表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼人神鬼  作者: saku
22/49

第弐拾話『中編06 油断/人質』

優斗「なぁ、紬。紫苑は大丈夫だよな?」


 俺の言葉を聞き、紬は笑いながら言った。


紬「優斗さん。それを聞くのは何回目ですか? 紫苑さんなら、大丈夫ですよ」

優斗「そうだよな」


 わかっている。

 紫苑の力だったら何も問題ないはずだ。

 そして、俺が顔を上げると、紬が先ほどとは一転した表情をしていた。


紬「優斗さん。屋敷内に何者かが入って来ました」

優斗「何者も何も、紫苑が帰って来たんじゃないのか?」

紬「いえ、紫苑さんではありません」

優斗「紫苑じゃない?」

紬「はい。ですが、少なくとも、味方でもなさそうです」


 そう言って、紬は庭に出る障子を開けた。


?「やぁ、久し振りだね」

優斗「お前は!?」


 そこには、夜鬼の側にいた少年が立っていた。


優斗「何しに来た!?」


 俺は素早く武器を手に持った。


?「待った。今日は戦いに来たんじゃないよ。それと、僕はお前じゃない。水瀬 翔って名前があるんだ」

紬「今日は戦わないと言われましたね? では、何故ここに来たのですか?」

翔「今日は只の伝達係さ。――夜鬼さんからのね」

優斗「夜鬼!?」


 夜鬼の名前に反応した俺を、紬が腕で制した。


紬「聞きましょう」


 紬の言葉に俺は感情を抑えた。


翔「ありがとう、お姉ちゃん。――夜鬼さんからの伝言だ。籠に捕らわれた鳥は、時間が進むほど抵抗力を失う」

優斗「何を言ってるんだ?」


 水瀬は何も言わずに、背を向けた。


翔「じゃあ、確かに伝えたからな」


 そして、背中越しに小さな声で言った。


翔「……こんな籠に守られているからわからないんだよ……」

紬「籠? ――!?」


 紬は突然、空を見上げて家の外に走って行った。


紬「……これは……」

優斗「つ、紬。突然走り出してどうしたんだよ?」

紬「わかりました」

優斗「わかったって、何が?」

紬「夜鬼の言っていた、籠の意味がです」

優斗「本当か!?」


 紬はじっと空に視線を向けていた。


優斗「空に何かあるのか?」


 俺も紬の視線を追う様に、視線を空に向けた。


紬「……結界です」


 紬がぼそりと言った。


優斗「結界?」

紬「今の優斗さんなら感じられるはずです。神経を集中させて下さい」


 俺は目を閉じて、紫苑から教えてもらった術の発動と同じ様に、全身の血の流れをイメージした。

 すると、脳裏に直接流れ込む様に、その映像が流れて来た。


優斗「ッ!? これが結界なのか? 街を覆ってやがる」

紬「見えた様ですね。恐らく、その結界は神社にいた片瀬と言う鬼人が張ったものでしょう」

優斗「これが発動したら……」


 発動したら、最悪だ。

 やつの能力は、結界内の人間に攻撃を加えれば、ルールが追加出来る。

 その追加するルールを、もしも……

 俺は紬に視線を送った。


紬「優斗さんも同じ様に考えられたみたいですね」

優斗「あぁ。仮に追加ルールが結界を抜けさせない様にするとした時、奴は神霊鏡にゆっくりと命を吸わせられる」

?「そう言う事」


 突然、後ろからした声に反応して振り向いた。


優斗「紫苑!? 無事だったのか!?」

紫苑「当たり前でしょ。それより、紬と優斗も気付いたみたいね。この結界に」

紬「紫苑さんも気付いていたのですね」

紫苑「えぇ」

優斗「紫苑。藤平の秘術は手に入ったのか?」

紫苑「詳しい話は中でするわ」

優斗「わかった」



//////



紬「藤平が!?」

紫苑「えぇ。この目で見て来たわ」

紬「まさか、鬼人の力はそれほどまで……」

紫苑「でも、夜鬼や紬が神社で戦った鬼人の力を考えれば、無理な話ではない」


 鬼人達の力は、想像以上って事か。


