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鬼人神鬼  作者: saku
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第拾弐話『序12 戦闘―水瀬 翔』

優斗「なぁ、紬? この階段を下りて、どのくらいになる?」

紬「ん~……時間はわかりませんが、今私達が下りた階段が3112段目です」


 俺と紬は階段を見つけたので、とりあえず下りてみる事にしたんだが永遠に続くと思う程、長い階段だった。

 そして俺の背中では、さやちゃんがスヤスヤと眠っていた。

 理性を無くした人もいるあの場所に、置いてくるわけにはいかないので一緒に連れてきたが、階段を下りる途中でさやちゃんを俺がおぶったら、疲れが一気に出たのか、眠ってしまったのだ。


優斗「なぁ、紬」

紬「何ですか?」

優斗「さやちゃんを連れて来ちゃったけど、本当によかったのか? これから鬼人とやり合うってのに、危険じゃないか?」

紬「そうですね。でも私達が守ります。だから、一緒でいいんですよ」


 そして、俺達の前方に明かりが見えた。


優斗「あった!? あそこが出口だ!?」


 俺は目の前に現われた明かりに飛び込んでいった。



//////



 飛び込んだ先は、障害物など何一つ無い、広い部屋だった。


少年「――おめでとう。生きて帰ってきたんだ?」


 声のした方に視線を向けると、胸糞悪い奴が立っていた。


優斗「お前は!? ――言った通り、生きて帰ってきたぜ?」

少年「……ふっ……あははは!! ゴミ共の中から生きて帰ってきた? それがどうしたってんだ!?」

紬「……ゴミ……ですか?」


 その言葉に紬が反応した。


少年「あいつらがゴミじゃなければ、なんだって言うんだ!? ゴミはゴミだ。それ以下でも、それ以上でもないだろ?」


 その時、俺は紬の方に視線を向けられなかった。

 まるで、蛇に睨まれた蛙の様に、背中に寒気を感じた。


紬「……そうですか……」


 そして紬が前屈みになり、つま先に体重を移動した。


?「紬お嬢様、いけません!!」


 紬は声を上げた人物に視線を向けた。


紬「大和?」

優斗「それに紫苑も……無事だったんだな」

紫苑「何よ? 私があんなもんで、死ぬわけないじゃない」


 俺と紫苑が会話を交わしている中、大和は一人、険しい表情をしたまま、紬に視線を送っていた。


大和「紬お嬢様。今それを解放すれば、大変な事になります。何があったのかわかりませんが、気を静めて下さい」


 紬は大和の言葉を聞くと、目の前の少年からゆっくりと視線を外した。


紫苑「すいませんでした、大和。助かりました」

少年「な……なんだ、今のは……?」


 少年も俺と同じ様に、紬の雰囲気を感じとったらしい。

 自己防衛本能からか、少年は武器を手に取っていた。

 それを見た紫苑は、深く息を吐いて、一歩前へ出た。


紫苑「はぁ~……優斗。あんた、大和と一緒に紬とその子を連れて先に行きなさい」

優斗「はぁ?」

紫苑「大和の表情から、紬をこのままにしておくとやばそうだし、何よりあんたには時間が無いって言うのを自覚しなさい。それにあんたの目的は、その月って鬼人と話をする事でしょ? だから、私があいつを引き受けてあげる」

