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鬼人神鬼  作者: saku
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第玖話『序09 決戦前夜』

 三日後。


 俺は紫苑、紬、大和の、地獄の訓練に耐えきった。

 今、リビングに集まって、あいつらのアジトに向かう作戦を練っている。


紬「あの鬼人がいる場所はわかっています」


 紬が机に広げた地図を指差した。


紬「ここです」

紫苑「あの鬼人、優斗に追って来いとか言ってたけど、本当に私達が行くのを待ってるみたい」

優斗「どうして、そんな事がわかるんだ?」

紫苑「あいつ、私達に見つけて下さいと言わんばかりに邪気を放ってる。それに、この場所から動いていないの」


 俺は紬が指差した地図に視線を向けた。


優斗「街外れの廃墟か……」


 そこは何十年も前に人が住んでいたらしいが、今は近づく人もいないため廃墟になってしまっている場所だ。


優斗「なぁ、そこに月ちゃんもいるのか?」

紬「多分いると思います。この場所から感じる邪気は三つ。最低でも三人の鬼人がいます」


 三人……

 あの時、夜鬼の後ろにいた奴らか。


紫苑「いい? 優斗。最低三人よ。もしかしたら、それ以上いるかもしれないからね」

優斗「わかってる」


 そんな中じゃ、月ちゃんと話せる時間も少なくなる。

 だけど、あの時の月ちゃんの涙は、本当の月ちゃんが流した涙だ。

 どんな理由かわからない。だけど、月ちゃんは人を傷付ける事を望んでいない。


紬「紫苑さん。優斗さん。これを見て下さい」

優斗「これは?」

紬「廃墟の見取り図です。この数日、大和に動いてもらっていました」


 そこには、廃墟内の構図が描かれていた。


優斗「紬。この何も描いてない所は何なんだ?」

紬「申し訳ありません。そちらは、今回、近付く事の出来なかった場所です」

紫苑「別に構わないわよ。これだけあれば、色々と作戦が練れるわ」


 紫苑は机に広げられた見取り図を、観察する様に見ていた。

 そして、ある場所で紫苑は視線を止めた。


紫苑「ねぇ、紬」

紬「なんでしょう?」

紫苑「此所にある階段。この見取り図を見た限り、二階はない。これは何なの?」

紬「大和の報告から、地下に続いている様です」

紫苑「地下?」

紬「はい。何処まで続いているのかまでは探れませんでしたが、この先に鬼人達がいる事は間違いないかと」


 紫苑は紅茶を一口飲んで、口の渇きを潤した。


紫苑「ふぅ~……これ、ヤバいわね」


 紫苑の表情に雲が掛かった。


優斗「どうしたんだよ? 何かあるのか?」


 そう言った俺に、紫苑は呆れた様にため息を吐いた。


紫苑「はぁ~……、あんたね。子供でも、もうちょっとましな事を言うわよ」

優斗「何だよ?」

紫苑「いい? 私達が地下に入って、仮に上の廃墟を破壊されたら、地下に閉じ込められる事になるのよ」


 そうか。入口は一つだから、それを塞がれたら俺達は前に進むしかなくなる。

 罠があるとしても、それを承知で進まなくちゃ行けないんだ。


優斗「でも、だからと言って、行かないわけにはいかないだろ」

紫苑「そうね。とりあえず、入口を塞がれたらこちらにとって不利になる。誰かに入口を守ってもらわないと」

紬「それなら、適任がいます」


 紬は人型の紙を手に取った。


紬『解呪。我が言霊の調べに答えよ。その強き魂にて、我が御霊を守護する者よ。子心式鬼ししんしき 八々』


 人型の紙は紬の手から離れると形を変えた。


?「紬~! 久し振りだぁ~!!」

紬「久し振りですね、八々(やや)」


 八々は紬の姿を見ると、子供が母親に甘える様に抱き付いた。


紬「この子は私の式鬼で、八々と言います」

八々「よろしくぅ!」


 俺達に一言挨拶をした八々は、また、紬に抱き付いた。


八々「あはぁ! 紬だ、紬だぁ~!!」


 そんな八々の姿を見た俺は、紬の言葉とは言え不安になった。


優斗「なぁ、紬。本当に大丈夫なのか?」

紬「何がですか?」

優斗「何がって……」


 こんなちっさな子に、一人で入口を預けて……


八々「むぅ……、兄ちゃん、こんなちっさい奴に入口任せても大丈夫かって思ったでしょ?」

優斗「え?」


 何で俺の思った事がわかったんだ?


八々「何で俺の思った事がわかったんだ」


 また!?


