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そんなこんなで暇である。
「宿題ばっかしてらんねぇし、けど外は日差しが暑そうだし」
直もつまらなそうに一人ごちした。いつのまにかカウンターに顎を乗せて両腕を脱力させながら、外の様子を眺めていた。空に響く飛行機の音が地上に降りてくる。あの飛行機は旅行者を乗せてどこか知らない土地へ行くのだろうか、飛行機から見える雲はさぞかし綺麗だろうな。そんな事を考えながら隣りの蓄音器に耳を傾けた。
元々骨董好きの祖父がどっかから買い漁って来たもので、この家で二番目に歳をとっている。祖父とは違い重厚なオーラを身に纏っていてシックな印象が大変美しい。
曲をしばらく聞いて毅は思った。
「これ、なんだっけ?」
ゆっくり、自分の時間を嗜むように奏でる蓄音器に寄って音量を少し上げた。小さい頃にこんな感じのピアノの曲が店で流れていた。ピアノの連弾が特徴的で軽快で笑える曲だったり、抑揚が寂しかったりする曲だったり。曲が変わるたびに祖父に「これは?」と曲名を教えてもらっていたが、何一つとして思いだせない。
「レコードはあるんだから、スリーブあるよな・・・・・・」
毅はよしと立ち上がると、右手側にある店の陳列棚で隠れている雑多した棚に手を伸ばした。棚には昔の帳簿や何年前からあるのかわからない色褪せた紙なんかが詰め込まれ、何故か毅の中学の卒業アルバムもある。その中の一角、やけに整理されスッキリしているスペースに数十枚のレコードはしまわれていた。毅は指でスリーブの角を滑らせていき、一番右のスリーブを引く。
「えーっと、たぶんこれだ。solace、ソラース・・・・・・かな」
毅はスリーブを元の場所に戻してカウンターに戻り、宿題で使っていた電子辞書を広げた。英和辞典の項目を選択し、スペルを入れる。
「ソラース、名詞『慰め、慰安、安堵』。動詞『慰める、元気づける』」
何度か読み上げ機能を使って流暢な発音を辞書から出した後、すっと視線を蓄音器のホーンに向ける。ドレスの表面、いやその例えだと裏になるのか、曲面に映った自分の顔が伸びていて可笑しい。手のひらを近づけたり遠ざけたり・・・・・・黄金の景色は何となく優雅だった。世間のけたたましく回る政治や労働なんて微塵も感じさせない重厚な色彩。夢の世界が見えた。
「なかなか粋な極彩色ですな。一体俺の何を慰めているんだい?」
妙な顔つきでホーンを眺める毅に、ガタリと動いた扇風機だけが応えた。
「・・・・・・」
本当にこの街には人が住んでいないのだろうかと思えるくらい、表には人気がない。たまに高校生が自転車を走らせながら騒ぐ声が聞こえる。夏期講習の生徒だろう、このクソ暑い中ノートやプリントを汗でふやかしながら勉学に励むとは、御苦労さま。と、毅はそんな悪態をつきつつ電子辞書を傍のバッグに放り、カウンターを回って店内をうろついた。
「改めてみると、古本屋だよなぁ」
改めるも何も古本屋である本棚を目で撫でて行く。背表紙は疾うに色褪せ、元の色がわからなくなるほど痛んでいる本もある。どれもカビた芳香を漂わせていた。こんな古過ぎる本を誰が買うのだろうかと思うが、たまに白髪のお爺さんなんかが聞いたこともないような作家の小説を買っていってくれたりする。需要のある限り、いつでもここは開けておく必要がある。毅はそう思っていた。
店先を回りハードカバーの本が並ぶ棚を見ていた時、ひと際目立つ一冊の本を見つけた。




