前編 side:L
私は、これほどまで心ひかれた人に出会ったことがなかった。
一目見たときから目を反らせない。
こんなことは初めてで…
この感情がなんと言うのか教えてほしい。
でも、この感情を知るのが怖い。
久しぶりに公務の間に空いた時間。
普段ならこんな時間に自分の寝室に足を運ぶことはない。
だが、なぜか足は寝室に向かっていた。
なぜだかわからなくて、でも何かを待ち焦がれているような高揚感。
寝室についたはずなのに、いつもの部屋のはずなのに、いつもと同じ部屋とは思えなかった。
そして一瞬の強い光に包まれることになった。
その次の瞬間には…
私の目の前に天使が舞い降りてきていた。
私のベットの中央にとても気持ちよさそうに眠っている。
その寝顔はとても愛らしく見ているだけで心が安らいでいく。
※・※・※
どのくらいそうしていたのだろうか?
いつまで見ていても飽きなかったのだから仕方がない。
そしてその時は訪れた。
天使の瞳が開いたのだ。
その黒い瞳に引き込まれる。
すべてを私のものにしたくなる。
手放したくない。
そう思った。
警戒させてはいけないと私が格闘している中でこの天使は身を起こし周りを見渡している。
目をまんまるくして頬をうっすらとピンク色に染めているその姿に庇護欲をそそられずにはいられない。
その後はもう本能のままだったと思う。
思わずその身体を私の腕の中に閉じ込めて思う存分その暖かさを堪能したのだから。
そうしているうちに侍女が様子を見にやってきた。
だが私はそれどころではない。
そう。
もう誰が何と言おうと私がこれからともに歩むのはこの娘しかいないと思ったのだから。
思い立ったら即行動しなければ…。
幸い私には妃がいない。
今まで臣下にいくら勧められてもどうしても妃をむかえる気になれなかったのだ。
側室も…私は自分で見つけたただ唯一の女性を愛しぬきたいと漠然と思っていたのだからいない。
それがこういうことだったのだと今わかった気がする。
これは、神の思し召しだろう。
私はこの娘が私のもとに来るのを待っていたのだ。
寝起きと思われるこの娘。
はやく自分のものだと知らしめたくも思いつつ、女性は人前に出るときにそれなりに磨きこむときいていた。
だからまずは湯殿を用意するよう侍女に申し伝える。
その間もこの腕の中の娘は何も反応を示さない。
ただおとなしく私に寄り添っているところをみると不快ではないようだ。
準備が出来たと言いに来た侍女にこの娘を預け、私は側近の者に謁見の間に主要な臣下を集めるように指示をだし、自身の身も整えた。
綺麗に身を整え、いいところを見せたいと思ったのも初めてかもしれない。
そうしているうちに皆がそろったと報告をうけ、娘が戻ってくるのを待っていた。
そんな時、そういえば名前すら聞いていないことに気がついた。
だが、この娘を逃がしたくはない。
ともかく自分のものにしなくてはと思ったのだ。
娘が私のもとに戻ってきた。
我が国の衣裳に身を包みなんと華やかなことだろうか。
見続けていたいが駄目だ。
このままでは私の腕の中から逃げて行ってしまいそうで怖くなる。
そう思いさっそく手をとり歩きだしてしまった。
こんな私の行為は性急すぎうだろうか。
だが許してもらいたい。
それほど恋焦がれているのだから。
だが、その思いが歩幅にも表れていたのだろう。
娘が足をもつれさせてしまった。
これは危ないと思い掬いあげる。
そして、そのまま抱き上げて進んでいくことにした。
私にふれる娘の体温は私の鼓動を高鳴らせる。
娘も恥ずかしげにうつむきながらも暴れはしない。
これは私に身をゆだねてくれたと思って良いのではないだろうか。
嬉しかった。
頬が緩むのが止められない。
つき従ってきた長年の側近でも私のこの表情に驚いている。
しかし、止められないのだから仕方がないではないか。
そうこうしているうちに謁見の間の扉が見えてきた。
扉の両脇に立った騎士が扉を開く。
私はなんのためらいもなくその中に足を踏み入れた。
もちろん手の中にある宝を抱きしめながら…。