優斗「一人でか?」

紬「紫苑さん。相手の力もわからないのに、一人で戦うなど無謀です。私達も一緒に……」


 紬の言葉に紫苑は笑って答えた。


紫苑「紬達も私の力を知らないでしょ? それに、正直、紬達がいると全力を出せないの。だから、先に行って。必ず追いついてみせるから」


 紬はじっと紫苑の瞳を見据えた後、にこりと笑った。


紬「わかりました。では、お言葉に甘えさせて頂きます」

優斗「えっ? ちょっ、ちょっと!?」

紫苑「あんたも先に行きなさい」


 紫苑の瞳を見た俺は、ゆっくりと頷いた。


優斗「紫苑。絶対に追いついて来いよ!!」


 俺達は一ヶ所だけある、部屋の出口に向かって走った。



//////



少年「馬鹿ぁ? 僕がそれを見過ごすと思ったの?」


 少年が武器を振るおうとした瞬間、少年の目の前に炎の壁が現われた。


少年「ッ!?」

紫苑「私もあんたの行動を見逃すとは、言ってないわよ」


 少年は無表情のまま、私の方を向いた。


少年「あ~ぁ。見えなくなちゃったよ」


 そして、次の瞬間、少年の瞳は鋭く私を睨み付けた。


少年「あんたを殺して、早くあいつらを追わないと」


 少年は武器を構えた。


 あいつの武器の形状は、大鎌か。

 一体、どんな能力があるんだ?


出方を伺っている私に、少年は話し掛けてきた。


少年「そうそう、自己紹介がまだだった。僕は水瀬みなせ しょう。あんた達が勘違いしてる様だから言っとくけど、僕は鬼人じゃない」


 言われて気付いた。

 確かに、こいつから邪気を感じない。

 じゃあ、この邪気は…………


 私の視線が水瀬 翔の持っている武器で止まった。


紫苑「――そう言う事ね」


 私の言葉を聞いた水瀬 翔は、笑った。


水瀬 翔「わかった? 何も鬼に身体を渡さなくても、力は手に入る」

紫苑「――仮契約ね。身体を渡さないから100%鬼の力を使えない。仮契約した鬼の力の一部……それがその武器ね」

水瀬 翔「ご名答。その通り。この鎌は、僕が契約した鬼の力の一部だよ」

紫苑「そう。なら、身体は普通の人間って事ね」


 私は術力を込めた札を水瀬 翔に向けて放った。


水瀬 翔「……ふふ……」


 水瀬 翔が小さく笑った。

 すると、私の投げた札は水瀬 翔に届く前に空中で飛散した。


紫苑「!?」


 何!?

 今、あいつが何かやったの!?

