シンデレラ.8
エアは言葉を失っていた。「一体この男は何を言っているんだ?」青年から投げかけられた言葉に怒りと屈辱で目の前がチカチカとする。心臓はドクドクと早鐘を打ち、唇はわなわなと震えていた。木々のざわめきすらも自分をなじっているように感じる。
「聞こえなかったのか?じゃあもう一度言おう」
エアの様子を満足そうに眺めながら、王子は本当に嬉しそうにこう続けた。
「まずは両手でスカートをたくし上げるんだ」
王子がエアを上から下まで睨め回す。その視線に不潔な厭らしさを感じさせないのはそのルックス故か、身分故か。
「…そんな…事」
「嫌なら帰るんだ」
冷たくそう言い放つ王子。相手の葛藤を上から見下ろすのが至極なのだろう、嗜虐の笑みを浮かべる。上気する体温と反対にエアの心は凍りついていく。
「……わ…かりました」
エアはそう言うと、おずおずとスカートを自らの手でめくっていく。靴、脛、膝、腿と少しずつ露になっていく柔肌が夜風にさらされる。その冷たさが少女に否が応にも自分が屋外で肌を晒そうとしている事を自覚させた。
「可愛い下着だね」
王子はエアの前にしゃがみ込む。自分の手で異性の前に下着を晒している、非現実的な状況にエアの顔はますます赤みを増していく。
「……少し汗くさいかな」
「――な」
「動くな」
エアが声を上げようとするのを制する王子。彼はさらに数度エアの股間の前で鼻をひくつかせると、文字通り目と鼻の先にある股の付け根を指でなぞった。少女の脊髄に蟲がのぼっていくような感覚が走る。
王子の指が少しずつ布の中心へとシフトしていく。そして、ついには下着の上からとは言え、エアの秘部を捉える。ゆっくりと前後に指を這わせるとエアの皮膚の下には先程とは比べ物にならない程大量の蟲が発生した。少女はおぞましさから漏れ出しそうになる声を出すまいとするが、手はスカートを掴んでいる為、口を塞ぐ事も出来ない。
「これいらないな」
少女の下着に王子の手が伸びる。
「ちょっと!」
たまらず声をあげるエア。意外にも王子は彼女の制止に従い手を止めた。
「そうだよな、下着を脱がされるのはさすがに恥ずかしいよな」
エアは胸を撫で下ろした。しかし、この王子、ここで引き下がる性格ではない。微笑を崩さないまま王子は静かに口を開いた。
「スカートの裾を口で咥えて、自分で下着を下ろすんだ」
脱がされるのは恥ずかしいだろうから、自分で脱げ、彼はそう言う。エアの顔が赤から青へと染まっていく。
「冗談……よね?」
「何度も言わせないで欲しいな。僕はどちらでも構わないんだ」
どちらでもいい、それは本心だろう。王子としてはエラが自分の命令に従えば面白いし、そうでなければ城に戻って寝るだけ、ただそれだけなのだろう。
「わかったわよ!」
エアを悔しさをかみ殺しながらも自分の下着に手をかける。この一時だけ屈辱に耐えれば万事問題ないのだ。下着を下ろすのと同じ分だけ、自分の尊厳や心と言ったものが削り取られて行く感覚。夜風はあいも変わらず、彼女を責め立てていた。
「はは、こんな野外で下半身を露出している気分はどうだい?」
下着が自らの手で少女の足元まで下ろされる。薄い陰毛が外気にさらされる頃には既に少女の顔からは生気が失われていた。目は虚ろになり、口は半開きとなる。何故、自分がこんな目に。本当にここまでしなければならないのか。疑問は次々と浮かぶが、空っぽになった頭にそれを反芻する力はない。
「じゃあ、次が最後の命令だ」
王子が俄かにそう言った。最後の、と言う言葉に少女がぴくりと反応する。次の命令さえクリアすれば、この辱めは終わるのだ。伽藍堂のようになっていた少女の瞳に光が戻る。
「そのままここで排尿でもしてもらおうか」
「……は?」
「ここでそのまま小便を垂れるんだよ」
王子が今日一番の笑顔でにこやかにそう宣言する。もはや少女は完全に言葉を失っていた。喋り方を忘れてしまったかのように口をパクパクとさせる。屋外で、しかも異性の目の前で排尿行為を行う。なんだそれは。あまりの現実感のなさに少女の足元がぐらぐらと揺らいでいく。
「いや、待てよ。やっぱり尿を撒き散らすだけじゃ面白味にかけるな。排尿しつつ、うひょひょーと叫びながら、トリプルアクセルを決めてみてくれ。それで命令は終わりだ」
白い歯を光らせてサムズアップを決める王子。エアは静かに覚悟を決めるとさっきから焦点の定まっていない瞳をぎゅっと瞑った。