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鬼人神鬼  作者: saku
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第拾伍話『中編01 束の間の日常 』

優斗「……はぁ、はぁ……や、やっと着いた」


 長い戦いの夜を終えて、俺達は帰ってきた。

 俺が気を失っている月ちゃんと紬を背負い、さやちゃんの手をひいて、妃戦は紫苑を背負っていた。

 ここにいる全員、大なり小なりの傷を負っていた。


優斗「妃戦。悪いけど、中まで連れて行ってもらってもいいかな?」

妃戦「かしこまりました」



//////



 全員に部屋を準備し、それぞれの部屋に寝かせた。

 そして、俺は自分の部屋の布団に入り、真っ暗な天井を見ていた。


優斗「まだ残ってる」


 初めて生き物を切った感触。

 姿は違えど、俺はさやちゃんの父親を斬った。

 そして、血を流す仲間の姿。


優斗「――ッ!? クソッ!!」


 何も出来なかった自分への行き場のない怒りが、俺の中に広がっていた。


優斗「ふぅ~……、シャワーでも浴びてくるか」


 頭を冷やしてこよう。

 早く寝ないと、今日のダメージが抜けなくなる。



//////



優斗「それにしても静かだな」


 あれだけの激しい戦いの後だからなのか、やけに静かに感じた。


優斗「あれ?」


 風呂場の扉から明かりが漏れていた。


優斗「行く時に消し忘れたのかな?」


 俺は何も気にせず扉を開けた。



//////



優斗&紫苑「え?」


 洗面所にいたそいつと声が重なった。


優斗「紫苑!? な、何で!?」

紫苑「何でって……眠れないからシャワーを浴びてただけだけど……? あんたは何をやってんの?」

優斗「お、俺も眠れないからシャワーを浴びようと」

紫苑「これは偶然?」

優斗「そ、そう、偶然だ!?」

紫苑「じゃあ……、いつまで見てる気だ!!」


 紫苑の手元から、お札が飛んできた。


優斗「ま、まて……べびがばば!!」



//////



優斗「いてて……紫苑の奴は、手加減をもっと知ってくれよな」


 それにしても、紫苑の肌は綺麗だっ……


優斗「はっ!? いけない、いけない! 何考えてんだ、俺!」


 チラッと見えた紫苑の背中。あの傷は、今日の……

 紫苑の背中には、今日の戦いの傷跡がクッキリと残っていた。


優斗「情けねぇ……」


 女の子一人も守れないなんて……

 いや、逆に守られてるよな。

 そんな事を考えながら、廊下を歩いていると、庭の方に人影が見えた。


優斗「ん? 誰だ、こんな時間に……?」



//////



紬「――ッ!? 大和!?」

優斗「え?」

紬「あっ……、ごめんなさい……」


 紬は俺の気配を、大和と間違えてしまったらしい。


優斗「いや、気にするなよ。紬はここで何をしてたんだ?」

紬「朝靄の中に浮かぶ月が、何だか綺麗だったので……」

優斗「月?」

紬「もうすぐ消えて行く月が、まだ頑張って輝いている。それが何だかすごく綺麗に思えて」


 大和があんな事になって、紬の気持ちが整理出来ないのは仕方ないよな。

 俺だって、あいつが死んだなんて信じたくない。


優斗「なぁ、紬」


 そう話し掛け様とした瞬間、


紫苑「あっ、いた!? エロ優斗!?」

優斗「げっ!? 紫苑!?」

紬「……エロ優斗……?」

紫苑「そうなのよ。こいつったら、私の裸を見たのよ」

優斗「ばっ!? あれはわざとじゃないし、それに俺は紫苑の顔を見ていたんだ」


 すると、紬が小悪魔のように小さく笑った。


紬「……ふふ……優斗さん。紫苑さんって、結構、胸ありますよね。それに、形も綺麗なお椀型で」

優斗「そうそう、紫苑って、意外と着痩せするタイプなんだな」

優斗&紫苑「………………」


 一気に場の空気が張り詰めていった。

 そして、鬼人に勝るとも劣らない殺気を感じた俺は、ゆっくりと視線を上げていった。

 そこには、恐ろしい程ニコニコ笑っている紫苑がいた。


紫苑「優斗? あんた、最後に言い残す事はある?」

優斗「し、紫苑……その笑顔は怖いぞ……?」


 すると紫苑は、右手と左手に一枚ずつ術札を持って、俺の前に差し出した。


紫苑「これから私は、この術札を放ちます。一つは陽の印を書いた術札。もう一つは陰の印を書いた術札。好きな方を選ばせてあげるわよ」


 え、選ぶったって、どっちがどっちだか、サッパリわかんないぞ!?


紫苑「ん~? どうしたの? 選ばないなら、両方放つけど?」

優斗「わぁ~!? 待て!? すぐに決める!!」


 ――とは言え、これじゃあまるで、確率二分の一のロシアンルーレットみたいじゃないか!?

 どうする、俺?

