シンデレラ.エピローグ
数日後、そこには王子とエラの結婚式を遠くから見守る一人の少女の姿があった。この結婚の立役者とも言えるエアである。民衆がこぞって二人を祝福したそれは王家の権力を最大限に盛大に執り行われた。彼女は姉の晴れ姿に満足そうに頷く。画して一人の少女が思い描いた計画は見事に実を結び、こうやって現実のものとなったのだ。空には雲ひとつない。絶好の結婚式日和だ。
しかし、中心に並ぶ二人の姿に少女は何か得も言われぬ違和感を覚えていた。何故か、二人からはお互いを慈しみ愛し合うというような、もっと端的に言えばラブラブでイチャコラな空気が感じられないのだ。彼女はあの性格の悪い王子が自分に語った言葉を思い出す。「僕になんてまるで興味がないと言う瞳が素敵だ」彼はあの舞踏会で自分にそう告げた。そしてあの夜、王子は最後に「彼女も君と同じように魅力的な女性だ」と結んだ。そこから導き出される答えは何か。
「お姉ちゃんは王子様に興味がない?」
エラが王子を愛しているのではないとすると何故彼女は王子と結婚をしたのだろうか。考えられる理由は一つ。あの家から解放される為に王子を利用した。そういうことだろうか。エアの頭の中でそんな不穏な考えが渦巻く。
夜のお店で働く友人は本当に父親から事の顛末を聞いたのだろうか。いくら馬鹿な父親とは言え、わたしの耳に入りそうなところでそんな話をするのだろうか。
実父の家を尋ねた時に継母に勘違いされたのは、そこにエラがいなかったからだ。あの時、姉はどこに居たのだろう?こっそりとわたしの事を観察していたのではないか。
お城のテラスで王子とエラは何を話していたのだろう。王子が人を見抜く能力に秀でていたとしても、長年暮らしてきた継母が見抜けない双子の姉妹をそう簡単に見抜けるものなのだろうか。本当は全てを知っていたエラが王子にそれをリークしたのではないか。
それが事実だとしたら、エアが姉の為にと東奔西走したの全てはエラの掌の上で踊っていただけだったと言う事になる。果たしてその中でエアを襲ったトラブルは偶然だったのか。もしかしたらそれすらも見越した上でエラは賽を投げたのではないのだろうか。
そうと仮定した場合、何故彼女がそんな事をしたのか。理由は判らない。それは幸せに暮らしてきた妹に対する嫉妬かもしれない。ただ単に自分が解放される為に動いた結果としてエアが不利益をこうむっただけなのかもしれない。答えはわからない。
わからないが、エアにそれを詮索をする気はさらさら無かった。こっちの理由は簡単だ。エアの望みは唯一つ。エラが幸せになる事。エラの思惑がなんであれ結果こそが全てなのである。
「エラさんに会いにいかなくていいのかい?」
いつの間にか現れた魔法使いがエアに声をかける。彼女は一つ笑いを浮かべると中年の魔法使いにこう言った。「わたしはお姉ちゃんの物語には登場しないのよ」そう、彼女はシンデレラのストーリーには登場しない。
「だってわたしはシンデレラにとっては空気のような存在、空気姫なんだから」
―END―