優斗「そう言えば、紫苑。藤平が鬼人達にやられてたって事は、秘術は手に入らなかったのか?」

紫苑「それなら大丈夫。藤平で時斗と会って、交換条件で、敵の居場所を教えてもらう事にしたから」

優斗「あいつに!?」

紫苑「藤平がやられて、秘術を知っているのは時斗だけ」


 話の途中で紬が紫苑に聞いた。


紬「紫苑さん。藤平についてはわかりました。それで、交換条件の内容は?」


 紫苑は一瞬、考え込む様な間を開け、俺達に笑顔を向けた。


紫苑「私一人で大丈夫だから、二人は気にしないで、ゆっくりしてなさい」


 俺はじっと紫苑の表情を見ていた。


紫苑「何よ?」

優斗「紫苑。何か隠してるだろ? お前が俺に笑顔を向けるなんて、有り得ない事だからな」

紫苑「べ、別に何も隠してないわよ!」


 そう言って、紫苑は部屋を出ていった。


紬「優斗さん」

優斗「あぁ」


 俺は紬の呼び掛けに小さく頷いた。



//////



紫苑「はぁ~……」


 私は布団に寝転んで、暗い天井を見つめていた。


紫苑「言えるわけないじゃない」


 あんた達に命を掛けて、なんて……


紫苑「私だけで大丈夫……戦鬼も妃戦もいる」


 優斗には悪いけど、まだ、鬼人と戦うのは早すぎる。

 紬も隠してるけど、身体にダメージが残っている。


紫苑「私がやらないと」


 また、誰かを失ってしまう。

 また、心が悲しみで満たされてしまう。

 握った手のひらには、じっとりと汗が滲んでいた。


紫苑「は、はは……」


 何よ? 緊張でもしてるの?

 死の可能性に直面して、恐怖でもしてるっていうの?

 そんなの同じ様な事が何度もあった。だけど、もし、またあれが……

 すると、今度は私の身体が小刻みに震え出した。


紫苑「や、やだ……」


 布団を頭から被って、ギュッと枕を握り締めた。


紫苑「今日だけ……明日には始まる……みんなを……」



//////



優斗「紬!?」

紬「優斗さん!? そんなに慌てて、どうしたのですか?」


 俺は呼吸が整わないまま話を続けた。


優斗「紫苑がいない!?」

紬「紫苑さんが?」

優斗「あぁ、家中探したけど、どこにもいないんだ!?」

紬「――そう言えば、昨日の紫苑さんの様子はどこか変でしたね」

優斗「あいつ、やっぱり何か隠してたんだな!? 紫苑を探しに行こう!」


 俺の言葉に紬も賛同してくれると思っていたが、紬からの返事は返って来なかった。


紬「優斗さん。きっと紫苑さんにも理由があっての事です。話せない程の事なら、紫苑さんも悩まれての決断だと思います」

優斗「だけど、紫苑の話じゃ、鬼人達が仕掛けるのは今日だって言ったじゃないか!? 一人じゃ危険だ! 俺は紫苑を探しに行く!」

紬「優斗さん!」


 出ていこうとした俺の前を紬が立ち塞いだ。


優斗「退いてくれ!」

紬「退きません! 優斗さんが一人で行っても殺されるだけです!」

優斗「そうなった時は、そうなった時だ!」

紬「じゃあ、優斗さんが紫苑さんを追いかけて行ったら、誰がここを守るんですか!?」

優斗「そ、それは……」


 月ちゃんとさやちゃんは、この家で一緒に暮らしていた。

 俺達の目の届く範囲にいた方が安全だと思ったからだ。

 俺は言葉に詰まってしまった。


紬「優斗さんが紫苑さんを心配する気持ちはわかります。それは私も同じです。でも、だからと言って私達は感情に流されてはいけない。この街の人達を守る為に……」


 俺は一度、拳を堅く握り締め、解いた。


優斗「ふぅ~……ありがとう、紬」

紬「優斗さん。必ず、鬼人の計画を止めましょう」



//////



紫苑「……はぁ、はぁ……」


 私は街中を駆けていた。

 奴等が結界を発動する前に見つけて、片をつける。

 それが誰も傷付かずに済む方法。


紫苑「……はぁ、はぁ……こんな巨大な結界を、外からは発動出来ないはず。奴等は結界の中にいる」


 でも、結界の中って言っても、範囲が広すぎる。

 どこにいるの?