 この選択に俺の人生が…………


紫苑「はやくぅ~」


 くっ……こいつ……

 いや、今はそんな事より、こっちに集中するんだ。

 紫苑の思考を読むんだ。

 ――そうだ!?

 確か、前に本で読んだぞ。人間は無意識の内に心臓のある左側を、安全な状態にすると。

 その心理から推測すれば…………


優斗「左だ! 俺は左の術札にする」

紫苑「そう。左でいいのね?」

優斗「……(ごくり)……」

紫苑「じゃあ、行くわよ?」


………………

…………

……



//////



優斗「――ッ、はぁ、はぁ!? あ、危なかった……」

紫苑「あ~、残念……」

優斗「ざ、残念とかじゃねぇだろ!?」


 俺は紫苑から放たれた術札を辛うじてかわした。

 しかし、術札は今も俺の目の前で黒い炎を吐き出していた。


優斗「本当に死んだらどうすんだよ!?」

紫苑「その時は、その時よ」

紬「まぁまぁ、紫苑さんも優斗さんも落ち着いて下さい」

月「……ん~……」


 すると、騒ぎで目を覚ましてきた月ちゃんが、眠い目を擦りながら俺達を見ていた。


優斗「月ちゃん? 起きちゃったのか」

月「……ん~……優斗……何してる?」

優斗「何でもないよ。騒がしくして、ごめんね」


 そう言った俺の目に眩しい光が飛び込んできた。


優斗「いつの間にか、太陽が登ってたんだな」

紬「優斗さん。ご飯食べませんか?」

優斗「ご飯? そう言えば、何も食べてなかったな」

紬「私、朝食の準備をしてきますね」

優斗「あぁ~、俺も手伝うよ」



//////



優斗「さぁ、召し上がれ!」


 テーブルの上には、出来たての料理が並んだ。


紫苑「召し上がれって、殆ど紬が作ったんでしょう」

優斗「俺だって、米研いだり、材料を洗ったり、盛り付けたりしたんだぞ」


 それを聞いた紫苑から、ため息がこぼれた。


紫苑「はぁ~……、結局、あんたは料理に触れてないじゃない」

優斗「――はっ!? まさか、紬……」

紬「い、いえ、私はただ、優斗さんのお料理の腕前もわからないですし、変な物を食べて体調を壊したら戦いどころじゃないと思いまして」

紫苑「――紬。それは、フォローになっていないわよ」


 くっ……刺さったぜ。

 俺の純粋な心に、冷たいナイフがグサリと……


優斗「そ、それより、早く食わないと冷めちまうぞ」

紫苑「そうね。折角の出来たてが台無しになったゃうわね。いただきま~す!!」


 紫苑は玉子焼きを一切れ口に運んだ。


紫苑「……あ~ん……(もぐもぐ)……」

優斗「さぁ、月ちゃんもどうぞ」


 月ちゃんは、一度、何かを確認する様に俺を見た後、まだ上手く使えない箸で玉子焼きを刺して、パクリと食べた。


優斗「――月ちゃん?」


 月ちゃんの瞳から頬を伝い、涙が流れていた。


月「……おいしい……温かいご飯……」


 その言葉を聞いて、俺はふと思った。

 そう言えば、月ちゃんは人間だった頃、病気で長い間入院生活をしていたんだっけ。

 食事も制限されて、一人で死の恐怖と戦っていたんだ。


優斗「……そっか、美味しいか。じゃあ、どんどん食べな! おかわりもあるからね!」

月「……ん……」


 俺は月ちゃんの髪をそっと撫でた。

 すると、月ちゃんは自分の髪を撫でている俺の手に視線を向けた。


月「……優斗の手……温かい……」

優斗「前もそんな事を言ってたっけ。別に俺の手なんか……」

月「……温かい……」


 月ちゃんはゆっくりと目を閉じた。


紫苑「優斗」

優斗「な、何だよ、紫苑?」

紫苑「あんた、犯罪行為はしないでね」

優斗「なッ!? ……す、するわけないだろ!!」

紫苑「あははははは!!」


 でも、こうやって笑える事が、こんなに嬉しいなんて初めてだ。



//////



優斗「ふぅ~……」


 朝食を食べ終え、熱いお茶を啜っていた。


優斗「さぁて、紫苑、紬、ちょっといいか?」

紫苑「なによ?」

紬「どうしました?」

優斗「二人に話があるんだ」

紫苑「改まって、どうしたのよ?」

優斗「月ちゃんだけど、この家に住んでもらおうと思う。こう言うのは、一緒に住んでる紫苑や紬にも了承を得ておかないといけないだろ?」


 すると、紫苑は興味なさそうに、あっさりと答えた。


紫苑「別にいいんじゃない。あんたの家だし、それにその子はもう力を失ってる」

紬「その点は安全ですね。私も紫苑さんと同じです」

優斗「ありがとう。ありがとな、紫苑、紬」

紫苑「ば、ばかじゃないの!? こんな事で喜んじゃって」

紬「ふふふ……」


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