優斗「紬。この子は一体……?」

紬「八々、優斗さんが困っているから、それくらいにしなさい」

八々「は~い!」

紬「優斗さん、驚かせてしまって、すいません」

優斗「いや……それより、何で俺の考えている事がわかったんだ?」


 紬はクスリと笑った。


紬「優斗さん。相手の心を読むのが、八々の力です」

紫苑「式鬼によって、能力が違うって教えたでしょうが」

優斗「あんな一遍に話されて、覚えられるかよ」

紫苑「覚えなさいよ」

紬「はい。お二人共、そこまでですよ」


 紬はパチン! と、手を叩いて、俺達を止めた。


紬「話を戻しますが、八々は相手の心を読み、次の行動を知る事が出来ます。余程の相手ではない限り心配ないでしょう」


 紬の話を聞いた俺は、ふっと、ある事を思った。


優斗「なぁ、もしかして、八々がいれば月ちゃんの気持ちがわかるんじゃないか?」

紬「確かに、その鬼人の心を読む事は出来ます。しかし、それは表面だけです」

優斗「表面?」

紬「優斗さんのお話を聞く限り、その鬼人は心を固く閉ざしてしまっています。その固く閉ざされた扉を開けない事には、八々でも閉ざされた先の心は読めません」


 八々に頼らず、自分でやるしかないって事か……

 すると、八々が俺の側に来て、ぽんぽんと、肩を叩いた。


八々「良い事を教えてあげる。相手の心を開かせるには、信用してもらう事が一番大事だ」


 驚いて八々の顔を見ると、八々は無邪気な笑顔を俺に向けた。

 俺は八々の頭を軽く撫でた。


優斗「ありがとう、八々」


 悩んでいたって、しょうがないよな。

 俺がやらないと、月ちゃんはずっとあのままなんだ。


紫苑「じゃあ、入口は八々に任せるとして、地下に降りてからの私達の行動ね」


 紫苑が話を戻して、見取り図に視線を落とした。

 しかし、見取り図には地下が記載されていなかった。


紫苑「まぁ、敵の本拠地だから仕方ないわね。地下に入ったら一人で行動をしないこと。もし、敵の攻撃で分断されそうになった時は、必ず近くにいる人がフォローをする。最低でも、二人一組は崩さない」


 俺、紬、大和は、紫苑の言葉に頷いた。


紬「一つよろしいですか?」

紫苑「何?」

紬「紫苑さんの意見には賛成しますが、二人一組の相手は予め決めておいた方がいいのではないでしょうか」

優斗「なんでだ? 実際に分断された時に、必ず近くに相手がいるとは限らないじゃないか」

紬「確かに優斗さんのおっしゃる通りですが、始めから組む相手が決まっていれば、二人はお互いを意識しながら戦うので、予想外の事態にも対応できます」

紫苑「なるほど。紬の言う事も一理あるわね。――o.k! じゃあ、ペアを決めましょう。私と優斗、紬と大和でいい?」

八々「はい、は~い! 僕は紬とがいい!!」

紫苑「はい、はい。あんたは、入り口でお留守番でしょ」

八々「あぅ~……紬~~!!」

紬「よし、よし」


八々をあやしている横で、紫苑は誰の意見も聞く事なく、勝手にペアを決めた。


優斗「ちょっと待て!? そんな勝手に」

紫苑「理由ならあるわ。紬と大和はずっと一緒に戦って来たわけだから、お互いの呼吸を知っている。私は、優斗のお守よ」

優斗「俺のお守ってなんだよ?」

紫苑「言ったまんまよ。あんたの中の鬼は私が抑えてやってるんだから、私がいないとだめでしょ?」

優斗「う……」


 確かに紫苑の言う通りだけど、お守ってのはなぁ……


紫苑「さて、あと地下に着くまでは、全員で行動するわよ」

優斗「わかった」


 お互いに視線を合わせて頷いた。


紫苑「決行は今夜。それまでに各自で準備を整えておいて」

紬「わかりました。それでは、私達は準備を致しますので、失礼致します」

八々「紬~!」

紬「八々も一度、お札に戻ってね」

八々「あぅ~……」


紬は涙を溜めた八々をお札に戻し、大和と一緒に部屋を出て行った。


紫苑「私も準備があるから」


そう言って立ち上がった紫苑が、部屋の扉付近で立ち止まった。


紫苑「あんたはその月って鬼人だけに集中しなさい。あとは私と紬達で何とかするから」


 そう言って、紫苑は静かに部屋を出て行った。



//////



紫苑「みんな揃ったわね」


 外は全てを飲み込む様な闇。

 今日に限って、月も雲に隠れていた。

まるで、俺達を死刑台に誘う様に暗闇がどこまでも続いている。


優斗「行こう」


 俺達は視線でお互いを確認する。


紬「長い夜になりそうですね」


紬がぽつりと小さく呟いた。

 そして、俺達は夜鬼の待つ廃墟に向かった。


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