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鬼人神鬼  作者: saku
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第捌話『序08 特訓』

 俺は今、大変恐ろしいモノを目の前にしている。


優斗「ぎゃぁぁぁぁ!? し、紫苑~~!!」

紫苑「何をこれくらいで騒いでいるのよ?」

優斗「こ、これくらいって……」


 俺の手足にはお札が貼られ、紫苑の質問に正しく答えられなければ、お札から電流が流れる様になっていた。


紫苑「はい、では、私の得意な術法は?」

優斗「はぁ? そんなのしら……かぴぷぺぺ!!」


 その瞬間、貼られたお札から、電流が発せられた。


紫苑「ざんねん」

優斗「ざんねんじゃないだろ!? まじでやばいって!?」


 それに、さっきから問題が全て紫苑の事だけで、全然わからない。


紫苑「はぁ~……はい、はい。じゃあ、始めるわよ」

優斗「はっ? 始めるって何を?」

紫苑「基礎知識の部分」

優斗「…………じゃ、じゃあ、今までのは何だったんだ?」

紫苑「一度やったら、楽しかったから続けてただけよ」

優斗「はぁ!? ちょっ!?」

紫苑「さぁ、始めるわよ」


 紫苑は俺に何も言わせず、強引に話し始めた。


紫苑「いい? まず、私達の使う術は、五つの属性から成り立っている。火、水、土、金、木。これは、陰陽で言う五行思想ごぎょうしそうと同じ。そして、術にはそれぞれこの五行の属性がある。そのため、術により優劣が発生する」


 紫苑は説明をしながら、解りやすい様にボードに書いていった。


紫苑「そして力は、術者の身体に内包されているもう一つの世界から、こちらの世界に呼び出して使用する」

優斗「もう一つの世界?」

紫苑「そう、術者特有の世界。その世界には術だけでなく、術者の武器なども眠っている。それを呼び出せるかは、その術者次第。それらを呼び出すには、その世界で術者自身がそれらを見つけなければいけないから」

優斗「ん~……要は、自分の中で宝探しをしてるようなものか?」

紫苑「まぁ、そんな感じね。それと術者が使える術は、術者の持っている属性によって得手、不得手がある事を覚えておくように」

優斗「術者の持っている属性?」

紫苑「その術者に元々備わっている術力の属性の事。――まぁ、説明するより、実際に見た方が早いわね。これを持って」


 そう言って、紫苑は細長い小さな紙を出した。


紫苑「その先を握って、自分の中に流れている血液を、手のひらに集中させる様な感じで強くイメージしてみて」

優斗「わかった」


 俺は紙を握ると目を閉じて、イメージした。

 ――全身。頭の先から、足の先まで、身体中に流れている血液を、順番に手のひらに集中させていく。


紫苑「もう良いわよ」


 紫苑の声で目を開ける、紙は薄く緑に変化していた。


優斗「色が変わった?」

紫苑「なるほど。あんたの属性は木って事か」


 そう言って、紫苑は俺の手から紙を取った。


紫苑「ちなみに私は」


 すると、紫苑の持っている紙が、赤く染まり、最後には燃え始めた。


優斗「紫苑が持ったら赤に変わった?」

紫苑「そう。これは術者の術力属性によって色を変える特殊な紙なの。ちなみに、赤が火、青が水、黄が金、茶が土、緑が木にあたる。ここまではいい?」

優斗「わ、わかった」


 俺は紫苑の言葉に頷いた。


紫苑「じゃあ、次は属性ごとの特性を説明するわね。まずは火。私自身の属性である火は、攻撃性に優れているけど、防御や味方を補助する術は他の属性に比べて劣る」

優斗「要するに、攻撃だけって事か」


 すると、俺の身体に電流が走った。


優斗「イダダダ!?」

紫苑「人を攻撃だけの猪武者みたいに言わないでよね。あとで説明するけど、別に自分の属性以外の術が使えないんじゃないわよ。私は防御も補助の術も習得してるわ」

優斗「へぇ~、そうなのか」

紫苑「次に水。水は攻撃と補助が主な術になる。防御はそこそこね。――っで、土。術は主に防御と補助。特に防御は全ての属性の中で一番強固よ。そして、あんたの属性の木。攻撃、防御、補助、共にバランスの取れた属性。只、バランスは取れているけど、他の属性と違い決めてに欠ける」

