第拾漆話『中編03 神社/戦闘/牙狼 紅蓮(がろう ぐれん) 』
優斗「なぁ、紫苑」
紫苑「何よ?」
優斗「藤平って、紫苑や紬と同じ陰陽の家系なんだよな?」
紫苑「えぇ、それがどうしたのよ?」
優斗「朝のあいつも、紫苑や紬と同じ様に術を使えるって事だよな」
紫苑「もちろん、そうね」
あいつは朝の時、術なんて一度も使う気配をみせなかった。
俺を相手にするのに術は必要なかったって事か?
そうして暫く歩いていると、前方から数人、俺達に向かって歩いて来た。
俺が何も気にせず歩いていると、紫苑と紬は立ち止まった。
紬「優斗さん。止まって下さい」
優斗「ん? どうしたんだ?」
紫苑「あんたも少しは邪気を感じられる様になりなさい」
優斗「邪気?」
紫苑達の雰囲気――敵か?
一体どこに……
ここには俺達しか――ッ!?
優斗「まさか、あいつらが!?」
すると、前から歩いて来た奴等も足を止めた。
紫苑「あんた達、いつまでそんな猿芝居を続ける気?」
異形の者「――く……くくく……バレちゃ仕方ないな」
人の中から皮を剥ぐようにして、人ならざる異形の者達が姿を現した。
異形の者「おい、お前達! 獲物は目の前だ! 殺せーーー!!」
その瞬間、異形の者達の動きが止まった。
異形の者「な、何だ!? 身体が動かねぇ!?」
そして、その男はゆっくりと姿を現した。
異形の者「誰だ!?」
男は俺と紫苑を見た後、一言だけ口にした。
?「四仙神へ行け」
そう言った瞬間、異形の者達は悲鳴すらあげず、黒い灰となっていた。
優斗「な!? ちょっ、ちょっと待て!?」
しかし、既に男の姿は消えていた。
紬「……四仙神……」
優斗「紬、知っているのか?」
紬「確か、この街の中心部にその場所があると聞いた事があります」
優斗「この街の中心?」
そう言われて浮かんだ場所が一つあった。
優斗「そうだ!? 確か、東明寺って寺の看板に、この寺は街の中心にあるって書いてあった」
紫苑「東明寺か……」
紫苑は小さく呟き、何か考える様に間をとった。
優斗「どうかしたのか、紫苑?」
紫苑「何でもない。さぁ、行くわよ!!」
///////
紫苑「この上ね」
俺達が階段に足を掛けようとした瞬間だった。
優斗&紫苑&紬「!?」
俺達の足元を何かが襲った。
俺、紬、紫苑は、咄嗟にそれを避けた。
優斗「何だ!?」
紫苑「敵!?」
三人が一斉に臨戦態勢をとった。
?「ふふふふふ……避けたか」
俺達の前に男が姿を現した。
?「龍蛇鞭を交わすとは、なかなか活きの良い獲物だ」
男の手には、龍蛇鞭と呼ばれた鞭が、自らの意思を持つ様に動いていた。
優斗「お前、夜鬼の仲間か!?」
?「夜鬼? アハハハハ! あんなのと一緒にするなよ!」
紫苑「それじゃあ、あんたは何?」
?「俺か? 俺は牙狼 紅蓮。こいつは、相棒の龍蛇鞭だ」
紫苑「それで、夜鬼と関係ない鬼人が、何故こんな所にいるのか聞かせてくれない?」
紫苑がそう言うと、牙狼 紅蓮は笑いながら言った。
紅蓮「くくく……お前、相当の使い手だな。楽しめそうだ。――龍蛇鞭!!」
紫苑に向かい、複数本の鞭が一斉に襲った。
優斗「紫苑!?」
紫苑「ナメられたものね。こんな――ッ!?」
突然、紫苑が大きく後ろに飛び、龍蛇鞭の射程外へ移動した。
紫苑「紅蓮って言ったっけ? あんた、良い武器持ってるじゃない」
紅蓮「――よく気付いたな」
紫苑の視線は、龍蛇鞭が触れた草木に向いていた。
紫苑「毒ね」
龍蛇鞭が触れた草木は、皆、溶けて液体となっていた。
紅蓮「その通り。こいつの刺には、毒が塗り込まれている。かすっただけで傷口から全身に拡がり、のたうち回って死ぬ事の出来る毒がなぁ」
紫苑「良い趣味してるじゃない?」
紫苑の鋭い視線が紅蓮を睨み付けた。
紅蓮「――良いぜ。気の強い女は嫌いじゃねぇ」
紫苑「ありがとう。――でも、私はあんたみたいな奴、反吐が出るほど嫌い!!」
紅蓮「くくく……、その綺麗な顔が苦痛に歪んで、俺に助けを懇願する姿。――見て見てぇなぁ」
紅蓮の龍蛇鞭が獲物を狙う蛇の様に、紫苑に襲いかかった。
優斗「紫苑!?」
紬「紫苑さん!?」
