第3話 拒絶
夜。スマホの画面を見ると、メッセージが届いていた。
『今度の夜、水族館に行きませんか』
胸の奥が震えた。
デート……なの?
何を考えているのか分からない。
けれど、これが最後。
もし何も起こらなければ、それで仕事は終わり。
そう思いながらも、もう会えなくなると考えると、寂しさが込み上げてくることに気づいてしまった。
これは仕事、彼は依頼人の恋人、私はただ彼の依頼人への想いを確かめるだけの道具にすぎない。
それを自分に何度も言い聞かせた。
◇
水族館の入口。ライトアップされた波模様が足元を照らしている。
早川蒼真は既に来ていて、私を見つけると軽く手を上げた。
「来てくれて、ありがとう」
「きれいですね」
彼の笑顔を見ると胸が締め付けられる。
中へ入ると、青い光に包まれた幻想的な空間が広がっている。
水槽の中で魚の群れが泳ぎ、光が揺れる。
「何度見ても不思議だ。魚の群れ、息が合ってる」
「まるで一つの生き物みたいですね」
「確かに」
彼の少し笑った顔を見ていると、気づかされる。この人に惹かれていることに。
◇
大きな水槽の前。色とりどりの魚たちが優雅に泳いでいる。
彼が静かに言った。
「こうして見ると、時間を忘れますね」
「はい」
言葉は短いのに、隣に立つだけで心が揺れる。
その揺れを押し込めるように、必死で目を逸らした。
◇
出口近くのガラス張りの通路。
夜景が広がり、ガラス越しに港の灯が揺れている。
ふと、彼がこちらを振り返り、顔が近づいてきた。
これはまずい……でも、望んでいる自分がいた。
次の瞬間、彼の口から出た言葉が、その余韻を一瞬で壊した。
「別れさせ屋なんだよね?」
時間が止まったように感じた。
「最初から知ってた。どんな人間なのか、興味があった」
静かな声に、恐怖で全身がこわばる。
「俺のこと、まんざらでもないだろ」
私のことを見下すような台詞に心が抉られる。
否定も肯定もできず、口が動かない。
彼は視線を逸らし、夜景を一瞥した。
「もう二度と、俺に近づくな」
その背中が人混みに溶けていく。
私はただ立ち尽くし、胸の奥に残った温もりと冷たさに震えていた。
任務は失敗。
でも、それよりも辛いのは——彼に軽蔑された事実だった。




