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鬼人神鬼  作者: saku
15/49

第拾参話『序13 戦闘―月/夜鬼』

優斗「何だ、今のは!?」


 轟音が響いた後、建物が激しく揺れた。


紬「恐らく、紫苑さんとあの少年の戦いによるものでしょう」

優斗「紫苑の奴は大丈夫だよな?」

紬「わかりません。ですが、今は紫苑さんを信じて、先に進むしかありません」


 そうして走り続ける俺達の前方に、次の部屋が見えた。


優斗「あった!? 次の部屋だ!?」

紬「優斗さん、十分に注意して下さい」


 俺が扉に手を掛けると、不気味な音をたてながら、扉はゆっくりと開いていった。


優斗「月ちゃん!?」

紬「待って下さい、優斗さん」


 駆け出そうとした俺の前に紬が立ち、俺を制した。


紬「もう一人います」


 すると、暗闇の中から夜鬼が姿を現した。


優斗「お前は、夜鬼!?」

夜鬼「随分遅かったな? 地獄の鬼共に肉体を奪われてしまったのかと思ったぞ?」

紬「あの鬼人が、優斗さんや紫苑さんが言っていた…………。確かに今まであった鬼人とは別格ですね」


 夜鬼は紬の存在に気がつくと、観察するように紬を見た。


夜鬼「ほぅ、お前が真城の者か」

紬「な、何故私の事を!?」

夜鬼「なに、簡単な事だ。お前と同じ術力を持っている者を、知っているだけだ」

紬「私と同じ?」

大和「お嬢様。鬼人の言葉に惑わされてはいけません」


 大和が紬と夜鬼の間に入り、話を切った。


夜鬼「ふむ……、どうやら招かざる者もいる様だな。貴様は真城のイヌか?」


 その瞬間、瞬きすらしていない俺達の前から、夜鬼の姿が消えた。

 そして、肉を抉る様な、不快な音が響いた。


大和「……ごぷっ…………な、に……」


 俺達の目に映ったのは、大和の身体を突き抜けた、夜鬼の腕だった。


優斗「なっ!?」

紬「大和!?」


 夜鬼は大和を貫いた腕を強引に抜き去った。

 支えを失った大和は、崩れる様に倒れた。


夜鬼「さて、これで邪魔者はいなくなったわけだな」

優斗「ッ!?」


 俺と紬は即座に臨戦態勢をとった。


優斗「紬。夜鬼はどうやって大和をやったんだ!?」

紬「わかりません。私も気付いた時には既に……」


 嫌な感じだ。

 心臓を鷲掴みにされているように感じる。


 俺の足は、その場から一歩も動かなかった。


夜鬼「真城の者。あれを渡せ。そうすれば、命までは取らないでおいてやる」


 あれ?


