地引網
次の日、私たちは早朝の薄明かりの中、浜へ向かっていた。
サチさんは今日は珍しく、誰よりも早く起きていた。
道中はお酒の話でひとしきり盛り上がっていたが、浜に着くと私まで胸が浮き立ってきた。
朝焼けの始まり出した空の下、大人も子供も集まっている。沖からはボートがゆっくりとこちらに向かっている。
子供達が、きょうはおもいー?いっぱいー?と声を張り上げればボートから、重いぞー!しっかり引けよー!と返事が返って来て子供達がわっと声を上げた。
「お!あんた達ちゃんと来たね!男はあっちだよ。女はこっち、とれた魚を網から外してどんどん捌くよ!」
昨日の豪快なおばさんだ。女性陣にテキパキと指示を出し、子供達も元気にお手伝いをしている。
なんだかお祭りの準備をしているような高揚感が楽しかった。
「ヒロさん!おはようございます!」
「タタラか、おはよう。こっちはサチだ」
「よう。……石投げた坊主の連れだな」
サチは例の穴の方を見やった。
「ボートがついたぞー!集まれ!!」
女性陣と一緒に準備をしていると、浜から声が上がった。ボートからロープが降ろされた。男性陣がわらわらと波打ち際に集まっていく。ロープは沖に向かって続いている。
「……地引網だったんだ」
「おや、君の国でもそう言うのかい?私の国でもそう呼んだよ」
ひょっこりとムクタさんが現れた。
「ムクタさん!おはようございます」
「はい、おはよう。おいぼれは戦力外だからね、見学させてもらうよ」
「あーら!ムクタ様!ちゃんとお仕事はありますよ!」
お母さん達が集まって、お手伝いがまだ難しい小さな子達をムクタさんに預けていく。
子供達はみんなよく懐いていて、舌足らずにムクタさんを呼んでひっついていく。
「おや、これは素敵なお仕事だね。カナエさんはお母さん達のお手伝いかな?」
「はい!お魚捌くの初めてなんで、楽しみです」
「初めてを楽しめるのは素敵な事だね。頑張って」
「大塩の前に引く網は大漁だと言うよ。……次代を豊かにする為なんだろうね」
そう言って、ムクタさんは幼子達の頭を慈しむように順に撫でた。