 恐らく、あの武器の力ね。

 このまま突っ込むのは、危険か…………


紫苑『我解くる、汝が呪縛。我が言霊の導きに従いて、我を守る矛となれ。戦の式鬼 戦鬼よ』


 私は懐から札を取り、宙に放った。


紫苑「戦鬼!」


 宙に放った札が、姿を変える。


戦鬼「今度はなんだ、主人?」


 現われた戦鬼が、めんどくさそうに言った。

 しかし、目の前にいた水瀬 翔の姿を見ると、嬉しそうな笑みをこぼした。


戦鬼「へへへ。やっと、暴れられるってか」

紫苑「戦鬼。あの鎌は鬼の力の一部よ。能力はわからないけど、油断したらやられるわ」

戦鬼「へぇ~……、あれがね」


 戦鬼が再び、水瀬 翔に視線を向けた。


水瀬 翔「へぇ~、式鬼なんて呼べるんだ」

戦鬼「――!? 危ねぇ!!」


 突然、戦鬼は両腕を交差させ、私の前に移動した。

 次の瞬間、空中から現われた刃によって、戦鬼の両腕が貫かれていた。


戦鬼「ぐっ……」

紫苑「戦鬼!? それは、あいつの持っている鎌の刃!?」


 私が水瀬 翔に視線を向けると、鎌の刃が途中から消えていた。


戦鬼「ちっ! あの鎌、大した武器じゃねぇか」

紫苑「えぇ、やっとわかったわ。あいつの鎌の能力」


 戦鬼は自分の腕に刺さっている刃を抜いた。


紫苑「空間を飛ぶ、もしくは別の空間と現実を行き来出来る能力」

戦鬼「こいつはちと厄介だぜ、主人。あの鎌であんたを攻撃されたら、俺は攻勢に出られない」

紫苑「仕方ない」


紫苑『我解くる、汝が呪縛。我が言霊の導きに従いて、我を守る盾となれ。守護の式鬼 妃戦よ』


 私はまた宙に札を放った。


妃戦「お呼びですか、主よ」

紫苑「妃戦。防御と戦鬼の援護をお願い」

妃戦「かしこまりました」


 妃戦は私の前で膝をつき、手で地面に触れた。


妃戦『大地の恩恵よ。我が身を守る強固な体を生成せよ。――石塊せっかい


 その瞬間、地面から飛び出した岩が戦鬼の身体を覆った。


戦鬼「お? わりぃな。――さて、始めるとするか」


 戦鬼は拳をパキパキと鳴らしながら、一歩前に出た。


妃戦「主。失礼致します」


 そして、妃戦は戦鬼の守りを固めた時と同様に、地面に手をついた。


妃戦『流水よ。その淀み無き姿にて我を守りたまえ。――水蓮すいれん


 すると、空気中の水分が集まって、私の身体を覆った。


妃戦「主はそこで見ていて下さい。その水は、相手の攻撃により、形状を変化させます」

戦鬼「行くぜ!!」


 戦鬼が地面を蹴り、水瀬 翔に向かって行った。


水瀬 翔「さすがに、僕も正面から式鬼とやり合うなんて無謀な事はしないよ」


 そう言って、水瀬 翔は持っている鎌を空中で振るった。

 鎌の刃は空中で消え、戦鬼の前に現われた。


戦鬼「そんなのくらうかよ!」


 空中から現われた鎌の刃は、戦鬼を包む岩によって遮られた。


戦鬼「残念だったな」

水瀬 翔「……くく……くくく……あははは!!」

戦鬼「何がおかしい? ――ッ!? ……ば、ばかな……」


 戦鬼を覆う岩の内側から、真っ赤な血が溢れ出した。


水瀬 翔「さっき、あんた達が言ったよな? 僕の武器の能力を!!」

戦鬼「こ、こいつ……俺様の纏う岩と身体の間にある……僅かな空間に……」

紫苑「戦鬼!?」


 戦鬼はその場に片膝をついた。


水瀬 翔「式鬼でも首を飛ばせば、死ぬでしょ?」


 水瀬 翔が持っている鎌に力を込めた。


戦鬼「ぐぁぁぁぁ!!」


 その瞬間、戦鬼は自らの拳で岩を砕き、鎌の刃を掴んだ。


戦鬼「ふざけるなよ。この俺様が負けるわけねぇ!!」


 戦鬼は鎌の刃を無理矢理引き抜いた。

 戦鬼の首からは大量の血が噴き出し、辺りを赤く染めた。


水瀬 翔「へぇ……それ以上、鎌の刃が食い込まない様に、自分で引き抜いたか」

戦鬼「てめぇ……殺してやる……」


 自らの返り血を浴び、全身を赤く染めながら、戦鬼は殺気に満ちた目を水瀬 翔に向けた。



//////



紫苑「戦鬼の奴、完全に頭に血が上ってるわね。――妃戦」


 妃戦は素早く戦鬼の側まで移動し、拳を振るった。

 妃戦の拳を受けた戦鬼は、数十mも後ろへ吹き飛んだ。


戦鬼「ぐ…………何しやがる!?」