紬「馬鹿を言わないで下さい。私の命を賭しても、これを守ってみせます」

夜鬼「そうか。ならば、仕方あるまい」


 その瞬間、再び、夜鬼の姿が消えた。


優斗「紬!!」


 夜鬼の腕は紬の前で、別の腕によって止められていた。


戦鬼「ぐっ……主人! 早くその嬢ちゃんを!?」


 その間に素早く、紬と優斗は何者かによって、その場から移動させられた。


紫苑「――何してんのよ、あんた達は?」

優斗「紫苑!? お前、無事だったのか!?」

紫苑「無事も何も……あんた達の方がヤバかったでしょうが」


 紫苑は視線を夜鬼に向けた。


紫苑「また、会えたわね」

夜鬼「また、ねずみか。貴様に用はない。さっさと失せろ」

紫苑「あんたに用が無くても、こっちには用があるのよ」


 そして紫苑は小さな声で、俺に言った。


紫苑「あいつは私が何とかするわ。あんたはあの子に用があるんでしょ?」

優斗「紫苑?」

紫苑「勘違いしないでよ。私はあいつとの戦いに集中したいだけ。余計なものはあんたに任せる」


 俺は紫苑の顔を見て小さく笑った。


優斗「ありがとう、紫苑」

紫苑「それから、これを使いなさい」


 紫苑がそれを俺に向かって投げた。


優斗「これは?」

紫苑「来る途中で見つけた。あんた、武器くらいは持ちなさいよ」


 紫苑に渡された刀を鞘から取り出した。


優斗「――綺麗な直刃だ」

夜鬼「それは!?」


 刀を見た夜鬼の表情が一瞬変わった。


夜鬼「そうか。あれを持ち出したか」


 俺は背中に背負っていたさやちゃんを紬の所に寝かせた。


紫苑「じゃあ、死ぬんじゃないよ!」

優斗「お前こそ!」


 そして、俺と紫苑は同時に、自分の相手に飛び込んで行った。


紫苑「妃戦! 優斗の補助と大和の傷を見てやって! こっちは、戦鬼と二人で何とかするわ!!」

妃戦「わかりました」


 妃戦は素早くステップを踏み、俺や紬の後方に移動した。

 そして、手のひらに風を集め始めた。


妃戦「疾風はやて


 妃戦の手に集められた風が、俺を優しく包んだ。


優斗「な、なんだ!?」

妃戦「ご安心下さい。風の力が貴方を保護してくれます」

優斗「保護ったって、足が地面についてないし、どうやって移動すればいいんだよ!?」

妃戦「思い描いて下さい。風達は貴方の思い描いた通りに動きます」


 ――思い描く?


 わかんないけど、とりあえず移動しなきゃ。

 

――動け!!


 その瞬間、俺の足を包んでいた風が、ジェット機のエンジンの様に、風を噴き出した。


優斗「なっ!? ちょ、ちょっと待て!?」


 すると、今度は風が前方に立ち塞がり、身体にブレーキを掛けた。


優斗「……ははは、すげぇ……」


 なるほど、思った通りにか……


優斗「ありがとう。――えっと、妃戦でよかったか?」

妃戦「はい。お好きな様にお呼び下さい」


 そして、俺は後ろにいる紬に背中越しに言った。


優斗「紬。わるいけど、手を出さないでくれ」

紬「わかっています。――ですが、優斗さんの命の危険を感じたら、私は迷わずに戦います」

優斗「わかった」


 紬に言葉を返した後、目の前にいる月ちゃんに視線を向けた。


優斗「――月ちゃん」


 俺がそう口にした瞬間だった。

 月ちゃんは両手に大鉤爪を装着し、一直線に向かってきた。


優斗「なっ!?」


 俺は咄嗟に持っていた刀で、月ちゃんの大鉤爪を受け止めた。


優斗「止めてくれ! 俺は月ちゃんと戦いに来たんじゃない!!」


 しかし、鬼の力を持つ月ちゃんの力に俺は押されていた。


優斗「くっ……」


 押される。

 力じゃかなわない。

 俺は身体に纏った風の力を利用し、月ちゃんと距離を取った。


優斗「……はぁ、はぁ……」


 さすが、鬼の力だな。

 力比べじゃ分が悪い。


紬「優斗さん! 風を刀に纏って下さい!!」


 紬が声を上げた。


優斗「風を刀に?」

紬「研ぎ澄まして下さい。限り無く薄く、そして、鋭く」


 俺は紬の言葉の通りに、刀に風を集め、イメージをした。


 ――限り無く薄く

 ――限り無く鋭く


 やがて、身体に纏っていた風は、刀にピタリと吸い付く様に、薄くなっていった。


優斗「これは……?」


 しかし、月ちゃんは俺のことなどお構いなしに、両手の大鉤爪を振るった。


優斗「くっ!?」


 月ちゃんの鉤爪を受け止め様とした俺の刀に触れた瞬間、五指に装着された大鉤爪の内、一本が宙を舞った。


優斗「なっ!?」


 大鉤爪が宙を舞う光景に、切られた月ちゃんより、俺が驚いていた。


優斗「何だよ、こいつは……? 紬!?」

紬「私は言いましたよ? 優斗さんの命が危険と判断すれば、戦いに参加すると」

優斗「だけど、こいつは一つ間違えば月ちゃんを!」

紬「優斗さん!!」


 突然、穏和な紬が声を上げた。


紬「これは殺し合いですよ!? その子を殺さなければ、自分が殺されます!!」


 そう言った紬の表情が、少しずつ悲しみを帯びていった。


紬「……優斗さん。鬼人に殺された人間の魂は、安息を得る事なく、地獄を彷徨い、苦しみ続けるのです。――それがどんなに苦しい事か…………優斗さんにも、他の人達にも、そんな苦しみをしてほしくないです」