紫苑「優斗! 紬! あんた達は先に行きな! 私はこいつをやってから行く!!」
紫苑に言葉を掛けようとした俺を止め、紬は小さく頷いた。
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紫苑「さて、これで思う存分出来るわね」
そう言って、私は空中に小さい炎の球体を幾つも作り出した。
紅蓮「おもしれぇ」
紫苑「行くよ」
私が紅蓮を指差すと、空中にあった炎が紅蓮目掛けて飛んで行った。
紫苑「飛翔の火炎!――連弾炎」
紅蓮「龍蛇鞭!!」
炎は紅蓮に当たる前に、龍蛇鞭によって撃ち落とされた。
紅蓮「どうした? それで終わりか?」
紫苑「冗談でしょ!? まだまだこれからよ! ――連弾炎!!」
私は再び空中に炎を呼び出した。
紅蓮「芸がないな。さっきと同じじゃ面白くないぜ?」
紫苑「じゃあ、こう言うのはどう?」
空中にあった炎が集まり、一つの大玉になっていった。
紫苑「弾圧の火炎――弾炎!」
紅蓮「量より質か。蹴散らせ、龍蛇鞭!」
龍蛇鞭は炎の大玉を縛り付け、バラバラに引き裂いた。
紫苑「まだよ!」
空中でバラバラにされた炎が、再び紅蓮に向かって行く。
紅蓮「く……くくく……」
炎が紅蓮に直撃する瞬間だった。
まるで対象を見失った様に、炎は空中で止まった。
紫苑「炎が止まった?」
紅蓮「止まった? 違うねぇ。俺が止めたんだよ」
紫苑「なっ!?」
よく見ると、炎達は龍蛇鞭に絡み取られ、空中で自由を失くしていた。
そして、紅蓮の合図と共に空中で止まっていた炎が、私に向かって飛んできた。
紫苑「――ッ!?」
私は術札を空中に投げた。
それぞれの術札から水が溢れ出し、私の前に水の壁を生成した。
しかし、炎は水の壁で消えるものと、火力を落としながらも突き抜けてくるものがあった。
紫苑「――くっ!?」
突き抜けた炎は私の身体に直撃し、同時に爆発した。
紫苑「さ、さすがに無理だったか。いくら相性が良くても、私の本来の属性は火。火と水の相性を補うだけの術力の差があって当然か」
そして、炎の直撃により動けない私に向かって、獲物を狙う蛇の様に龍蛇鞭が追撃してきた。
紫苑「――くっ!? 牢固たる土の壁! ――土砂石硬壁」
私は咄嗟に地面に手をつき、岩で自分の周りを固めた。
紅蓮「なるほど。この程度のダメージじゃ、まだ抵抗するか」
紫苑「ふふふ……」
私は小さく笑った。
紅蓮「何がおかしい?」
紫苑「あんた、今、自分が優勢だと思ったでしょ?」
紅蓮「何を言って――!?」
その瞬間、紅蓮の背中に衝撃が走った。
紅蓮「何!? こ、これはさっきの炎!?」
紫苑「いいえ、違うわ。さっきの弾炎は、確かに全弾私に向かって来た」
紅蓮「じゃあ、どこから……」
紫苑「その弾炎は、私が新しく放ったものよ」
紅蓮「新しく!? 俺はお前が新しく炎を出すところは……まさか!?」
紫苑「見えなくて当然よ。そのために痛い思いをしたんだから」
紅蓮「俺の跳ね返した炎の爆破と土の壁を目眩ましにしたってのか?」
すると、私の話を聞いた紅蓮は声を上げて笑い始めた。
紅蓮「……くくく……あははははは!! やっぱり、おもしれぇ女だ!! まさか、自分を目眩ましの道具にするたぁ!!」
そして、ひとしきり笑った紅蓮は、予想も付かない事を言った。
紅蓮「気に入った! お前、俺の女になれ!」
紫苑「――はぁ!?」
紅蓮「俺の女になれよ」
紫苑「……あんた、弾炎をくらって頭おかしくなったの?」
先ほどまでの雰囲気が、一瞬にして変わった。
紅蓮「別におかしい事はねぇだろ? お前が気に入ったんだ」
紫苑「あんたね。私達を殺しに来たんじゃないの?」
紅蓮「あぁ~……止め、止め。殺す気が失せた」
そう言うと、紅蓮は背を向けた。
さっきまでの殺気が消えた?
こいつ、本気で……
紅蓮「おい。これは独り言だ。神霊鏡は人の命を代償に形作られる物だ。片瀬のやつがお前達をここに来させたのは、生け贄にするためだ」
紫苑「え?」
紅蓮「気をつけろ。お前に死なれては俺が困るからな」
そして、何処かへ去って行った。
私達が生け贄?
紫苑「優斗……紬……急がないと!?」
私は全力で優斗達の後を追いかけた。