優斗「なるほど。バランスの良い事が、逆にマイナスになりえるって事か」


 紫苑は小さく頷いた。


紫苑「最後に金。全属性中、最悪の属性。攻撃、防御、補助の全てで最高クラスの術を使えるうえ、その術が余りに強力なため、術者自身にも代償を必要とされる」

優斗「代償?」

紫苑「そう。只、私も人間で金属性の術者に会った事がないから、代償が何なのかはわからない」

優斗「ようは金属性の術者はやばいって事だな」

紫苑「もし、金属性の術者と相対した時は、戦う事なんて考えずに逃げるのよ」


 紫苑の強い言葉と視線に押され、俺は頷いた。


紫苑「さて、ここまでざっと説明して来たけど、次で基本は終わりよ」

優斗「あ~、既に頭の中、ごちゃごちゃだよ」

紫苑「うるさい。これくらい、詰め込みなさい」


 そう言って、紫苑は俺の言葉など無視して、先に進めた。


紫苑「さっき五行の話をしたけど、五行より、更に細かく術の属性が分けられている。例えば、同じ火の術でも陰の術と陽の術では、効果や威力が変わってくる」

優斗「陰と陽?」

紫苑「簡単に言えば、陰は人間で言う負の部分。陽は人間で言う正の部分。今から、私がやるから見てなさい」


 すると、紫苑はノートを1ページ切り取った。


紫苑「先ずは陽」


 そして、紫苑の指が紙に触れると同時に火がつき、暫くして燃え尽きた。


紫苑「そして、陰」


 紫苑は同じ様に紙に触れた。

 その瞬間、紙は黒い炎に包まれ、一瞬で灰に変わった。


優斗「な――――っ!?」

紫苑「見たでしょ? これが陰と陽の違い。陰は相手を破壊するために使う術。だから、不用意に使うと相手の存在さえ消しかねない」


 こ、こんな術、人に対して使えるわけない。

 本当にその人を殺してしまう。


紫苑「まぁ、使い方は人それぞれだから。――あ~、それと陰と陽を合成出来れば、自分の手足となる式鬼を呼び出す事が出来るわ。式鬼は個々で能力が違うから、そこには注意が必要ね」


 紫苑は話し終えると、俺の前に座った。


紫苑「あと、術は自分の属性の術しか使えないわけじゃない。只、自分の属性以外の術は、自分の世界から呼び出すことが難しいって事。だから、使いたければ頑張るしかないわね、優斗」


 そう言って、紫苑は笑った。

 その紫苑の笑顔に、俺は見とれていた。


優斗「紫苑。お前って、笑うと可愛いんだな」


 ポロッと、口からこぼれてしまった言葉を聞き、紫苑は顔を紅潮させた。


紫苑「な、なに言ってるのよ!? この馬鹿!?」

優斗「イテッ!? 何も殴る事ないじゃないか」

紫苑「あんたが変な事言うからよ。それより、今からちょっと痛い事をするわよ」


 そう言って笑った紫苑の笑顔は、とてつもなく恐ろしく感じた。


紫苑「ちょっと失礼」


そう言って、紫苑は指で俺のおでこに触れた。

その瞬間、全身を数百の刀で刺された様な痛みが走った。


優斗「ッ――――!? うぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

紫苑「神経に直接、術力を流したわ。少し痛いかも知れないけど、あんたが自分の世界に入り込むための手っ取り早い方法」


 す、少し痛いなんて、生易しいものじゃないぞ。

 少しでも気を抜いたら、気を失ってしまいそうだ。


 俺は床に転がり、自分の身体を押さえつけた。


 ――痛い、痛い、痛い……


 まるで、全てが終わるかのような痛み。

 これで何をするって?

 俺の世界に入り込む切掛け?

 本当にそんな世界なんてあるのか?


