表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第4話 再会

 水族館から帰宅後、私は震える手でスマホを握りしめていた。

 あの人の冷たい視線と、あの言葉が頭から離れない。


『もう二度と、俺に近づくな』


 事務所に電話をかける。コール音が響く中、胸の奥が空っぽになっていくのを感じた。


『お疲れさま。どうだった?』

「任務失敗です」


 声が震えないよう、必死に抑える。


「最初から……私が別れさせ屋だということを知っていました」


 電話の向こうで、担当者が息を呑む音が聞こえた。


『そうか。それで?』

「もうこの仕事は辞めます」


 きっぱりと告げた瞬間、何かが心の中で音を立てて崩れた。

 通話を切る。涙も出ない。ただ空っぽのまま、私は天井を見上げていた。

 普通の女として生きよう。もう誰も騙さない。誰にも騙されない。そんな人生を歩もう。


 ◇


 翌週、パソコンの画面で派遣会社のサイトを開いていた。履歴書の項目を埋めながら、新しい自分を作り上げていく。


 春日葵、27歳。事務職希望。

 偽りではない、本当の私の名前。


 面接では、穏やかな担当者が微笑みかけてくれた。


「IT企業での事務のお仕事があります。環境も良く、おすすめです」

「お願いします」


 新しいスタートを切るチャンスだった。


 ◇


 初出勤の朝。新しいシャツに袖を通し、鏡の前に立つ。見慣れた顔だが、どこか違って見えた。

 派遣先の会社まで地下鉄で向かう。目的地には大きなビルが建っていた。気が引き締まる。

 オフィスビルのエレベーターに乗り込む。14階で扉が開くと、洗練されたオフィスフロアが広がっていた。

 受付で名前を告げると、面談室に案内された。程なくして、穏やかな雰囲気の男性社員が現れた。


「春日さんですね。担当部署の沢村です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」


 それから沢村さんに仕事の大まかな内容を教えてもらった。


「緊張してる?」

「あ……はい、少し」

「困ったことがあったらいつでも相談して」


 沢村さんは微笑んだ。その表情で少し気が楽になった。


 ◇


「ここが営業部のフロア」


 沢村さんの説明を聞きながら、私はオフィスの雰囲気を感じ取ろうとしていた。清潔で明るく、社員たちも穏やかに働いている。

 ここでなら、普通の日々を送れるかもしれない。


「春日さんの席はここです」


 隣の席の女性社員が会釈をした。


「春日さん、よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」


 私は深く頭を下げた。


 その時、ふと聞き覚えのある声が聞こえた。その方向を見ると——

 そこに、早川蒼真……彼がいた。

 同僚と資料を見ながら話している。落ち着いた表情で、こちらには気づいていない。


 なぜここに?どうして?


 その時、彼がこちらを向いた。

 視線が合った瞬間、時が止まった。彼の表情が驚愕に変わる。私も同じように立ち尽くしている。

 オフィスのざわめきが遠のき、まるで二人だけの世界に取り残されたような感覚。


 運命は、私たちを再び引き合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