向かえばえぇ」
確かに、自分の方を片付けて行けば、自ずと最後の場所が集合場所になるって事か。
時斗「時間がない。準備が出来次第、行くで!」
すると、その時、居間の障子が開いた。
月「……優斗……」
優斗「月ちゃん? どうしたの?」
時斗「―-!? ……る、な……?」
月ちゃんの姿を見た時斗は、誰にも聞こえない程の声で呟いた。
月「……月も行く……」
優斗「い、行くって、どこに?」
月「悪い奴、やっつけに行く」
さっきの話を聞いてたのか。
優斗「だめだ。月ちゃんは危ないからお留守番」
月「やだ!」
優斗「やだって、本当に危ないんだよ。それに、今の月ちゃんは鬼人じゃない。普通の人間なんだよ」
すると、月ちゃんは俺の目の前に手を出した。
月「……月は普通じゃない……」
目の前に差し出された月ちゃんの手の平の上で、水がボールの様な球体のまま浮かんでいた。
優斗「これは!?」
それを見た紬も、驚きながら言った。
紬「驚きましたね。まさか、陰陽の血を引く者でしたか」
同じく、それを見た時斗からは、意外な言葉が飛んだ。
時斗「止めとき。そないな嬢ちゃん、一瞬で殺されるで」
時斗の言葉に対して、月ちゃんの声色が少し変わった様に感じた。
月「月は沢山奪って来た。だから、戦いたいの。――守る為に」
時斗「足でまといや! 大人しくしとき!!」
時斗は声を強めて、月ちゃんに言った。
月ちゃんの気持ちはわかったけど、相手は鬼人だ。
言い方はきついけど、時斗の言う事は間違っていない。
優斗「月ちゃん。やっぱり、時斗の言う通り、危険過ぎる」
月「……優斗……月は……月が奪った人達に、ごめんなさいがしたいの……」
俺は月ちゃんの髪を優しく撫でた。
優斗「わかった。でも、ごめんなさいは戦いじゃなくて、別の方法にしような」
そして、俺は月ちゃんの髪から手を離し、拳を握った。
優斗「行こう」
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俺達は準備を整え、家の前に集まっていた。
時斗「えぇな。必ず、一人一殺や。もし出来なくても、鬼門だけは破壊するんや」
優斗「わかった」
俺と紬は小さく頷いた。
時斗「よし。じゃあ、俺と真城の姉ちゃんで、西の真城、南の藤平に行く。兄ちゃんは、東の安里や。――北の京澄で会おう」
優斗「あぁ、紬。気をつけろよ」
紬「優斗さんも」
そうして俺達は、それぞれの鬼門に向かった。