 痛みは更に増していき、俺の意識がぷつりと途切れた。



//////



優斗「――ッ!? ここは?」


 俺が目を覚ますと、そこは見渡す先まで荒野が続く場所だった。


優斗「これが紫苑の言ってた俺の世界なのか?」


 何もない荒野。

 それを見て俺は不思議と笑いが込み上げてきた。


優斗「ふ……ははは、何もないか……」


 あの日から俺の中では終わっているんだ。

 だから、この世界には何もない。

 それは俺の中に何もないからだ。


優斗「紫苑の奴、こんな中から何を探せって言うんだよ?」


 すると、荒野の奥から空を覆いつくす闇がこちらに近づいてきていた。


優斗「な、なんだ!?」


 その闇はあっと言う間に、この世界と俺を飲み込んでしまった。



//////



優斗「ッ――――かっ!? ――はぁ、はぁ!?」

紫苑「お帰りなさい、優斗」

優斗「……あれが、俺の世界なのか?」

紫苑「そう。今見たのは、あんた自身の世界。今は見られただけで良いわ」

優斗「あ、あぁ」

紫苑「今は術なんて使えなくていい。それよりも、術者の相性を覚えておきなさい。術が使えなくても役に立つはずよ」


 その時、正午を知らせる鐘の音と同時に、紬が現われた。


紬「失礼致します。調子はいかがですか、優斗さん?」

優斗「紬……」


 紬は人事の様に、にこにこしながら言った。


紬「準備が整いましたので、そろそろ、お食事にしませんか?」

紫苑「そうね。お腹も空いたし」


 そう言って、紫苑は立ち上がり、部屋を出て行った。


紬「さぁ、優斗さんも」

優斗「あ、うん」



//////



優斗「ッ!?」


 大和の繰り出した拳が、俺の頬をかすめた。


紬「大和の拳をよく躱しています。身のこなしは、思っていたよりも上ですね」


 俺と大和の模擬戦を、紬は道場の端に座って観戦していた。


紬「――大和」


 名前を呼ばれた大和が紬の方に目を向け、小さく頷いた。

 その瞬間、大和のスピードが上がった。


優斗「うぉ!?」


 繰り出された大和の拳を、木刀で受け止めた。


大和「よく止められたな」


 大和は間を置かず、受け止められた拳を引くと同時に、もう片方の拳を撃ってきた。

 俺は体制を崩しながら、紙一重で拳を躱した。


大和「甘いな」


 大和は体制を崩した俺の懐に入り、どう足掻いても防ぎようのない、拳を撃ってきた。

拳は俺の腹部に深々と突き刺さった。


優斗「ぐ――!!」


 大和の拳で吹き飛んだ俺の身体は、道場の壁にぶち当たって止まった。

 そして、倒れた俺の顔を覗き込みながら、紬が言った。


紬「優斗さん。いかなる状況でも、逃げはいけませんよ」

大和「正確には気持ちだがな」

紬「そうですね。今の場合、優斗さんは大和の拳を避ける事だけに集中していましたが、いつかは捕まります」

優斗「だからって、俺に攻撃を避けるなとでも言うのか?」

紬「時と場合によっては……例えば、今の場合、最後の攻撃の前に優斗さんは体制を崩しながら、大和の拳を避けましたね」

優斗「あぁ」

紬「あそこは避けるべきではなかった。むしろ、拳を自ら受けて反撃をするチャンスだったのです」

優斗「でも……」

紬「大和の拳は、何の強化もしていないため、数撃でしたら耐えられるはずです。鬼人との戦いは命のやり取り。一瞬の判断ミスが命取りになります」


 確かに、俺は拳を避ける事だけ考え、反撃に出るなど思ってもいなかった。

 攻撃は最大の防御って事か……


優斗「……くっ……」


 俺は脚に力を込めて、立ち上がった。


優斗「もう一丁頼む」

紬「そうこなくては、――大和」

大和「はっ」


……………………

………………

…………

……


//////



紫苑「やっと終わったみたいね。――どう? 初日の特訓を終えた感想は?」

優斗「とりあえず、疲れて、腹が減った」

紫苑「そう」


 大和達の特訓を終えた俺は、汗まみれでリビングに飲み物を取りにきた。


紫苑「ほら」


 紫苑は自分の家の様に冷蔵庫を開けて、取り出したペットボトルを投げた。


