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忙しなく鳴り続ける蝉声が耳を突く夏、世間では海や山や娯楽施設に足を運ぶ連中がいる中、ここ『大神商店街』は爽やかな風の通り道になっていた。立ち並ぶ店の殆どが埃の溜まった無機質なシャッターを降ろしており、真夏にも関わらず寒い光景となっている。
しかしこの寂れた商店街にもひっそりと佇んでいる店があった。
よく見なければ通り過ぎてしまいそうなほどひっそりと、それでいて厳格な風貌を見せるその店は表に古いポスターの張られた木枠のガラス戸、軒下には金魚の風鈴が尻尾を振っていた。入口は開けており戸と戸の間に虫が閉じ込められてバタついているのが見える。『大歓楽書店』と表札が打ちつけられているその店は昭和の景色を彷彿とさせていた。
店内は大人五人もいれば埋もれてしまう程狭く、しかし本だけは所狭しと棚に並べられている。マンガ、小説はもちろん図鑑や辞書、雑誌などが陳列されていて、レジカウンター脇には古ぼけたスーパーボールのクジがかけられていた。
「・・・・・・ほんっと誰も来ねぇのな」
そのレジカウンターに頬杖をついて欠伸をする人物がいた。『大歓楽書店』とロゴがプリントされたエプロンには“手々島”のプレートが付けられている。緑色のドーナツパイプイスに座って斜めにバランスを取りながら前へ後ろへまた前へと暇を持て余している。ふわりと風があたり、青年の前髪を揺らした。壁に備え付けられた扇風機がガタガタと老いの見える身体で風を送っていた。レンガ色の通りに強い日差しを浴びて陽炎をのぼらせる商店街。噎せ返る気温の中、店内はその扇風機と外から入る風によって何とか涼しいと思える環境だった。
店内にはもう一つ、風鈴や扇風機の他に音の鳴る物が鎮座していた。レジスターの隣りに存在感を出すそれ、古びた蓄音器である。ゆったりとしたラグタイムが、独特なレコード音と共に黄金のドレスから静かに流れている。
「じーちゃん、楽しんでるかなぁ・・・・・・」
青年は耳に囁いてくる音を聞きながらつい数時間前の事を思い出していた。
至らない点多いと思いますが、是非今後ともよろしくお願いします。
うんこみたいな小説ですが読んでいただければ幸いです。