優斗「……紬……安心しろよ。俺は死なないし、月ちゃんも助ける」

紬「優斗さん!」


 俺は紬の方に振り向いた。


優斗「俺は欲張りで、女の子の涙にめっぽう弱いんだ」


 そう言って、再び、月ちゃんの方に視線を向けた。


優斗「今、悪の手から月ちゃんを解放してあげるからね」


 ――足に力を込める

 ――全力で地面を蹴る

 ――同時に月ちゃんも俺に向かってくる


優斗「月ちゃん!」


 俺は持っていた刀を放り投げた。


紬「武器を捨てた……? 優斗さん!!」



//SEザク



優斗「くっ……」


 俺は月ちゃんの鉤爪を、自分の肩に突き刺して止めた。


優斗「月ちゃん……こんな所で何やってるんだよ? か、帰ってアイスを食べに行こう」

月「おにい……!?」


 月ちゃんは俺の肩に突き刺さった大鉤爪を抜いて、素早く距離を取った。

 そして、突然、左腕を抑えて苦しみ出した。


月「ぁ……ぅ……ご、ごめんなさい。月……ちゃんとやるから……」


 月ちゃんは独り言の様に、誰かに向かって話をしていた。


優斗「月……」

月「――――!? いやぁぁぁぁぁ!!」

優斗「なっ!?」


 月ちゃんは発狂した様な声をあげて、大鉤爪を振り回した。


月「来ないで!? 来ないでーー!!」

優斗「月ちゃん!?」


 その時、月ちゃんの左腕の服からちらりと見えた物を、紬は見逃さなかった。


紬「……あれは……?」

優斗「どうしたんだ、紬?」

紬「今、あの子の鬼印が心臓に向かって伸びていました」

優斗「鬼印?」

紬「鬼と契約した証に、身体につけられる印です」

優斗「それが今の月ちゃんと、どう関係があるんだ?」


 俺が紬と話している間も、月ちゃんの様子は変わらなかった。


紬「鬼印は契約の証だけではありません。契約者に契約の破棄を考えさせないための物でもあるのです」

優斗「どう言う事だ?」

紬「鬼印は、契約者が契約の破棄を考えた際に、契約者の心臓に向かって伸びていくのです。そして、鬼印が心臓に到達した時、契約者は契約している鬼によって命を奪われるのです」


 ――逃げれば死、か


優斗「何か月ちゃんを助ける方法はないのか?」

紬「一つだけ、鬼印を消す……つまり、鬼との契約を破棄する方法があります」

優斗「それはどうすればいいんだ!?」


 紬は一度、間を取った。


紬「自分以外の鬼人の心臓の血を、鬼印に吸わせるのです」

優斗「鬼人の?」

紬「鬼同士の血は反発しあい、身体に止どまれなくなるのです」


 それはつまり、月ちゃん以外の鬼人を殺して……

 俺の視線は、自然と夜鬼のいる方に向いた。


月「いやぁぁあぁぁあぁぁ!!」

優斗「月ちゃん!?」


 くそ!!

 こうしている間にも、月ちゃんは苦しんでいる。

 どうする? 俺が紫苑の所に行って、夜鬼を倒すか?



//////



夜鬼「くくく……、あちらは賑わってるみたいだな?」

紫苑「えぇ、そうね。ところであんた、何が目的? 恐らく、優斗の体内にある血朱珠だというのはわかったわ。でも、あんたはさっき紬にも用があると言っていた。――それは何故?」


 夜鬼は私の前に拳を突き出し、人差し指、中指、薬指と、順番に立てていった。


夜鬼「知っているか? 鬼神を蘇らせるには、三つの神器が必要なのを」

紫苑「三つ?」

夜鬼「そう、三つだ。その内の二つは、今、この場に揃っている」


 二つ?

 優斗の体内には、血朱珠がある。

それとは別に、もう一つ?