優斗「サンキュー!」


 早速、蓋を開けて、一気に飲み干した。


優斗「……はぁ~……生き返った~……」

紫苑「そりゃあよかったわね」

優斗「――ん? 紫苑はここで何やってんだ?」

紫苑「何って、台所なんだから、ご飯作るしかないでしょ」


 紫苑の言葉を聞いて思った。

 俺の勝手な想像だが、何となく紫苑は料理と無縁のやつなんじゃないかと。

 いつもの感じなら、全てを召使いとかに命令してそうだからな。


紫苑「ちょっと? あんた今、私が料理出来るのか? って、思ったでしょ?」

優斗「は? いやいや、思ってない! 思ってないから!!」


 紫苑を下手に怒らせると、俺の命が危険だからな。


紬「お疲れ様です、優斗さん」


 そこにちょうど良いタイミングで、大和と紬が入って来た。


紫苑「お疲れ様。ほら、紬達も喉渇いたでしょ?」


 紫苑は俺の時と同じ様に、ペットボトルを取り出し、紬達に投げた。


紬「ありがとうございます。頂きましょう、大和」

大和「はい、紬お嬢様」


 紬はペットボトルの蓋を開け、紫苑に言った。


紬「紫苑さん、コップを頂けますか?」

紫苑「コップ? そのまま飲めば?」

紬「そのまま飲むのは、優斗さんに失礼かと」

紫苑「そんなの気にしないでいいわよ。むしろ、紬が飲んだペットボトルに優斗が何かしないか心配すべきよ」


 紫苑の言葉に、俺は慌てて自己弁護をした。


優斗「ちょっと待て!? 俺は好きな子の縦笛を舐める様な事は、だ・ん・じ・て、しないぞ!!」

紫苑「そう?」

紬「では、頂きますね」


 すると、紬はペットボトルに口をつけて一口飲んだ。


紬「優斗さんもいかがですか?」


 そう言って、自分の飲んだペットボトルを差し出してきた。

 その時、紬の笑顔が紫苑の笑顔と同じ、小悪魔に見えた。


紬「優斗さんも喉が渇いているんじゃないですか?」


 紬にこんな一面があるなんて……

 俺の本能と理性が、激しい戦いを繰り広げていた。


優斗「い、いや……俺はさっき飲んだから……」

紫苑「あら? 意外」


 そう言って、遊ぶものが無くなった紫苑は、夕飯の支度に戻った。


紫苑「もうすぐ出来るから、そっちで待ってて」



//////



 暫くすると、紫苑が出来た料理をテーブルに運んできた。


優斗「へぇ~、随分作ったんだな? しかも、美味そうだ」


 そして、紫苑も料理を運び終えて席についた。

 昼食に紬が作ってくれた和食とは違い、紫苑の料理は洋風だった。


紫苑「さぁ、食べて!!」

優斗「それじゃあ、早速!!」


 俺はてんこ盛りに詰まれた肉団子を一つ、口に放り込んだ。


優斗「……(もぐもぐ)……美味い!」


 その後は、とにかく食べられるだけ食べた。



//BGブラックアウトで戻る



優斗「ふぅ~、美味かった~」


 運動した後と言う事もあり、いつもより多くご飯を胃に納めた俺は、満足しながら紫苑の片付けを手伝った。


紫苑「あんたは幸せねぇ~」

優斗「なんだよ?」

紫苑「だって、私や紬の手料理を食べられる奴なんて、そういないわよ」

優斗「はい、はい。ありがたく思ってますよ」


 俺は軽く流す様な返答をした。


優斗「ところで紫苑」

紫苑「ん?」

優斗「紫苑は何で陰陽術なんてやろうと思ったんだ?」

紫苑「なによ、唐突ね」


 紫苑は洗い物の手を休める事なく続けていた。


紫苑「理由ねぇ~……家がそう言う家柄だったからかな」

優斗「へぇ~、この街にそんな家柄の所があったんだ」

紫苑「何言ってるのよ? この街には、京澄、真城、藤原、安里の四家があるわよ。昔は、もう一家あったんだけどね」

優斗「全然、知らなかった」

紫苑「まぁ、存在を隠しているから、知らないのが普通よ」


 紫苑と話をしている間に、洗い物は終っていた。


紫苑「それより、明日もあるんだから早く寝なさいよ。あんたには、時間がないんだから」

優斗「わかったよ」


 俺は紫苑の言う事を聞いて、自室に戻った。


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