?「――やぁ、また会ったね。お姉ちゃん」

紫苑「!?」


 私はその声の主と素早く距離をとった。


紫苑「何の用? 水瀬 翔」

翔「そんなに警戒しないでよ。ほら、僕は武器なんか持ってないし」


 水瀬 翔の手足に視線を向けたが、言葉通り武器は持っていなかった。


翔「お姉ちゃん。探してるんでしょ? この籠を作った鬼人を」

紫苑「――ッ!? 奴等の居場所を知ってるの!?」

翔「まぁね。教えてあげてもいいよ?」


 水瀬 翔はにこにこ笑いながら言った。


紫苑「何故、私に教えるの?」

翔「そんなに警戒しなくても、罠じゃないよ。僕は夜鬼さん以外の下につく気はないし、夜鬼さんの邪魔をする奴は全て排除する。――奴等も邪魔なんだ」


 こいつの言って事は本当なの?

 でも、街中を探してたら時間が足りない。

 もし罠だとしても、戦鬼と妃戦がいれば切る抜けられる。


紫苑「わかったわ。奴等の居場所を教えて頂戴」


 すると、水瀬 翔はゆっくりと腕を上げ、指差した。


翔「この方向、三キロ程の場所にデカい建物がある。その屋上にいる」

紫苑「三キロ先の建物の屋上?」

翔「信じるも信じないもお姉ちゃん次第」


 そう言って、水瀬 翔は私に背を向けて、人込みに消えた。


紫苑「……少しでも可能性があるなら……」


 私は三キロ先の建物を目指して走った。



//////



紫苑「一番大きな建物は、これか」


 私の目の前ある、高層ビルを見上げた。


紫苑「ふぅ~……」


 一度、自分を落ち着かせる様に、深く息を吐いた。

 そして、ゆっくりとビルの中に入っていった。



//////



 ビル内は、仕事中のビジネスマンで溢れていた。

 私は片隅にある非常階段を屋上に向かって上っていった。

 一段上る度に、いつもより自分の足音が大きく聞こえた。


紫苑「この上に奴等がいる」


 心臓の音が、今まで生きて来た中で一番ハッキリ聞こえる。

 まるでこの何でもない階段が、死に向かう道の様だった。


紫苑「もう少し……」


 あと少しで辿り着く。

 私は懐から人型の札を出し、戦鬼と妃戦を呼び出した。


戦鬼「主人。俺が先に行く。主人に死なれたら、意味がねぇからな」


 そう言って、戦鬼は屋上に続く扉を開いた。



//////



 屋上に出ると、ただ一人、紬達と神社で戦っていた、片瀬と言う鬼人がいた。


片瀬「来たか……」


 片瀬は背を向けたまま、静かに言った。


紫苑「あんたがこの結界を張ったのね?」

片瀬「だとしたら、どうなんだ?」

紫苑「あんたを倒して結界を消す」


 片瀬はゆっくりと私の方に向きを変えた。


片瀬「俺の能力は聞いてるのだろう?」


 紬達から聞いている。

 あいつの能力は、結界を張り、その中にいる者に攻撃を与えた時、好きなルールを作る事が出来る。


紫苑「あんたの攻撃なんて一撃も当たらないから平気」


 その瞬間、戦鬼が片瀬に襲いかかった。


戦鬼「お前は俺に殺されるからな!!」


 戦鬼の鋭い拳は、片瀬の片腕に当たり、骨を砕いた。


片瀬「がぁ!? ッ!?」

戦鬼「これでもう片腕は使えねぇ」

片瀬「……ふ……ふふふ……」


 片瀬は折れた片腕を押さえながら、笑っていた。


紫苑「何がおかしいの!?」


 私は片瀬の笑いに不気味なものを感じ、片瀬に触れた戦鬼に視線を向けた。


紫苑「戦鬼。あんた、それ……」


 私の視線を追って、戦鬼は自分の身体を確認する。

 すると、戦鬼の腕から僅かではあるが、血が流れていた。


戦鬼「これは……いつの間に」