妃戦「頭を冷やせ。お前と私は主によって呼び出されたのだ。勝手に死ぬのは構わないが、お前が死ぬと主が危険になる」

戦鬼「……ちっ! 聞き飽きたぜ、お前の説教はよ。俺だって今の主人に死なれたら、次はいつになるかわかんねぇからな」


 戦鬼は立ち上がり、血を拭った。


戦鬼「さぁて、それじゃあ、久し振りにあれをやるか」

水瀬 翔「あれ?」


 戦鬼は首をパキパキと鳴らした。


妃戦「良いのですか?」

紫苑「まぁ、良いんじゃない。但し、この建物に生きている人がいる事を忘れるんじゃないよ」

妃戦「かしこまりました」

戦鬼「うし! 頼むぜ、妃戦」


 妃戦が一瞬の内に戦鬼の背後に移動した。


妃戦『鳴神なるかみよ。我が言霊に答えその力を解き放て……解……雷……』


 妃戦が小さく囁き、合わせた両手を離すと、右手、左手の間に蓄積された電流が、雷の様に激しい音を立てた。


妃戦『雷装一式らいそういちしき。――駿雷』


 妃戦の手から放たれた雷は、戦鬼の身体を取り巻いた。


戦鬼「来た!? 来た!? 先ずは一発だ。避けねぇと死ぬぜ?」

水瀬 翔「ばかか? こんなに距離があるんだ。避けられないわけが……ッ!?」


 その瞬間、閃光が走った。

 閃光は水瀬 翔の頬をかすめ、背後の壁を突き抜けた。


戦鬼「あれ? 久し振りだからか? 外しちまった」


 戦鬼の言葉に水瀬 翔は小刻みに振るえ、声をあげた。


水瀬 翔「……たな? わざと外したな!?」

戦鬼「あっ? 手元が狂ったんだよ」

水瀬 翔「……うぁぁぁぁぁ!!」

戦鬼「お遊びは終わりだ」


 水瀬 翔は鎌を振り回し、戦鬼の首を狙った。

 しかし、鎌の刃が戦鬼に当たる刹那、戦鬼の姿を見失った。


水瀬 翔「なっ!? どこだ!?」

戦鬼「ここだよ」

水瀬 翔「――後ろに!? いつの間に……」

戦鬼「妃戦の駿雷は、電流により身体機能を極限まで高められる術なんだよ。まぁ、その鎌は所詮、鬼の力の一部。そんな物で俺様を殺そうなどと思った事が間違いだったな」


 そう言って、戦鬼は水瀬 翔の身体に触れた。


水瀬 翔「あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!」

紫苑「戦鬼の纏っているのは、雷と変わらない電流。つまり、生身の人間なら、触れただけで死の可能性もある」


 戦鬼は数秒触れた後、すぐに水瀬 翔から手を離した。

 すると、水瀬 翔は糸の切れた人形の様に、その場に倒れた。


戦鬼「おい主人。こいつはどうする? まだ、気を失う程度しか流してないぜ」

紫苑「頬って置きなさい」

戦鬼「だがよ、こいつの鎌は、空間を飛べるんだぜ? 気がついたら、いつ殺られるかわからない。なら、いっその事、ここで」


 拳を振り上げた戦鬼を、私は声で制した。


紫苑「止めなさい! 殺さないのは、それなりの理由があるからよ」

戦鬼「なんだよ、そいつは?」

紫苑「そいつは戦鬼と戦っている最中に、私を狙わなかった」

戦鬼「だから、なんだよ?」

紫苑「多分、その鎌は自分からある程度離れた位置までしか、空間を飛ばせない。戦鬼達を相手にするより、私を殺す方が理にかなってる。でもそいつはそれをしなかった。あの時、私はそいつから一番離れていた。つまり、少なくとも、あの時の私とそいつ以上の距離を取っていれば、突然、鎌に襲われる心配はない」

戦鬼「確かに言われると、そんな気もするな。お前はどうよ、妃戦?」

妃戦「私は主の意思に従うだけだ」


 すると、気を失っていた水瀬 翔が目を覚ました。


水瀬 翔「……こ、殺さないのか……? 甘いよ。あんたも偽善者か。殺さない、助けるなんて言って、結局、最後には裏切っておしまい。あんたの手も汚れているんだろう? 今まで殺した鬼や人間の血で!」

紫苑「……………………」


 私は水瀬 翔の言葉を無視するように、歩を進めた。


紫苑「優斗達を追うわよ。戦鬼と妃戦もついて来なさい。この先、まだ鬼人が何人いるかわからないから」


 優斗達の後を追って、私は戦鬼、妃戦と共に駆け出した。

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