紫苑「――紬!?」

夜鬼「そう。もう一つは真城の者が持っている」


 すると、話を聞いているだけだった戦鬼が一歩前に出た。


戦鬼「そんなに喋らなくても、要はこいつを片付ければそれでいいんだろ?」

紫苑「待って、戦鬼!?」


 戦鬼は私の言葉を振り切って、夜鬼に向かっていった。


戦鬼「おぉぉぉらぁぁぁぁ!!」


 戦鬼の振るった拳は、夜鬼の顔面にヒットした。

 しかし、いくら力を込めようが、それ以上夜鬼の身体はピクリとも動かなかった。


夜鬼「――その程度か」

戦鬼「なに!?」

夜鬼「話にならないな」


 夜鬼は戦鬼の腕を握った。


戦鬼「ぐっ!」


 すると、戦鬼の腕に夜鬼の手が深く食い込んでいった。

 そして次の瞬間、耳障りな渇いた音と、吐き気を呼ぶ音が聞こえた。


戦鬼「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

夜鬼「脆いな」


 そう言って、夜鬼はねじ切った戦鬼の片腕を捨てた。


紫苑「戦鬼!?」

戦鬼「来るな!! ……く、来るんじゃねぇよ、主人」


 戦鬼は片腕を失いながらも、全身に力を込めて立ち上がった。


戦鬼「今、来られたら、主人を守れる自信がねぇ…………だから……だから……主人はそこにいてくれ。あいつは、俺が何とかする」

紫苑「何とかって……あんた、その傷でどうしようってのよ!?」

戦鬼「さぁな」


 戦鬼は私を見て笑った。


戦鬼「式鬼は主人がいれば、何度でも蘇れるんだろ?」


 確かに式鬼は主である術者がいれば、何度でも蘇れる。

 但し、首と胴を切り離されて息絶えた式鬼以外は……


紫苑「一度、退きなさい、戦鬼!!」

戦鬼「――悪いな。その命令は聞けねぇ。俺がいなければ、奴は主人を……そして、あいつらを襲う。せめて、あいつらがあの鬼人を倒して主人と合流するまでは…………」

夜鬼「合流するまでは、なんだ? お前が戦うとでも?」

戦鬼「――ッ!?」


 先ほどまで目の前にいた夜鬼が、戦鬼の背後に立っていた。


紫苑「戦鬼!? 戻りなさい!!」


 一瞬。

 紙一重の差だった。

 夜鬼の手が戦鬼の首に掛かる前に、私は戦鬼を強制的に元の紙に戻した。


夜鬼「――戻したか。しかし、お前が死ねば結果は変わらぬ」

紫苑「誰があんた何かに!」


 強がってみたは良いけど、実際の状況は最悪ね。

 でも、これ程の力を持った鬼人は初めてだわ。

 それにあいつは、まだ力を全て出していない。

 試行錯誤する私に、夜鬼が話し掛けてきた。


夜鬼「今の状況はわかるな? お前に選択肢をやろう」

紫苑「選択肢?」

夜鬼「一つは、手出しをせずこの場から立ち去る。二つ、敵わないとわかっている俺と戦い、仲間のために死ぬ」

紫苑「馬鹿じゃない!? そんなの……」

夜鬼「決まっているとでも?」


 私は夜鬼に鋭い視線を向けた。


紫苑「当たり前よ! 誰があんたなんかに背を向けるものですか!!」

夜鬼「なるほど。せっかく、命が助かると言うのに……誤った選択だな」


 ――来る!?

 ――これだけは使いたくなかったけど、仕方ない


夜鬼「死ね、ネズミよ」


 夜鬼の手が私に触れた瞬間、夜鬼の身体に数百万ボルトの電流が流れた。


夜鬼「これは!?」

紫苑「出来れば使いたくなかった。私自身の身体に起こる代償がわからないから。――でも、殺されるよりはマシ、よね」


 すると、夜鬼は私の身体から発した電流を見て笑った。


夜鬼「まさか、金属性の術を使えるとは……」

紫苑「式鬼は術者の持つ力を写す鏡でもある。だから、私の式鬼が出来る事は、イコール、私にも可能!!」


 次の瞬間、帯電の轟音と共に、私の身体を電流が覆った。


紫苑『鳴神なるかみよ。我が言霊に答えその力を解き放て』

紫苑『雷装一式らいそういちしき……駿雷……』

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