片瀬「くくく……さぁ、一つ目だ。まずは、邪魔者には退場頂こう」


 突然、戦鬼と妃戦の身体が消えていった。


戦鬼「なっ、何だ!?」

妃戦「――ッ!?」


 戦鬼と妃戦の身体が消えると共に、私は足に力が入らず、その場に足をついた。


紫苑「な、何を……」

片瀬「主への攻撃は、式鬼への攻撃でもある。追加したルールは一つ。お前の術力を封じた」


 そ、それじゃあ、戦鬼と妃戦が消えたのは、私の術力がなくなったから?

 立ち上がろうとしたが、私は再び膝を地面についた。


片瀬「無駄だ。術者が術力を失う事は、命を失ったも当然」


 そう言って、片瀬は私に近付き、蹴り飛ばした。


紫苑「――ッ!? ――ゴホッ!? ゴホッ!?」


 か、身体に力が入らない……

 術力は命と一緒。それが無くなれば、当然、身体に異常をきたす。

 片瀬は意識が朦朧としている私の髪を掴み、無理矢理立ち上がらせた。


片瀬「安心しろ。お前はまだ殺さない。他の奴等を殺るための餌になってもらう」

紫苑「……こ、この……卑怯……も……」


 そこで、私の目の前は真っ暗になった。



//////



片瀬「馬鹿な女だ」


 片瀬は紫苑の頭を掴み、引きずる様に運んだ。


//SE 氷の刃が飛んで来て、足元に刺さる


片瀬「――!?」

時斗「待ちな。そいつを返してくれへんか?」

片瀬「貴様か、藤平 時斗。この女を助けてどうする? こいつは貴様らの敵でもあるのだぞ」

時斗「理由なんてない。只、そいつはお前にはもったいない女なんでな」


 片瀬は時斗の言葉に鼻で笑った。


片瀬「ふっ。この女が大事か、藤平 時斗。貴様も所詮は人間か」

時斗「返すんか? 返さないんか?」

片瀬「返さないと言ったらどうする?」


 その瞬間、時斗の周りに氷の刃が無数作られた。


時斗「力ずくで奪いかえしたるわ!! ――ッ!?」


 だが、空中に浮いた氷の刃はピクリとも動かなかった。


片瀬「どうした? 力ずくで奪いに来ないのか?」


 片瀬は紫苑の身体を盾にする様に、自分の前に持って来た。


時斗「……ちっ……卑怯やで……」

片瀬「くくく……どうした? そちらが来ないなら、こちらから行くぞ!」

時斗「!?」


 片瀬は紫苑を盾にしたまま、時斗に向かって来た。


時斗「ちぃ!?」


 片瀬は両手が使えないため、蹴りで時斗に攻撃をした。

 そして、時斗が片瀬の蹴りを避けようとした瞬間、片瀬の爪先から鋭利な刃物が現われた。


片瀬「油断したな、藤平 時斗!! これで、結界のルールが一つ追加される!!」

時斗「……ふ……ふふふ……」

片瀬「何がおかしい!?」

時斗「よう見てみいや。あんたの攻撃が誰に当たったって?」

片瀬「これは!?」


 片瀬の爪先から出た鋭利な刃物は、時斗の身体に触れておらず、時斗を守る様に現われた氷に突き刺さっていた。


時斗「あんたの能力は知ってるわ。それにあんたの性格の汚さもな」

片瀬「……藤平 時斗……」


 しかし、片瀬は余裕の笑みを浮かべた。


片瀬「……くくく……それがどうした? 人質はこちらにある。お前にこの女を捨てる事が出来るか?」

時斗「……紫苑……」

片瀬「出来ないよなぁ?」


 すると、片瀬は紫苑を抱えたまま、時斗と距離を開けて行った。


片瀬「結界の完成まで、あと少し、この女は預かっておくぞ」


 片瀬はビルから消えて行った。


時斗「……面倒な事になったな……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